月に向かうと同時にゴーレム達と戦うには……
そうと決まれば俺は宝塔型通信機を乱暴に取り出して起動させる。通信の相手は白蓮……ではなくてにとりだ。
「にとり、応答してくれ! 月面に向かおうとしていたがバクテリアン軍残党に追い回されている。月面に向かいながら奴らを倒すにはお前の力が必要だ!」
時折ノイズ音が響く中、俺は通信機に向かって何度も叫ぶ。無数のガウの軍勢から逃げながら、通信が届くことを祈り続ける。
「ふわぁ……。こんな夜更けにどうしたんだい? 随分と切迫しているようじゃないか」
「ちょいと敵さんの数が多くて苦戦している。相手をしてたらキリがないので、前に用意していたアールバイパー用の追加ブースターをこっちまで飛ばして欲しい。これで一気に月を目指す!」
気が付くと前方から、そして側面からもバクテリアン軍が接近しているのが分かる。ガウだけではなく「ブーストコア」や「ビーコン」のような高機動型戦艦も迫ってきているのだ。
「キヒヒ、お前は完全に包囲されている! 無駄な抵抗はやめて、貴様の運命を受け入れるんだなぁ!」
いいや、俺の運命は俺が切り開く。前後左右も塞がれているのなら、俺は機体を上方に傾けて急上昇するのみ。地面に向かってジェットエンジンが爆ぜ、強烈なGが俺とサグメを襲う。
ブルブルとわずかにブレながらも、みるみる高度を上げていくアールバイパー。もちろんガウ達もそれを黙って見過ごすわけもなく、やはり追いかけてくる。
「なるほどなぁ、確かに俺様は上にはバクテリアン戦艦を配置しなかった。何故だかわかるか? 知ってるんだよ、アールバイパー単体では大気圏突破ができないって弱点をなぁ! さあ、我らバクテリアン軍に撃ち抜かれるか、摩擦熱でオダブツになるか? 好きな方を選びなっ、キッヒヒヒィ!!」
地上がみるみる小さくなっていく。俺は追加ブースターの到着が間に合うことをひたすら祈るしかなかった。
雲海を突き抜け、機体が激しく揺れ動く最中、俺は分厚い雲の床の向こう側でキラリと光る物体が急接近しているのが見えた。
「新たな敵?」
いいや、間に合ったんだ。宝塔型通信機からサムズアップするにとりの姿が見えたからだ。
「熱でオダブツになる前に間に合ったようだね。さあ、あんな脳味噌野郎なんてギッタンギッタンにしてやれ!」
多数のロケットエンジンを分厚い装甲で囲ったような無骨なデザインをした追加ブースターが俺達に傍にまで近寄ると赤い光をまっすぐに照射する。あのガイドまでアールバイパーを移動させれば合体できるはずだ。
操縦桿を慎重に操作して赤いラインと軸を合わせる。するとガシャンと銀翼とブースターが合体した。
「これで宇宙に飛び出してもへっちゃらだ。さあ来いよゴーレム、宇宙空間で第2ラウンドと行こうぜ?」
後ろを振り向き、頭から湯気を出して怒り狂っているゴーレムに向かって指をチョイチョイと動かして挑発する。
「うげー、そんなのアリかよ!? ええいガウども、大気圏突破しただけではしゃいでる銀翼野郎に風穴を開けてやれ!」
触手を突き出し、突撃命令を下すゴーレム。多数のガウが迫ってくるも、俺は落ち着いてトリガーを引く。次の瞬間、追加ブースターからまるで鳥が羽を広げたかのような軌跡を描くレーザーが照射される。細いレーザーだがその火力はすさまじいらしく、アールバイパーの背後に迫っていたガウが次々と落ちていった。
「ガビーン! ええい、今度の俺様は本気の本気なんだ。まだまだ戦艦はいっぱいいるんだぞ! さあ行けっ『ビーコン』に『ブーストコア』」
最初に動き始めたはのはブーストコア。機体上下に取り付けられたブーストが青い炎を噴き出して、アールバイパーに突撃してくる。どうにか追加ブースターで攻撃を受け止めたのでアールバイパーへのダメージはなかったが、大きく吹き飛ばされてしまった。
さらに動けなくなったところをビーコンが爆雷をまき散らしながら追い抜いて行く。
「ぐわあああっ!」
今の一撃でブースターが漏電し始める。まずいな、もう一撃もらったらひとたまりもないぞ。
俺はあえてスピードを落とし、ブーストコアにも俺達を追い抜かせ2体の戦艦に狙いを定め、トリガーを引き抜いた。今度は太いレーザーが1本前方に向かって発射される。やはり火力は絶大のようでブーストコアはそのパーツをばらまきながら爆発四散、ビーコンもその破片にぶつかりコアをいくつか損傷してしまう。
しかし俺の方も無事ではなかったらしく、強烈な攻撃に今までのダメージが耐え切れなかったのか、追加ブースターもあっけなく壊れてしまった。爆発を起こす前にそれをパージして、再びオプションを展開する。
「よっしゃあ、これでまた弱っちい火力で頑張るしかなくなったわけだ。いや、オプションを使うのか。ならばまたオプションハンターを使って魔力を吸い尽くしてやるぜぇぇぇぇ!」
「いいや、同じ手は食わないぜ」
ゴーレムから放たれたオプションの魔力を食らう虫ども、こうなるだろうと予見していた俺はオプションを自らの周囲で高速回転をさせ、オーバーウェポンを発動させた。
「重光龍……『ドラゴンレーザー』!」
食われる前に俺の方から撃ち出すっ! 黄金の龍が甲高い咆哮を上げながらオプションハンターとビーコンに喰らいついていく。巨龍を前に虫ケラはあまりに無力であり、それは手負いの巨大戦艦にとっても同じだったらしく、無数のオプションハンターもビーコンも破壊されてしまった。
「あああっ、俺様の切り札が……! いいや、こっちにはまだ兵力が残っているんだぞ。一方の銀翼の末裔は今度こそ満身創痍! さあ、今度こそ引導をくれてやるぜええ! 行けぇい『ビッグコアMk-III』に『ヘブンズゲート』、んでもってダメ押しの『ローリングコア』!」
ちくしょう、まだ兵力を残していたのか。確かに追加ブースターも失いオプションの魔力も今のドラゴンレーザーで随分と使い込んでしまった。だが勝機がないわけではない。ゴーレムはオプションハンターを失っているのだ。落ち着いて各個撃破すれば切り抜けることも……。
にじりよる3機の戦艦と向き合う俺。今まさに死力を尽くした戦いの幕が切って落とされる……!
「やれぇい、銀翼の末裔に我らバクテリアンの恐怖を刻み込むのだっ! ヒーッヒッヒッヒ!」
その号令と共に因縁の戦いが始まる筈だった。だが、全く別の方向から多数の光が降り注いできたのだ。
「誰だっ!?」
俺は咄嗟にビーコンの残骸の下に隠れて、謎の光から身を隠す。一方の巨大戦艦側にはそんな真似は出来ず、無数の光にさらされてしまった。ゴーレムはどうにか触手で目を覆って光を直視することはなかったようである。
「なんだよっ、これから血沸き肉踊る因縁のバトルが始まるってのに、そこに水を差すなんて酷いんじゃない?」
虚空に向かって憤慨するゴーレムを嘲笑うのはゴーレム以上に甲高い声の持ち主であった。奴は片手に大きな松明を掲げ、アメリカ国旗のようなタイツをはいたピエロのような少女であったのだ。
「クラウンピース……!」
ということは今の光は対象を狂わせる光ということか。とっさに身を隠して正解だったぜ。
「きゃははは、面白そうなオモチャをいっぱい持ってるねぇ脳味噌さん♪ ちょっと借りるわよ。これも『友人様』のためだもの」
もちろんそんな申し出を受けられるはずのないゴーレムはさらに憤慨した。
「馬鹿言うんじゃねぇぞ小娘がっ! これから我らバクテリアンが幻想郷を支配する、その第一歩を歩もうってのにテメェのオモチャなんかに使われてたまるかってんだ!」
頭から湯気を出しながら怒り狂うゴーレムにクスクスと嘲笑を続けるクラウンピース。
「へえ、じゃあこのオモチャ達ってとっても強いんだ。試しちゃおうかなー?」
上に向かって掲げていた松明をゴーレムに向け始めた。するとバクテリアン戦艦達はゴーレムに狙いを定め始める。
「のわぁっ!? お、お前ら変な冗談はよせ! 俺様を撃つってことはゴーファー様に楯突くことを意味するんだぞ! いいのか、そんなことして?」
しかし生気の抜けたような動きでさらにゴーレムに詰め寄る。
「ゴーファーナンテ、シラナイネ」
「スベテハ、ユウジンサマノタメニ。ユウジンサマ、バンザイ」
「クラピーチャン、マジテンシ」
ビッグコアMk-IIIの太いレーザーがゴーレムの触手を焼く。
「おい……嘘だろ? お前ら正気に戻れよ! 俺たち誓い合ったよなぁ! 今は日陰者だけど、みんなで力を合わせて幻想郷を支配してやるんだって。いずれ復活するゴーファー様に幻想郷をプレゼントしようって。忘れちまったのか? そんなチャチな洗脳光線で消えちまうような契りだったのか!?」
必死の訴えもむなしく、他の巨大戦艦達もゴーレムを痛めつける。最大の急所である目だけは触手で覆うことで致命傷は防いでいたものの、ゴーレムはぐったりと動かなくなってしまった。その光景を目にニヤリと口角を上げる地獄の妖精。
「すっごーい、本当に強いんだね。コイツらさえいれば月の都も地上も友人様のものだ! そして私はご主人様と友人様に褒められるんだー、きゃっほーい♪」
暗黒の宇宙空間に再び掲げられた松明、その光に群がるようにバクテリアン軍は集まっていき、月へと向かってしまった。後にはここで命を落としたバクテリアン戦艦と頭を抱えながら震えているゴーレムが残っているのみである。
恐らくクラウンピースは自分の手足にしたバクテリアン戦艦を用いて月の都に襲撃をかけるのだろう。……ん? 歴史が少しズレてるぞ? 本来はシーマを仲間にして月の都を蹂躙していたはず。だが、今回はバクテリアンだ。穢れを恐れる月の民に「
とりあえずここでうずくまってるゴーレムを叩き起こそう。もしかしたら共通の敵ということで同盟を組めるかもしれないし、そもそも奴を一人にするとまた何かやらかさないか心配で仕方がない。
おずおずと残骸の影から姿を現すとうずくまるゴーレムに俺はゆっくりと近づく。
「なあ……」
「なんだよ、殺すんならさっさと済ませやがれ!」
そんなつもりなど毛頭なく、しばらく沈黙が続く。
「それともアレか? この俺様を笑ってやろうっていうのか!? 見ての通りバクテリアン戦艦はほとんどあの変なピエロ野郎に持ってかれちまった。もう策も兵もねぇんだよ。これじゃあ俺様の方がピエロだ!」
「香霖堂で色々助けてもらった恩くらいは返そうと思ってな。奴らのいる『月の都』は俺の目的地でもある。あいつらを助けてやりたいんだろ?」
俺一人ではクラウンピースの、そして純狐の軍勢にとても太刀打ちできない。月面戦争に
このままでは首領蜂隊の、ひいては青娥の介入を許してしまう。もしもそうなってしまえば訪れるのは「1周目」と同じ……つまり幻想郷の崩壊だ。
「はんっ、バカ言うんじゃねーぞ! 俺様がよりにもよって銀翼の末裔と組めっていうのか?」
「お前が要求を飲まないのなら、幻想郷は崩壊する運命だ。俺はそこに居合わせていたから分かる。お前らバクテリアンにとっても征服するべき世界がなくなるのは本望ではない筈だが?」
目を見開くゴーレム。アールバイパーが時空跳躍機能を持っているらしいことも知っているようだ。さすがは宿敵である。
「お前まさか……!? そうか、過去からやり直そうってことか。いいだろう、幻想郷征服の足掛かりとして貴様を存分にコキ使ってやる。せいぜい過労死しないように気を付けるんだな、ヒヒヒ」
お前もな。俺にとっても意外な展開だったが目的が一致したのだ、手を組んでおくのも悪くはない。
「(ねえ、あの脳味噌お化け、大丈夫なの?)」
「アレで意外と悪い奴じゃないんだよ……たぶん」
まあサグメの気持ちもわからんではない。正直不安要素しかないが、それでも「最悪の結末」を回避するためならどんな手でも使う。
(その頃、幻想郷某所……)
結局僕は大妖怪に逆らうことは出来ず、こうして九尾の狐の人質のような手下のような……とりあえず普通ならとても受け入れられないような屈辱を受けている。
元々荒事は苦手だし、相手が九尾の狐とあれば僕だって正面衝突すれば無事ではないだろう。だから従うほかなかった。
最初に頼まれたのは瀕死の重傷を負った霊夢を背負うこと。夜の闇の中、いささか心許ない月明りのみが僕に与えられた光だ。そんな劣悪な環境の中、かなりの距離を歩かされた気がする。
僕ははぐれないようにあの九尾の狐の声を頼りに歩みを進めている。だが、その行先はどうやら永遠亭ではないようだ。その証拠にいつまでたっても竹林らしい場所にたどり着かない。
さらには明らかに整備されていない獣道ばかり歩かせるのだ。まったく、力仕事はあまりしたくないというのに。その理由を彼女に聞いたら驚くべき答えが返ってきた。
「博麗の巫女がこのようなことになっていることを悟られてはいけない」
今ので確信した。この女狐、病院には意地でも向かわないつもりだ。恐らくは自分で霊夢の治療を施すつもりなのだろう。さらに現場を目撃されないようにかなりの注意を払っていることもわかる。これは途中で逃げたりしたら殺されるな……。
ヘトヘトになりながら目的地に着いたらしい。見上げると大きな屋敷が見える。案の定、永遠亭ではなくて八雲亭であった。
「君は優秀な妖怪なのだろうが、やはりこういったものはその道のプロに委ねるべきだと思う。素人が手を出していい領域じゃない。霊夢にもしものことがあったら……」
「この事件が明るみになれば幻想郷は混乱に陥るだろう。紫様は死に、霊夢もこの状態なのだから。今の幻想郷は危険な綱渡りの末に辛うじて維持できているに過ぎない。そのリスクを最小限にする為には私がやらないといけない」
それだけ言うと彼女は霊夢を抱えて部屋に閉じこもってしまった。僕に入口の番を任せて。
間もなく九尾の狐が籠っていた部屋からは炎の燃える音やブツブツと何か呪文を唱える音が聞こえてくる。あれでは手術というよりかは呪術だ。お湯の沸騰する音に雷がほとばしるような鋭い音、果ては金属を引っ掻いたような不快な音までが響き渡り、最後は爆発音がした。
ううむ、大丈夫なんだろうか……?
そうして気を揉むこと数分……いや数時間か? とにかく時間の流れも曖昧な中、締め切られていた扉がいきなり開かれる。あの九尾が顔面蒼白の面持ちをしていた。
「予定変更だ……。コイツを永遠亭に連れて行く。お前も一緒に来い」
呪術による蘇生を試みたが失敗したと見られる。ぐったりした手負いの少女を片手で抱えると、僕の腕を掴み、八雲亭の外へと駆ける。
「いいか道具屋、こうなった以上お前も共犯者だ。もはや私と共にある以外に道はないと思え。私から逃げたり霊夢のことを誰かに言いふらそうものならお前は死ぬ。一瞬でその体に流れる血液を凝固させて確実に殺す」
そんなえげつない術を一瞬でかけられるのだ、やはりこの九尾はただの妖怪ではない。
「いいか、これは幻想郷の為なんだ。いたずらに真実を伝えても民衆は混乱し、事態はさらに悪化する。そういうことだからもう一度言っておく、霊夢のことは絶対に口にするな!」
「待ってくれ、霊夢は一体どうなったんだ!? まさか手遅れに……?」
霊夢の身に何があったのかを知らせることもなく彼女は僕を反対側の腕で軽々と抱えて漆黒の空を飛翔する。やれやれ、こうなってしまえば僕に抵抗するという選択肢はなくなってしまう。
永遠亭に向かおうとしたということは完全な手詰まりではないのだろうが、霊夢の身に何があったのかが非常に気になる……。
※こちらは東方銀翼伝の原作にあたる作品に対して「エンダー・ヴァリー」氏が投稿した非公式の次回予告となります(それに対して筆者がビッグコアとして返答をしているという形式です)。
本人からの許可をいただいたので、この場をお借りして(一部修正して)掲載しております。
次回予告(壊)
にとり「そんなバカな…簡単過ぎる……あっけなさ過ぎる……」
早苗「ま、まぁ、元々使い捨てのブースターででしょう?」
にとり「最終的に壊れるのはいいんだよ。問題は開発当時、衝撃的な威力(と衝撃的な開発費)を叩き出し河童を歓喜の渦(と経済負担)に巻き込んだショットが、前方後方各一射しか出来てないじゃないかぁ!今回は言わせてもらう!ヘタクソー!アズマのヘタクソー!!」
早苗「というか、あのオーバーウェポン使い放題を昔から作れてたなんてスゴいですよね(その技術で固定砲台等作ってたら今回の事態に役に立ったのでしょうか?)」
にとり「次回『東方銀翼伝Re:∀CT 第4話』!しかし、アズマの動きはまだ少ないけど既に前回とは大きく変わってるね。一体何が……」
霖之助「そんなことより今回も悲惨な僕を誰か助けてくれないか……?」
ビッグコア「ブースターの元ネタは『サンダーフォースV』の『ブリガンダイン』ですが、こちらもどんなにダメージを避けて運用したとしても、ボスを撃破した時点でパージされてしまいます。
そういう意味ではボス級戦艦を落とし、更に宇宙空間に出てこれたので十分役目を果たしたと言えるでしょう。
1周目との主な違いは『藍が手負いの霊夢を回収しようとした際にアズマの妨害に遭う』『月の都がシーマに蹂躙されるより前にアズマが月の都を目指している』『クラウンピースが自分の手駒にしたのがシーマではなくバクテリアン』あたりですね。
ちなみに銀翼伝シリーズでの霖之助さんは道具を頼って自衛ができる程度でほとんど戦えないという設定です」