東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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ここまでのあらすじ

 月の民の集落を襲ったシーマ「ディメンションダイバー」は、わざと月の民を怖がらせるように戦い、彼らをパニック状態に陥らせる。恐怖のあまり暴走して右往左往する民にもみくちゃにされる綿月姉妹もこれでは戦えない。

「轟アズマ」はシーマ艦と共に槐安通路にやって来た「稀神サグメ」を救出すると、ディメンションダイバーに戦いを挑む。

 巧妙な罠によってビーム合戦で負けてしまいそうになるも、サグメの能力によって運命が逆転したことによりディメンションダイバーを倒すことに成功する。
シーマによって制圧された月の都は目の前だ。

 一方の地上でも白蓮と蓮子を付け狙う怪しげな影が近付きつつある。バクテリアン軍残党の「ゴーレム」は強酸の液体で作られたシャボン玉を撃ち出す能力を持った巨大戦艦「バブルコア」をけしかけて二人を亡き者にしようとするが、アッサリと返り討ちにされる。バブルコアを倒されたゴーレムはそのまま逃げていった。

 どうやらゴーレムを金で雇っている女性がいるようなのだが……。


第12話 ~束の間の休息~

 ディメンションダイバーが開けた亜空間への穴が夢の世界に風穴を開けている。その先に見えるのはシーマの本拠地となってしまった月である。

 

 壁の修復を、管理者である「ドレミー・スイート」に依頼すると、俺はサグメを乗せて衣玖さんとダークヘリオス、朱理と共に穴の向こう側へと向かう。俺の知っている月には大気がないが、月の民が多数住んでいる筈のここにもそれが適用されるのかは分からない。まあすぐに杞憂だということが分かるのだが。恐らくは月の民による超技術か、あるいは幻想郷の性質か何かだろう。

 

 そういうわけで無事に月面に降り立った俺達は周囲を見渡す。

 

「随分と派手にやってくれてるわね」

 

 かつては非常に華やかであったであろう月の都は今では廃墟の山となっており見る影もない。その空では時折機械仕掛けの魚群が飛び交っており、うかつに高高度を飛行することも出来ず、朱理が毒づいていた。だが、そんな事よりも気がかりなのが俺の後ろである。

 

「怪我人がいるんだ。どこかで治療できればいいけれど……」

 

 かつては診療所だったらしい建物を見つけ、そこへなだれ込むように俺達は忍び込む。

 

 永遠亭の医療技術の高さから、彼女が元々いた月の都でも高度なものが受けられると思っていたが、人が誰もいないのでは話にならない。内部もひどく荒らされており医療器具も壊されているか何者かに持ち出されたかといったところである。

 

ベッドらしきものを見つけたので俺は銀翼から降りるとひとまずサグメをそこに寝かせる。抱き上げたその体は大きな翼に似合わずとても華奢であった。やはり月の民と言えど女の子なんだよな……。

 

「ディメンションダイバーに襲われたんだ。翼以外にも怪我をしているかもしれない」

 

 しかしどうしたものか。医者が残っていれば任せることも出来たのだが人の気配がまるでない。困っているとズイと朱理が割り込んでくる。

 

「マスター、簡単な治療程度なら任せなさい。ある程度の薬は用意できるし、医療器具がない場所で負傷した場合のマニュアルもインプットされているわ」

 

 おお、さすがエレメントドールだ。本来はパイロットが不時着して負傷した時にその能力が発揮されるものだろう。それに傷を確認するにはある程度服を脱がせる必要もある。男の俺よりも女性型アンドロイドの方が抵抗も少ない筈だ。

 

「それは助かった。ならば朱理、サグメの様子を……」

 

 しかしかつてないほど鋭い視線でサグメは朱理を睨み付ける。警戒しているのだろうか? しばらく睨み合いになって先に口を割ったのはサグメの方であった。

 

「アズマがいい……」

 

 ポツリとそう一言。いや、そんなこと言われても困る。それでも俺は朱理の治療を受けるようにと説得をするが、今の応対で朱理がへそを曲げてしまったようである。

 

「あっそう! じゃあいいわ。アンタは別にマスターでも何でもないし」

 

 マスターである俺が何度か説得を試みるが、朱理は機嫌を損ねたままだ。仕方がないので衣玖さんに治療の依頼をするが……。

 

「貴方に体を診て欲しいと言い出した意味、それを考えなさい。私はダークヘリオスのお世話で忙しいので」

 

 訳の分からないことを言って、とぐろを巻いて寝息を立てているダークヘリオスの傍へと行ってしまった。

 

「ならばネメシス、治療のサポートを……」

「……」

 

 ネメシスもいない。どうやら唯一この場に残っていたコンパクによるとネメシスとゆっくり霊夢は機嫌を損ねた朱理の後についていってしまったらしい。なんでもまだ残っている薬をこの廃墟の中から探し出すつもりなのだとか。

 

 なんでこんなことに……。ああそうか、あの時サグメが口に出してしまったので「男の俺がサグメの治療を受け持つ」というあり得ない事態がひっくり返って実現してしまったのか。ディメンションダイバーに勝利できたのは彼女の能力のおかげなのだが、まさかこんなところにまで影響が及んでいたとは……やれやれ、なんとも難儀な能力だ。

 

 というわけでサグメと二人っきりになってしまった(コンパクもあの後ネメシス達と同行してしまったので)。

 

 現状を憂いていても仕方がない。結局簡単な傷薬すら見当たらないので、それはネメシス達に任せるとして、俺も今できることから進めていくことにしよう。

 

「まずは傷口をキレイにしないとな」

 

 綿月姉妹のいる集落にたどり着く前にシーマ艦に襲われたのだ。俺も地面に叩きつけられるのは見ていたので、まずはこびりついた血や泥を拭う。どういうわけかそれだけでも体の震えが収まった気がした。

 

 月の民が穢れたものを忌避するというのは本当らしい。特に血液を拭き取ると心なしか嬉しそうにする。

 

「サグメ、教えてくれ。どうして朱理ではなくて俺を選んだんだ?」

 

 脚の擦り傷を探しながら俺は訪ねる。治療をするということは体に触れるという事でもある。普通なら男である俺ではなく、女性型でありなおかつ多少の怪我の処置にも精通している朱理の方が適任な筈であるから。しばし黙り込んだのち、ポツリと答えるサグメ。

 

「アズマのこと、もっと知りたいと思ったから。月の民が貴方達地上人の常識を逸脱した存在なのは何度も目にしてきたはずなのに、貴方は全く怖がることなく接してきたから」

「相手が誰だろうと関係ないさ。困っている人がいたら手を差し伸べる。種族なんざ俺にとっては全く関係ない。びゃくれ……聖様だってきっと同じような行動を取る筈だ」

 

 わずかに顔をしかめる片翼の少女。水が傷にしみたのかもしれない。しかしまあそれを聞くためだけに二人っきりになりたかったのかな?

 

「神々の能力を借りて超人的な強さを誇る依姫に、多くの技術と瞬間移動の能力を使いこなす豊姫。それに、口にした事象を逆転させる私……。こんな人ならざる能力を持っているというのに貴方はまるで物怖じしない」

「大きな運命の潮流に翻弄されながらも時には従い、時には抗い、俺はいつだって己の信じた道を進んできた。だから逆転されようが俺には関係がない」

 

 ある意味では俺だって幾度となく運命をひっくり返してきた。もっとも俺だけの力ではないのだが、どこか俺とサグメは似ているのかもしれない。

 

 さて、こんなものだろう。傷の場所を見つけて清潔にしてやったので、あとは傷薬が見つかるのを待つのみである。

 

「よし、目に見えるような怪我はこんなものだろう。他に痛んだり動かない場所は?」

 

 俺の問いかけに無言で首を横に振っている。ということは、骨折したということはないだろう。朱理の治療を断ったのはあまり大事にしてほしくないとも思ったってことだろうか?

 

「よし、あとは傷薬だな。ここで少し休んだらいよいよシーマの本拠地に乗り込む。あの魚どもの親玉との決戦も控えているし、ここで十分に英気を養って……」

 

 今も薬を探しているであろうネメシス達に加勢するべく、廃墟と化した診療所の奥へ向かおうとする。そんな俺の右手は細い指にギュっと掴まれた。振り向くと眼だけで「行かないで」と懇願するサグメの姿があった。

 

 いきなり手を握られたことに驚き戸惑っていると、後ろからサグメは俺に抱き付いてきた。よほど離したくないのか、片方だけの翼までもが抱きしめるように俺に絡みついている。

 

「怖いの。怖くて胸が張り裂けそうなの……」

 

 耳元でボソリと囁いている。今も時折シーマの偵察機が行き交う月の廃墟。圧倒的な技術で今まで負けなしだったの月の都がいとも簡単に陥落してしまったのだ。シーマに屈して煌びやかだった都が崩壊していく様は、自らが信じていたものが崩れ落ちていくことも意味する。

 

 恐らくは月の都の歴史上で初の敗北であろう。当惑し恐怖を覚えるのもよく分かる。体の傷ではなく、心の傷はかなり深いようである。それを埋めて欲しいと彼女は俺を頼っているのだ。ならば俺が応えなくてはいけない。朱理にも衣玖にもそれは出来ず、俺になら秘めたる思いを伝えられると思ってくれたのだから。

 

「絶対に勝てない相手を前に、ひっくり返りようのない運命を前に、我々は恐れおののき、ただ助けが来るのを待つことしかできなかった。だけどアズマは違ったわ。自分よりもずっと強大な相手に臆せず挑み、敗れても何とか這い上がろうと、追いすがろうとあがくことが出来た」

 

 まあ諦めの悪さにはちょっと自信がある。思えば幻想郷での俺は何度やられて倒れても、再び立ち上がり足掻いて喰らい付いて、そこから突破口を見出して窮地を脱するという機会が随分と多かった気がする。

 

「まあ……そういう言われ方すると、ただ往生際が悪いだけに見えるけどね」

「いいえ、これもある意味運命をひっくり返す能力。素敵よ……」

 

 腕を回されて、胸元にまで伸びた手。柔らかな感触と甘い香りを背中に浮けて、俺は固まっていた。

 

「分かってる。これをいつまでも続けてしまうとアズマの大切なものを奪ってしまう。だけど、今だけは……お願い」

 

 俺はサグメの冷たい手をぎこちない動きながらもしっかりと握りしめた。心折れた彼女の支えになれるのは他でもない俺だけなのだから。そこで言葉は交わされることはなかったが、確かに意思の疎通があった。

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

(その頃、診療所倉庫跡……)

 

 

「何よあの片翼の女、マスターとイチャつきたかっただけじゃない」

 

 瓦礫に腰掛けながらアズマとサグメの様子を遠くから眺めている朱理はそう毒づく。そんな彼女の元にチョコチョコとやって来たのはネメシスとゆっくり霊夢である。遅れてコンパクも飛んできた。

 

「シュリ、ソレハチガウ。マスター、ダレニデモヤサシイ」

「サグメお姉ちゃんに必要だったのは傷の治療じゃなくて心のケアだよ。だからアズマお兄さんが選ばれたんだ」

 

 そうやって弁明する小さな生命体たち。言葉を発することの出来ないコンパクもふよふよと浮遊しながら頷いている。

 

「誰にでも? その割には私をアールバイパーから追い出して……」

「もしかして妬いているのですか?」

「ちがっ……!」

 

 横に腰掛ける小さな人形に気を取られていると反対側から音もなく現れた衣玖に驚きおののく。

 

「バカ言わないで。この作戦は私を月面のどこかに封印された兵器群の所に連れていくというものよ? 私がやられちゃったら何もかもが無駄になってしまう。だというのにマスターは……」

「アズマさんは放っておくと何もかもを一人で背負い込んでしまうような人です。あの住職サマのようにね。私達地上の住民も月の民も、そしてシーマでさえも救い出して見せようとしています。それで一人で悩み俯きながらもひたすら前に進み、途中で困っている人を見つけたら手を差し伸べてしまうような……そんな人です」

 

 大真面目にそう語るリュウグウノツカイの妖怪。横ではダークヘリオスも無言で佇んでいた。

 

「バカみたい……」

 

 居心地が悪くなったのか、朱理はサグメ達から目を逸らした。

 

「なんで素直に『すごーい』って言わないんだろうね?」

「朱理さんにも色々あるんですよ。さて、彼らの為にも使えそうな薬を見つけなくては」

 

 頭をかしげるゆっくり霊夢の頭を撫でながら、衣玖は今も顔をしかめる朱理に暖かなまなざしを送っていた。

 

「さあ、もっと奥を探してみよう。ゴーゴー!」

 

 頭にネメシスを乗せたゆっくり霊夢が先頭をきって廃墟をいざ進む。コンパクはネメシスの頭上をせわしなく飛び回る。そんな小さい子達を後ろから保護者のように様子を眺めているのが衣玖と朱理である。

 

「ネメシス、何か見つかった?」

「ナンニモ」

「……(ふるふる)」

 

 だが成果は芳しくない。診療所は酷く崩壊しており、恐らくは物資も壊れてしまったか、持ち出されてしまったかしているのだろう。衣玖のさらに後ろで縮こまりながら辺りを見回すダークヘリオスも何も見つけられないでいた。

 

「あっ!」

 

 一番低い視点を持つゆっくり霊夢が救急箱を見つける。しかし重たい瓦礫に挟まっていて取り出すのは大変そうである。現にゆっくり霊夢が体当たりをして取り出そうとしているもののびくともしない。

 

「ソレダト、ジブンガハサマル。イイコトオモイツイタ」

 

 ゆっくりの体当たり程度ではビクともしない上に、仮に取り出せたとしても今度はゆっくり霊夢が瓦礫の下敷きになってしまう。ネメシスは石と板をコンパクに集めさせると、即席のシーソーを作り上げ、その片方を挟まっている瓦礫にあてがった。

 

「テコの原理ね。このチビッ子達、意外と侮れないわね」

 

 後は思い切り力点を踏みつければいい。その役割を担うのが……。

 

「てぇーい!」

 

 大ジャンプをした後にシーソーを踏みつけるのは一番大きな体を持つゆっくり霊夢。彼女の踏みつけにより、わずかに瓦礫に隙間が生まれる。その一瞬を逃さないがコンパク。

 

「……!」

 

 かくして救急箱の回収に成功。しかし一度浮かび上がった瓦礫は再び元の場所に戻ると、シーソーに乗ったままのゆっくり霊夢を逆に跳ね飛ばしてしまった。

 

「わひゃー!」

 

ポーンと空中に放り出されたゆっくり霊夢を受け止めようとネメシスが両手を上に広げてヨタヨタと追いかける。コンパクも加勢しようとするが、オロオロしてしまって出遅れている。

 

 二人の努力空しく、ゆっくり霊夢が同僚達に受け止められることはなかった。だが、トスンと軽やかな音を立ててゆっくり霊夢は着地をしていた。そう、この場にいたのはもう一人。

 

「……」

 

 咄嗟に両手を差し出した朱理がゆっくり霊夢を受け止めていたのだ。

 

「ありがとう、朱理おねーちゃん!」

 

 事なきを得て安堵の息を漏らすはリーダー的存在のネメシスである。

 

「ンモウ、イキオイツケスギ。プフッ……」

 

 大事に至らなかった安心感からか、ゆっくり霊夢が受け止められたときは逆さまだったからか、上海人形が噴き出す様に笑う。つられてこの饅頭の妖怪も逆さまのまま笑い転げた。声こそ発していないが恐らくコンパクも霊魂の姿のまま笑い転げている。

 

「今のが楽しいの?」

 

 困惑しながらゆっくり霊夢を降ろす朱理であるが、今も怪訝な表情であった。

 

「うん! 私はね、元々は臆病でパッとしないゆっくりだったんだけど、ここでアズマお兄さんと出会ってから色んなことがあって、色んな人に出会って随分と変われたんだよ。大変なこともあるし怖いことも多いけど、だけど楽しい!」

 

 無垢な笑顔を浮かべる彼女からとっさに顔を逸らす朱理。それはまるでうっかり太陽を直接見てしまったかのような反応であった。

 

「シュリ、イマハ、タイヘンナコト、オオイ。ダケド、エガオ、ワスレチャダメ」

 

 ゆっくり霊夢の頭に乗っかり、朱理の手を取ろうとするネメシス。圧倒的に背丈が足りないが、同族(動く人形という意味で)として、そしてコンパクやゆっくり霊夢に続く仲間として気遣っているのである。

 

 最初は目を背けて知らんぷりを決め込んでいた朱理であったが、いつまでも手を差し伸べるネメシスについに根負けして、しゃがみ込むと、その小さな手を握った。

 

「アンタ、応じないとずっとやってそうだもの。分かったわ、今はアンタたちの仲間だものね」

 

 その後もしばらくは、彼女がネメシス達と進んで目を合わせようとはしなかった。だけど、時折ネメシス達が戯れているのを寂しそうな目で遠くから眺めていたりもした。

 

 そんな様子を衣玖に見られて、しばらくそれをネタにからかわれるのはまた別の話……。




※こちらは東方銀翼伝の原作にあたる作品に対して「エンダー・ヴァリー」氏が投稿した非公式の次回予告となります(それに対して筆者がビッグコアとして返答をしているという形式です)。
本人からの許可をいただいたので、この場をお借りして(一部修正して)掲載しております。

……と言いたいところでしたが、実は原作は次話とひとくくりの回だったので、この区切りでの次回予告はなく、当エピソードに関するコメントのみとなっております。



・次回予告こぼれ話
今更最新話を読みましたが、ネメコンゆっくりの話は珍しい。あと、サグメさんは流石にチョロすぎて、何か企みがある恐れが…?


ビッグコア「ちびキャラ達が戯れてるのは和みますよね。ネメコンゆっくりって表現もナイスです。
サグメに関しては主人公の『鳥の羽の生えた種族に(何故か)好かれやすい』って補正がある……にしても確かにチョロくしすぎたかも。まあ月の民がもはや首領蜂隊やアールバイパーに頼る他ない上にサグメがどうやら首領蜂隊を快く思っていない様子なので」
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