東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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幻想郷に「]-[|/34<#!(ヒバチ)」降臨……!


第20話 ~Advent of Cruel Executioner~

(その頃、槐安通路周辺では……)

 

 ロンゲーナー大佐ごとゴールデンディザスターを爆破させようとしたものの、一瞬の隙を突かれて「]-[|/34<#!(ヒバチ)」による脱出を許してしまった。しかも大佐の言うことが本当ならばあの中には囚われの早苗もいるというのだ。

 

「涙と鼻水の用意はよろしいか?」

 

 こちらの返答を待つこともなく、いきなりヒバチから赤色と青色の弾が渦を巻くように放たれた。上から見たら洗濯機が回転しているようにも見えるだろう。

 

 物量もさることながら弾速が凄まじい。あんなのをいちいち回避するというのは高速で飛び回っているアールバイパーでは無理だ。俺はオプションを展開し、ネメシスにバースト砲を発射させる。

 

「操術『リモートバースト』!」

 

 設置バーストによる光の盾を展開する。これ以外に対策は考えられなかった。

 

「それすっごく便利ね。攻撃は私に任せなさいな」

 

 盾に守られながら朱理が直線的なショットをヒバチに当てていく。あのアホみたいな弾幕もバーストの前では無力と化してしまうのだ。だが、大佐は少しもうろたえる様子を見せない。

 

「貴様の光の盾などとっくの昔に知っている。ならば、これはどうかな? 出でよ、ティガリリ!」

 

 まるでヒバチ本体を守る様に周囲に展開された「ティガリリ」と呼ばれる大型のビット。アールバイパーよりも一回り大きいくらいのサイズだ。その数実に10個。バイパーの展開できるオプションの数を優に超えている。倍以上じゃないか。

 

 さすがにその全てがヒバチと同じ火力を持っているわけではなさそうだが、奴らの放つ紫色のレーザーがバーストによる盾を容赦なく引き裂いていったのだ。

 

「あのレーザーを相殺するのにリモートバーストの火力では足りないわ!」

 

 そうするとネメシスを格納せざるを得なくなる。だが、それは今も暴力的なまでに青い弾をばら撒いているヒバチの弾幕に俺達が晒されることも意味しているのだ。

 

「レーザーはマスターに任せるわ。αビームならばさすがに打ち勝つことが出来る筈よ。青い弾は私が撃ち落としてあげる」

 

 息を合わせるように俺は魔力を銀翼に集中させる。一足先に朱理は黒色のショットを発して弾を迎撃し始めた。

 

「すごいっ、これならいけるぞ!」

 

 圧倒的弾幕は朱理のおかげでこちらまではほとんど到達しない。集中し、αビームを発するほどの魔力を得た。対するヒバチはというと相変わらずレーザーとショットの複合攻撃を続けているのみ。余程余裕があるのだろう。

 

「いくぞっ、全無(オールナッシング)『αビーム』!」

 

 あらん限りの魔力を青色のビームに変えてヒバチめがけて発射する。無数の小型ビットからのレーザーはこの青い暴力に次々と飲み込まれていく。よしっ、そのままヒバチも黒焦げになれっ……!

 

 ……いや、ダメだ。こちらのスペルカード宣言に合わせてヒバチはというと全身を覆う光のバリアを展開し始めたのだ。何かしらの防御を行ってくることまでは予測できたが、こちらとてαビーム。ガードを崩してやる。

 

「無駄だ。いくら火力を上げたところでヒバチのバリアを砕くことは出来ぬ」

 

 事実、多大な魔力を含んだ青いビームはヒバチのバリアに完全に阻まれてしまっている。

 

「貴様の力も幻想郷の力も私の前では無力である。なぜなら、私も幻想郷の強き力を見てきたのだからな」

 

 ギリと歯ぎしりをする音。そう、朱理を通じて大佐は今回の異変で敵対した相手の手の内を知ってしまっているのだ。朱理が悔しがるのも無理はない。

 

「ならばっ、これはどうだ!」

 

 青い弾が止んだ瞬間を狙い、俺は一気にアールバイパーを加速させ、あえてヒバチに接近する。コクピットの中で俺は懐から特別なスペルカードを手に取っていた。

 

「銀星『レイディアント・スターソード』!」

 

 光学兵器に対して絶対的な防御力を誇るのは分かった。ならば物理的な衝撃はどうだ? 俺はその可能性に賭けて巨大な剣を展開した。そして右側の剣で刺突、更に左から殴打するように斬撃。

 

 巨大な剣は崩れ去るも抜身のレイディアントソードは今もヒバチに突き出されている。

 

「おりゃりゃりゃりゃりゃ!」

 

 その間合いに入って剣を無茶苦茶に振り回す。だが、ヒバチは全くの無傷だというのだ。

 

「なるほど、良い考えだな。しかし……これも無駄だ。スペルカード級の攻撃の発動に反応してヒバチはバリアを展開する機能を持っている。本来は巨大な爆弾のような重兵器にのみ反応するものであったが、ここ幻想郷では貴様以外にそんなものを使う奴はいないのでな」

 

 原理はよく分からないが、強力な攻撃で一気に畳みかけようとするとバリアを展開してしまうようだ。たとえ光学兵器だろうが実弾兵器だろうが、そして今のような斬撃でさえ遮断してしまう。ちくしょう、やっぱりヒバチってことなのか!

 

「轟アズマ、もはや貴様に私を倒すすべはない。再び我が軍門に下れ。本来は貴様も『こちら側』の人間の筈だ。条件を飲むのなら命は助けてやろう、もちろん風祝の小娘の命も保証する」

 

 こいつ、早苗を見逃すというのか? 確かに今のまま戦って大佐に勝ったとしても、早苗が助かる可能性は限りなく低い。

 

「悪くない話の筈であるぞ。さあ、共に幻想郷に新たな秩序をもたらすのだ」

 

 俺の手には未だに「銀星『レイディアント・スターソード』」のスペルカードが握られている。戦争が終われば早苗だけでなく白蓮も、そして他の少女達も救われるのだろうか?

 

「マスター! そんな筈ないわ。今までコイツにされてきたこと、よく思い出して!」

 

 ……そうだったな、やはり俺は幻想郷を、白蓮を裏切るなんてことは出来ない。奴の理想に俺達はいない。今は俺や早苗の命が助かったとしても、結局は誰も助からないと考えるのが妥当だろう。

 

「2度も騙されるかよっ! お前の『死ぬがよい』は聞き飽きた!」

 

 スペルカードを強く握り込む。今の俺は幻想郷の住民だ。命懸けの戦いの末に、紫だって認めてくれたのだ。それをむざむざと捨てることなどできぬ!

 

「ならば仕方あるまい。貴様のような戦力を失うのは惜しいが……死ぬがよい。そして、さようなら」

 

 ヒバチから更に小型ビットが展開され、俺達を囲い込むように浮遊すると左右からレーザーを砲撃してきた。

 

 まずいっ、左右からのレーザーを防ぐ手段などない。一か八かで俺はビットの隙間に潜り込み、レーザーを回避する。だが、間合いを取ることも詰めることもできない状況でヒバチからも弾が放射状に発射された。

 

「マスター!」

 

 その後ろから朱理が太いレーザーを発射する。より強大な火力であろう朱理のオレンジ色のレーザーが紫色の細いレーザーを相殺する。しかし、相殺した筈なのに、どういうわけかそこから更に紫色の弾が迫ってくるのだ。

 

「相殺できないっ!?」

 

 こうなればレーザーの状態は朱理で相殺し、俺がレイディアントソードで弾の方を処理するしかない。どの道防戦一方であり、このままでは更に戦況が悪くなるのみである。上下左右からレーザーが発せられマトモに身動きが取れない状況。

 

 周囲の攻撃にしか意識を向けられなかった俺はヒバチがすぐ近くまで接近していることに気が付くことが出来なかった。至近距離からヒバチの全火力をぶつけられたとあってはひとたまりもない。

 

「終わりだ、死ぬがよい!」

 

 散弾銃を全弾受けたかのような衝撃、あの蜂と顔を合わせてしまった絶望感、そののちに視界が赤く染まる……筈であった。

 

「朱理っ!」

 

 すんでの所で朱理が俺を庇ったのだ。所々外装が剥がれ落ちており、エレメントドールがロボットであることを思い出させる。今も破損部分が漏電を起こしており見るからに痛々しい。

 

「マスターの命は……守らないとね……。だけど、ちょっと休ませて……。さあマスター、あんな奴、すぐに……ブッ倒しなよ…………」

 

 彼女の名前を再び叫ぶが、朱理の瞳から光が弱まっていく。宇宙空間を漂う朱理の残骸を俺はリフレックスリングで掴んで回収。そしてそれを見て冷静でいられるロンゲーナー大佐。奴についていったところでこうなるのがオチなんだ。今のではっきりと分かった。

 

「朱理、少しの辛抱だからな。幻想郷には河童というそれはそれは腕のいいエンジニアがいるんだ。そいつらにお前のこと、すぐに修理させるから……だから死ぬんじゃないぞ」

 

 すがるように、祈るように……。そうやって俺は朱理に語り掛けるが瞳の光はとうとう消えてしまった。安否は分からないが、今は大佐と戦うことに集中しよう。

 

 こんなことが……こんなことがあってたまるかよっ! あの男、本当に容赦がない。

 

「まあどちらでもよかったのだがね。これで最早ヒバチの攻撃全てを相殺することはできない筈だ」

 

 奴は人間じゃねぇっ! 利用するだけ利用して……用済みになればこうやって始末していく……。

 

 烈火の如く燃えるは憤怒。絶対に許さない……!

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 俺の怒号に反応するように、アールバイパーが激しく震える。それと同時にノイズ混じりのボイスが鳴り響いた。

 

『Earl Viper...-RED- MODE』

 

 レッド……いや、烈怒モード。半ば暴走状態で発動されたそれの性質を知るのにさほど時間はかからなかった。本来であればどちらか一つを装備して運用するはずのダブル系兵装とレーザー系兵装を同時に発射するものだ。事実、今は相手を追尾するハンターと疑似ブラックホールを生み出すグラビティバレットによる複合攻撃を行っている。

 

「ほう、土壇場で面白い能力を会得したようだな。私も似たような技術を開発中だ。……つまり弱点も知っている」

 

 そう、アールバイパーの全魔力を攻撃を発するのに使用してしまうことから、烈怒モード発動中は機動力が著しく落ちる。まさに最強の固定砲台といったところだ。そして大佐はその弱点を知っていた。

 

 小型ビットを一斉にこちらに向けてレーザー砲を放ってきた。いつものアールバイパーなら楽に避けることが出来ただろうが、今はそういうわけにはいかない。それでも希望を捨てるわけにはいかない。俺はこの状態でオーバーウェポンをも発動した。

 

 針のような形に変化したハンターが小型ビットに突き刺さり、そしてそれらを次々と破壊していく。グラビティバレットはその1発1発が大きくなり、ヒバチの動きを鈍らせた。一方で俺の損害もなかったわけではない。ビットからのレーザーを止めることは出来ず、アールバイパーはそれらをすべて受けてしまったのだ。

 

「ぎゃあああ!」

 

 どうにかコクピットを貫く事態は避けられたが、アールバイパー内でアラームが鳴り響いている。かなりのダメージを受けたことは明白だ。

 

 完全に痛み分け……いや、更に攻撃手段を持っているロンゲーナー大佐の方が優勢である。ちくしょう、これでも奴を倒せないのか!

 

「ほう、ビットをすべて破壊してしまうとはな。ならばこの私も本気を出させてもらおう」

 

 蜂のような見た目をしたヒバチが変形を始める。エレメントドールのような、蜂のような形態に変形すると、全方位に向けてあのビットが発していたレーザーを照射し始めたのだ。

 

「まるで、後光だ……」

 

 グラビティバレットでレーザーを相殺しても鱗のようなふぐの刺身のような弾幕が迫ってくる。こんなのまともにやり合っても勝てるはずがない。もうバジュラモードになって一気に吹き飛ばす他にないだろう。だが、そんなことをしては早苗の命までもが……。

 

「魔操術『魔界神の大翼』」

 

 だがこれ以上烈怒モードで踏ん張っていても埒が明かず、俺が倒れても早苗は助からない。すまない……すまない……!

 

「一度に大きな火力で吹き飛ばそうとしても無駄だ。バリアを展開することでどんな攻撃でもヒバチを傷つけることは出来ぬ!」

 

 そんな化け物じみたバリアがあってたまるか。どこかに限界がある筈だ、それを越えさえすればあの蜂を落とすことが出来る。そんな話は聞いたことがないが無限大の耐久だなんてあり得る筈がないのだ。

 

「ああ張れよ、バリアとやらをさ。俺に出しうる最大の火力だ、これで負けても後悔はない」

 

 あれだけの弾幕に晒されているのだ、バジュラモードには簡単になることが出来た。これから俺が放つであろう「魔神復誦」に備えるべく、ヒバチにバリアを展開させる大佐。だが、バリアが途中で解除されてしまったのだ。

 

「何だ、何が起こている?」

 

 ヒバチからは大佐以外の声も聞こえており、そして何やら騒がしい。様子がおかしいぞ?

 

「この小娘っ、何をしやがる!」

 

 ヒバチの中でロンゲーナー大佐が誰かと争っている。その音をヒバチのマイクが拾っているらしい。そして大佐の他に聞こえる声は聞き覚えのある少女の声であったのだ。

 

「アズマさんが命をかけて戦っているんです。私だって!」

 

 コクピットの中では早苗が暴れ回っているらしい。ここからでは、どうなっているのかは分からないが今のでヒバチを思うように操縦できていないのが分かる。

 

「小娘を生かしておくのは『アイツ』の頼みだったが、やはりあの時に処刑しておくべきだったか」

 

 取っ組み合いにでもなっているのだろうか? それでは早苗に勝ち目がないのは明らかだ。体格に圧倒的な差があるではないか。案の定、体が叩きつけられる音と早苗のうめき声が聞こえた気がした。

 

「今ですっ、今しかありません! 私がヒバチのバリア展開機能を封じている今しか……。アズマさんっ、私ごと奴を貫いてください! もうそれしか方法がありません!」

 

 鳴り響く銃声、何が起きているのか想像はしたくないが早苗にとって良くないことが起きているのだけは分かる。

 

「ええい、そこをどくのだ小娘!」

「貴方の言う通りになんて……するものですかっ!」

 

 むちゃくちゃな軌道で飛び回るヒバチの中、今もロンゲーナー大佐と早苗が戦っているのが分かる。今もガンガンと壁に何かを叩きつける音が聞こえてくる。……風祝の命を張った努力を無駄にするわけにはいかない。

 

「早苗……」

 

 操縦桿を握る手が激しく震える。気をしっかり持て俺! 俺の為、幻想郷の為に命を投げ打つ彼女の気持ちに応えないわけにはいかないんだっ。

 

「俺は絶対に生き延びるからな! お前の分まで……絶対にだ」

 

 涙で視界が歪む。だけれど俺はやらなくてはならない。

 

「大魔法……」

 

 あとはトリガーを引き俺が叫ぶだけだ。俺と白蓮の、俺と幻想郷の、絆の証をっ! あの大佐に見せてやるぞっ!

 

「魔神復誦っ……!!」

 

 蓮の蕾からレーザーが、大玉が、鱗弾が発射される。そしてそれらがヒバチを貫いた。ロンゲーナー大佐と、そして早苗を巻き込みながら……。

 

「ぬうぉおぉぉっほぉ! まさか……まさか本当に撃ってくるとは!」

 

 元よりゴールデンディザスターよりもずっと小型の機体、バリアのような対策さえなければ簡単に吹き飛んでしまう。爆炎を上げながらヒバチは地球の重力に引っ張られゆく。恐らくは早苗の邪魔が入ってからは地上に逃げようとしていたのだろう。そしてそれを俺も追いかけていたことにもなる。

 

 今も何度も爆発するヒバチの中、狼狽えていた大佐。だが、何かを悟ったのか、急に元の口調に戻る。

 

「私は貴様等を少し見くびっていたのかもしれないな。……ならば仕方あるまい。私が生き残ろうと貴様が生き残ろうとこの幻想郷の歴史は変わらぬ。歴史を動かすものは兵隊ではない。貴様は兵隊である時点で、ハタラキバチになった時点で私に負けていたのだ」

 

 一体何のことを言っているのだ? 負け惜しみ……いや、そんな感じではないな。

 

「分からぬか。ならばこのまま地球に戻るがいい。否が応でも思い知らされるはずだ。そこで死よりも深い絶望を味わうがよい。くふっ、ふははははは……!」

 

 不気味な笑い声を残し、大破したヒバチはバラバラになり、大気圏で燃え尽きていく。このままでは俺も同じ運命をたどることになる。もはや俺の命は俺だけのものではない。ここで死んでしまっては早苗に申し訳が立たないではないか。

 

 一度地球から離れてサイバリオンたちが通った通路に入り……あれ、動かない。

 

 なんということだ、アールバイパーも連戦につぐ連戦でもはや動けないようだ。アールバイパー単体では大気圏突入は不可能だ。ましてやこちらもヒバチとの戦闘で大破しているのだからすぐに熱でスクラップにされてしまう。

 

「お困りのようね、マスター……」

 

 急に聞こえる女性の声。それはコクピットの中ではなく、外から聞こえてきた。声の主は朱理の物であった。やはりボロボロになっていた彼女がいつの間にかアールバイパーの外に出ていたのだ。そして、アールバイパーに抱きつき始める。

 

「おいっ、何をするつもりだ?」

 

 朱理は決意にみなぎった面持ちをしていた。さらにギュっと銀翼を抱いて、離れようとしない。

 

「お前、まさか……!」

「マスターは限界までリデュースをして。私が小さくなったマスターの盾になるわ。今の私にはそれしかできないから……ね」

 

 所々ノイズの混ざる朱理は半分機械の身体がむき出しの状態になりながらも気丈に振舞っていた。

 

「朱理、傷ついたお前がそんなことをしたら……」

「ええ、私は無事ではないでしょうね。だけど、これでいいのよ。ここまで破壊されたエレメントドールに最早戦う力は残されていないわ。こうすることでしかマスターの役に立てないもの」

「馬鹿なことを言うんじゃない! お前の体はにとりに修理させる! 戦えなくたっていい、生きてさえいれば……生きてさえいればそれでいい。俺に……これ以上友達を失えというのかっ!」

 

 朱理は早苗の最期のことを知っているかは分からない。だけどここで朱理の言う通りにしたら……。涙を拭う事すらできない。それだけ喪失感で心が溢れていたのだ。

 

「エレメントドールは可能な限り人類を助けるもの。目の前で死に瀕する人間がいて、助けられるのであれば手を差し伸べてしまうもの……よ」

 

 朱理の背中が焼けている。いよいよ大気との摩擦で熱を帯び始めているのだ。機体も揺れ始めており、朱理がいなければアールバイパーも無事ではないだろう。彼女が俺の身代わりになっているのだ。

 

 ゆっくり霊夢も涙声で「考え直して!」と悲鳴を上げているが、朱理はまるで動じない。

 

「本当の意味での光になるのは私だけでいいの。アンタ達は、マスターは幻想郷を希望で照らす『光』になるの。約束……よ……」

 

 戦友が燃えカスになってゆく。今も激しく機体がゴウゴウと揺れている。最期に朱理は不器用な笑顔を浮かべて見せていた。

 

 そして機体の揺れが収まる。地球に無事に突入できたようだ。朱理だった鉄くずは音もなく地上へと落ちていく。力なく戦友の名を呟くネメシス。

 

「シュリ……」

 

 月面のシーマ異変を操っていた純狐、彼女すらも利用していた首領蜂(どんぱち)隊の大ボスを俺達は倒すことが出来た。だがその代償はあまりに大きかった。早苗が、そして朱理までもが犠牲になってしまったのだから。

 

「まずは衣玖と合流するべきだ。それに大佐の遺した言葉も気になる」

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

(その頃、衣玖さんとサイバリオンは……)

 

 轟アズマの尽力により、安全に地球に向かうことが出来た衣玖とサイバリオン。地球に到達したのを確認し次第、サグメとドレミーとは別れる(サグメは月の都の復興にかかわるのだろうし、ドレミーも槐安通路の細かい改修を進めるものと思われる)。

 

「これは……」

 

 空中で無数の流れ星が流れ落ちる。彼女にはその正体が分かっていた。

 

「大佐の蜂を倒したんですね……」

 

 槐安通路の中でアールバイパーと蜂型の兵器がぶつかり合っているのを見ていたので確証が持てていた。とはいえ地上は荒れ果てており、美しかった自然の面影すらも残っていない状況であった。大きくえぐれた地面、草花は踏みにじられあちこちで炎上した跡も残っている。

 

「ひどい……」

 

 恐らくは首領蜂隊の兵器が幻想郷全土で暴れ回っていたのだろう。へし折られた木を撫でながら衣玖は憂う。その横でやはりサイバリオンも悲し気にグルルと声を上げた。

 

 だがその直後、衣玖はその認識すら間違っていたことに気が付く。そう、これは過去の出来事ではない。現在進行形であったことを。サイバリオンが唸り声をあげて威嚇を始める。

 

「そんなっ! 大佐は倒れた筈。なのにどうしてっ!?」

 

 首領蜂隊の主力兵器が侵入者を見つけ、多数で取り囲む。ロンゲーナー大佐は確かに宇宙で散っていった筈。だがそこには確かにボス級の戦艦「雷光」が多数の兵器を引き連れてこの場に立ちはだかっているのだ。いや、雷光だけではない。「嵐光」、「龍光」までもが集まってきた。

 

 いくらなんでも多勢に無勢である。司令塔を失ってもなお統率の取れた行動を続ける兵器群。恐怖を感じた衣玖はジリと後ずさりをする。

 

 更に悪いことは続く。サイバリオンが空中から急接近する別の兵器らしきものを感知したようで、空に向かって威嚇を始めている。

 

「まだ首領蜂隊の兵器が?」

 

 しかしその認識が誤りであったことに彼女はすぐに気が付いた。それでも驚きは隠せないと言わんばかりの表情は変わらないのだが。

 

「ええっ、貴女は……!?」

 

 そこに降り立ったのは「血染めの巫女」であった。

 

 血で赤黒く染まった布切れであまり長いとは言えない黒い長髪を無理矢理束ね、やはり血で赤黒く染まったであろう恐らくはブラウスだったもの。スカートは元々黒色だったのか、それほど目立ってはいないが、やはり返り血を浴びているように見える。まるで血の色のワンピースを着ているようなそんな出で立ちであった。

 

 腋の部分が破れており、だけど袖はついたままで腋だけ露出しているように見える。袖だけはなぜか血で染まっておらず、その白さが逆に不気味であった。

 

「霊夢……さん?」

 

 手にしていたお札をピッと投げる。それはまるで意思を持ったかのようにジグザグに飛んでいくと首領蜂隊の兵器群を次々と切り裂いていった。負けじとレーザー砲や大型ミサイルで応戦するも、まるで残像を残すかのように空中を飛び回り、それらをすべて回避していく。

 

 そして今度は無数の針。血染めの巫女が一度に大量に投げつけると雷光を撃沈させ、更にその残骸を蹴りながら跳躍し、今度は嵐光の目の前に陣取る。ミサイルが爆発する前にサマーソルトキックを放ち、爆散させた。

 

「強い……」

 

 残った龍光は巫女の周囲を回転する七色の光を放って退治した。色とりどりの光はやはり意思を持ったかのように龍光を追いかけて轟沈させたのだ。一方的な展開に衣玖はただただ目を見張るしかなかった。それはサイバリオンにとっても同じであっただろう。だが、血染めの巫女は止まらない。

 

「待ってください霊夢さん! この子はっ……」

 

 その圧倒的な力を今度はサイバリオンにも行使し始めたのだ。金色の龍の真下に四角形の魔法陣が展開したかと思うと光の柱が地面から突き出る。全身が赤熱したサイバリオンはそのままバラバラに崩壊していった……。

 

「酷い……あんまりですっ。この子は、サイバリオンは侵略者ではなく、私の友達だったのに!」

「は? 見るからに外界からの侵略者でしょ? もう時間がないの。侵略者っぽいのは一人残らず退治よ」

 

 それだけ言い残すと血染めの巫女はそのまま飛び去ろうとする。追いかけようとする衣玖であったが、突然地面が大きく揺れて足を取られて転倒してしまう。その間に霊夢らしき影を見失ってしまった。

 

 後には多量の首領蜂隊の兵器群だったスクラップと、サイバリオンの亡骸だけが残された。

 

「こんなのってあんまりです。うっ、うっ……」

 

 育んだ友情が一瞬で奪われた悲しみで、衣玖は亡骸に埋め、泣きに泣いた……。

 

 しかし霊夢らしき巫女が口にしていたように、幻想郷は崩壊に向けて更に加速を始めているようだ。今も大きく揺れる地面、断続的な地震は次第に頻繁に、そして揺れも大きくなっているのだから。




今回のタイトルは章サブタイトル「Advent of Cruel Executioner」。これを和訳すると「無慈悲なる処刑人の降臨」なのですが、この「無慈悲なる処刑人」とはロンゲーナー大佐のことでもあり、同時に復活した霊夢(?)のことでもあったりします。
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