東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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・ここまでのあらすじ

 シーマと首領蜂隊(どんぱちたい)が激しくぶつかり合うドサクサに紛れ、月面にて封印されている首領蜂隊の兵器を目覚めさせるという隠密任務を受けることになった「轟アズマ」と相棒である銀翼「アールバイパー」。

 封印を解くカギとなるエレメントドール「朱理」と秘めたる思いを胸にアズマについていく「ダークヘリオス」と「衣玖」を引き連れてさっそく宇宙に飛び出そうとするも、頼みの「輝夜(大気圏を抜けるのに彼女の持つサラマンダーシールドが必要なのだ)」から危ないからという理由で協力を拒否されて困ってしまう。

 その様子を見ていた永琳から幻想郷と月を繋ぐ夢を用いた秘密の連絡通路「槐安通路」を紹介され、彼女の依頼(槐安通路に避難している月の民に薬を届けるというもの)を引き受けることで使わせてもらうことに。

 槐安通路には陥落した月の都から避難してきた民が多数いるらしいのだが、なんと幻想郷上から完全に排除したはずのバイドである「グリッドロック」がこの槐安通路に避難した月の民を襲っていたのだ。

 永琳におつかいを頼まれていることもあるし、何よりも戦乱で疲弊していたところをバイドに襲われているのを見過ごすことが出来なかったアズマはレイディアントソードを掲げてバイドに勝負を挑む。

 一方の地上では姿を消してしまった霊夢と紫の手掛かりを探すべく白蓮と蓮子、そして早苗が動いていた。だが、早苗はあまりにタイミングよく味方になった首領蜂隊に不信感を募らせていて……。


第10話 ~神霊の依り憑く月の姫~

(アズマが槐安通路に飛び込んだ頃……)

 

 やはり、私には彼を信用することが出来ません。

 

 だって……ゲームの中でいつも彼は何と言っていました? 彼の言う通りに任務を遂行してきた働き蜂達はどんな運命をたどっていました? 上っ面だけのねぎらいの言葉と一緒に告げられるあまりに淡泊で絶望的な一言。

 

 そう「死ぬがよい」。

 

 あのロンゲーナー大佐が何を企んでいて、どうしてシーマに攻撃を加えたのか、どうして幻想郷に味方するようになったのか。それを調べておかないと後で取り返しのつかないことになる筈です。

 

 その為には白蓮さん達には悪いけれど、別行動を取らせてもらいます。私の視線の先ではシーマ艦と首領蜂隊とがぶつかり合っている。戦況は首領蜂隊が有利で、シーマ艦を撃沈していきました。

 

 恐らくあの後、母艦に戻る筈。あの中を色々と調べてみましょう!

 

 戦闘騎(ライディングバイパー)の速度を上げて、藤色の母艦に格納されていく蜂たちに紛れて私は侵入しました。

 

 戦闘飛行バイク、ライディングバイパーは戦闘機に比べると圧倒的にコンパクトであり、他の戦闘機の陰に隠れて飛行することが出来ました。しばらく息をひそめ、人気がなくなると私は動き始めます。でも、先程から息が荒い。今になって思えば当然でしょう。何せ今の私は軍事施設に乗り込んで機密に触れようとしているのですから。

 

 だというのにここは恐ろしい程に警備の人が見当たりません。時折首領蜂隊のパイロットらしき人や彼らのパートナーであるエレメントドールが通りかかる姿を目撃しますが、特に警戒らしい警戒はしていないようですね。それが逆に奇妙にも感じられました。

 

 確証を得たらすぐにここは離れましょう。アズマさんや衣玖さんがここに招かれたそうですが、とても居心地が良いとは言えない場所です。そう思いつつ通路を進んでいると私はついに見つけたのです、あのロンゲーナー大佐を。

 

 彼は周囲の様子を伺いながら、人気のない部屋に入り込んでいきました。大佐以外にもう一人いたようですが、大きすぎる体格に隠れてその姿はここからは確認できませんでした。こうなったら部屋の中を覗き込むほかないでしょう。

 

 周囲に人の気配がないことを確認すると、私は大佐の入っていった部屋に耳を傾ける。神奈子様、諏訪子様、どうか私をお守りください……。

 

 やっぱり誰かがいる。だけれどロンゲーナー大佐の声が大きすぎて、もう一人の声が全然聞こえません。

 

「幻想郷という場所もなかなかいい場所ではないか。気に入った」

 

 他愛のない話……? いや、それならばわざわざ人目を確認してしかもこんな部屋に入ったりはしない。何かしらの密会と考えるのが妥当でしょう。

 

「ああ、轟アズマか。なかなか印象の良い青年だよ。君が惚れこむのも分からんではない」

 

 アズマさん? 今確かに轟アズマの名前が出てきましたよねっ!? 彼をどうするつもりなんでしょう?

 

「もちろん、しっかりと隅々までメンテナンスしておいた。アールバイパーは思う存分戦えるだろう。この作戦をしくじってもらっては困るのでな」

 

 大佐が話し相手の肩にポンとその大きな手を置く。あの大きな体が動いたことでようやく話し相手の姿がここからも見えましたが、その相手に私は思わず声を上げてしまったのです。

 

「そんなっ……! どうして貴女がここに!?」

 

 思わず私は口をつぐんだものの、時すでに遅し。大佐の眼光が部屋の外の私を捉えている。しまった、見つかった!

 

「捕えよ!」

 

 何処までも淡々と冷徹なたった一言。逃げなくちゃ! 咄嗟に米粒型の弾幕をまき散らし、怯ませると私は脱兎のごとく去る。

 

 この事をアズマさんに伝えなくては。やっぱりロンゲーナー大佐を信用するべきではなかった、しかもとんでもない人と手を組んでいる。全ては仕組まれていたんだ。全ては……。

 

 頼みの宝塔型通信機もジャミングされているのか、彼が電波の届かないようなところにいるのか。まったく繋がらない。ここを抜け出さないことには伝えることができない。

 

 早く脱出しなくては。早く……!

 

 

 

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(その頃、槐安通路……)

 

 シーマとの戦争で疲弊して逃げ延びた先でバイドになんて襲われたらひとたまりもない。永琳さんとの約束を守るためにも、この怪物を始末しないといけないな。

 

 月の民による避難所を守るべき銀翼を急がせたのだがその最中、あのバイドに果敢に挑む少女の姿が目に移る。抜き身の刀を振り回し、青いグリッドロックを翻弄するように四方八方に飛び回っていた。彼女に迫る光のラインもまるで追いつけず、そして一閃。たった一撃でグリッドロックの瞳(グリッドロックの周囲に4つ存在する鉱石のような部位。瞳なだけあり、ここを潰すと視界も狭まるようだ)を2つも潰してしまった。

 

「なんだあの剣士は?」

 

 残る2つの瞳を潰すべく、好機を伺っている少女。激しく動き回るたびにポニーテールにした紫色の長髪がぶるんぶるんと揺れ動く。再び狙いを定めているようだが、その背後からは赤いグリッドロックが迫っていた。だというのに彼女は無反応だ。まずい、アレは全然気付いていないぞっ。

 

「コンパク、ゆっくり霊夢! 準備はいいか?」

 

 紫髪の少女の背後を庇うようにアールバイパーを飛翔させ、赤いグリッドロックの瞳に狙いを定める。

 

「操術『サイビット・サイファ』!」

 

 白い霊魂と霊夢の頭部を模した生命体が赤いグリッドロックの瞳目がけ体当たりを仕掛ける。瞳にヒビが入るとそれをかち割ったようだ。

 

「なっ、お前地球人か? 邪魔をしないでくれ!」

「『邪魔』とはとんだご挨拶だな。獲物は2匹いるんだから1匹分けてくれよ?」

 

 確かに一度の攻撃で弱点である瞳を2つ潰した少女はかなりの達人なのだろう。恐らくは妖夢以上だ。

 

「しかし、貧弱な地球人が手伝うと言ってもただの足手まといに……」

「だぁー、素直に好意を受け取れっての! どの道こいつら片付けないと永琳の依頼がこなせねぇんだ」

「やっ八意様の!? 貴方一体……?」

 

 物凄い勢いで驚かれている。実は俺も少し驚いている。永琳さんって本当に色々な人に慕われているのだなと。

 

「んもぅ依姫ー、誰でもいいから早いとこやっつけちゃってよー!」

「豊姫お姉さまっ、そうは言いますけど……うぅ、分かりましたよぉ……」

 

 依姫と呼ばれた剣士の少女の姉であろう白い帽子の少女は長い金髪をかき分けつつ桃をかじっている。いまいち緊張感が足りていないが、実に正論ではある。依姫も不服ではあるようだが共闘を認めてくれたようで、青いグリッドロックとの戦闘に集中し始めた。

 

「ワタシタチノ、ツヨサ、アノフタリニ、ミセツケヨウ!」

 

 さて、ネメシスもやる気を見せているようだし俺もコイツを片付けるとするか。久々のバイド退治だ、腕が鳴るぜ!

 

 こいつ……グリッドロックはこの縦横無尽に張り巡らせたマスの目に沿って動く特徴がある。放つ攻撃もそうだ。まずは残った3つの瞳を潰しておかないと視覚外からの不意打ちが出来ないので、そこを集中的に狙うことにする。

 

「重銀符『サンダーソード』!」

 

 動きも単調であまり素早いとも言えないので大した相手とは言えないだろう。狙いを定めオーバーウェポンを食らわせる。へへ、俺だって一撃で2つの瞳を潰すことはできるんだぜ。

 

 あとは残ったオプションとバイパー本体からグラビティバレットを打ち込み最後の瞳を粉砕。こうすればろくに周りが見えなくなる筈だ。

 

「大した相手じゃなかったな。さて、そろそろ本体にトドメを……」

 

 だが、瞳をすべて潰されたグリッドロックの様子がおかしい。明らかにプルプルと震えはじめたのだ。

 

 

恨めしい、恨めしい……。

この銀の鳥は息子を殺した、娘も殺した。

 

 

 撃ち抜いた筈の瞳から光の粒子が零れ落ちる。それはまるで涙のように見えた。

 

 

息子は波動砲でこんがりと、

娘はフォースですり潰し、

我々が何をしたというのだ……!

 

 

 どうやら元人間のバイドだったようである。だが、バイドに対しては殲滅あるのみだ。可哀想ではあるがそうせざるを得ない。俺は再び魔力を溜めて次のオーバーウェポンを放とうとした。

 

 

そのウラみ、はラさでオクべキかー!

 

 

 何ッ!? グリッドなど関係なく怨霊の塊のような紫色の透き通った物体がこちらに迫ってくる。

 

「ぐわあああっ!」

 

 こいつ、俺の姿を見てから急に動きが機敏になった。前のバイド異変でこいつの親戚を破壊したってのはどうやら本当らしい。だが、やられっぱなしというわけにはいかない。何とかこの攻撃を凌いで反撃せねば……!

 

 

友よ、苦戦しているようだな

 

 

 そんな俺の目の前に現れたのはコンバイラタイプのバイド。あの縦長の真紅の体を見間違えるはずはない。窮地に陥る俺に語り掛けてくる声は優しげであり、とても懐かしい響きでもあった。

 

「ていとく……?」

 

 巨体がゆっくりとグリッドロックからの攻撃を庇うように前進を始める。姿が変わっても変わることのない優しさ。これはジェイド・ロス提督のものだ。

 

 

君は何も案ずることはない。

幻想郷にしぶとく生きすがるバイドどもには私自らが幕を引く。

 

 

 もう会えないと思っていた。だが、提督はこうやって俺の目の前にいる。自然と涙がこぼれた。

 

 

さあ、ハッチを開いた。

その傷付いた機体を格納させて、すぐに修理をしよう。

 

 

 ああ、俺は助かるんだ。ゆっくりとコンバイラの体に近づいていく。

 

 今そっチに行くヨ。ずウっと会イたかっタよ、提督。アの日別レた時から。ズっとずっト……。

 

 ……ん? ここで俺は何か違和感を感じた。

 

「待った、ジェイド・ロス提督は魔界で元の姿を取り戻していた筈。お前は偽物だ!」

 

 危ない危ない、あと少しで騙されるところだったがコイツは幻だ。コンバイラの姿をしたものに俺は渾身のショットを撃ち込む。赤い戦艦はスウと消え失せ、代わりに瞳を潰されたグリッドロックの姿が浮かび上がった。

 

 

ちいっ! あと少しの所で気付いたか。

だが、これで十分。お前は既に手遅れだ。

 

 

 何処か勝ち誇ったようなグリッドロックは不意にこちらに接近する。ツヤツヤした表面はまるで鏡のように自らの姿を映した。

 

「こ、こレは!?」

 

 そこには醜い肉塊に取り込まれつつある銀翼の姿が映っていた。やられた! 俺は既に半分以上、アールバイパーごとバイドに取り込まれてしまっている。俺の精神が折れたから肉体がバイド化してしまったのだ。

 

 

人の心を持ちながらも仲間と思っていた人々に銃を向けられる。

そんな私が延々と抱いてきた苦しみをお前も味わうがいい!

無駄だぞ、今更この私を殺めても。貴様は既にバイドなのだ。

もはや誰も手を差し伸べてはくれまい。

 

 

 こいつ、よりにもよってジェイド・ロス提督の幻を使ってくるなんて……絶対に許せない! だが、怒りの感情に呼応するように俺の肉体がさらにバイド物質に取り込まれていく。ちくしょう、これでは手が出せないじゃないか。どうする……?

 

「何だかよく分からないが、隙だらけなんだよぉー!」

 

 その赤いグリッドロックの背後で依姫が刀をブンと振るう。その腕前は見事と言わざるを得ないだろう。中央から真っ二つに割れ、グリッドロックは爆散したのだ。大物を斬りつけた依姫はまるで返り血を振り払うようにブンと刀を下に振る。グリッドロックのものと思しき光の粒子が飛び散ると、フウと一息。

 

 結局A級バイドのつがいは両方ともあの依姫が倒してしまった。そしてこの俺をも手にかけようとしている。俺はキャノピーを開きその醜い姿をさらした。

 

「寄るな、寄るなっ! アイツの話を聞いただろう? お前までバイド汚染するぞ!」

 

 だが、依姫は止まる気配をまったく見せない。躊躇がまるでないのだ。そしてさらに距離を詰めていく。どうすればいい? そうだっ、こういう時こそ永琳に貰った「紺珠の薬」に頼ろう。今のをなかったことにしてバイド化する前に戻る、あるいはバイドという穢れを祓うことができるはずだ。俺は懐に手をやり薬を取り出そうとする。

 

「妙な動きをするなっ、手元が狂うだろう!」

 

 ひいいっ! 威圧された俺は思わずすくみ上ってしまった。そうしているうちにすぐ目の前までやって来た。そして……。

 

 えっ……? 俺は、バイド化してしまった俺はあの刀で斬りつけられると思ったが、恐怖で縮こまる俺の体にもたらされた感触は冷たい鉄のものではなく、柔らかな唇であったのだ。

 

「何を……?」

 

 依姫が俺の口づけをした。いや、目の前にいるのは依姫ではない。見たことのない女性のものであり、よくよく見てみると巫女らしい服装をしていた。

 

 霊夢や早苗とはまた違う感じの巫女。何が起きているんだ? これもバイドが見せている幻なのか? 困惑しながらもその口づけを受け入れる俺。しばし唇を離すと、見知らぬ巫女の顔が依姫と重なって見えた気がした。

 

伊豆能売(いづのめ)という神を降ろしたのよ。穢れを浄化するには彼女が一番。貴方、地球人基準で考えても多くの穢れを抱えているわ。外側も内側も。ずっと穢れまみれになりながら戦ってきたのね……」

 

 そう言われると俺が言い返す前に再び唇を塞いでしまった。じゅる、じゅると水音が響く。そ、そろそろ息苦しい……。

 

「わぁお、ダイタン……」

「お姉さま、茶々を入れないで。これはれっきとした治療行為よ」

 

 ひとしきり吸い上げられると俺はようやく解放された。そして驚愕する。アールバイパーが元の銀翼の姿に戻っていたのだ。もちろん俺の体も。

 

 嘘だろ……。本当にバイド化を治しやがった! こんなことあり得ない! あり得ない筈だというのに……。

 

 元の人のものに戻った手や指先を動かしていく。うむ、異常なしだ。俺は確かに人間に戻っている。

 

「とても信じられないが、治っている。こうなってしまえばもはや人間に戻れないと思っていたのに」

「本来は地上の方にこのようなことはしないのだけど、今は状況が状況ゆえに。月の都もあの有様だし、悔しいが私は負けてしまったのよ。あの無数の海洋生物たちに」

 

 悔しそうに空を仰ぐ依姫。敷き詰められたグリッドの空には見事に丸い月が映し出されていた。

 

「何より貴方は八意様の勅命を受けるような人間。まさか大事な使命を途中で投げ出すわけにもいくまい。というかそんな男なら、ましてや八意様の頼みを投げ出すようなゲス野郎なら問答無用で斬る」

 

 怖いというか実直というか……。とにかく彼女が敵ではなくてよかった。そうつくづく感じさせられる。

 

「それに貴方は穢れを恐れずに、大きな敵にも果敢に挑む勇気を持ち、なおかつ地上の人間にしてはなかなかに強い。とても気に入ったわ! 戦い方もどこか似ているし、私が稽古をつければきっと更に輝ける。ここでしばらく私の元で修業をする気はない?」

 

 何処か満足気にうんうんと頷き、弟子としてスカウトまでしてきた。いや、今は修行をしている場合ではないし、地上では待っている人もいるのだからその申し出は断らざるを得ないのだが……。

 

「んもぅ、好きなら好きってそうストレートに言っちゃえばいいのに。『一緒に月で暮らしませんか?』とか……いたぁい!」

「恋愛感情としての『気に入った』じゃないっ! それよりお姉さま、居住区を案内してあげて」

 

 自らの姉にポカリと一撃。渾身の鉄拳を食らわせると、依姫は悪態をつきつつ、そそくさと立ち去ってしまった。

 

 後に残されたのはその依姫の姉であるという豊姫のもの。先程自らの妹にポカリと叩かれた場所をさすりながら、俺達に向かって手まねきしている。

 

「こっちよ。私が声をかければ大体は集まるけど、そのためなら広い場所が必要だものね」

 

 そう言われて招かれた広場に俺は永琳から頼まれた薬を取り出す。程なくして無数の月の民やら玉兎(月の民に仕える召使いのような存在であり、いわゆる月の兎。鈴仙の仲間のようなものだろう)が集まり、これまた礼儀正しく列をなした。

 

「おお、龍神様の救いじゃ!」

「えっ、いやあの私はそのものではなくて……」

 

 豊姫が慕われているからか、あるいは衣玖さんの風貌があまりに目立ったからか、ここに逃げ込んだ月の民は大体集まったであろう。すぐ傍にはダークヘリオスもいるのだが、どういうわけか恐れられていない。もしかしてあっちを龍神様と間違えているのではないだろうか……?

 

 綿月姉妹に仕える玉兎もやって来たので、豊姫は彼女に切り盛りを任せ、俺と向かい合う。

 

「あの堅物の依姫が地上人を気に入るなんてね。うーん、戦い方が似てたからかな? 自分ではない存在の力を借りて戦うし、何よりも刃を振り回すし」

 

 そういえば神降ろしがどうのこうのとか言っていたな。アールバイパーの兵装もある意味神降ろし? いやいや、そんな大層なものではない筈だ。依姫はもっと次元の違う強さ、そして能力を使いこなすのだ。何よりバイド化を治療してしまうなんてジェイド・ロス提督が聞いたら驚愕すること間違いない。

 

 だけど、そんな依姫がいた月の都もシーマに敗れてここまで逃げ延びているのだ。それだけ奴らが強かったのか、それとも……。

 

「あんなに強い妹さんがいるのにシーマ、海洋生物型金属生命体に敗れてしまったのか?」

「もちろん依姫はあの魚達には引けを取らないし、何機か撃墜もしているわ。だけど、あまりに数が多すぎたの。それに、月の軍事が抱えていた小さな弱みが重なって致命的なものになってしまったというのもあるわ」

 

 覆りようのない運命を前にただただため息といったところか。アンニュイな表情を見せた豊姫はグリッドの向こう側の月を眺めながら力なくため息。月の軍隊が抱える致命的な弱点?

 

 それを説明してもらおうとした矢先、依姫が戻ってきた。というか彼女はどこに行っていたのだろうか?

 

「ここ最近で、月の軍隊の在り方を変えてね。サボってばかりの玉兎に任せっきりにするのをやめて玉兎の兵隊と月の民の司令官による混成部隊にしたの。玉兎を引き締めて規律が生まれたのはよかったんだけど、『穢れ』を極度に恐れるという月の民の弱点がアキレス腱となったのよ」

 

 それは「死」つまり「穢れ」を司るものたるシーマとの戦いでは特に不利になるということに繋がったのか。

 

「もちろん、私達もそんな状況に陥っているのは知っていたから対策を講じたわ。愚かにも月の都を侵略しようとした勢力が前にも出てきて、その時は軽くあしらったのだけど、そいつらの技術を流用して大きな一本腕を携えた空飛ぶ鎧『エンディミオン』を……」

「空間の異常な歪みを感知。敵が来るわ!」

 

 敵? エレメントドールである朱理が強く反応するということはシーマか? 逃げ込んだ先で襲われたとあってはひとたまりもない。俺は銀翼に乗り込み魔力レーダーを覗き込む。

 

「この広場の傍にいる! だけど姿が見えない。隠れているのか?」

「この卑怯者のタマナシ魚野郎め! 近くにいるのは分かってんのよ。姿を現しなさい!」

 

 膨大な魔力は俺達のいる広場で強く渦巻いている。だが、姿が見えない。目視で周囲を確認する中、真っ先に異変に気付いたのは依姫であった。

 

「真下だっ! お前達、ここから離れろ!」

 

 その直後、地面が大きく裂けて鋭利な刃物が突き出て地面を切り裂き続ける。いや、刃物というよりも魚の背びれ? まるでサメが獲物を見つけて囲い込むようにその刃物が広場周囲をグルリと回っているのが分かる。攻撃を仕掛けておびき出そうとしたが、背びれはすぐに地面の下に隠れてしまった。次はどこに出てくる……?

 

「マスターが狙われているわ! すぐに移動して!」

 

 反射的に銀翼を発進させると、先程まで俺のいた場所の空間が大きくねじれ、そしてぽっかりと大穴が開くと、大型の魚がアールバイパーに食らいつかんと飛び出してきた。まるで海から飛び跳ねるように、次元の壁を突き破ったのはギンザメの姿をした金属生命体……シーマであった。

 

「コイツは『ディメンションダイバー』……!」

 

 

 

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(その頃、地上では……)

 

 他に気になることがあると言いだした早苗は単独での行動をすると聞かずに白蓮と別れた。残された蓮子と白蓮。外来人である蓮子を放っておくわけにはいかないので迂闊な行動はとれない。そういうわけなので白蓮は当初の予定通りに、姿を消した霊夢と紫の手掛かりを集めることにした。蓮子と手を繋ぎ人里で聞き込みを試みることにした。手を繋ぐ姿はまるで年の離れた姉妹か、あるいは親子である。

 

 住職サマの人柄や顔の広さもあり、協力的な人は多いのだが、なかなか核心に迫るような情報は得られない。何せあの霊夢である。里の人間にどこに向かうかを告げるなんてこと、わざわざしないだろう。

 

「博麗の巫女? そういえば冥界の辻斬りがどうのこうのとか騒いでいたような……」

 

 里の人間に聞き込みを続けて1時間ほど。ようやく手掛かりになりそうな情報を掴んだ。どうやら霊夢は白玉楼の妖夢とコンタクトを取ろうとしていたことを知ることになった。

 

「今から空を飛びます。蓮子さんは寒くないように上着をしっかり着込んで、そして私の背中にしっかりと掴まっていてくださいね?」

 

 近くの服屋にて暖かそうな上着を蓮子に買ってあげると、白蓮は彼女を背中に乗せ、大きく飛翔した。

 

 

(少女移動中……)

 

 

 雲よりも高い高高度、もちろん地上とは比べ物にならない程寒く、白蓮の背中が小刻みに震えている。そんな寒さはあったものの、途中でシーマに遭遇することもなく無事に冥界の門まで到着はした。あとは長い長い階段を抜ければ白玉楼である。

 

「到着……っと。蓮子さん、寒くありませんでしたか? 気分は悪くありませんか?」

「寒さは大丈夫ですけど、ここって冥界? 死後の世界? ぶるぶる……」

 

 オカルト的なものに興味を抱くとはいえ、蓮子はやはり外来人。冥界と聞くと別の意味で震えが止まらなくなるようである。

 

「大丈夫、乱暴するような方はここにはいませんよ」

 

 そんな彼女の背中をポンと叩いて安心させると、白蓮は大きな屋敷へと近づく。

 

「妖夢さーん!」

 

 緑色の服を着た白玉楼の庭師さんは今まさにお仕事といったところか。庭木を手入れした中、白蓮の澄んだよく通る声を聴き、降りてきた。

 

「住職サマが私に用事? なんだか珍しいですね」

「最後に霊夢さんと接触した時のことを教えてほしいのです。ここまで大がかりな異変が起きているのに姿を現さないのはあまりに不自然ですもの。どこに行ってしまったのかを調べているのですよ」

 

 確かに妖夢は霊夢と接触をしたそうだが、どうやら随分と前のことだったらしく、しばらく「うーん」と唸る。

 

「ああ思い出しました。あれはオカルトボールの異変も収束しかけた頃ですよ。細かい時間は忘れてしまいましたが、どうやら特別なオカルトボールを集めていたようです。どう特別なのかはわかりませんけどね。それを詳しく聞く前に私は霊夢さんに敗れてボールを奪われてしまいました」

 

 ここでようやく霊夢の目的を掴む。特別なオカルトボールを探していたということはその時ボールを持っていた人を総当たりするしかない。

 

「うーん、オカルトボールですか……。それにかかわってきた人を皆洗い出すとすると時間がかかってしまいますね」

 

 二人してウンウンと唸っていると、別の声が近づいてきた。春でもないのに歩くたびに桜の匂い香る彼女は、他でもない白玉楼の主、幽々子である。

 

「妖夢、庭木のお手入れを途中で投げ出しちゃダメじゃない……あら、お客さんが来ていたのね。立ち話も難でしょうし、こっちで続きを話しましょ?」

 

 地上の屋内に比べると気温が低いものの、白玉楼の中もある程度の温度が保たれていた。蓮子もようやく上着を脱ぐことができる。とある和室に通された白蓮と蓮子。幽霊の雑用係が二人と幽々子にお茶を振舞う。これまたなぜか春らしい若々しい香りが広がる。

 

「それで、白蓮さんはいなくなった霊夢を探していたのね?」

「はい、どうやら妖夢さんとオカルトボールをめぐって戦っていたらしいので、その時のことを聞こうとしたのです」

 

 珍妙な紫色のボールを追いかけていた博麗の巫女の名前、それが出た瞬間に幽々子の表情は険しくなる。

 

「そう、霊夢を探すためにここまで? ……ねえ、紫もオカルトボールの異変以来姿を現していないのよ」

 

 白蓮の目的は霊夢だけでなく姿を消してしまった紫の捜索も含まれていた。だが、彼女についての手掛かりを探るのは霊夢以上に骨が折れることである。何せスキマで神出鬼没な上に何を考えているのかなんてごく一部の「例外」を除いて分かりっこないのだから。

 

 そして「例外」の一人たる幽々子も紫がどうなったのかを知らず、案じているのだ。

 

「彼女ほど幻想郷を愛している人はいないでしょう。こんな大ごとになっているのならばすぐにでも現れる筈。なのに気配すら見せない。その……幽々子さん、二人を『ここで』見かけませんでしたか?」

 

 何処か申し訳なさそうに肩をすくめながら白蓮は聞く。質問の意図を読み取ったのか、幽々子は少し感情的に声を高ぶらせながら返答した。

 

「見てないわ! 私は紫も彼女が大切にしている巫女も絶対に見ていないし、こんな形で紫とは会いたくない!」

 

 冥界で姿を見る、それはもはや生命が終わりを告げていることを意味する……本来は(妖々夢での異変以来、生死の境界が曖昧になっているので)。だが、この発言こそが希望へ向かう道筋となるのだ。

 

「不快になるようなことを聞いてしまってごめんなさい……。でも、幽々子さんがここで二人を見かけていないってことは、二人とも生きているんですね?」

 

 自信ありげに大きく頷く。それが分かっただけでも収穫ではある。気まずくなったのか、立ち去るべく立ち上がった白蓮を呼び止めたのは幽々子である。

 

「永遠亭よ。今の異変もオカルトボールの異変もどうやら月に(くみ)する勢力が怪しいの。その周囲を調べてみるといいわ」

 

 親友の安否を案じる少女は白蓮から目を逸らす様に一言。

 

「ありがとうございます。紫さん、絶対に見つけて助け出して見せます!」

 

 白蓮も振り向くことなく蓮子と一緒に冥界を立ち去った。

 

 

 

 その様子を誰に気付かれることもなく、扇風機の羽根型の機械が一部始終を凝視していた……。

 

 

 

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(その頃、地上では……)

 

「やはり、博麗の巫女について嗅ぎ回る輩が出てきたか」

 

 暗がりの中、密談を続ける二つの影。凛とした女性の声と、もう一つはやたら甲高くしゃがれた声であった。

 

「ああ、うちの偵察機が見つけてきた情報さ、キヒヒ。んでっ、この後どうするの?」

 

 喧しく煽るようにまくし立てる声。それに対して長身の女性はフムとしばし考え込むが意を決したかのように返答した。その震える声で。

 

「分かった、金はもっと積む。博麗の巫女に近づく存在は容赦なく抹殺せよ!」

 

 ジャラジャラと硬貨が音を立てて嗄れ声の持ち主の元に舞い込んでくる。

 

「キヒッ、キヒヒィ! まいどありぃ! しかしまあ、よりにもよってアンタからそんな依頼を受けるとはねぇ。これも世の中荒みきっているってことかなー? まっ、カネさえ積んでくれれば相手が誰だろうと仕事しちゃうんだけどね」

 

 立ち去り際に女性は一言。

 

「しくじるなよ?」

「ああもちろん。あいつらは俺様も個人的に気に食わないから、俄然気合入っちゃうよー! ヒヒッ、ヒヒヒヒヒヒ!」

 

 うるさい笑い声は暗闇の中どこまでも響き渡った……。




※こちらは東方銀翼伝の原作にあたる作品に対して「エンダー・ヴァリー」氏が投稿した非公式の次回予告となります(それに対して筆者がビッグコアとして返答をしているという形式です)。
本人からの許可をいただいたので、この場をお借りして(一部修正して)掲載しております。



・次回予告(偽)
はたて「次回『東方銀翼伝∀CE 第11話』だって!ええと、アズマは今どうなってるか念写……!!?!?!?!?!?!?!」
椛「はたてさん、この前の新聞について……どうしたんですか?」
はたて「」
椛「……どーしたんですか?」
はたて「」
椛「えっと……っ!? 轟アズマさんがまったく見知らぬ神々しい女性と接吻をしている所!」
はたて「」
椛(ど、どうしようそりゃ好意を抱いている男性が違う女性と接吻している写真見たら当然ショックだよ!しかも、舌が入ってる接吻!? アズマの奴普段から女性にだらしないと思ったらこんなことまで……!)
文「なんか悲鳴が!」
椛「あっ、文さん!これを……」


文「うーん、見知らぬ女性と接吻をしているようですね。でも女性の方が彼に覆いかぶさっているようにも見えませんか? まるで絶対に逃がさないようにって意図を感じます。何だか彼が無理矢理接吻をさせられているようにも見えますよ。やれやれ、そこに気が付かずに放心状態になるなんて、はたてさんはやっぱり素人ですねぇ。こうなってしまったことには何か事情がある筈です。はたてさん、彼のことを信じたいのならばこの前後の様子を念写してみてください」



・次回予告(オマケ)
はたて「……」ムッスー
椛「まぁ、良かったではないですか。前後を念写したところ、あくまでアズマの救命行動だったようで」
文「プークスクス」
はたて「……」むっすー
椛「そろそろ機嫌直してくださいよ」
はたて「……」ムッスー
椛「彼女の判断でアズマさんは助かったんですよ?」
はたて「……そこには感謝してる。でもあの人ともう一人とのその後の反応は気になる。それにアズマに口付けしたのは変わらないもん!!あの人は素直に感謝できない!ずっと一緒だった住職さんみたいな人はともかくとしても……」
文「まったくはたては子どもですねぇ」
椛「私は……わかるような気もしますよ?」


ビッグコア「口づけをしたのは依姫本人ではなく彼女が召喚した伊豆能売(いづのめ)です、念のため。まあ乙女なはたてちゃんがそう思うのは分かります」



・次回予告こぼれ話1
(そういえばなんか各個撃破されそうな流れになってたけど、やっぱあのチーム分け悪手だったんかなぁ)


ビッグコア「蓮子が白蓮さんに懐いているので、白蓮さんはシーマの手に落ちた月に行くことはできません(蓮子も連れていくことになるから)。早苗さんは彼女の考えからやはり月に行くわけにはいかずダークヘリオスも狂わされた仲間を救うという大義があるので月面ルート固定。あのチーム分け以外はあり得ませんでした」



・次回予告こぼれ話2
確かにチーム分けるとしたらアレしか考えられないけど、それで各個撃破される形になったら本末転倒。というか今の白蓮が襲われた場合、蓮子を庇った状態で勝てるとは……
となれば早苗が作戦から外れることを想定してなかった作戦の失敗か?流石にあそこまで早苗の行動が早いとは思わなかった。そもそもどっちにチーム分けでもこれなら変わらねぇじゃん!南無……


ビッグコア「ロンゲーナー大佐が何か企んでいると推測してたのはアズマと早苗さんの二人であり、その大佐の息がかかっているであろう朱理が仲間にいるわ、首領蜂隊なしではシーマの猛攻に幻想郷が耐えきれないわで、表立ってそのことを白蓮さんに告げることが出来なかったのです。蓮子も地上にいた方が安全でしょうし(まさかそんな白蓮さん達を突け狙う刺客がいるなんて想像もできませんし)。
確かに早苗さんを離脱させるのは早すぎたかなとは今になって思ったりはします」
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