東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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ここまでのあらすじ

 月面でついにシーマを操っていた「クラウンピース」と対峙することになった「轟アズマ」と相棒である銀翼「アールバイパー」。

 しかし彼女は倒しても倒してもたちどころに復活してしまい、突破が出来ない。そこで「衣玖」が大気を操り、雷雲と豪雨を呼び寄せることで松明の炎を無力化させ、ついにクラウンピースを捕まえることに成功した。

 時間を稼ぐために体を張ったアズマとダークヘリオスの努力が報われたのである。

 あとは月の都を制圧した黒幕である「友人様」を倒すだけだ! 封印された兵器の解放は朱理に任せて月での最終決戦に臨む……。

 一方の地上は今も混迷を極めていた。早苗を幽閉したロンゲーナー大佐に、蓮子と霖之助をさらった上で幻想郷を破壊しようと画策する八雲藍。白蓮が、神奈子が事態を収束させるべく奔走する。

 反撃の時は近い……!


第16話 ~GRAVE OF CULTURE~

 衣玖が呼び寄せた黒雲は晴れることなく、今もザアザアと月の裏側に雨を降らせていた。周囲も暗くなってきて視界がまったくきかない。時折轟く雷鳴が周囲の様子を映し出している程度だ。シーマの襲撃を受けて破壊された月の都の残骸を、シーマに蹂躙されたという事実を突きつけ続けていた。

 

「高度な文明を持ち、栄華を極めた月の都もこの有様か。まさに『文明の墓』といったところか」

「……」

 

 そんな廃墟にサグメが悲しそうな表情で目をやる。アールバイパーのコクピットに乗り込んでいる片翼の月の民のボソボソとした声、それは俺の真後ろから聞こえてきたがその内容までは聞き取れなかった。

 

「黒幕を懲らしめたら都の復興に尽力しよう。命蓮寺の皆も協力してくれるはずだ」

 

 振り向いて今も冷たいサグメの指先をギュッと握る。口元にあてていた手をそっと俺の手の甲に添えていた。

 

「……(コクコク)」

 

 神妙な面持ちをしていたのはサグメだけではない。衣玖も何か思う所があるようで、いまだに傷の癒えないダークヘリオスに手を当てながら気をかけている。

 

「この豪雨はシーマ達の流している涙、雷鳴は鎮まらない怒りです。無理矢理戦争の兵器に使われたシーマ達の……」

 

 既に能力の行使をやめても嵐は収まらなかった。そうなると衣玖の解釈にも納得がいく。そしてこの大雨が廃墟を半分ほど水没させており、文字通りの「月の『海』」になっていた。

 

 感慨深くなりながら暗黒の中を進む。雷鳴が今も廃墟の姿を浮かび上がらせる。

 

 雷鳴に晒される水没した塔の廃墟、雷鳴に晒される御殿のなれの果て、雷鳴に晒されるクジラ……。

 

「クジラだって!?」

 

 稲光の中を悠々と泳ぐように飛行する頭のでかいハクジラの影を俺は確かに見た。あのデカブツを見間違うはずがない。あれこそシーマが誇る最強の巨大戦艦……。

 

「『グレートシング』だ! 視界のきかない今ドンパチやり合うのは無謀すぎる。海の中に逃げよう!」

 

 俺の一声で深淵の海に飛び込んだ直後、水上で多数の弾幕が放たれるのを確認した。肝を冷やしたぜ……。

 

「ダークヘリオス、どうしたの?」

 

 水に飛び込んでから傷付いた紫色の巨体が何処かを目指す様に一直線にうねりながら突き進んでいく。こちらが制止する声も聴かずに一心不乱に。

 

「理由は分からないが、一人にさせるわけにはいかない。追いかけよう!」

 

 水面からは今もグレートシングの追撃であろう多数の弾幕が撃ち込まれているようで、水しぶきを上げている音が響いている。

 

「衣玖さん、ついてこれる?」

 

 俺は銀翼のスピードについてこれない衣玖に気が付き、コンパクに運ばせようとする。白い霊魂はたちまち妖夢の姿を取ると衣玖を背負い始めた。さて、本格的に追跡しますかっ。アールバイパー、フルスピード!

 

 ほどなくしてダークヘリオスに追いついた俺達。すると今度は水面に向かって浮上を始めたのだ。ここに何かがあるというのか?

 

 はぐれシーマに遅れること数秒、俺も水面を飛び出し再び月の空を目の当たりにした。そう、月の空である。黒い雷雲ではなく星の瞬く美しい夜空。そう、この周囲だけは晴れ渡っておりまるで台風の目の中に入り込んだような気分だ。周囲を見渡すと黒雲の壁で覆われている。

 

 そしてその中心にいたのが……。

 

「やはり黒幕は貴女でしたか、純狐!」

 

 いつの間にかサグメは銀翼の外に飛び出して、この場の中心に佇む一人の女性に食って掛かっていた。黒と赤の目立つ袍服に黒のロングスカート、見事な金髪と頭にかぶった冕冠は中華的な雰囲気を醸し出している。色合いだけは朱理に酷似していた。

 

「いかにも。嫦娥の取り巻きどもが穢れ一つに右往左往して実に滑稽なこと」

 

 次の瞬間、奴の突き出した手が一瞬光ったかと思うとネメシスがぶら下げていたずぶ濡れのクラウンピースが一瞬のうちに発火した。燃え尽きたかと思うと、気付いたころには純狐のすぐ傍にいた。

 

「そうして下した嫦娥の一手は……くくく、薄汚れたはぐれシーマにノッペリとした変な鳥の妖怪1匹。この私も舐められたものだな。それとも、本当にこの私に勝てると思ったのか、この道化どもがぁっ!」

 

 それはあまりに単純であった。隙間なく拡散された光弾を放射させるというもの。まずい、隙間が小さすぎて間を潜り抜けることができないぞ。

 

「レイディアントソード!」

 

 ならば斬り伏せてやる。弾幕殺しの青い刃を振りかざすが……。

 

「消えないっ!?」

 

 レイディアントソードをすり抜けてこちらにまで迫ってきた。ダメだ、数が多すぎるぞ。こうなったらネメシスを機体前方に呼び寄せて……。

 

「こうなったらバースト機関だ。叢雲『コンプレッション……」

 

 バーストのエネルギーを照射させた部分に圧縮させるべく撃ち込み続ける。よしっ、今だ!

 

「……バースト』っ!!」

 

 その空間に溜まりに溜まったエネルギーが一瞬にして拡散する。一気に広がる光が弾幕を消し飛ばしていく。魔力を使い果たしたネメシスを格納すると光で目がくらんでいる隙に純狐の背後に回りグラビティバレットを撃ち込んでいく。回避行動を取らないのでそれらは綺麗に命中した。だが、まるで怯む様子を見せない。

 

「そこらの野良妖怪ではこの私に傷一つ付けることなど出来ぬ。さて、月にシーマをけしかけるのをやめさせたいというわけだな? いわば貴様たちは月の都からの使者。ならば一つ提案だ。最強のシーマと戦って打ち勝って見せよ」

 

 言い返す猶予も与えず純狐は高く飛びあがる。間髪入れずに暗雲の壁から巨大なマッコウクジラが飛び出してきた。さっき俺達を後ろから攻撃してきた奴で間違いないだろう。

 

「この私と対話するに値するか見せてもらおう。さあ、至高の戦いを繰り広げ、この私を楽しませよ!」

 

 随分と余裕ぶっているが、ああしている間は奴と戦わずに済む。グレートシングの強烈さは俺もよく分かっているし、お言葉に甘えてまずはあのクジラから仕留めることにしよう。

 

 グレートシングが一声咆哮を上げると、俺と向き合うように陣取る。頭部の横に配置された砲台から薙ぎ払うようにオレンジ色の弾をばら撒き、更にその隙間を縫うように小さい弾を放ち、幻想郷の少女にも引けを取らない分厚い弾幕を仕掛けてきた。

 

 ダークヘリオス達を庇う意味も込めて、俺はネメシスを呼び出し、リモートバーストを撃たせる。俺達とグレートシングの間を阻むように放たれた光の槍が奴の弾幕から身を守ってくれている。その隙間から他のオプションを総動員してショットを撃ち込んでいく。だが、高火力の筈のグラビティバレットを全ヒットさせても奴はまるで怯んだ様子を見せない。

 

「手ごたえは確かにある筈なんだが……」

 

 それだけグレートシングがタフな戦艦であるという事だ。さらに奴もこのまま攻撃が防がれる状態をよしとしなかったようで、あちらも紫色の細いレーザーを放ち始めたのだ。一度空中で停止してこちらを狙うように飛んでくるものだ。出力もかなりのものらしく、クラウンピースのストライプのようにバーストの壁を突き抜けてこちらに迫ってくる。恐らくはレイディアントソードでも打ち消せないだろう。

 

「ちっ、ネメシス戻れ!」

 

 その場にとどまっていてはいい的だ。オプションを回収しつつ錐もみ回転を繰り返しながら、この場を離脱する。その直後、紫色のレーザーがさっきまで俺のいた空間を貫いていた。間髪入れずにオレンジ色の短いレーザーを撃ち込んでくる。こちらめがけて1度だけ直角に曲がる厄介なものだ。

 

 小さい弾幕はバーストやレイディアントソードで凌げるだろうが、時折こちらのバーストを貫通してくる攻撃も放つので始末に負えない。背負った3つの砲台がこちらに狙いを済ませて砲撃。

 

「ぐわああ!」

 

 衝撃で吹き飛ばされる。どうにか持ち直して反撃に出ようとしたが、まるで深海を悠々と泳ぐように大きく距離を引き離してしまった。圧倒的火力に装甲、それにこの機動力……。まさに最強の艦であろう。

 

 置き土産の様に残してきたのは小さいイルカ型の護衛艦。さすがにグレートシング本体程の装甲は持ち合わせていないようだが、それぞれが短時間ながらもバーストビームを発射可能というこれはこれで厄介な存在だ。

 

「ザコは私達に任せて。アズマはデカブツ本体を!」

 

 サグメが召喚する多数の陰陽玉型のオプションが護衛艦の注意を引きつけている。その更に後ろでは衣玖とダークヘリオスも援護射撃を続けていた。

 

 彼女が使役するオプションの数は圧倒的であるが、さすがにサグメ本人の攻撃をトレースできる程度の火力は持ち合わせていない。あの火力ではいくら集まったところでグレートシングの装甲に傷をつける事すらかなわないだろう。

 

 思わぬ増援にグレートシングはさらに亜空間からイルカ型護衛艦を呼び寄せ、何度も屈折する紫色のレーザーで応戦させている。あちらは皆に任せよう。俺も負けていられないな!

 

「待ちやがれデカブツ野郎! 魔操術『魔界神の大翼』!」

 

 見たところ光学兵器が多めなのでこの魔力を吸う翼が有効だ。オプションを後ろから銀翼を囲うように配置して光の翼を大きく広げる。その直後に主砲から極太レーザーが放たれた!

 

「ぐうっ!」

 

 光が魔力に変換されアールバイパーに、そして俺に流れ込んでくる。しかしバジュラモードに変じるにはまだ足りない。苦しいがもう一度あのレーザーを受け止めなくてはならないだろう。

 

 だが奴は戦術においても俺の一枚上を行っていた。光学兵器が通用しないと判断したのか、グレートシングの頭部に棘が生え始める。いや、棘ではない。大きなドリルだ。

 

「これはまさか……ドリルミサイル!?」

 

 奴の奥の手とも言えるのはクジラの仲間であるイッカクの角のようなものをミサイルとして撃ち出すものである。その速度は非常にゆっくりではあるものの、放っておくとすさまじい爆発を引き起こすものだ。

 

 恐らくは俺のフォトントーピードのように分厚い装甲をドリルでブチ抜き、その後で爆発することで内部から衝撃を与えるタイプの兵器であろう。

 

 今のメンツだとダークヘリオスが危ないが、もちろん爆風に巻き込まれたらアールバイパーだってただでは済まない。何とかして撃ち落とさなくては。オーバーウェポンを用いてのサンダーソードか? いや、射程距離が足りない。あまり接近しすぎるとこちらも爆発に巻き込まれてしまうだろう。

 

 ならば……。潤沢に蓄えられた魔力を用いて俺はスペルカードを掲げた。

 

「重銀符『ブラックホールボンバー』!」

 

 大きな紫色の弾丸が発射され、一定距離進んだ後に炸裂。そこから紫色の疑似ブラックホールが展開された。周囲の弾幕が一気に吸い寄せられる。だが……火力が足りずに肝心のドリルミサイルは破壊も吸引もされていない!

 

「こうなったら……」

 

 逆回転リフレックスリングを撃ち出し、それを高速回転させる。その状態でもう一度ブラックホールボンバーを発動させた。

 

「重銀符『ブラックホールボンバー・バースト』!」

 

 拡散する力をリングの力で引き留める。小ぶりだがより暴力的な疑似ブラックホールがドリルミサイルを完全に包み込み、そしてへし折り、異次元の彼方に消失させた。よしっ!

 

 だが、グレートシングの猛攻は止まらない。奴の頭部には早くも次のドリルミサイルが装填され始めていた。もう一度ブラックホールボンバーを使うか? いや、いくら魔界神の大翼で魔力を賄えるとはいえこのままではじり貧だ。どうにかドリルミサイルを封じなくては。

 

 どうすればいい、どうすれば……?

 

「そうか、あの手があったぞ!」

 

 ブラックホールボンバーでは間に合わない、リモートバーストやαビームでも防戦一方になり結局はじり貧。奴のドリルミサイルを一定時間封じながら、こちらも特大の魔力を行使した一撃を浴びせる必要がある。そう、あのミサイルの発射口に魔力で武装した「フタ」をしてやればいい。それを可能とするスペルは……。

 

「重陰妖『シャドウフォース』!」

 

 魔力ならあちらこちらでまき散らしているからすぐに溜まる。高速回転させたリフレックスリングの中心に魔力の結晶が緑色の光を放ちながら形成されていく。バイド体フリーの盾であり矛でもある人類の英知。狙いを定めて……。

 

「フォースシュート!」

 

 形成完了から急速に劣化を始める疑似バイド体を急いでグレートシングの頭に発射する。フォースがドリルミサイルの発射口に綺麗にはまり込んだ。撃ち出そうとしていたミサイルが逆にグレートシングの内部で炸裂。これはかなりのダメージが期待できる。

 

 グルングルンともんどりうちながら悶絶するグレートシングは頭部横に配置された最も大きい砲台をこちらに向けてくる。こちらを囲い込むように極太レーザーを同時に2発。へへ、使いやがったな光学兵器を!

 

「もう一度、魔操術『魔界神の大翼』!」

 

 みるみる蓄えられていく魔力、どす黒く変色した禍々しい翼。ドリルミサイルを封じられた今、反撃の手段は光学兵器しかない。ならば大手を振って広げられる、魔力を吸う羽を。

 

「いくぜぇ、バジュラモード!」

 

 オプション4つが蓮の蕾の形のオーラを展開。はちきれんばかりの魔力がバチバチとスパークをしている。

 

 負けじとグレートシングも背負った主砲から最強最大の一撃たるバーストビームを撃とうとしている。パワーとパワーのぶつかり合い、だけど俺には白蓮が、神綺が、そして一緒に戦ってくれる仲間がいる。この力比べ、負ける気がしない。

 

「大魔法『魔神復誦』っ!!」

 

 魔人経巻の模様が浮かび上がるコクピットの中、俺は最大最強の一撃を放つ。放ちながら俺は白蓮との絆を感じていた。

 

 4本の赤いレーザーと無数の鱗型弾幕がグレートシングの弾幕を、そして本体を貫いていく。

 

「復誦! 復誦! 復誦っ!!」

 

 押し切れっ! その思いが通じ、完全にグレートシングを魔神復誦の光が包み込む。そして断末魔の叫びと共に強烈な爆発。仕留めたぞ、でかぶつクジラを!

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

 

 額から多量の汗がボタボタと垂れる。紫色と金色のオーラに包まれていたアールバイパーも元の銀色に戻っていた。護衛艦もサグメ達が対処してくれたようでサムズアップしている。

 

「こちらも護衛艦の殲滅を確認した」

 

 月を、幻想郷を襲う勢力で最大最強を誇るであろうグレートシングを沈めたのだ。これで純狐も手詰まりの筈だ。

 

「どうだっ! お前が切るであろう最強のカードもこの有様だぞ。今度こそ降伏し、シーマを送り込むのをやめてもらおう!」

 

 今も高みの見物と決め込んでいるであろう純狐に向かって俺は吼える。だが、慌てふためいて降りてくる様子もどこかへ逃げたような様子も見られない。おかしい、奴は既に追い詰められている筈だ。

 

 俺は意を決して奴が佇んでいるであろう上空目がけて急上昇した。

 

「お見事よ。ああいった純粋なる殺意はいつ見ても気持ちのいいものだ。まるで研ぎ澄まされた刀のようだもの。ああ、その刀で嫦娥を斬りつけられればいいのだけど」

 

 なんてこった、まだまだ余裕ぶっこいてる。だが、彼女が今も呑気な理由が俺には分かってしまった。いや、誰だって分かるだろう。あんなに大きな「後ろ盾」がまだ残っているではないか。

 

「聖なる母胎『ジ・エンブリオン』か……!」

 

 青色の体は綺麗に透き通っており、頭部と胸部だけは機械的なコアをのぞかせている。その姿は他のどんなシーマよりも異質な存在に見えた。まるで流氷の天使、クリオネである。

 

 全てのシーマの母とも言える彼女。恐らくは月の都を襲撃させる尖兵も彼女が産み落とした存在だ。アイツを止めないといつまでも異変が終わらない。

 

「嫦娥よ、見ているか! 絶望に打ちひしがれ放心したこいつらの間抜け面を。何も私はコイツらに月の都を襲えとは命令していない。生れ落ちて、自らの意志でそうしているだけに過ぎ……」

「そんな筈ないわ!」

 

 今も余裕綽々にゆったりと話す彼女に噛みつくように吠えたのは衣玖であった。

 

「ダークヘリオスから聞いています。シーマは宇宙の均衡、平和を愛する種族だと。こんな戦争の道具になるようなことはしない筈です。狂気の炎の他にも何か貴女が一枚絡んでいる、そうとしか思えません!」

 

 その必死の怒声もどこ吹く風とカラカラと笑う諸悪の根源。

 

「平和を愛する? 本気で言っているのかしら? 闘争心剥き出しで一心不乱に月の都に向かっているようですが? どの道シーマが次々と生れ落ち、月の都を蹂躙しているのは事実。さあ、どうする?」

 

 どうするもこうするもねえ! もとより対話での解決など端から期待していない。この極悪人を、そしてあのクリオネをぶっ潰して……。

 

 いやちょっと待て、微かに声が聞こえた気がした。女の人の悲痛な叫び。

 

 

タスケテ……!

 

 

 俺の脳に直接語り掛けてくるような声。だが俺以外には聞こえていないようだ。サグメか? いや、そういった素振りは見せていない。では今の声は……?

 

 ええい、考えるのは後だ。純狐が戦闘態勢に入った。それに透き通ったジ・エンブリオンの体がわずかに膨らんでいる気がした。よく見るとシーマ艦の頭らしきものが形成され始めている。あのまま放っておいたら新たなシーマ艦が誕生してしまう。何とかして奴らを止めなくては!

 

 

 

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(その頃、八雲亭の白蓮は……)

 

 幻想郷を破壊するべく霖之助と蓮子をさらった藍、彼女を追って幻想郷の外れの屋敷にまでたどり着いた白蓮。二人を救出するべく、そして藍の幻想郷破壊計画を引き留めるべく屋敷に足を踏み入れる。

 

 白蓮はすぐさま藍に見つける。いや、その堂々とした態度から元々隠れるつもりなどなかったのだろう。

 

「藍さん、教えてもらいます。どうして私を狙うのか、どうして幻想郷を破壊しようとするのか!」

 

 恐らくは屋敷内にいるであろう霖之助たちの姿は見えない。ひとまず人質という手段を使うことはないだろうと安堵の息を漏らす。

 

「紫様は死んだ。博麗の巫女も姿を消した。もはや幻想郷は侵略者の手によって蹂躙され続ける未来しかない! 紫様の愛した地がこれ以上好き勝手にされるのは耐えられない! だから私はこの幻想郷を、紫様の忘れ形見であり紫様の愛を一身に受け続けたこの楽園に終焉をもたらす。そして私達の手で一から創り出すのだよ、新たな楽園、新たな幻想郷を!」

 

 それは愛ゆえに。式としての繋がりが失われてもなお……いや、失われたからこその行動。だが幻想郷という世界を破壊するという意味は……。

 

「それではこの幻想郷に残された妖怪たちはどうなるのです? そんなことをしたら彼らは生きていけなません! 外の世界の文明という洪水に流され溺れみんな沈んでしまいます。そんなことは絶対にさせない!」

「もちろん一部の妖怪のつがいは一緒に連れていくさ。この八雲亭を箱舟に見立ててな」

 

 いくら八雲亭が広大だからといって幻想郷中の妖怪が集まれるはずがない。それはつまり優秀な妖怪だけを集めてこの「箱舟」に乗せるというものである。平等をうたう白蓮がそのような考えに賛同出来る筈がない。

 

「なりません! 霊夢さんがいなくても、今だって外界からの侵略者に立ち向かっている人たちが大勢います。早苗さんも、衣玖さんも、そしてアズマさんだって……!」

「黙れこの尼! そもそも貴様の擁する轟アズマそのものが胡散臭い。橙も紫様も何だかんだあの外来人に甘いが、アイツだって私からすれば侵略者だ」

 

 一度は白蓮も陥った考え。だが心の底からぶつかり合った白蓮には分かっていたのだ。轟アズマがそのようなことをする人間ではないことを。だからこそ藍の意見に真っ向から否定できた。

 

「今や彼は、アズマさんは……立派な幻想郷の住民です! 確かにアールバイパーは外界の技術によるものですが、でもその力を悪意を持って行使することは決してありませんでした」

 

 銀翼乗りの外来人の名前が出るたびに眉間にしわを寄せる九尾の狐。このままでは延々と轟アズマのことを語り続けると判断し、ピシャリと遮った。

 

「やはり尼僧サマとは分かり合うことは出来ないようだな。何もかもを救い出そうとして綻び、破綻する。その結果が今の壊れかけの幻想郷だ。全てを救うだなんてことは夢物語。ならば私は小さくなろうとも、この私が外道と罵られようとも、幻想郷が幻想郷らしく残る未来を選ぶ」

 

 静かに魔人経巻を広げ、ブツブツと詠唱を始める白蓮。対する藍の尻尾もユラユラと炎のように揺らぎ始める。もはや戦闘は避けられないと判断したのだ。

 

 

 

「理想を端から放棄する者に指導者の資格はなし!」

「足元も守れぬ愚か者に紫様の楽園は任せられん!」

 

 

 

 後に続く言葉はなし。弾幕がただただ飛び交うのみであった。

 

 

 

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(その頃、早苗は……)

 

 絶望、今の状況を示すのにこの上ない表現だろう。首領蜂隊(どんぱちたい)の企みを暴こうと空母に潜入したものの、幻想郷の住民の協力を得ていた彼らはあっさりと私を捕え、兵器のテストという名の処刑をされそうになっているのだから。

 

 蛇型のレーザーやカエル型の爆弾で応戦するも効いているのかいないのかもわからない状態。

 

「せめてガントレットさえあれば……」

 

 このままでは本当になぶり殺しにされてしまう。誰か……!

 

 

 

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(同じ頃、守矢神社……)

 

「あったぞ!」

 

 押し入れの中を散々引っ掻き回すという神様らしからぬ決死の行動の末、神奈子は赤いスイッチを見つけ出した。

 

「……なにこれ?」

「もう忘れたのか? あの日、轟アズマと早苗が初めて弾幕ごっこをしたときに使ったものだ」

 

 いまいちピンと来ていない諏訪子は今も首をかしげている。

 

「遠隔操作だよ、早苗の戦闘騎(ライディングバイパー)のね。幸い奴らの空母はそこまで遠くに行っていない」

 

 スイッチのカバーを取り外すとラジコンのリモコンのようなコントローラーが埋め込まれている。それを片手に神奈子は守矢神社を飛び出し、御柱をドスンドスンと地面に突き立てていく。

 

 ようやく諏訪子もおぼろげに思い出してきたようだ。ガントレットのお披露目の時に早苗が乗り込む前は確かに神奈子が遠隔操作をしていたことを。

 

「あー……。そういえばあったねそんなの。カッコつける為だけにつけた機能だったよ。んで、ここから操縦するつもり? んな無茶な! 大体操作するべき戦闘騎が見えないじゃないか」

「いいのいいの、早苗は捕まってるんだろう? どうせガントレットと早苗は引き離されてる。つまり早苗以外は全員敵だ。撃っても問題ない」

「大丈夫かなぁ……?」

 

 得意げになりながら神奈子はひときわ大きな御柱のてっぺんに降り立ち、リモコンを滅茶苦茶に弄り始めた。!

 

 

 

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(その頃早苗は……)

 

 最終鬼畜兵器の巨体がにじり寄りながら羽の付け根から絶え間なく弾幕を吐き続けてくる。このままでは蜂の巣にされるか、圧死するかのどちらかだろう。早苗は祈りながらも何も助けが来なかったことに絶望し始めていた。

 

「神奈子様……!」

 

 もう終わりだと両目を硬く閉じた時、遠方から爆発音が聞こえた気がした。いや、光学兵器を発射する音か? 何事かと訝しんでいると……。

 

「ガントレット! ああ、私の祈りが神奈子様に伝わったのですね」

 

 持ち主のいないままにショットを乱射しつつ、彼女の目の前まで戦闘騎が飛んできたのだ。

 

 早苗にはガントレットから神奈子の激励が聞こえた気がしていた。そう、早苗もまたすっかり忘れていたのだ。この戦闘騎は遠隔操作が出来るということを。元はといえば神奈子が轟アズマを驚かすためにつけていた機能だったものが、まさかこんな形で役立つとは。これぞ本当の奇跡ではないか、早苗はそう考えていた。

 

 異常事態に紫色のフルフェイスヘルメットを被った隊員が大佐に駆け寄る。

 

「大佐、実験を中止して本格的にあの娘を抹殺しますか?」

「いやいい。面白いではないか、より良い戦闘データが得られる。続けさせろ」

「しかし、あのままだと逃亡の恐れが……」

 

 鋭い眼光で紫色のヘルメットの男を睨み付ける大佐。

 

「私は『実験を続けろ』と言った筈だが?」

 

 首領の命令は絶対、こう言われてしまえばもはや誰も意見することはできない。すごすごとヘルメットの男は退散してしまった。

 

「オーバーウェポンで一気に片を付けますよ!」

 

 今一度、早苗と蜂が対峙する……!

 

 




※こちらは東方銀翼伝の原作にあたる作品に対して「エンダー・ヴァリー」氏が投稿した非公式の次回予告となります(それに対して筆者がビッグコアとして返答をしているという形式です)。
本人からの許可をいただいたので、この場をお借りして(一部修正して)掲載しております。



・次回予告(偽)
ビックバイパー「遂に始まった大型ボスラッシュ!果たして轟アズマに勝ち目は!?というか相性の問題でジ・エンブリオン以上に純狐に勝ち目ないと思うんだが」
アローヘッド「一応あれを倒せば対話してくれるみたいだが?」
ビックバイパー「その対話が上手くいくとは思わないんだが……。純狐も相当強いし」
アローヘッド「かなり本格的に月の民に対して攻撃を行う純狐、原作以上の怨念と見れるが……」
シルバーホーク「本来は頼みの綱になる首領蜂隊は真っ黒確定みたいなもんだしなぁ」
ビックバイパー「……おや?」
シルバーホーク「……次回『東方銀翼伝∀CE 第17話』。でも単独でボスと対峙してる地上の二人の方がヤバイような」


ビッグコア「いつも次回予告ありがとうございます。月の賢者たちとあの手この手で争っている純狐と戦うのに、地上の人間や妖怪では苦戦は必須でしょう。その分彼女も余裕ぶってグレートシングだけをけしかけてきたようですが、コイツだってダライアスシリーズでは強敵。一応ジ・エンブリオンを倒せれば純狐の計画も頓挫するはず。

首領蜂隊が本性を現すのはもう少し後にするつもりだったんですが、あまりにバレバレだったので……」
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