しかし(気絶していたとはいえ)結局は彼女の幻想郷への侵入を許してしまったので、目を覚ます前に紫が元の世界に戻そうとするも、マミゾウは何やら考えがあるようで……
大穴の開いた博麗大結界はその場に居合わせた紫の手によって修復され、大破して黒煙を上げているアールバイパーはというとにとりが回収作業を急いでいるようだ。
そしてこの異変の首謀者たる菫子は今は伸びている。
「彼女は、宇佐見菫子は本来外の世界の住民ね。やはり元いた外の世界に帰すべきだと思うわ。霊夢は……見つからないから私が代わりに外まで送るわ」
それが妥当な所だろうと俺も思う。反対者もいないということでそう告げて菫子の手を取る紫であったが、何を思ったか、それを止めに入るマミゾウ。
「まあそう急くこともないじゃろうて。こやつはの、幻想郷に行きたがっておったのじゃ。何の『お土産』も渡さずに帰してしまうなんて失礼だと思わぬか?」
「な、なにを言っているの!? そんなこと出来るわけないでしょう?」
訳の分からないことを言いだす化け狸の手を払うと、再び伸びている菫子を抱きかかえる紫。だが、マミゾウは怯まない。
「なんじゃ、賢者と言う割には全然わかっておらんのぉ。こやつはの、こうやって命懸けで幻想郷にやって来たのじゃ。外の世界に帰す前にワシらでそりゃあもう精一杯『歓迎』して、幻想郷流の『観光旅行』とシャレ込ませるのが礼儀ってものじゃないのかのぉ? ほっほっほ……」
それだけ言うと、マミゾウは紫の耳元に顔を近づけるとゴニョゴニョと何かを伝える。紫の表情が一瞬でひきつっているのが分かった。
「っ!? え、えげつないこと言いだすわね……。確かに妖怪の恐ろしさを忘れた外界の現代っ子にはキツーいお灸になるでしょうが、そんなこと私だって思いつかなかったわ」
歪んだ笑みで愉悦に浸る化け狸。
「ふぉふぉふぉ、褒め言葉ととらえておくぞい♪ まあ、そういう訳じゃから、ちょいと妖怪を集めないといかんのぉ。ああ、人食いはナシじゃ。殺してしまえばそこでオシマイじゃし、そんなことしてしまったら賢者様との約束を反故にしてしまうわい。生かさず殺さず、妖怪の恐ろしさを骨の髄まで味あわせるのじゃ。ああ、今から楽しみで口元が勝手にニヤけてしまうわい♪」
俺はこの時ほどマミゾウさんを敵に回してはいけないと強く思ったことはなかった。
突拍子もない「歓迎会」を企画したマミゾウさんに俺は唖然として、開いた口が塞がらなくなっていた。そんな俺と目の合ったマミゾウさんはこちらにスススと近寄ってくると可愛らしくウインクなんてしてきた。
「彼奴をオカルトボールなしの状態で幻想郷に連れてくるとは大した奴じゃ。本当は後でワシがあの外界っ子をチョイと騙して幻想郷に閉じ込めようとしておったのじゃが、手間が省けたわい。感謝するぞ、轟アズマ」
こうしていると可愛らしい少女そのものなのだがなぁ……。
「マミゾウさん、俺は人間なので特にやることはないですよね? 人間を脅かす趣味もないですし」
「いや、お主はオカルトボールを手にしているではないか。まさか持ち主がすぐ傍にいるというのにネコババする気じゃあるまいな? どれ、耳を貸せぃ。ごにょごにょごにょごにょ……」
こうして、俺に「最後の任務」を託すと、化け狸は菫子を「おもてなし」するという企画を進めるべく、賢者と一緒にどこかへと飛び去っていった。恐らくは小傘のように心を食べるタイプの妖怪を集めて回るのだろう。
なんかマミゾウさんは本当に楽しそうにしているようであった。当の菫子は未だに目を覚ます気配がないので、博麗神社の一室を借りて、そこで寝かせることにする。バイパーもにとりが回収してしまい、あとに残されたのは俺と白蓮、そして星ちゃんの3人のみであった。
「マミゾウさんがちょっと気になりますが、私達も帰りましょう!」
こうして無事に命蓮寺に戻った我らが住職サマと本尊、そして俺。オカルトボールの異変も落ち着き、ようやく命蓮寺周辺にも平穏が戻ってきた。一部を除いて……。
「ごうがーい! 号外だよー!」
あの後マミゾウ達が集めた妖怪軍団が菫子をこれでもかと脅かして回っているようだが、そこに目を付けた鴉天狗の文は、あろうことかその様子を写真に収めてこうやって号外としてあちこちにばら撒いているようなのだ。
「また外来人の写真を撮ったのか? まったく、いい性格してやがるぜ」
「えへへ~、だって天狗ですから♪ 明日も楽しみにしていてくださいねっ」
皮肉などどこ吹く風と言わんばかりに文はあっという間に姿を消してしまった。その新聞は菫子を追いかける記事がほとんどであり、色々なリアクションの顔がカメラに収められている。
「一輪も噂を聞きつけて菫子さんを脅かしに行っているようです。やり過ぎないようにと釘は射しておきましたから大丈夫だと思いますが……」
白蓮の心労をよそに、こんな日々が何日か過ぎていく。文は毎日のように号外をばら撒いているようだ。やかましいだけの天狗だが、今回に限って言えば実に有用である。そう、平穏を取り戻している命蓮寺ではあるが、実は俺にはマミゾウさんから託された最後の任務が残っているのだ。
文の号外は偶然にもその時がいつ来るのかの大まかな指標になっているのである。
「白蓮、いよいよこの異変に終止符を打つ時が来た。一仕事行ってくるよ」
その時がやって来つつあるのだ。人間である俺は菫子を脅かす動機はなく、コテンパンにしたいかというと、博麗大結界の中で散々ドンパチやったので、今はそんな気分でもない。なので、俺は「歓迎会」には基本的に参加しない方針であったし、そのことはマミゾウさんも了承してくれた。
だが、この案件だけは、マミゾウさんの企画した「幻想郷ツアー」のシメは俺でないと、成し遂げられない。耳元でゴニョゴニョと任務の内容をどう囁いていたか俺は反芻する。
ええっと確か……。
「幻想郷への恐怖心を植え付けた彼奴にオカルトボールを押し付けつつ、外の世界へ放り出す。そういった件もあるのじゃが、その仕事を妖怪賢者ではなくわざわざお主に頼むのには他にもちょっとした理由がある。
ホレ、お主も外来人じゃろう? 外に出たら、時間が来るまで観光でもしているがよい。ワシの方でチョイと細工をしたので24時間は滞在できるぞい。まあこれはワシからのプレゼントじゃと思ってくれい」
そしてマミゾウさんから告げられた俺最後の任務というのは菫子にわざと負けて、その後アールバイパーで博麗大結界を突破し、菫子を外の世界の家まで送り届けるというものであった。わざと負ける過程が必要なのは俺の手にするオカルトボールを全て菫子に渡しつつ、外の世界へと放り出す必要があるからだ。
その際に副作用として俺も一時的に外界に出てしまうが、マミゾウはその機会に外界を(本当の意味での)観光して来いと言い出したのである。本当に粋なことを思いつく化け狸だ。
おっ、そろそろやって来るな。誰かに連れられながら泣きべそをかきつつ命蓮寺に近づいてくる。
「えぐっ、ぐすっ……。もうやだよぉ、外に、お家に帰らせてよぉ……」
思った通りだ。文の新聞には昨晩、菫子が恐怖に耐えきれなくなり遂に泣き出してしまったという内容が書かれていたのだ。
そんな様子を見かねたマミゾウさん……ではなくて何故か妹紅がここ命蓮寺に菫子を連れてきたというのだ。
「話してみるとなかなか面白い奴でな。ちょっと仲良くなっていたのさ。だから私が適任だと思った。さあ、この異変に終止符を打とうアズマ。怪我しないように、でも派手にやられてくれ」
そういうわけなので、俺はバイパーに乗らずに菫子に挑み……そして見事に敗北した。アールバイパーに保管されていたオカルトボールが菫子の元へと戻っていく。
「まったく、わざわざ負けてやると言っているんだからもう少し加減してくれよ。俺は生身だと全然戦えないんだ。さて、楽しい楽しい幻想郷ツアーもこれでおしまいだ。俺の銀翼に乗っていけ。なるべく結界を壊さないように進めるし、何よりこのほうが早くお前の家に帰れるんだぜ」
オカルトボールを手にした菫子を乗せると、俺は大空へ一気に飛翔。博麗大結界の一部分を破壊しながらさらに上昇を続けた。
無事に外界に出た俺は菫子を無事に家の傍まで送り届けると、懐かしい外界の町を散策するべくアールバイパーを目立たない場所に着陸させる。
さあ、せっかくのマミゾウさんのご厚意だ。俺も外の世界を楽しもう!
俺は一日中外界の町をこれでもかと楽しみつくした。ゲーセンで最新のゲームに興じたり、久しぶりに里帰りしてみたり、幻想郷には無いような店で買い物をしたり……そうそう、白蓮やマミゾウさんへのお土産も忘れないようにしなくちゃ。
そうしているうちに外の世界にも夜の帳が降りてきた。恐らくはそろそろ幻想郷に帰る時間だろう。
太陽が昇ると、ビル街に橙色の光が降り注ぎ始める。じきに早起きな人なんかは外に出始めるだろう。さあ、そろそろ幻想郷に戻る時間だ。わずかに空の一部の空間が歪みを見せた気がする。あの先は恐らく幻想郷だ。
久々に感じた環境破壊が進んでいるだなんて信じられないかのような、ピリリと引き締まるような澄んだ外の空気に名残惜しさを感じつつも俺は一気に飛翔し、再び博麗大結界を抜けていく。
さあ帰ろう。俺の第二の故郷、俺の愛する者が待つ、俺の帰るべき場所「命蓮寺」へ!
TRUE END
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