東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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ここまでのあらすじ

 シーマを月の都や幻想郷にけしかける「友人様」を止めるべく、今も冷たい雨の降りしきる月の裏側を進む「轟アズマ」と彼の相棒である銀翼「アールバイパー」。

 黒雲の中心の晴れ渡った場所にシーマを送り込んだ友人様、つまり「純狐」が佇んでいた。彼女と彼女の友人(の部下)であるクラウンピースがシーマを利用していたのだ。

 アズマはさっそく純狐に戦いを挑もうとするが、その前にグレートシングと戦うよう言われ、彼女は上空に逃げてしまった。

 最強のシーマ艦の圧倒的火力と装甲、そして戦いにおける知性に苦戦する銀翼であったが、これをどうにか撃破。今度こそ純狐を追い詰めようとするが、彼女の背後にはクリオネ型のシーマ艦「ジ・エンブリオン」の姿が……。全てのシーマの母とも言える彼女を放っておいたら再び新たなシーマ艦が誕生してしまう。その前に止めなくてはと焦るアズマであった。

 一方地上では幻想郷をリセットしようとする藍を止めるべく白蓮が、首領蜂隊の陰謀を知らせるために囚われの早苗が運命に抗い続ける……!


第17話 ~君は生命(いのち)誕生(はじまり)を見る~

 純狐の更に後ろに佇むクリオネ型シーマ艦「ジ・エンブリオン」。その彼女の体内では新たなマッコウクジラの頭が形成され始めていた。あのままだと再び最強のシーマ艦「グレートシング」と戦う羽目になってしまう。

 

「ふはははは、産めや増やせやエンブリオン! この月を穢れ(いのち)の息吹で満たすのだ!」

 

 手を突き出して声高らかに叫ぶ黒幕。その声に呼応して狂気の妖精が復活した松明を振り回しながら、その炎でジ・エンブリオンを焼き始める。ドクンとクリオネの体が大きく脈動した。

 

「や、やめろぉっ!」

 

そんなことされては月の都は更に汚染され、サグメ達が暮らすことが出来なくなってしまう。それに幻想郷でのシーマと首領蜂隊(どんぱちたい)の戦争も終わらずに、幻想郷までもが……。脳裏にそれがよぎると同時に俺は銀翼を急発進させていた。真正面に純狐を捉えると、オプションを展開させ、高速回転させる。

 

全無(オール・ナッシング)……」

 

 その魔力を一気に俺に収束させる。アールバイパーがほのかに青い光で包まれ始める。

 

「『αビーム』!」

 

 青白い魔力そのものを光の粒子に変えてこの不届き者を駆逐せんと浴びせかける。だが、ビームは純狐の目の前でピタリと消えてしまったのだ。

 

「バカなっ! 嘘……だろ?」

「くはははは! 私の前では、私の『純化する程度の能力』の前では、いくら強大な力をけしかけたところで、純粋なる無に帰すのみよっ!」

 

 恐らくはこの能力、エネルギーの類を純化させて濃縮するというのが本来の使い方らしいのだが、その逆も出来るという事らしい。特にこのαビームは純粋な魔力をぶつけるもの。特に相性が悪かったのだろう。

 

 それにしても滅茶苦茶だ。今度はレイディアントソードを取り出して斬りつけてみるも、まるで風船で叩いたかのような手ごたえのなさしか感じない。

 

「そうだそうだ、その面だ。その絶望に苛まれた顔を嫦娥にも、私の可愛い息子の仇である嫦娥にもさせてやりたい」

 

 奴の言葉に偽りはないようで、衣玖の電撃もサグメの呼び出した無数の陰陽玉からの射撃もすべて涼しい顔で防ぎきってしまっている。

 

「どうにかしてあの能力を無力化させないと……」

 

 でもどうやって? 何かカラクリがあるに違いない。際限なく攻撃を無力化し続けるなんておかしい。たとえばあまりに大きな魔力は無力化しきれないとか、純狐が反応しきれないくらい素早く攻撃を仕掛けるとか、こちらの弾を無に帰す際に何かを邪魔すれば不発に終わったりとか……。

 

 あれこれ考えるよりも実際に試した方が早い!

 

「ならばこれでどうだっ、重銀符『サンダーソード』!」

 

 突き出したレイディアントソード、これに一気に光の刃を纏わせ、その射程距離を伸ばす。不意打ちにぴったりだし、火力だってバカにならない。

 

 光の刃が純狐を貫いて……いや、貫いていない! 今のは完全に不意打ちだった筈だ。間合いが足りていないと見せかけてからの刺突。だが純狐の周囲だけは光が及んでいないのだ。

 

「無駄だ無駄だ無駄だぁー!」

 

 サンダーソードを凌いだ直後、純狐の背後からうねる細いレーザーが発射される。光学兵器のようだがこちらを追いかけてくる。

 

「まずいっ、かわしきれない!」

 

 この場を離脱しようとしたが、間に合わず何本か、レーザーを喰らってしまった。衝撃で揺れるコクピットに火花が散った。

 

「ぐわああっ!」

 

 レーザーはコクピットの中にも着弾し、俺の腕にも少しかすってしまった。左腕からドクドクと血がにじみ出る。

 

「これで終わりだっ。この『殺意の百合』の肥料となり死ぬがよい!」

 

 地面を薙ぎ払うように大型の弾が放たれる。着弾した場所に植物を思わせるような形の爆風が広がり、こちらの恐怖を煽ってくる。

 

「どうだ見たか嫦娥! この奇怪な鳥の妖怪の無様な末路とやらを。これこそ貴様の未来だ、嫦娥っ……!」

 

 諦めるものかっ! こちらには弾幕殺しのバーストビームがまだ残っている。一人では防ぎきれなくても、ダークヘリオスと協力すれば……ダークヘリオス、どこへいった?

 

 ダークヘリオスは純狐ではなく、ジ・エンブリオンと対峙していたのだ。その母胎目がけて紫の巨体が頭突きを食らわせる。

 

 

ママッ、今助けるよ!

 

 

「ママ!?」

 

 これに一番面食らったのはサグメ。思わず口を覆っていた手をどかしてまで素っ頓狂な声を上げていた。その大声に驚きつつも、逆に全てを把握していた衣玖が解説する。

 

「サグメさん。全てのシーマは彼女『ジ・エンブリオン』から生まれました。もちろんダークヘリオスにとっても母親のような存在なのですよ」

 

 外部からの衝撃で、不完全な形のシーマ艦が彼女の青い体から吐き出される。今のはグレートシングの頭だ。今の衝撃で無理やり生まれ落ちてきたのだろう。

 

 不完全な海洋生物は衣玖とサグメが対処しており、ダークヘリオスはジ・エンブリオンを正気に戻そうと語り掛けたり、必死に体当たりを続けていた。

 

 

お願いママ、こんなことはもうやめよう! ねえママってば!

 

 

 これだけ喚いていれば嫌でも純狐の耳にも入る。次の標的はダークヘリオスだ。また余裕たっぷりな感じで「目障りだ」なんて言いながら排除しにかかるのだろう。俺は紫の巨体に向けられるであろう強力な攻撃に備える。

 

 だが、事態は意外な方向へと転がっていくのだ。

 

「そんなデカい体したシーマのくせに赤ん坊の様にママママと……。やかましい!」

 

 感情の赴くままに滅茶苦茶に弾幕を放ち始める。先程まで余裕を見せつけていたのに何か純狐の様子がおかしい。対するダークヘリオスも避ける素振りも見せずにただただ「母親」との対話に専念している。

 

 

ママッ! しっかりして!

 

 

「そいつに! 近づくんじゃ! ないよ!」

 

 今度はその長い体に「殺意の百合」の種を撃ち込む。ダークヘリオスの体に百合の大輪の花が咲き乱れた。その破壊力は尋常なものではないだろう。

 

 粉塵が晴れると、あちこちがボロボロになったダークヘリオスの姿があらわになった。紫色の装甲は所々が剥がれ落ちており、非常に痛々しい。

 

 

ママッ……

 

 

 それでもヨタヨタになりながらもダークヘリオスはジ・エンブリオンに近づこうとする。ついには純狐本人が両者の間に立ちはだかり、両手を広げてゆく手を阻んだ。

 

「どうしてっ、どうしてソイツをそうやって呼ぶの!? どうしてそんなに求めるの!?」

 

 更に声を荒げる純狐は両目から大粒の涙をこぼしていた。

 

「そうか、そういうことか」

 

 その様子を遠巻きに伺っていたサグメは何か合点がいったようである。

 

「奴には元々子供がいた。だが嫦娥の夫に殺されてしまったのだよ。つまり母を求める子の光景は彼女のトラウマを十二分に抉るものと言えるだろう」

 

 少し心苦しいが、まともにやり合っても勝ち目のない相手である。利用すれば何か突破口になるのではないだろうか?

 

「ええい、黙れ黙れ!」

 

 手負いのダークヘリオスの周囲に人魂の様に揺らめく色とりどりの弾が現れると一斉に標的を襲い始めた。あの巨体で回避するのは無理だ。あれでは恐らく耐えきれない……。

 

「ふうふう……。ようやく目障りなウナギ野郎を始末したわ。さあ、次に我に挑み無残に散りゆくものは……何ッ!?」

 

 純狐の怒りの弾幕で無残にも穴だらけになった紫色の装甲が周囲に散らばる中、空中には相変わらず細長い影が残っていたのだ。ダークヘリオスは撃墜されたはず。ではそこにいるのは……?

 

 紫色の装甲の残骸が散らばる中、奴は姿を現した。眩い程に輝く金色のドラゴンといった風貌だ。

 

「ダークヘリオスの……中身?」

「そう考えるのが妥当だろう」

 

 そうだった、ダークヘリオスというのは仮の姿。あの装甲の下に真の姿が隠されていたんだった。名前は確か……。

 

 

サイ……バリ……オン?

 

 

「サイバリオン」だ。シーマの指揮系統を離れ、遠い宇宙で希望の象徴となった金色の龍。その姿を目の当たりにし、ジ・エンブリオンも一時的に意識を取り戻したようである。

 

 

ママッ! そうだよ、僕!

 

ああ、かわいいかわいいボウヤ、かえって……きた……のね

 

 

 今も狂気の炎に焼かれ苦しげではあるものの、紛れもなく母と子の姿である。ううむ、実に感動的な親子の再会だ。だがそれをよりにもよって純狐の目の前でやってしまった。

 

「ぐぎ、ぐががが……!」

 

 頭を抱えて苦悶の表情を浮かべている。かつては自分を慕って駆け寄ってくる存在があったであろう純狐。だが、今はどうやっても叶わない。火に油を、いやそんなレベルではない。火にガソリンでも注いだような状態だ。

 

「……してやる」

 

 冷徹な憎悪を浮かべた瞳を突き刺してくる。

 

「殺してやる! このクリオネ型シーマ艦のボディで、貴様を八つ裂きにしてくれる!」

 

 ほとばしるは純粋なる憤怒。ジ・エンブリオンを焼いていた狂気の炎が純化したのか、より一層強まる。

 

 

はなれなさい、ボウヤ

どうか、わたしを、とめて……

 

 

 ダークヘリオス……いや、サイバリオンに離れるよう促す途中で、彼女は完全に狂気に飲み込まれてしまった。

 

「信じていたものに大切なものを奪われる。その苦しみに苛まれながら……死ねぇい!」

 

 クリオネの巨体がサイバリオンに、そして俺達に迫ってきた。

 

 彼女の頭上で大きく腕を広げて命ずるは純狐。

 

「弾だ、ひたすら弾を放て!」

 

 頭部から狂ったように黄色い弾を薙ぎ払うようにばら撒いてくる。薙ぎ払いは何往復にも及び熾烈な弾幕となっていた。

 

「奴の頭上が安全な筈だが……」

 

 だがその安全地帯には純狐が控えている。不用意に近づいたらやられるのは俺の方だ。俺だけでなく、衣玖やサイバリオンを守りながら攻めるにはバーストビームが必須だ。俺はネメシスを呼び出しリモートバーストの準備に入る。

 

 

ママを止めるには頭じゃなくて胸のコアを狙うんだ!

 

 

 おうよっ、分かっている。今は設置バーストが俺達を守ってくれているが、あのままでは純狐があの光の壁を打ち破ってくるだろう。その前に俺はコンパクから一気に魔力を得るとレイディアントソードを突き出しながら接近した。

 

「重銀符『サンダーソード』!」

 

 光の剣がジ・エンブリオンのコアを貫いたのを確認すると俺は一気に離脱。直後に頭部からバーストを遮るほどの高出力のビームが撃ち込まれた。危ない危ない……。

 

「おのれっ、あの鬱陶しい鳥公を捕まえろ!」

 

 号令と共に青色の巨体がこちらに頭を向けて突進してきた。同時にコアからもひっきりなしにこちらを狙うようにオレンジ色の弾を放ってくる。俺は一度距離を取るべくネメシスを回収しつつジ・エンブリオンとすれ違い、再び間合いを取りながら対峙した。

 

 奴の攻撃の手は緩む気配を見せない。今度は間を置かずにその体を膨らませると頭部だけのエクリプスアイを無数にけしかけてきたのだ。さすがにこの短時間でシーマ艦を用意することは出来ず、その一部分だけとはいえ、数が多すぎる。

 

 次第に火力不足で押し切られつつある中、ここでサイバリオンが動き出した。誘導ミサイルや黄色いレーザーでエクリプスアイの頭を攻撃し、次々と破壊していくのだ。

 

 

僕も戦う! 何としてもママを取り戻すんだ!

 

 

 そのままその長い体をうねらせてジ・エンブリオンに接近。その口元からは赤い光が漏れ出ていた。そのまま胸のコア目がけてバーストを行った。赤い光の槍がコア目がけて突き進む……が、あちらも無策ではない。

 

 コアから赤色の「βビーム」を撃ち出して真っ向から対抗して見せたクリオネ型のシーマ艦。火力の差はどう贔屓目に見てもジ・エンブリオンが優勢。あのままでは押し切られてしまうだろう。だが、サイバリオンの勢いが弱まることはなかった。

 

 

絶対に、諦めない!

 

 

 その強靭な決意を胸に、サイバイオンのバーストの勢いが加速度的に増していく。ついにコアから出る赤いビームを圧倒するほどの勢いとなった……が、頭部がサイバリオンの胴体に狙いを定めると、そちらからもβビームを撃ち込んできたのだ。

 

「危ないっ!」

 

 俺もすかさず遮るようにαビームを発射。苦し紛れに放った一撃らしくその威力は驚くほど弱いものであった。ゆえに頭のβビームはすぐに飲み込まれ、俺の青いビームがジ・エンブリオンの頭を消し飛ばしたのだ。

 

「おのれっ! あの鬱陶しい銀蝿野郎から仕留めろ!」

 

 彼女の怒りの感情に呼応するようにジ・エンブリオンを焼いていた狂気の炎の勢いが増す。破壊されてワイヤーフレーム状になっていた頭部を再生させると、今度は俺を狙ってホーミングレーザーを撃ってきたのだ。

 

 今や純狐の手足と成り果てているジ・エンブリオンは今度は俺を執拗にホーミングレーザーで狙ってくる。どうにか紙一重で避け続けるも、奴は自らの青いゲル状の体をちぎるとアールバイパー目がけて投げつけてきたのだ。

 

「このっ、このっ!」

 

 ゲルに囚われた俺は大きく機動力を失ってしまう。さらにはこちらの攻撃も吸収してしまうらしく反撃に転ずることもできない。

 

「ふははは、いいぞエンブリオン! 薄汚れた蝿が罠にかかってもがいているようだ」

 

 動きの鈍くなったところをジ・エンブリオンのホーミングレーザーが容赦なく襲う! ゲルによってあちらの火力も減衰しているらしいが、それでも連続で食らうとなると致命的である。

 

「ぎゃあああっ!」

 

「ふうふう……。貴様はただでは殺さない。この私の計画をどこまでも妨げた貴様だ、あらゆる憤怒を受け苦痛に溺れながら死ぬがよい! ふは、ふははははは!」

 

 レーザーのダメージに顔を歪めながらも、ゲルの中で必死にもがく。しかし一向に抜け出せそうにない。さらに悪いことに彼女のコアからトラクタービームまで発射される。このままなすすべもない俺を引き寄せようとしているんだ。

 

「くそっ……。こうなれば奥の手だ。禁忌『オーバーレイド……」

「口をつぐむんだ!」

 

 なんだとっ? サグメの鋭い一声に俺は思わず詠唱を途中で止めてしまった。だが彼女がなぜそのようなことを口にしたのか、直後に理解することになる。なんと青いゲルが被弾して穴だらけになったアールバイパーの隙間から入り込んできて、俺の体をも包み込み始めた。

 

 あのまま口を開いたままでは窒息死させられていただろう。となると鼻も危険だ。鼻の穴を必死に抑える。だが、この後はどうすればいい……。ゲルが遂に俺の全身を包んでしまっている。アールバイパーの兵装は音声入力方式ゆえに喋れなければ逆転の一手を打つこともできない。

 

青色に染まる視界。衣玖さんやサイバリオンが今も戦い続けているのが分かるので、余計にもどかしい。

 

 

ボウヤ……きこえるかしら?

 

 

 そんな中、俺は女の人の声を聴いた気がした。

 

 

私の身体が切り離されて狂気の炎の支配下から逃れることが出来たわ。だけどいつまでこう出来るか分からないから手短に話すね。

 

 

 これはジ・エンブリオンの意志だ。狂気に囚われていない方の。息苦しい中、俺は必死に頷く。

 

 

ヤツは全てを取り込むつもり。だけどさすがにサイバリオンの体を全部包むのは至難の業でしょう。

あの子に手を出した瞬間、私のコアは剥き出しになる。その時を狙って……撃ち抜きなさい!

 

 

 でもそんなことをしたら……! しかし声はみるみる遠ざかっていく。恐らくは狂気にまみれた本体に引っ張り戻されてしまったのだろう。それとも極限状態に陥って俺は幻聴でも聞こえていたのか?

 

 どの道このままでは死を待つのみ。ならば声の通りにやってみようではないか。

 

 散開して衣玖の電撃やサイバリオンの誘導ミサイル、そしてサグメが大量に用意していた陰陽玉の形をしたオプションでの波状攻撃を前に純狐はすっかり冷静さを失っていたのだ。何よりもサイバリオンの存在が大きいだろう。もう二度とわが子を抱けぬ母親の神経をその存在そのものが逆撫でしているのだから。

 

「ええいっ、何もかも飲み込んでしまえ!」

 

 ジ・エンブリオンを覆っていた青いゲルが衣玖やサグメを襲う。もちろんサイバリオンにも。そして彼女が口にしていた通り、サイバリオンの巨体はなかなか包みきれるものではなく、とうとうアールバイパーを覆っていたゲルが薄くなっていったのだ。

 

「よしっ、脱出できたぞ!」

 

 あとは約束の通り剥き出しになったコア目がけて俺は飛翔する。

 

「全無……」

 

 だが、俺がαビームを撃つ前に体が半分ゲルに飲み込まれていたサイバリオンが目の前に躍り出て、コアにバーストを撃ち込んでしまったのだ。

 

 

お願い、この役目は僕に譲って……!

 

 

 涙声になるサイバリオン。見知らぬ銀翼よりも自らで引導を渡したかったのだろう。大切な人の為に……。俺はその意図を汲んで踵を返した。もちろんシーマの渾身の一撃は火力的にも申し分なく、剥き出しのコアにひびが入りそして崩壊を始めていく。

 

 

ママ……

 

 

 狂気の炎も焼け落ちて青いゲルが元のクリオネの姿に戻ろうとする。その姿は苦しげであったものの、どこか清々しくすら感じた。

 

よく……私を止めてくれました。

あのままでは我らシーマが星を滅ぼすという最悪の事態に陥るところでした。

 

 

一度はクリオネの姿になった彼女であるが、コアの崩壊とともにその形はドロリと溶けだしていく。

 

 

轟アズマ、本当は貴方の使うアールバイパーの存在に私達は引き寄せられました。

宇宙の均衡を破る恐ろしい存在なのではないかと……。しかし杞憂に終わったようです。

貴方の心は清い。その技術をこれから悪用しない限りは人類の粛清は先延ばしにしましょう。

 

 

 崩壊は加速度的に進んでいく。思わずサイバリオンが泣き叫ぶ。

 

 

ママッ、僕を一人にしないでよ!

 

ボウヤ、いえサイバリオン。貴方は決して一人ではありません。

素敵なお友達が沢山いるではありませんか。

我らシーマは不滅。私が再び体を取り戻すまで、お友達と仲良く、そしていい子にしているのですよ……。

 

 

 ボロボロと光る涙をこぼすサイバリオンに寄り添うようにその額を衣玖が撫でた。

 

 

そう、永江衣玖というのですね。

ボウヤを、サイバリオンをよろしく頼みます……。

 

やだよっ、せっかくまた会えたのにすぐお別れだなんて!

 

ああ愛しい我が子よ。私だって別れは惜しいのです。

……そうだ、最期にギュって抱きしめましょう。

私が肉体を維持できている間に……こちらにいらっしゃいな。

 

 

 既にほとんどの肉体が崩壊していたジ・エンブリオンであったが、両手を大きく広げたのは俺にもはっきりと分かった。そこに飛びつく黄金の龍。その長い体を全てのシーマの母は優しく抱き留めた。そして次の瞬間、コアは完全に砕かれて、その肉体も完全に月の海に溶けだしてしまった。

 

 そして涙の咆哮。悲しげなサイバリオンの声に誰も言葉をかけることはできなかった……。

 

「よくも……」

 

 このしんみりとした空気を引き裂いたのは純狐。目の前で母子のドラマを見せつけられたのである。自らが決してたどり着けない舞台を目の前に、彼女は悲哀ではなく憤怒の涙を浮かべていた。

 

「よくもこの私の目の前でこんな茶番をッ!!」

 

 その勢いのまま詰め寄る先はサイバリオンでもサグメでもなく俺自身だった。

 

「お前はもはやシーマを生み出すことも使役することも出来ない。認めろ、貴様の負けだ」

 

 サグメも後ろでその通りだと言わんばかりに頷いている。が、純粋な憤怒となった彼女がそれで止まる筈もなかったのだ。直後、純狐との戦いで出来た腕の傷が一気に開き始める。

 

「殺してやるぞっ轟アズマっ! その腕の穢れを純化して殺してやるっ! お前さえいなければ地上と月の民が結託することもなかった、はぐれシーマを仲間もすることもなかった。そして……こんなおぞましい茶番劇を見せつけられることもなかった!」

 

 純粋なる殺意。こんなものに当てられてしまってはひとたまりもない。腕に激痛に俺はコクピットの中でのたうち回る。

 

「やめなさい、彼に手をかけたところで何も変わりませんよ!」

 

 しかし衣玖の言葉など耳に入っていないらしい。それほどまでに俺に激しい憎悪を抱いているのだ。純粋ゆえに視野も狭いのだろう。まるで効く耳を持たない純狐にサグメも後ろでオロオロしていた。

 

「はははは! 泣け、喚け! いくら騒いだところで純化した『死』は容赦なく襲ってくるぞ!」

 

 純狐はわざと苦痛を与えながら俺を処刑するつもりだ。腕の皮がひっくり返るのではないかというほどの激しい痛みに意識も朦朧としてきた。

 

 薄れゆく意識の中、俺の耳がキーンと高く耳鳴りを始めた。ああ、あまりの痛さにおかしくなってしまったのか……いや、あの音は耳鳴りでも幻聴でもないぞ。

 

「散々好き放題していたようだけれど……そこまでよ」

 

 見上げるといくつかの大型兵器と、多くの赤青緑の戦闘機……いや、緑の戦闘機はプロペラらしきものがついてるのでヘリコプターなのか? とにかく首領蜂隊の兵器が純狐を取り囲んでいたのだ。それらを率いているのはエレメントドールである朱理。

 

「さあ、アンタは既に包囲されているわ。無駄な抵抗はやめて大人しく降伏なさい。でないと……蜂の巣になるわよ?」

 

 どうやら封印解除が間に合ったようだ。心身ともに疲弊しきっている純狐にこれだけの兵器を相手する余裕はない筈だ。武装したこれらを一気に相手するのはいくら純狐といえど骨が折れるだろう。

 

 俺の腕から完全に痛みが引いた。能力の行使をやめたのだろう。だが、ギラギラと光る憎悪の眼光は未だ消えないまま。どうやらまだ降参したわけではないようだ。

 

 多数の首領蜂隊の兵器に取り囲まれながら、朱理と純狐が互いに無言でけん制し合っている。ピリピリと張りつめた空気が俺の肌にも伝わってきた。

 

 その状況がいつまでも続くと思ったが、意外と早く終止符が打たれることとなる。先に仕掛けたのは純狐、再び俺の傷口を純化しようと力を籠め始めた。その隙を見計らい首領蜂隊の赤い戦闘機が素早く純狐の懐まで接近する。戦闘機はそのままオレンジ色のオーラを纏いながらゼロ距離からのレーザー攻撃。

 

 首領蜂隊の戦闘機は大きな標的をレーザーで攻撃している間にザコ敵の横槍を防ぐために自らを包み込むオーラを身に纏う。弾に対しては無力だがこのオーラも攻撃力を持っており、装甲の不十分な小型機の突撃くらいなら難なく防いでしまう。本来は防衛用のオーラであるが、このように限界まで接近してレーザーを放つことでその火力を攻撃に回すことが出来るのだ。いわゆる「オーラ撃ち」である。

 

「がはっ!?」

 

 その衝撃で俺はアールバイパーごと投げ出され、そのままサイバリオンに受け止められた。もがくように俺は銀翼から脱出する。一方の純狐はというと頭からダラダラと流血しているのが分かる。その形相は怨霊やら悪霊のように恐ろしげであった。

 

「今回も私の負けなのね。口惜しい……チクショー!」

 

 あれでは今度こそ動けないだろう。今も流血する中、純狐は膝をつき拳を地面に突き立てつつゼエゼエと息を荒げていた。この異様な月面戦争は……終わったのだ。

 

 

 

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(その頃早苗は……)

 

 神奈子様の手で私は戦闘騎(ライディングバイパー)「ガントレット」を取り戻した。これであの最終鬼畜兵器とも渡り合えるだろう。

 

「一気に終わらせますっ……!」

 

 四角錐のワイヤーフレームを展開すると蜂の羽、その根元を狙って強烈な電撃をお見舞い、次々と羽を破壊していく。機動力を削いだ後は……逃げるが勝ちっ!

 

 私の思惑通り巨体ゆえに機動力はあまり高くないようで、一気に距離を離すことに成功。あちこちで怒号が行き交っているようで、私がガントレットを取り戻すのは完全に想定外だったことがうかがえる。

 

「出口が見えてきたっ!」

 

 伝えなくてはアズマさんにっ、首領蜂隊の本当の目的を、そんな彼らに協力する「彼女」の存在を……!

 

 最後の通路の奥から漏れ出る光。あそこから出れば私は逃げきれる。光がどんどん近づいていく。更に速度を上げて私は一目散に脱出しようとした……。

 

 しかし……。

 

 そ、そんなっ。あと少しの所で……!

 

「自らの勝利を確信した時……」

 

 私が出口に差し掛かる頃、先程の最終鬼畜兵器よりもずっと小型の蜂が突然目の前に現れたのだ。そのお尻の針からの鋭いレーザー、私はそれを真っ正面から受けてしまったのだ。

 

「そこに最も大きな隙が生まれる……」

 

 ガントレットは大破し、私も壁に投げ出されてしまった。だめだ、全身を思い切り打ち付けてしまったようで声すら出ない……。大佐の勝ち誇ったような声が今も響いている。

 

「空気の流れを変える契機が訪れるもの、そうだろう? くくく、私も気をつけなくてはな」

 

 小型の蜂型の兵器に乗り込んでいるであろうロンゲーナー大佐、その隣で嗜虐的な笑みを浮かべている少女こそ、この異変を引き起こした本当の元凶、彼女の存在をアズマさんに伝えなくてはいけないのに……。

 

「よくもここまで来たものだ。これ以上は私の全てを奪いかねない。これは許されざる反逆行為と言えよう。よってこれより貴様の罪に私自らが処罰を与える」

 

 動けなくなった私に冷酷な靴音を立てながら大佐が近寄ってくる。腰の剣を引き抜いて喉元にあてがってきた。

 

「無論、ここまでしでかしてくれた貴様への処罰など一つしかありえない。……死ぬがよい、そしてさような……む、どうした?」

 

 何処からか駆け寄ってきた首領蜂隊員が大佐に何か耳打ちをする。

 

「そうか、今まさに戦争は最終局面に突入した。貴様の処刑はもう少しだけ先延ばしにしてやる。さあ私と一緒に来るがよい」

 

 首根っこを掴まれて無理矢理私は大佐にどこかへと連れていかれる……。そして大佐と何か声を潜めて話を続ける少女は……壁に穴を開けて何処かへと消えていった。

 

 

 

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(その頃、八雲亭の白蓮は……)

 

「超人『聖白蓮』っ!」

「式神『前鬼後鬼の守護』」

 

 僧侶と式神の弾幕決闘、その火ぶたは遂に切って落とされた。藍は標的を追尾する無数の弾を放ち、その性質を見切っていた白蓮はあらかじめ身体強化の魔法を詠唱。お互いの最初のスペルカードの出し合いは白蓮側に軍配が上がったようだ。

 

「くっ、振り切られる!」

 

 その後も終始白蓮が優勢な状態で戦いは進んでいく。

 

「さすがは紫様とも渡り合っていた魔住職……。ぜえぜえ、少しばかり分が悪かったか」

 

 度重なるスペルカード詠唱で体力を消耗し、遂に地面に膝をついた藍。それを確認すると白蓮は屋敷の中に駆け入り、蓮子と香霖堂店主の名を叫ぶ。

 

 程なくして白蓮は二人を発見するとすぐに脱出を試みようとする。だが、それを許す九尾の狐ではなかった。

 

「生かして返さん! 何が何でもっ、蓮子を失うわけにはいかないのだ!」

 

 再び彼女がスペルカードを掲げようとした矢先、空から地面に向けて何かしらの爆音が響いた。八雲亭の屋根が大きく揺らぎ、その衝撃がいかに大きいものであるかを物語る。

 

「あれはっ……!」

 

 そこには妖怪の山上空で不気味な沈黙を続けていた首領蜂隊の母艦が幻想郷全域に見えるような巨大なホログラムを展開しようとしている光景があったのだ。

 

「何かあったのでしょうか? 様子を……あっ!」

「馬鹿め、戦いはまだ終わっていない。蓮子はいただくぞ」

 

 一瞬のスキを突いての強奪。空中に浮かぶ巨大映像が展開されゆく中、蓮子をめぐって空中で再び戦闘を繰り広げていた。




※こちらは東方銀翼伝の原作にあたる作品に対して「エンダー・ヴァリー」氏が投稿した非公式の次回予告となります(それに対して筆者がビッグコアとして返答をしているという形式です)。
本人からの許可をいただいたので、この場をお借りして(一部修正して)掲載しております。



・次回予告(偽)
霊夢「今回の銀蝿野郎、役に立ってなくない?」
パチュリー「蝿らしくヘイトは向けさせてたでしょ。美味しい所は全部サイバリオンだけど」
咲夜「銀蝿野郎はともかく、純狐とやr…」
「なんでその呼び方なんだよ!!!」
咲夜「いや、あまりにもぴったりで驚きました」
パチュリー「魔理沙に付きまとう蝿…まさにその通り」
「ふざけんな!何で変な鳥の妖怪から更に悪くなってんだ!ここでの6年と数ヶ月は一体何だったんだ!?」
霊夢「印象悪くさせる方が悪いのよ。結局首領蜂隊がまだいるし、幻想郷がシーマにやられるのも首領蜂隊にやられるのも差はないの。理解してるんでしょうね?」
「こんなことになってんのはお前があっさりやられたせいじゃん。ちゃんと働け」
霊夢「はぁ?表出なさい!」
パチュリー「…次回『東方銀翼伝∀CE 第18話』。いや、今回荒れすぎじゃない?」
咲夜「結局状況が悪化しただけですから…」


ビッグコア「いつも次回予告ありがとうございます。だけど寄ってたかって好感度低そうな娘ばかりを配置していじめないであげてください。
とうとう銀蝿呼ばわり。ちなみにメタルブラックの自機は『ブラックフライ』なので黒蠅です。
なんかアールバイパーがまるで活躍していないとのことですが、追い詰められた純狐が口にしていたように、この状況を打開できる要因を団結させたという功績はあります。思えば銀翼アールバイパーは『希望を繋ぐ程度の能力』ですし、何より今回はサイバリオン主役回ですから」
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