負傷していたサグメを治療するべく診療所の廃墟に忍び込む。窮地を救ったからか、貴方はサグメにとても気に入られる。
どこか距離を置いていた朱理は傷薬を探すゆっくり霊夢達のやり取りを目にして何か思う所があるようであった。
一方の白蓮はというと蓮子の正体が外来人「宇佐見蓮子」であるらしいことを永琳から聞き出したものの、それ以上の情報が得られず捜査は振り出しに。そこで白蓮は行方不明になった紫の足取りを追うことに目的をシフトさせる(紫は外の世界ともかかわりが深いので)。
その途中で何者かに雇われているバクテリアン軍残党の「ゴーレム」が再び襲撃。「レーザーテトラン」を従えて戦いを挑むものの、またしても白蓮に迎撃されてしまう。逃げ出そうにもそのまま捕まってしまい、遂に観念したゴーレムは雇い主の情報を口にする。
なんとゴーレムを雇って白蓮と蓮子を襲わせていたのは「八雲」の名を持つ妖怪だというのだ。詳しく聞こうにもゴーレムは何者かからの狙撃を受けて事切れていた……!
月で、地球で陰謀が渦巻く……。
後ろからサグメに抱き付かれて数分後……。ようやく廃墟探索組(っていうか俺とサグメ以外の皆さんなのだが)が戻ってくる。ゆっくり霊夢の頭に乗っかってるネメシスが傷薬らしきものを手にしていた。
「見つけてきてくれたんだね、みんなありがとう!」
上海人形の小さな手から薬を受け取るとサグメの傷に塗りたくる。さすがは月の技術の薬といったところか、たちどころに傷が塞がったようだ。
「もう傷は完治した。感謝する」
バサッバサッと片方だけの翼を羽ばたかせて軽やかに空を飛んで見せた。
「まったく、一時はどうなるかと思ったけど、これで本来のミッションに戻れるわね」
どこか距離を置いていた朱理がため息交じりに続けた。そうだった。数々の危険を冒してまで月面までやってきた理由、それは今も首領蜂隊と一進一退の攻防を続けているシーマを背後から叩くためだ。その為にはここ月面のどこかに封印されている兵器を目覚めさせなくてはならない。
「兵器の封印された場所ならあらかた調べてあるわ。この都市部から離れたいわゆる『月の裏側』のどこかみたい。とにかくこんな場所はさっさと抜けてもっとしっかり探しましょ?」
「とはいえひっきりなしにシーマが飛び交っていてすぐに飛び立つわけにはいきませんね」
廃墟に紛れながら地上をゆっくりと移動することとなった。注意深く進軍したために大きな戦闘も起こらず、気付けばクレーターだらけの砂漠のような荒涼とした地にまでたどり着いていた。
「ここが地球からは決して見えない月の裏側」
片翼の少女が言うにはここが月の裏側だという。今のところシーマの反応らしきものは見られない。それはダークヘリオスが特に身震いしていないことからも分かる。やはり奴らは月の都を蹂躙するのが目的であり、こんな何もない砂漠のような場所を攻撃する必要性などないのだろう。
「感じるわ。すぐ傍で兵器が封印されている。奴らが来ないうちに調べてみましょう?」
ピピピと電子音を発しながら朱理が砂と岩だらけの地面を撫で始める。このように見るからに怪しげな行動を起こしてもシーマの反応は見られない。だが、他にも「招かれざる客」はいたようで……。
「やっほー、こんなところで何してるの?」
誰だ? 封印された兵器を探している最中、おおよそ友好的とは思えない憎たらしい声が俺に話しかけてきた。
「きゃははは! まさかこんなところまでやってくるなんてね」
「お前はっ……!」
あのアメリカンな風貌は忘れたくても忘れられない。狂気をもたらす松明でシーマを狂わせて自らの手駒にした張本人「クラウンピース」である。だが、俺が食って掛かる前に奴に飛びつく影が。
「ダークヘリオス!」
同胞をいいように操る首謀者なのだ。その怒りは計り知れない。衣玖の制止を振り切って、その巨体をひねらせながらクラウンピースを取り囲むと、胴体のレーザー砲台からの一斉掃射。咄嗟に顔面を両腕で覆い防御しているがもちろん防ぎきれる筈もない。だが、腕の奥であの地獄の妖精はニヤリと笑っていたのだ。
「離れろっ!」
俺の叫びに反応してダークヘリオスは追撃をやめる。直後、クラウンピースの真下から岩盤を砕きながら赤いシーラカンスが飛び出してきたのだ。今までに出くわしたどのシーマ艦よりも巨大な体は赤熱しているのか、周囲の岩盤を急速に熱して溶解させた。一時的なものとはいえマグマに変えてしまったのだ。
その巨体はもちろんダークヘリオスなんかよりもずっと大きな体を持っており、あの体当たりをまともに喰らったら熱と重量にやられてダークヘリオスとて無事でないのは明白であった。
辛うじて直撃を避けたものの、それでもその衝撃に煽られてダークヘリオスは大きく打ち上げられてしまっていた。焦げ臭いにおいも立ち込めており、酷く火傷もしたらしいことも推測できる。
「うーん、惜しいっ! もうちょっと早ければ苦しみで狂う間もなく逝けたというのに。ならば仕方ないわ。『ファイアフォスル(※1)』、ミサイルで追撃しちゃって」
赤熱したヒレが大きく開くと、そこからいくつもの小型ミサイルが白煙を上げて手負いの「裏切り者」に向けて発射される。追尾性能はそこそこだが、弾速が凄まじい。相手が巨体のダークヘリオスとあればかなり有効な兵装だ。
「そうはさせるかっ! ハンター発射!」
銀翼のバーナーをこれでもかとふかし、自らミサイル群へと後ろから突っ込んでいく。それと同時に標的を追尾する青い光弾を大量にばら撒いてダークヘリオスを狙うミサイルを一つでも多く減らしていく。
ちくしょう、かなり頑丈に出来ている。あるいはハンターの火力では撃ち落としきれない。いまだに数発残されたミサイルを迎撃するべく今度は奴らを追い越して機体を大きくターンさせる。
「グラビティバレット用意……発射!」
今度は火力の出るレーザー系兵装に交換して迎撃を試みる。あらかじめミサイルが通過する場所を先回りするように狙って紫色の大きな弾丸を発射。弾丸は一定距離を進んだ後に二つに割れて、小型ブラックホールを形成する。よし、残りのミサイルも吸い寄せられて消滅した。
「今度はこっちの番だ。ネメシス、コンパク! ローリングフォーメーションだ。オーバーウェポンを決めるぞ!」
多数の火炎砲を配備した尾を左右に振りながら向けてくる。恐らくはダークヘリオスにも狙いを定めているのだろう。ならば、ここは火力を一点集中させるサンダーソードよりも……。
「重光龍……」
速度を上げて周囲を回転する3つのオレンジ色のオーラ。唸る程に速度が上がることで3つの光の球は1つに繋がりその先端が龍の頭のような姿を取り始める。
「……『ドラゴンレーザー』!」
響く咆哮、とぐろを巻きつつ飛び出す金色の光龍。すぐさまファイアフォスルの尾ビレに多数配備された火炎砲に喰らい付く。ドラゴンレーザーの前ではフォスルの砲台から放たれる火炎弾もちっぽけなものにしか見えない。
瞬く間にばら撒かれた火炎弾はかき消され、逆に砲台を次々と破壊させた。手負いのダークヘリオスを守りながらこのまま攻勢に転じることが出来そうだ。この間にダークヘリオスは体勢を立て直すと、再びファイアフォスルと対峙する。
「こっちは私達に任せて、アズマさんはあのピエロ妖精をお願いします!」
シーマのことは衣玖とダークヘリオスに任せ、俺はあのピエロ野郎をにらむ。今も松明を掲げながら俺を見下したように笑っている。
「なぁに、あたいとやり合うっての? ここは『友人様』もすぐ近くにいるから、あたいの戦闘力も大幅に純化してるの。それを分かってて言ってるの轟アズマ? それとも……もう狂っちゃった、きゃはは!」
狂ってる……か。生身の人間が月面で妖精と弾幕決闘をする、確かに正気の沙汰とは言えないかもしれない。だが、こいつの凶行は止めなくてはならない、それだけは確かだ。決して狂う事のない俺の信念。
「ほざけ、遺言は済ませたか? 今すぐにでも地獄の底に叩き落としてやる!」
口角を一際上げてニヤリと笑みを浮かべるクラウンピース。その背後で青白い光が爆ぜた。次の瞬間、細いレーザーが何発も照射され、追い詰めるように星型の弾を薙ぎ払うように撃ち込んでくる。なるほど、そうやってこちらを追い詰めて恐怖に駆られる敵の顔を愉悦の表情で見下すという算段か。
だが、その目論見は脆くも崩れることとなる。俺には、希望の銀翼「アールバイパー」にはアレがある。弾幕殺しの青い刃が。
「レイディアントソード!」
あえて星型弾の一つに突っ込む俺。着弾する寸前に剣を展開し、周囲を薙ぎ払った。それを速度を殺さずに行うので、至近距離でクラウンピースを捉えることに成功する。ここまで近づけばわざわざロックオンサイトを覗くまでもない。ミサイル発射ボタンを思い切り押した。
放たれたのは徹甲弾のような性質のミサイル「フォトントーピード」。尖った先端部が奴の腹に深々と突き刺さると、その状態のままフォトントーピードは加速しつつ直進。地面に突き刺さった瞬間に爆発を起こした。
やったか! いいや、あれだけ大口を叩いていたのだ。何か秘策があるのは確か。「戦闘力の純化」とやらが何を意味しているのかはよく分からないが、これだけで終わる相手でないことは俺のカンが告げていた。
そして案の定というべきか、穴の開いた筈の腹が激しく燃え盛ると元の肉体を取り戻したクラウンピース。奴は何事もなかったかのように再び俺の目の前に立ちはだかる。今の攻撃など『ヘ』でもないと言わんばかりにニタニタと笑みをこぼしていた。
「へー、やっぱり強いのね。じゃあ準備運動は終わり!」
彼女が取り出したのはスペルカードであった。ここからが本番だ。空高く掲げた瞬間、彼女の全身から魔力がほとばしるような感覚を覚えた。
「獄符『ヘルエクリプス』!」
ビリビリと空気を伝ってその衝撃が銀翼のコクピットにまで響く。それがこの月が外の世界でおなじみの月とは全く違う場所であることを嫌というほど知らしめている。衣玖さんが生身でいられることから周囲に大気が存在し、重力だって地球とさほど変わっていないことが分かるのだ。
衝撃と共にアールバイパーにゆっくりと近づいてきたのは大きな月。いや、月を模した巨大な弾なのだろう。だが、それ以上に脅威的なのはそれと共にやはり回転している赤い弾幕を放射状に放つ小さな球体。時折月に弾が阻まれる時を除けばまるで隙間がない。あそこまでびっしりと弾が放たれていてはレイディアントソードでは防ぎきれない。
だが、俺にはまだ弾幕を防ぐ手段がある。ネメシス達に魔力が戻ったことを確認すると、俺はオプションを切り離した。
「ネメシス、操術『リモートバースト』だ」
ひっきりなしの弾幕を防ぐには……いや、ひっきりなしだからこそリモートバーストが有効と判断したのだ。他のオプション達を従えて俺から距離を取ったネメシスは、俺とクラウンピースを両断するように青白いバースト砲を放った。光の盾に赤い弾幕はみるみる阻まれていく。しかし……。
「さすがに実体を持つこっちの弾は防げないようね」
そう、ここであのまがい物の月が厄介になる。ネメシスから放たれたバースト砲を逆に遮ってしまうのである。こうなってしまうと無防備になり赤い弾幕に気をかけなくてはならなくなるのだ。
長期戦は不利と判断した俺は残った3つのオプションの魔力を銀翼本体に収束させる。
「禁術『オーバーレイド・オーバーウェポン』」
圧倒的な火力を得るには3倍に重ね掛けしたオーバーウェポンでないといけないだろう。悔しいがここで戦うクラウンピースは確かに強力だ。
急速に血中の魔力濃度が高まり、俺の体は拒絶反応を起こす。だが俺は急激な吐き気に負けじと標的を睨み付けながら、レイディアントソードを機体前方に構える。
「重銀符『サンダーソード』!」
ほとばしる電撃、激しく明暗する月面、そしてまがい物の月ごと最狂の妖精を貫く青い刃。決まった! 手ごたえもしっかり伝わってくる。直後、爆発四散する妖精の肉体。しかし……。
「ぐわあああ!」
倒した筈のクラウンピースはいつの間にか復活しており、攻撃の手を緩めない。どういうことだ? あれだけの高威力の技をクリーンヒットさせたというのに相変わらず憎たらしい笑みを浮かべたままなのである。確かな手ごたえは感じたので外したとか回避されたということは考えられない。
「だから言ったでしょ? あたいの力を純化させてくれる『友人様』がすぐ傍にいるって。あたいは絶対に倒せないよ!」
一度ネメシスに戻るように指示を出すと赤い弾を隙間なく放射する小さな星から逃げるように距離を取る。妖精特有の「一回休み」のインターバルすら純化したことによって短くなっているのかもしれない。だとしたらいつまでもコイツの相手をしていても無駄であり、奴の言う「友人様」を叩いた方が早い。
そう思索を巡らせていると目の前に大きな月が迫ってきた。しまった、考え事に夢中で回避行動が疎かになっていた! ダメだ、かわしきれない……!
覚悟を決めて両目を閉じようとした俺であったが、意外な方向から救いの手が差し伸べられた。
俺とまがい物の月の間に割って入るように躍り出たのは紫色の長い体。そのままその鋭い牙で月を嚙み砕いてしまった。こいつは今ファイアフォスルと戦っている筈の……。
「ダークヘリオス!」
言葉は交わされないが、俺はそのままサムズアップして見せた。グッジョブと。後ろではファイアフォスルと戦闘を続ける朱理と衣玖の姿が見えた。
「マスターが苦戦しているようだからね。そのリュウグウノツカイもアイツと因縁あるみたいだしそっちに戦力を割いておくわ」
あちらもあちらでヒレを飛ばしたりダイナミックに空中を泳ぎ回ったり火炎放射を仕掛けてきたりと優勢とは言えない状態であった。彼女の注意が俺に向いた隙をファイアフォスルが見逃すはずもなく、多数の火炎弾を仕掛けてくる。
「私は早く『宝探し』を始めたいのよ。邪魔しないでくれる?」
だが、朱理はこうなる事も予見済みのようであり、自らの体内に溜め込んでいたエネルギーを一気に拡散させ、周囲の弾幕を全て消し去ってしまった。
「ハイパーシステム、起動。システム臨界点までカウントスタート!」
続いてファイアフォスルが赤色の「βビーム」で朱理を撃ち落とそうとするも、彼女は真っ向からそれに対抗するつもりのようで、オレンジ色の極太レーザーを撃ち出していた。
「こんなデク野郎は二人で十分。だけど倒しても倒しても変な炎に焼かれながら何度でも立ち上がるのよ。ああメラメラと暑苦しい! そっちの妖精を止めないことには私達はジリ貧よ」
βビームを凌ぎきった朱理が再び攻勢に出る。対するファイアフォスルは再び口から火炎を吐き始めた。
しかし衣玖は何か難しそうな表情のまま俯いている。まずいぞ、理由は分からないが戦闘に集中できていない。そこめがけてファイアフォスルがブーメランのように回転する背びれを飛ばしてきた。
「危ないっ……。間に合えっ、逆回転リフレックスリング!」
左回転する光る回転ノコゴリ。周囲の物体を吸引する能力を持っており、これのおかげで戦闘機の姿であるアールバイパーでもモノを掴むことが出来るのだ。俺は飛ばされた背ビレ目がけてリングを射出。間一髪でリングに捉えると、そのまま機体をその場で回転させる。
大きく軌道がずれたファイアフォスルの背ビレは衣玖の帽子をかすめて大きく弧を描いた。そのままブンブンと回転させると、そのままファイアフォスルに投げ返す。赤い鱗に着弾したが大したダメージは与えられていないようであり、怯む様子を見せていない。
まあいい、衣玖を助けることが出来たのだからな。
「大丈夫かっ?」
だが彼女は今も放心状態である。いや、何かつぶやいているようだ。注意して耳を傾けてみる。
「炎……風圧……響く衝撃……。はっ! アズマさんっ、朱理さんっ、この状況をひっくり返す秘策を思いつきました! この月には大気があるんです! 大気さえあれば私の『空気を操る程度の能力』が使用できます」
どういうことだ? 俺はほとんど銀翼の中にいるから実感がわかなかったが、そういえば俺の知ってる月面とは違って大気があるからこそ衣玖も生身で行動が出来ているのだ。だが、それがどう秘策に繋がるんだ?
「この作戦を実行するには非常に時間がかかります。そこでお願いなのですが、アズマさん、朱理さん、そしてダークヘリオス、どうか時間稼ぎを行ってください」
具体的な内容までは分からなかったが、このまま戦っていても敗北が見えている。ここは彼女の奇策に委ねよう。
今も松明を掲げ続けるクラウンピースと再び対峙する俺とダークヘリオス。今こそ反撃の時だっ……多分!
(その頃地上、魔法の森入り口付近では……)
ゴーレムが死に際に残した「八雲」の名のつく妖怪の名前。その足取りを追うべく、白蓮と蓮子は魔法の森の入り口まで赴いていた。目的地は香霖堂、ゴーレムの雇い主が出入りしていたという場所だ。
「香霖堂といえば店主の霖之助さんです。彼女は霖之助さんとどんな関係なんでしょうか……?」
間もなく森の入り口あたりにひっそりとたたずむ小屋が見えてきた。近くで蓮子と一緒に着地すると意を決してお店の中へと足を進める。
「いらっしゃい」
気だるげに何かの本に目を通しながら一応の応対をしていた霖之助。白蓮は単刀直入に店主に問う。
「ごきげんよう霖之助さん。ここ最近妖怪のお客さんが多いようですね。確か、八雲……というお名前だとか」
その名前を聞くや否や表情を引きつらせる霖之助。この男、何か知っている。鈍感な白蓮でさえ気づくほどに霖之助は狼狽していたのだ。
「やはり、私の命を狙う妖怪は頻繁にここに出入りしていたようですね? 彼女について教えてください、私も蓮子さんを守り切りながら戦うのには限界がありますので」
ジリジリと霖之助に近づく白蓮。対する霖之助もそれから逃れるべく足をすらせて後ずさりをするが、彼の体が壁に到達するのにそう時間はかからなかった。白蓮の真っ直ぐな視線に晒され、逃げ場を失った霖之助はガクリと肩を落とし、とうとう観念したようだ。
「やれやれ、僕の負けのようだ。確かにここに頻繁に出入りしている妖怪はいる。だが、彼女がどうして君の命を狙っているのかまでは分からない。誓ってもいい、僕は別に君に敵意を抱いていない。恐らくは彼女の独断……」
その直後のことであった。電撃を纏ったクナイ型の弾が何処からともなく飛んできて、霖之助の首筋に突き刺さる。対象を痺れさせる効果を持ったものらしく、殺傷能力はなさそうであったが、膝をついた状態で霖之助は動けなくなってしまった。
「霖之助さんっ!」
そんな彼に気をかけたその一瞬を狙い、大きな影が白蓮の真後ろをかすめ飛ぶ。不意打ちか? いや、標的は白蓮ではなくその後ろの……。
「白蓮さんっ!!」
白蓮の注意が霖之助に集中したその隙に、蓮子はさらわれてしまった。その犯人は少女であった。何よりも目を引くのは9本もある大きな尻尾、そして帽子で隠されたピンと立った耳。
「八雲……藍!?」
今もジタバタと暴れる蓮子を脇に抱えて白蓮を見下す様に浮遊するのは九尾の狐であり、紫の式である八雲藍のものであった。あの尻尾を見間違える筈はないし、ゴーレムの証言とも一致する。彼女もまた「八雲」の名を持つ九尾の狐、つまり大妖怪である。
「この外来人の娘は貰っておこう。幻想郷を破壊するのになくてはならない重要人物だからな」
次に今も膝をついた状態で動けない霖之助の胸ぐらを掴みあげる。
「この裏切り者め。貴様には再教育する必要があるようだな。お前も一緒に来い!」
香霖堂の屋根を突き破り、二人を抱えて飛翔する藍は瞬く間に見えなくなってしまった。それだけ高速で飛行したという事である。もちろん唖然としながらもいつまでも指をくわえて見ている白蓮ではない。
「アズマさんに伝えるべき? いいえ、一刻を争う事態。藍さんの恐ろしい計画を止めなくては。それに彼女には聞きたいことも山ほどある」
魔人経巻をブワっと広げ、呪文を詠唱すると、白蓮の体は魔人経巻の光る模様で包み込まれる。
「いざ、南無三っ!」
そして渾身の蹴り。白蓮も大きく飛翔して藍を追った。
(白蓮が藍を追跡し始めた頃、藍は……)
両脇に少女と青年を一人ずつ抱えてただただ真っ直ぐ飛行する。目指すは八雲亭。さすがの二人も振り落とされてはたまらないと今は大人しくしていた。
「あの住職サマのことだ。恐らくはこの私を追いかけてくるだろう。だが、追手は他にもいると見た」
突然、藍の頭上に大きな影が落ちる。何か大きな物体が追い抜いていったようだ。見上げて藍が真っ先に視界にとらえたのは蒼い瞳……いや、コア。そのコアを中心に3つのカバーを回転させているのは恐らくはバクテリアン戦艦「カバードコア」であろう。
「見つけたぞ女狐め。我らバクテリアンをコケにして生き仰せられると思ったら大間違いだ」
遮蔽版を覆う3つのカバーを回転させつつ先陣を切ったカバードコアに続き、2機の巨大戦艦も加勢する。2本の触手とクリスタルのボディが涼し気な「クリスタルコア」、左右のアームをカパっと開き14門の砲台を一斉に向けるのは「ビッグコアMk-II」であった。
「我が同胞、ゴーレムの仇!」
「この恨み、晴らさでおくべきかっ。弔い合戦じゃあ!」
それぞれが思い思いの攻撃を一度に放つ。広範囲に及ぶ多数のレーザーの雨、さらに上下からミサイルが飛び交うまさに弾幕地獄。クリスタルコアはさらに背後から迫り、藍をその触手で捕まえようと身構えていた。
「まったくザコどもがギャアギャアと喧しい! 式弾『アルティメットブディスト』」
両手が塞がっているので尻尾を器用に操りカードを掲げる。バクテリアン戦艦の目の前に「卍」の形をしたまばゆいレーザーが現れて、回転をし始めた。
「なっ、レーザーテトラン!?」
「生きていたのか!?」
「射撃やめいっ、同胞を傷つけるわけには……あれ?」
閃光に目がくらんだか、その弾幕の形にかつての仲間の姿が重なったのか、とにかくバクテリアン戦艦たちを躊躇させるには十分すぎるほどの衝撃であったようだ。カバードコアが異変に気が付く頃には時すでに遅し、薙ぎ払われたレーザーがそれぞれのコアを撃ち抜いてしまっていた。
「しまった、今のは幻っ!」
「いや、攻撃そのものは本物……」
2機の戦艦は今の一撃で爆発を起こし、辛うじて回転するカバーで致命傷を免れたカバードコアも遮蔽板をすべて失ってしまい虫の息であった。
もはや戦う力も残されておらず虫の息のカバードコアは墜落していき、地面に平べったく落ちた。追いかけるように藍色が地上に降り立ち、そのコアを踏みつける。この間も両脇で二人を抱えたままである。
「我が同胞の姿を模した攻撃だなんて……。この卑怯者め、わざとやっただろ?」
口元だけでニヤリと笑い藍は一言。
「ああ、故意にやらせてもらった。貴様らバクテリアンと遊んでいる暇などないのだからな。私は忙しいのだよ、大いなる計画を遂行するためにな」
そのままコアに思い切り体重をかけ始め、ついにガラスが割れるような音を立ててコアが砕け散った。
「すまねぇゴーレム。アンタの無念、晴らせなかったぜ……」
藍が大きく跳躍した直後、3つのカバーが爆発し、最後に本体も爆発四散した。
「幻想郷の何もかもを破壊する。良しも悪しも、等しく破壊をもたらす。その先には……」
両脇に抱えた蓮子と霖之助に一瞬目をやると、再び藍は目的地に向けて飛行し始めた。
(※1)ファイアフォスル
Gダライアスに登場したシーマ艦。クイーンフォスルと同じく画面に収まりきらないほどのサイズを誇る巨大戦艦だ。
※こちらは東方銀翼伝の原作にあたる作品に対して「エンダー・ヴァリー」氏が投稿した非公式の次回予告となります(それに対して筆者がビッグコアとして返答をしているという形式です)。
本人からの許可をいただいたので、この場をお借りして(一部修正して)掲載しております。
・次回予告(偽)
てゐ「うわ、本当に藍だった!てっきり別の事態に陥った紫の方かと」
輝夜「ド ヤ ァ」
てゐ「うわ、すげぇドヤ顔」
輝夜「目的が目的だから青娥との協力関係もありえそうだわー(逆に青娥の目的と幻想郷を心中させる動きにも見えるけど)。姫様の有能が透けちゃってつれーわー。こんな有能は敵に優先して狙われちゃうわーつれーわー」
てゐ「ウザー」
永琳「……」
てゐ「ん?お師匠様?」
永琳「……仮に幻想郷の崩壊がアズマ達の作戦以上に進行が早いなら、もしかして多くの戦力を月に送ったことになった私って戦犯になるのかしら……?」orz
てゐ「いやいや流石にないですから、姫様と逆の方向にダメにならないでください!次回!『東方銀翼伝∀CE 第15話』!あー、誰かもうこの状況何とかしてくれウサー!!」
ビッグコア「いつも次回予告ありがとうございます。
そしてお見事です輝夜さん。まあ紫じゃなければ藍くらいしか八雲の名のついた妖怪っていないのですがね。
現に永遠亭はSTG世界からやって来た侵略者『バクテリアン』に真っ先に狙われたので(銀翼伝SS)、そっちの方もあながち間違いではなく。姫様、今日はいつになく頭が切れるようです。
永琳の考えは杞憂です。というかあのままシーマと首領蜂隊が戦争を続けたら月は修復不可能なくらいに汚染され、そして幻想郷も戦禍に晒され荒廃の一途をたどる運命です。
それにしても藍は主の愛した世界をどうして破壊しようとするのか、それはじきに明かされてきます……」