だが、外界ではぐれていた寅丸星を救出したことでアールバイパーの動力に本物の宝塔が使えるようになった。
菫子が幻想郷で何をしでかすかわからない。彼女が博麗大結界を完全に破る前に追いついて撃破しないとならないだろう。
菫子が飛び込んだ場所、ここは一種の亜空間だろうか? いや、こここそが博麗大結界の内部。そしてそれをオカルトボールで破壊しながら前に進む黒いマントの少女が……。
「宇佐見菫子ぉ! 俺は戻ってきたぞ。これ以上の侵略行為は許さん。つまみ出してくれる!」
今度の戦闘はこちらに優勢に傾いていた。そもそも先程負けたのは彼女がサイコキネシスで動かす粗大ゴミが大量に散乱してた為であり、そういったもののないこの結界の中では投げ飛ばすものがないのだ。加えてアールバイパーもバジュラモードとなったことにより、今までの比にならない程に機動力も火力も上昇している。
「あんまりいい気にならないで! かくなる上は私も最終兵器を使うまで!」
度重なる攻撃を受けてボロボロになった帽子とマントを脱ぎ棄てた菫子は、どこからか四つん這いになったパンダの乗り物を取り出してきた。そしてパンダカーとは思えないほどの速度でこちらに突っ込んでくる。
「そんなオモチャ、すぐにバラバラにしてやる!」
オプション4つをパンダカーに向けると、一気にツインレーザーを放つ。あちこちに穴の開いたパンダカーはバラバラに砕け散ってしまった。
「かかった! これでこの周囲に無数の物体が浮遊することになる。今度こそその銀翼をスクラップにしてやるわ。四方八方を飛び交う無数の瓦礫に埋もれるがよい!」
それぞれが鋭利な棘を持った瓦礫が四方八方から襲い掛かる。くそっ、俺がこいつをバラバラにするところまで読んでいたか。どうする? バジュラモードなら魔神復誦を用いれば切り抜けることは出来る。だが、菫子を倒すためにこの力は温存しておきたい。
「アズマお兄さんっ! ゆっくりが行くよ。あれくらいの弾幕、全部食べてやる!」
そうだ、ゆっくり霊夢が飛び散った破片を食べきってしまえば……。
「よし、良い食いっぷりに期待しているぞっ! 白鈴『大食い勇者アレックス』!」
蓮の蕾型のオーラを纏ったゆっくり霊夢が大きな口をパクパクさせながら瓦礫に向かって突っ込んでいく。
「むーしゃむーしゃ! へへんっ、こんな程度オヤツにもならないもんねーっ」
しかしゆっくりだけでは捌ききれないのは明白。破片の一つがアールバイパーに直撃した。フォースフィールドがあるので致命的なダメージにはならないが、機体が大きく揺れる。
「ああっ、宝塔が……!」
まずいっ、今の衝撃で宝塔がアールバイパーから転がり落ちてしまったようだ。動力を失えばアールバイパーは再び動かぬ鉄くずになってしまう。
「ゆっくり霊夢! 宝塔の回収を優先してくれ!」
俺の叫びに反応し、ゆっくり霊夢はアールバイパーから落ちた宝塔に向かって進んでいく。
「
が、ゆっくり霊夢が振り返るとそこにはアールバイパーを狙っていた筈の大量のスクラップがゆっくり霊夢に迫っているではないか。
「スキだらけよ。まずはその生首から片づけてやるわ!」
慌てた俺はリフレックスリングを射出してゆっくり霊夢を回収する。が、間に合わない! このまま攻撃を受けてはゆっくり霊夢が大怪我をしてしまうし、口にくわえた宝塔をまた落としてしまう可能性も極めて高い。
どうする……!
そんな最中、激しい頭痛が俺を襲った。俺の精神が星ちゃんと重なるヴィジョンが浮かぶ。そしてアールバイパーとも一体化する感覚も覚えた。この感覚は……星ちゃんと心で繋がり、能力を間借りしている状態だ。
ゆっくり霊夢が口で咥えていた宝塔が激しい光を発し始める。そしてディスプレイに表示された新しい兵装、それは俺もよく知っているレーザーの名前であった。
「『ターミネイトγ』!」
ターミネイトγ、これはR戦闘機「
ゆっくり霊夢の口(の中にある宝塔)から薙ぎ払うように黄色いレーザーが放たれ、パンダカーの破片を全て焼き払ってしまった。
「うぐぐぐぐぅ! こうなったらもう一度パンダカーを呼び寄せて……」
「ゆっくり霊夢。その宝塔を絶対に落とすなよっ……!」
勢いに乗った俺はそのまま菫子に接近すると、リフレックスリングを射出。ゆっくり霊夢が董子の目の前にまで躍り出た形になる。
「どうするつもりですか? このままではゆっくりちゃんが攻撃を受けて私の宝塔が……オロオロ」
へへ、そんなことさせるワケないだろ? 正面に躍り出たのはちゃんと策があったからだ。掃討能力の高いターミネイトγであるが、こうやってゼロ距離から全部命中させるととんでもない火力を誇ったりするのだ。
「ゼロ距離ターミネイトγ!」
再びゆっくり霊夢の口からレーザーが爆ぜる。大きくのけ反りながら吹き飛んだ菫子。しかし更なる追撃を行おうとした矢先、わずかにアールバイパーのコクピットの中で踊っていた魔人経巻の模様が薄くなった気がした。これ以上は宝塔の魔力も限界か……。ゆっくり霊夢ごと宝塔を回収して残りの魔力はバジュラモードを維持することを優先して運用しよう。
宝塔といえど無限の魔力を宿しているわけではない。博麗大結界の中もかなり掘り進んで行った感じだし、長期戦は得策とは言えないだろう。大技を何度も叩き込んでこの勝負を早いうちに終わらせるっ!
『OCCULT LAST WARD READY!』
オカルトラストワード? 聞きなれないシステムボイスに俺は首をかしげる。
「『怪ラストワード』のことですよ、多分。菫子のオカルトボールの近くにずっといたからオカルトパワーが溜まったんです……多分。ほら、聖もライダースーツに着替えて黒いバイクで突撃してたでしょう? あんな感じの技が繰り出せるんですよ……憶測ですけど」
星ちゃんも理解してるんだかしてないんだか曖昧な感じで説明してくれる。結局何だかわからんが、試してみる価値は大いにあるだろう。ディスプレイには「*母胎ニ還ル磯ノ怪*」と書かれている。
「いくぜっ、『
何が起きるのか俺にも分からないが、背後から喧しい音が響いている。何事かと思い振り向いた俺は驚愕した。
アイアンフォスル、フォースクロー、ライトニングフランベルジュ、バイオレントルーラー……。無数のベルサー艦がどこからともなく現れたかと思うと、董子を踏み潰していったのだ。
「何なのよこの海洋生物たちは~!?」
俺が聞きたいよ! そうしているうちに頭上からクリオネ型戦艦「ジ・エンブリオン」が現れると真っ赤なビーム攻撃を行い、そして他のベルサー艦を引き連れて何処かへと消えていった。
「えっと……どうだ参ったか!」
「な、何この感覚は!? 日曜日の夜が怖い! 日曜日の夜に言いようのない恐怖心が膨れ上がっている!?」
何故か「サザエさん症候群」にかかる菫子。「怪」ラストワードという名前だけあって、何だかよくわからない効果を与えているようだ。
それにしてもしぶとい奴だ。これだけ高火力の技を当てているというのに、まだ博麗大結界を突き破りながら奥へと進もうとしている。
うっすらと博麗神社が見えてきている。随分と結界を掘り進んでいるようで、こちらもあまり余裕がないようだ。宝塔に残された魔力、つまりアールバイパーの残りエネルギーも心配である。
今度はコンパクが飛び出すと、菊一文字のポッドを取り出して、それをまるで刀のように振り回す。こちらもオーバーウェポンを発動して追撃の用意をする。
「ちょっ、タンマタンマ!」
「タンマもメンマもないっつーの!」
コンパクに打ち上げられた菫子に俺は重銀符「サンダーソード」を当てて、さらに大きく吹き飛ばす。よし、そろそろ頃合いだろう。
菫子が空中で無防備の状態となる。紫色の結界の向こう側にかなりハッキリと幻想郷の風景が見えている。次の一撃で決めないと菫子の目的が達成されてしまうだろう。だが、あちらも度重なる攻撃を受け続けてグロッキー状態となっている。お互いに限界が近づいている証拠だ。
「次の一撃でおしまいだっ! 覚悟しろ、菫子っ!!」
残り少ない魔力を振り絞り、最後の強力な技を決めて今度こそ勝負を決してしまおう。今ここで異変の首謀者に正義の鉄槌を下すのだ!
ここは魔神復誦で……いや、それではきっと火力が足りない。このバジュラモードをもってしても普通の魔神復誦では倒しきれない、俺の勘がそう告げている。ならばどうするか……。
「普通に魔神復誦を使っても倒しきれない上にバジュラモードが解除されてしまう。ならば、オーバーウェポンで強化すれば……」
バジュラモードでのオーバーウェポン、それも俺が考えているのは電池の直列繋ぎ。つまり禁術とされる「オーバーレイド・オーバーウェポン」による重ね掛けからの魔神復誦。
万が一仕留め損なうと菫子は幻想郷に到達してしまう。焦ってはいけない、焦っては……。
「ここまで本気にさせたことを後悔させてやる。発動するぞ、禁術……」
まずは通常のオプションに宿った魔力を取り込む。急な魔力の変動に俺の体が拒絶反応を示し始めた。激しい吐き気と視界がチカチカするほどの激しい頭痛が襲い掛かる。
「『オーバーレイド……」
次にネメシスに宿った魔力を一気に取り込む。それに伴いコクピットで踊っていた魔人経巻の模様に激しいノイズが走り、チカチカする視野を持つ俺の脳にさらなるダメージを与える。
もちろんアールバイパーとて無事ではない。恐らくはフォースフィールドを展開していなけば俺もバイパーも溢れる魔力に耐えられずに爆発四散していただろう。だが、まだ終わらない。それどころか準備段階なのだ。
「『オーバー……ガハッ!」
最後にコンパクから彼女の持つ魔力を全て貰う。俺は吐血していた。恐らくは魔力に晒されて変質してしまったドス黒い血。いかに今俺が取り扱っているモノが人ならざるものを象徴するものかであることを思い知らされる。
そして吐血と同時に俺の両腕のアザからおびただしく出血。もちろんこちらも赤黒い。だが、いよいよ準備は整った。
「遅すぎる! すでに博麗大結界に穴が開いたわ! 私の勝利よ。これで遂に幻想郷へ……」
させるかぁー! 血走った眼で菫子を捉えると、腕の痛みも頭痛も一切合切無視して、ただただ標的を睨みつける。
バチッバチッと魔力があちこちでスパークしており、紫色のフォースフィールドにひびが入ったかと思うと、それが崩れ落ちてしまった。
「貴様だけはここで倒さないといけないっ。たとえ刺し違えたとしても……だ」
ついにバキンと鋭い音を立てて、コクピットにまでひびが入る。アールバイパーももう悲鳴を上げている状態だ。決めよう、これ以上時間をかけることは許されない。
「禁術『オーバーレイド・オーバーウェポン』っ!」
よしっ、オプション3つ分の魔力が銀翼全体を包み込んでいる。次は一瞬だ、一瞬で決めないとアールバイパーは内部から崩壊してしまう。
「びゃくれんッ、しんきさんッ、そして……防具の名を冠する蒼き雷(※1)よッ! 俺に力を貸してくれっ……!」
幻想郷への小さな穴に入り込もうとする菫子に俺は改めて狙いを定める。
「三重詠唱『蒼雷魔神阿闍梨復誦』ッッッ!!!」
復誦っ! 復誦っ!! 復誦っ!!! オプション3つのあらん限りの魔力、それはこのスペルを形造る三者の存在あってこそである。
俺と本気のぶつかり合いをした白蓮、そんな俺をただただ手助けしてくれた神綺さん、そしてオプションに宿った力を兵装に流し込むという発想の元である、防具の名前を冠した蒼き戦闘機たち……。
薙ぎ払った。無数の鱗が。貫いた。オプションから放たれた光の槍が。そして撃ち抜いた。標的を外さんという執念が大玉という弾幕に形を変えて。
「ちょ、ちょっと! それはいくらなんでもシャレにならな……きゃ~~~!!」
「みんな光に還れぇーーー!」
俺は菫子が真っ白な光に晒されていくのを確かに見た。白みゆく中、最後に博麗大結界が大きく穴を開け、俺は菫子ごと幻想郷へ飛び込んだことも確認した。それと同時に菫子に奪われていたオカルトボールが俺の手元に戻る感覚も覚えた。そして、その先に待ち受けていた地面にアールバイパーが衝突したのは、もはや視界が真っ白で視認することはかなわなかったが、この衝撃を間違える筈ない。
ついに落ちたのだ。幾度となく外界で無理をさせてきたアールバイパーが、俺の翼が遂に墜落した。大いなる任務の達成と引き換えに。
光は全てを等しく真っ白く染め上げていく……。
……………………
…………
……
ゆっくりと意識が覚醒していく。優しげな空気に少し湿った土の感触。白蓮の声も聞こえてくる。ああ、ここは幻想郷だ。俺は生きて戻ってこれたのだろう。既に星ちゃんは意識を取り戻していたようで、アールバイパーのコクピットから脱出しているようである。
行方不明になっていた命蓮寺本尊「寅丸星」は、外の世界に飛ばされており、我らが銀翼「アールバイパー」によって救出され、更に俺は外界から幻想郷へ侵入しようとオカルトボールの異変を引き起こしていた「宇佐見菫子」を懲らしめることに成功した。
そのアールバイパーは幻想郷の大地に突き刺さり大破してしまったものの、コクピット部分は奇跡的にほとんどダメージが通らずに、俺も星ちゃんも大した怪我なく幻想郷への帰還を果たせたことになる。
そう、俺は帰ってこれたのだ。任務を達成して、泣いていた星ちゃんを救出して。幻想郷の土を踏みしめ、俺はそれを深く深く実感していた。
しかし菫子を幻想郷に入れてしまうという事態も引き起こしてしまった。今も傷跡生々しい博麗大結界を前に、彼女の処遇をどうするのかを今まさに話し合っているところである。
(※1)防具の名を冠する蒼き雷
サンダーフォースVの自機「RVR-01 ガントレット」または「RVR-02 ヴァンブレイス」のことである。
アールバイパーや戦闘騎に乗った早苗が使うオーバーウェポンの元ネタである。