(その頃、地上。永遠亭では……)
突如「迷いの竹林」で襲い掛かってきたゴーレムを退けた白蓮と彼女と行動を共にする謎の外来人「蓮子」。更にしばらく歩みを進めることでようやく古めかしい屋敷にたどり着いた。
「ここ、診療所だよね……?」
あの悪夢を見た後、気が付いたら寝かされていた場所。訳も分かぬうちにシーマに襲われたということもあって蓮子もより一層縮こまり白蓮の後ろに隠れる。
「大丈夫、もうシーマの反応は感じません。月面でアズマさんや首領蜂隊の皆さんも戦っているんです。シーマ達もそっちの対処で手一杯なのでしょう」
笑顔を向けて安心するよう促す住職サマ。手を繋ぎながら薄暗い診療所の中へと足を運んだ。ここもシーマ艦「エイトフィートアンブレラ」に襲われたのだが、多くのイナバ達の手によって修復作業が行われており、騒がしい。
「うん、患者さん? 診療所の機能自体はもう回復したから奥で名前を呼ばれるのを待つウサ。私はここの作業で手一杯だから案内できないけどね」
てゐに言われたとおりに通路を直進し、待合室まで向かうのだが、今は誰もいないようだ。程なくして住職サマの名前が呼ばれる。
「こんにちは、住職サ……その子はっ!?」
両目を見開き白蓮の連れていた少女を見る永琳。どうやらここで入院をしていたのだが、シーマの襲撃に遭いはぐれてしまったのだという。
「蓮子さんのことを知っているのですか!?」
対する白蓮も思わぬ手掛かりに驚き、思わず大声を上げる。急な事態に狼狽する二人であったが、しばらくして落ち着きを取り戻すと、お互いの情報を共有することにした。
「私は姿を消してしまった紫さんと霊夢さんを探しながら、命蓮寺の近くまで迷い込んできた記憶喪失の彼女のことを調査していたのです。名前も忘れていたようなので私が仮に『蓮子』という名前を与えました」
「そうだったのね。ああ、はぐれてしまった時はどうしようかと思ったけれど、貴女が保護してくれて助かったわ。だけど、記憶が戻ったわけではないのね」
永琳から最初に告げられたこと、それは彼女の本当の名前とその出自であった。
「白『蓮』さんが保護したから『蓮』子だったのね。奇しくもその子の本当の名前は『宇佐見蓮子』というのよ。外の世界から幻想郷に迷い込んだらしいわ」
「宇佐見……?」
仮につけられた名前と本来の名前が同じだったことに戸惑いを隠せない蓮子。偶然の産物なのだが確かに奇妙な気持ちにもなる。
「永琳さん! 彼女のこと、蓮子さんのことをもっと詳しく教えてください。誰が彼女を幻想郷に誘ったのです? 誰がここ永遠亭まで連れてきたのです?」
だが永琳の表情は晴れない。
「それがね、私にもよくわからないのよ。蓮子はここ永遠亭に重傷を負った状態で運ばれてきたのだけれど、大きなフードを被っていて誰なのかは分からなかったわ。声からして女性であることは分かったのだけどね」
彼女が残した言葉は本当に少ない。手短に「外来人が負傷した。名前は『宇佐見蓮子』。治療が終わった頃にまた来る」と口早に言い残して立ち去ってしまったのだという。
加えて蓮子が一刻も早く治療をしないと命にかかわる重篤な状態であり、詳細を聞き出す猶予がなかったことも付け加えた。
「つまり分かったのは蓮子さんが外来人だったってことだけですね。ところが治療が終わる前に永遠亭はシーマ艦の襲撃に遭ってしまい……」
これ以上有用な情報が得られなそうなので、礼を言って白蓮は永遠亭を立ち去った。
「ねえ、私はどこか遠くから連れてこられたの? それじゃあさらわれたのはメリーじゃなくて私の方?」
再び竹林を二人で歩く。風もなく静寂に包まれる中、二人の足音だけが響いていた。
「外の世界とつながりのある人なんて限られてきます。紫さんも霊夢さんも行方が分からないので蓮子さんを連れて来た人ではないと考えると……あとはマミゾウさんくらいですね。何か知っていることがないか聞き出してみましょう」
命蓮寺に向かうべく、二人はさらに歩みを進めていった。
これといった妨害を受けることなく竹林を抜け、人里を通り抜けてしばらくすると命蓮寺である。
「ふわわ……おかえり」
見るからに宴会明けの眠そうな目と周囲に充満する酒臭さ。白蓮不在をいいことに命蓮寺で宴会を開いていたらしい。恐らくは一輪やムラサも同じような状態なのだろう。呆れ気味にため息をつくと、ダメ元で白蓮は本題を切り出す。
「まったく貴女達は……。まあ他の方に迷惑をかけなかったようなので良しとしましょう。それよりもマミゾウさん、ここ最近で外来人の少女と接触しませんでしたか?」
ボンヤリする頭をフル稼働させるマミゾウは部屋の天井をじっと見上げ……。
「聞かずとも分かるじゃろうが。前のオカルトボールの異変の時に外来人が観光に来て大騒ぎになったじゃないか。確か『宇佐見菫子』とか言ったかのぉ?」
「いえ、菫子さんじゃないんです。あ、でも少しは関係があるのかも。私が調べているのは『宇佐見蓮子』という女の子です」
再び考え込むマミゾウであったが、酔いもさめてきたのか、あるいは心当たりがないのが明確なのか、今度は比較的すぐの返答であった。
「いや、そんな子は知らぬ。最後に外界の家まで送ったアズマからも彼奴に姉妹がいたなんて話は聞いておらぬしの」
今回の異変は月に与する者が怪しく、外来人を連れてこれるような少女がキーパーソン。しかしこれで外来人に関しての情報は途絶えてしまった。
「そうですか……」
「ふむ、永遠亭に重症の状態で運ばれた外来人のぉ……。ワシには全く心当たりがないわい。何せ外来人の『おもてなし計画』は大怪我をさせてはいけないというのがあのスキマ妖怪との約束じゃったしの。
そうじゃ、こうなったらその外来人ではなくてスキマ妖怪の足取りを追いかけてみてはどうかの? ワシも『おもてなし計画』の途中で別れてから姿を見ていないのじゃ。八雲亭を調べてみるとか」
とにかく足で情報を稼がなくてはということで、白蓮は引き続き留守番を頼みながら幻想郷の淵のどこかにあるという紫の家を探すことになった。
途方に暮れつつも幻想郷のはずれへ進路を取る白蓮と蓮子。今も博麗大結界によって外界とは隔てられてはいるものの、霊夢も紫も行方不明の状態という管理者不在の状態では、いつ崩壊してもおかしくはない。
「博麗大結界とかかわりの深い場所でもある筈ですから、博麗神社と同じように幻想郷のはずれにあるはずです」
もちろん道などないので、白蓮が蓮子を背中に乗せて空を飛ぶことで探索を続けている。しかし進捗は芳しくない。さらに悪いことに……。
「キヒヒヒ。見つけた、見つけたぞ。銀翼の末裔……の仲間の魔法使い!」
団子が連なったような太い触手の生えた一つ目の脳味噌「ゴーレム」がまたしても行く手を阻むように現れる。背後には緑色の十字のような形状をした巨大戦艦を従えていた。
「おい魔法使い、今度こそテメーらには消えてもらうぞ。ゴーファー様と……あと『あのお方』の為にもな! 行けぇい、巨大戦艦『レーザーテトラン』!」
見つけたいものに限り見つからず、見つかりたくないものに限って向こうからやってくる。何たる皮肉と白蓮はため息をつき、ジャコンと4つの突起部分を尖らせて戦闘態勢に入った緑色の巨大戦艦と対峙する。
始めに仕掛けたのはレーザーテトラン。突起部分から黄色いレーザーを撃ち出しながらゆっくりと回転をし始めたのだ。その予兆を見切っていた白蓮は蓮子を背負いながらというハンデを負っていながらも楽々と回避をする。
「いえ、奴は『テトラン』の名前を冠していました。ということは……」
そう、レーザーの勢いを反動に加速度的に回転を始めたのである。蓮子に危害を及ぼすわけにもいかず、白蓮も攻めあぐねいている状態だ。
「そらっ、どうしたどうした? いつもの超スピードは使わないのか? ヒヒヒヒ!」
今も回転し続けるレーザーテトランの影に隠れながらゴーレムも触手から白い弾を狙い撃つ。もちろん今は白蓮が本気で動けないことを知ったうえで挑発を続けているのだ。
「ちっ、安い挑発には乗らないってか? ならばさらに激しく攻めるまでよ。レーザーテトラン、ホーミング弾で追い詰めろ!」
突起部の間から鈍色の弾が射出されるとゆっくりと白蓮目がけて飛んでいく。巨大戦艦の回転に合わせてこちらの処理もしなくてはならず白蓮は防戦一方となっていた。どうにかホーミング弾をかわしながら、ようやくレーザーテトランの隙を見つける。意を決して白蓮は拳を突き出した。
「はあぁっ!」
しかし次の瞬間にはレーザーテトランは間合いを取っていた。そう、白蓮が攻勢に出た瞬間にレーザーテトランは左右のレーザーユニットから白蓮のいた方向にレーザーを放ち、ロケットの噴射の原理で距離を離していたのだ。
「どうだっ、触手の代わりに搭載した光学兵器は? これでボディの大幅な軽量化に成功したんだ。そこに来て高出力のレーザーの反動を用いての移動。そこに死角はないぜ。キヒヒヒ、これでも喰らいやがれっ!」
一度間合いを取ったレーザーテトランが今度はものすごい勢いで迫ってくる。恐らくは先程とは反対方向にレーザーを発射したのだろう。頑丈なバクテリアン戦艦の装甲が白蓮を押し潰す。
「ぐううっ……!」
間一髪でそれを受け止める白蓮。その間は蓮子は必死に彼女の背中にしがみつく状態となる。
「そらそら、いつまで両手で支えてるんだ? ヒヒヒ、このままじゃそっちの女の子は真っ逆さまに落っこちちまうぞ?」
レーザーテトランの突進を受け止めるのに精いっぱいの白蓮にゴーレムが近づき、触手を用いて白蓮を殴りつける。白蓮本人は身体強化の魔法を施しているので大してダメージは受けないものの、その度に背中にしがみついている蓮子がずり落ちていく。
「なるほど、軽量化したとさっきは言っていましたね。それは事実なようです」
その緑色の巨体を支えながら、白蓮は不敵な笑みを浮かべる。次の瞬間、レーザーテトランは空中で白蓮によって持ち上げられてしまった。
「嘘だろォ? 確かに軽量化したとはいえ、巨大戦艦だぞ!?」
そのまま白蓮は持ち上げたレーザーテトランをゴーレムに投げつけた。
「ストーップ! レーザーテトラン、こっちに突っ込むんじゃない! すぐに逆噴射を……ふんぎゃ!」
あまりに勢いよく投げつけられたせいで、逆にゴーレムがレーザーテトランの突進を受けてしまったようだ。今の衝撃でコアも破壊されたようでバラバラになりながらこの巨大戦艦は爆散した。
「ち、ちくしょう! 今日の所はこれくらいにしてや……」
「お待ちなさいな!」
緑色の残骸をかき分けながらヨロヨロと這い出てくるゴーレム。捨て台詞を吐きながら逃げようとするのであるが、その団子の連なったような触手を白蓮に掴まれてしまった。
「貴方に聞きたいことがあります。私達を狙っている『あのお方』についてです。貴方は一体誰の依頼でこのようなことをしているのですか?」
「フン! 確かに『あのお方』は気に食わないが、一応俺様もカネをたんまり貰ってるんだ。それを言うわけにはいかな……あだだだだ!」
今もジタバタと暴れるゴーレムの触手を、白蓮は影のある笑顔のまま引っ張り始める。これは敵わないと悟ったか、ゴーレムは遂に大人しくなった。
「分かった分かった、言うよ! もうこんなことはやめだ、割に合わない! だから乱暴はよしてくれ」
抵抗しなくなったことを確認すると白蓮はようやく触手から手を放す。周囲をキョロキョロと見回した後、ボソリと真実を告げ始める。
「驚くなよ? 俺様を雇ったのはな、幻想郷の少女だ。それもあの大妖怪、八雲……ギャアアアアアア!!」
それは一瞬の出来事であった。どこからかゴーレムの一つ目をクナイ型の弾が狙撃したのだ。徹甲弾だったらしく、目に突き刺さった直後に爆発を起こしていた。さすがの白蓮も察しが付く。今ゴーレムを亡き者にしようとしたのは彼が言う所の「あのお方」、つまり蓮子と自分の命を狙う存在であることを。
「どこにいるのですっ? 私はここですよ。隠れてないで出てきなさい!」
両手を大きく広げながら、声を張り上げ周囲を見渡すが、それらしき影は見当たらない。その足元では、かすれた声で目を失ったゴーレムは弱弱しく声を上げる。
「香霖堂だ……。アイツは香霖堂で密会をしていた。そこに行けば何かわかるかも……な。へへへ、一矢報いてやったぜ……!」
苦しげに太い触手二つを空に掲げ、恐らくは最後の力を振り絞ったのだろう。先程よりもはっきりとした声で一言。
「ゴーファー様、万歳! バクテリアン軍に栄光あれ……!」
ついに力尽きたのか、触手が、そしてその直後に本体が爆発を起こし跡形もなく消え去ってしまった。
「香霖堂……ですね。それに信じがたいですが裏で手を引いているのは『八雲』の名を持つ存在だったようです」
「やく……も? ええ、確かにあの脳味噌の化け物はそう言っていました」
外来人である蓮子にこの大妖怪についての解説を行う白蓮。八雲の名を持ち、外界との行き来が可能な幻想郷の住民など限られてくる。
「蓮子さん、私達は真実に近づきつつあります。今までにない程に辛いことになるかもしれませんが、どうか心折れることないように。私はいつだって蓮子さんの味方なんですから」
意を決した白蓮は蓮子を背負いながら、帳の降りつつある夕暮れを一直線に飛翔した。言いようのない疑念を抱きながら……。
「だけど一体どうして……?」
※こちらは東方銀翼伝の原作にあたる作品に対して「エンダー・ヴァリー」氏が投稿した非公式の次回予告となります(それに対して筆者がビッグコアとして返答をしているという形式です)。
本人からの許可をいただいたので、この場をお借りして(一部修正して)掲載しております。
・次回予告(偽)
うどんげ「」
輝夜「どしたの?」
てゐ「今回紺珠伝をベースになってるから出番が来るだろうと期待して、結局何もなく終わりそうで凹んでるウサー」
輝夜「あー」
てゐ「どうせ出番があってもこき使われるか痛い目見るかのどっちかなんだし元気出すウサー。出た結果、薄い本待ったなしのくっころ状態な巫女もいるし」
早苗「」
てゐ「次回『東方銀翼伝∀CE 第14話』!果たしてゴーレムの雇い主は…って、これ隠す必要ある?」
輝夜「そうでもないわ、キョンシー化の状態で交渉なんて出来ないと思うし」
てゐ「でも八雲って…」
輝夜「実は青娥と繋がってた八雲藍よ!ちょうど出番全然ないし!!紫を操ってるのよ!」
藍「?!」
ビッグコア「いつもいつも次回予告作っていただきありがとうございます。そういえば今回まるで鈴仙の出番がない……。永遠亭の中を案内する役目もてゐに取られてるし。
ゴーレムが最期に口にした『八雲』の名前、果たしてどういうことなのか?」
・次回予告こぼれ話
よく考えなくても紫が相手の味方をしているのはもう確定なのだから…
次回予告
やめて!八雲紫の特殊能力で、スキマに飲み込まれたら、戦いになる前に蓮子共々、青娥に言いように扱われちゃう!
お願い、死なないで白蓮!あなたが今ここで倒れたら、蓮子さんやアズマとの約束はどうなっちゃうの?
スペカはまだ残ってる。これを凌げば、青娥の生存が伝わるんだから!
次回「白蓮 死す」。弾幕スタンバイ!
しまったー!こっち予告のネタにするべきだったー!追悼EDのネタは用意しなきゃ…
ビッグコア「紫は青娥の罠にかかり、キョンシー化してスキマに閉じ込められていた筈ですが……?
突如幻想郷と月を襲い始めた『シーマ』、月の都に今度こそ勝利せんと奮闘する『クラウンピース』と『友人様』、シーマの進撃に合わせて幻想入りし、戦争を仕掛けた謎の軍隊『首領蜂隊』、そして死に際にゴーレムが口にした『八雲』とは……?
この異変の全貌、そのカギを握るのは果たして何者なのか……!」