東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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ここまでのあらすじ

「八雲藍」に連れていかれた「霊夢」を探すために永遠亭に向かう「轟アズマ」と、相棒である銀翼「アールバイパー」。

 ところが永遠亭には霊夢は運び込まれておらず、診察も弟子の「鈴仙」に任せっきりで「永琳」は月からの客人である「稀神サグメ」と話し込んでいるところであった。

 突然部屋に押し入ることからサグメからは野蛮人扱いされるものの、永琳の推薦もあり、サグメと共に月の都上空に集結しつつある海洋生物型機械生命体の調査を行うことに。

 単体では大気圏突破のできないアールバイパーは夢を用いた通路「槐安通路」の使用許可を永琳から貰い、妖怪の山を目指すのだが、ここでバクテリアン軍残党の「ゴーレム」が行く手を阻む。

 今回は多数の戦艦だけでなく、超時空戦闘機の用いるオプションを無力化してしまう生体兵器「オプションハンター」を用意しており、アズマは苦戦してしまう。

 多数のバクテリアン戦艦「ガウ」から逃げ惑いながら、前のバクテリアン異変で使わずじまいだった大気圏突破用の追加ブースターを「にとり」に呼び出してもらい、宇宙に飛び出しつつバクテリアン軍を次々と撃破していった。

 ところが戦況が膠着する中、強烈な光がアールバイパーとゴーレム達を襲う。見上げるとそこには松明を掲げたピエロのような妖精「クラウンピース」が無邪気に笑っていた。

 そう、クラウンピースは宇宙空間で銀翼と熾烈な争いを続けていたバクテリアン戦艦を狂気の光で狂わせて自らの配下にし、月の都を襲わせようとしていたのだ。

 彼女が狂わせる兵器がシーマからバクテリアンに変わったとはいえ、このままでは月面戦争が勃発してしまい、首領蜂隊の関与を許してしまう。そうなってしまえば幻想郷は崩壊する運命だ。

 バクテリアン戦艦達を助けるべく、そして幻想郷の未来を取り戻すべく、サグメが色々と案ずる中、アズマはゴーレムと一時的に手を組むことにした。

 一方地上では八雲藍が「霖之助」に霊夢を八雲亭まで運ばせて、呪術による治療を施すが失敗してしまい、慌てて永遠亭に運び込むことになる。

 果たして霊夢の身に何が起きてしまったのか……。


第4話 ~蓮子と呼ばれた少女~

(幻想郷、迷いの竹林内、永遠亭前……)

 

 結局僕こと森近霖之助はまともな抵抗もできないうちに永遠亭まで連れてこられてしまった。さしもの九尾も霊夢の治療に失敗したという事態は想定外だったらしくどこか焦燥しているようだ。

 

「ここからは私一人で行く。帰りたければ一人で帰るといいさ。……まあ帰れるならばの話だけど」

 

 どこか嘲笑したかのような口ぶりで彼女は金色の瞳をざわざわと音を立てる笹の葉に向ける。ここを離れれば迷いの竹林であり、中で迷子になってしまえば命の保証はない。

 

 僕がここから一人で離れられないのを知っていてこうやって意地悪をしているのだろう。そう、ここは夜の迷いの竹林、こんなところでほっぽり出されて五体満足で外に出られるかどうか……。これは明らかに分が悪い賭けと言わざるを得ないだろう。

 

「やれやれ、選択肢はないようだね」

 

 あんなことを言っているが、彼女にも余裕などないはずだ。どこからか取り出した黒いローブを頭からすっぽりとかぶると霊夢を抱えて中に入って行ってしまった。まるで子供が急に熱を出して慌てて病院へ向かう母親のような、そんな光景に見えた。

 

 結局は囚われの身といったところだ。それにしても霊夢は誰と戦っていたのだろう? 僕や霊夢を狙う存在がいたのまでは分かるが、僕は奴の姿を見ていないのだ。僕を守るために扉に封印を施し、霊夢はたった一人で戦いに挑み、そして敗れたのだろう。

 

 それにしても、誰が何のために霊夢をここまで痛めつけた……?

 

 と、思索を巡らせていると遠くから獣の唸り声のようなものが聞こえてきた。まずいな、獰猛な妖怪がこの近くにいるのか。僕は慌てて近くの竹に身を隠して様子をうかがった。

 

 それは尖った骨か牙……いや、爪か? とにかく白くて尖った硬そうなものを組み合わせたような姿であった。それが音もなく浮遊してこちらに近づいてきているのだ。

 

 前方には大きな牙のようなかぎづめのような鋭い顎があり、胴体部分にわずかに肉塊が盛り上がっており、一応は生命体らしいことが分かる。今も肉塊は小さく鼓動を続けている。

 

 あのグロテスクな見た目はまさかバイドじゃないだろうな……。まいったぞ、仮にそうだとしたら厄介なことになりそうだ。言葉が通じない上に攻撃的な奴らだと聞くし、仮に意思疎通ができたところで話が噛み合わないなんて事態はザラにあるというのだから。

 

「チックショウ、俺の全財産をルーミアちゃんに賭けたっていうのによぉ……ブツブツ」

 

 恐らくは賭け事で大負けしたのだろう。そういえば胡散臭いタヌキの妖怪が賭け弾幕ごっこの元締めをやって随分と儲けているらしいという噂を耳にしたことがある。

 

「これじゃあ俺様『クロークロー』スカンピンで『苦労苦労』だ。カネは貯まらないのに鬱憤だけが溜まりやがる……ヒック」

 

 少なくとも対話ができるタイプのバイドであるようだ。だが状況は明らかに悪い。賭け事に溺れ、あの調子だと酒にも溺れているのだろう。その素行の悪さは人間だったらチンピラの類、できれば関わり合いになりたくないタイプである。だというのに僕はうっかり奴と目を合わせてしまった。

 

「ああン? 見世物じゃねぇんだよ、この眼鏡がっ! ああそうだ丁度いい。お前随分と身なりがいいじゃないか。ちょいと金目の物を恵んでくだせぇ……よっ!」

 

 僕は殺気を感じ、とっさに身を屈めた。案の定「クロークロー」と名乗ったバイドはその前方の大きな爪を振りかざし、斬撃を放っていた。先ほどまで僕の立っていた場所の竹がスッパリと両断されている。

 

「ひいい……」

 

 相手が飲んだくれで助かった。その狙いは甘く、明らかに素人丸出しな僕の動きでも回避することができた。だが、僕は恐怖のあまり腰を抜かしてしまった。バイドに両断された竹の鋭い切り口がこちらを向いている。そう、その切れ味は全く衰えていないようなのだ。

 

 僕はこういった荒事が大の苦手だ。いつもなら様々な道具で撒いて見せるのだが、あいにく今回は九尾の狐にさらわれている身。ロクに対策などできる筈がないのだ。

 

「お前までこの俺様を馬鹿にするのか! 気に食わん、気に食わんっ! 命までは取らないつもりだったが久方ぶりにバイドの本能が疼きだしやがった。細切れにしてやるっ。ギチギチギチ!」

 

 腰を抜かしている僕に回避するという選択は取れない。だがみすみす殺されるつもりもない。立ち上がれなくても少しでも後退しようと必死にもがく。そしてその手が何か固いものを掴んだ。

 

「これは……!」

 

 先程クロークローが両断した竹である。斜めに鋭く斬られたそれは即席の竹槍としても使えそうである。

 

「ええい、ままよっ!」

 

 鋭い爪の中心、その奥で怪しく赤く光る奴の目玉めがけて僕はそれを思いきりぶん投げた。生々しい肉の裂ける音を立てながら竹槍は深々とバイドの中心に突き刺さった。

 

「ギャアアアア!?」

 

 よし、これでしばらく奴の視界は封じられた。だが僕の手ではバイドを完全に退治することは出来ないだろう。なのでこの後逃げなくてはならない。……どこへ?

 

 迷いの竹林を出鱈目に走ったところで遭難してしまうのは火を見るよりも明らかである。だからといってこの場に残るという選択はあり得ない。何故なら……

 

「こンのクソ眼鏡! どこ行った? ぶっ殺してやる!」

 

 爪を滅茶苦茶に振り回して周囲の竹を切り倒し続けているのだ。あんな奴の傍に居続けるなんて自殺行為である。そうなると僕が逃げるべき場所は……。

 

「やれやれ、結局そうなるのか」

 

 永遠亭の中に逃げ込むしかない。そしてそれはあの憎き藍の下につくことを意味する。それも僕自身の意思でそうすることになるのだ。だが、命に代えることは出来ない。

 

 今も暴れるバイドを尻目に、僕は永遠亭に転がり込んだ。

 

 薄暗くもどこか美しい永遠亭の回廊。このどこかに傷ついた霊夢と藍がいる筈なのだが、この回廊を見る限りではとても病院とは思えない慎ましくも美しいたたずまいである。

 

 暴れる呼吸を抑えながら僕は永遠亭の奥を目指す。万が一あのバイドに再び捕捉されたら厄介なのでね。回廊を進んでいるうちにあの藍の声がかすかに聞こえた気がした。霊夢の状態も気になる。僕は吸い寄せられるように藍がいるであろう部屋へとフラフラと近づいて行った。

 

 何度も曲がり角や分かれ道を経て藍がいるであろう部屋の前までたどり着いた。扉を少しだけ開き中を覗き込む。そこには汚れてボロボロになった巫女服を脱がされ下着姿で横たわる霊夢の姿が見えた。

 

 傍にいるのは頭からすっぽりとフードを被った長身の女性の姿。特徴的な九尾は見えないが、その声は明らかに藍のものである。ハッキリと会話が聞こえるわけではないものの、霊夢の容体は安定しているようで、数日も入院していれば快方に向かうそうだ。まったく、最初からこうしていればよかったのに……。

 

 霊夢が無事に目覚めて退院できれば僕も晴れて自由の身になれるし霊夢のことを誰に話しても問題はなくなるだろう。だが、今もフードを被った藍の次の一言で僕はその認識が甘かったことを痛烈に感じることになる。

 

「では外来人『宇佐見蓮子』のことを頼んだぞ。急な幻想入りで記憶も混乱しているだろうからそちらのケアも進めてもらえると助かる」

 

 ウサミレンコ? それに外来人だって!? いやいや、今も横たわっている下着姿の少女は明らかに霊夢だ。長年の付き合いなのだから特徴的な巫女服やリボンがなくたって僕には彼女を正確に認識できる。

 

 随分と手の込んだ設定だが、永琳にも博麗の巫女が瀕死の重傷を負っているという事態を伝えたくなかった……と考えるのが妥当だろう。……いや待て。この結論には何か違和感があるぞ?

 

 困惑している最中、永琳が診療室から出てきた。

 

「あら、早速外来人の噂を聞きつけてやってきたのかしら? 一応面会は認めるけれど、記憶も混濁しているようだし患者さんに無理はさせないであげてね?」

 

 ニコリと微笑みながら彼女は去っていく。僕のことを外の世界の話を聞きに来た男と認識しているのだろう。中には藍も残っており今は眠りについている蓮子……いや、霊夢の傍で一人立っている。

 

「なんだ道具屋、外で待っていろと言っていた筈だが?」

「妖怪に襲われたのでここまで逃げてきただけだ」

 

 バイドは妖怪ってことでいいんだよな? どのみち脅威的存在に襲われたという点には変わりがない。

 

「それより彼女の容体はどうなんだ?」

「さすがは永遠亭の名医だ。数日入院していれば怪我は完治するという。後遺症も残らないというしひとまず幻想郷は安泰だ」

 

 そうか、それはよかった。……いや、なんだこの背筋にゾクリとくる寒気は? ニンマリと安堵の笑みを浮かべる藍の口角が僕をそうさせている。霊夢ではなくわざわざ外来人と偽装したのは「博麗の巫女が瀕死の重傷を負ったという事実を広めたくない」というもの以外の思惑が見え隠れしているようなのだ。

 

 藍が言うには紫は既に死亡しているらしい(アズマは逆に「紫は生きている」なんて言っていたが、藍の言い分の方が信憑性があったので死んでしまったと考えたほうがいいだろう)。これだけでも幻想郷は一大事だというのに、霊夢が大怪我を負って病院送りになるなんて事態が明るみに出れば幻想郷は統率が取れなくなり、下手すれば博麗大結界の破壊を待つことなく崩壊してしまう可能性だってあり得る。

 

 その事実は隠さなければならない。そうでなければ僕を拘束する必要だってない。だが、永遠亭の医療技術をもってすればそんな霊夢も数日もあれば五体満足で治療可能だというのだ。つまり永琳には霊夢の正体を隠す必要がない。むしろ正体を明かした方が永琳は集中的に治療を施してくれるのではないだろうか?

 

「永琳にまで嘘をつくことなかったんじゃないか?」

「病室に『博麗霊夢』の看板でもつけてみろ。すぐさま鴉天狗の巣になるぞ」

 

 やはりそういうことか。いやいや、それでは答えになっていない。永琳に事情を話せば……というか聡明な彼女なら事情を汲んでそんなことはしない筈である。やはり何かがおかしい……!

 

「ところで、容態が安定しているというのなら僕も霊夢と話がしたい。そもそも霊夢が大怪我したのは僕を庇ったからなのだよ。僕が無事であることを彼女に伝えたい」

「霊夢ではなく蓮子だ。それにぐっすり眠っているのを邪魔するつもりか?」

 

 一言声をかけるだけだ。僕はそれくらいの軽い気持ちで霊夢に近づいた。だが、藍はそんな僕をかたくなに拒絶し押しやろうとするのだ。

 

 藍に思いきり押されて僕は思わずよろめいてしまう。

 

「ダメだ道具屋。万が一の事態になったら非常に困る。だから今はゆっくりと寝かせてやるんだ」

「一言声をかけるだけだ。そこまで言うのなら置手紙はどうだ? これなら霊夢を起こすこともない」

 

 ところが藍はそれすらも否定するのだ。意味が分からない。まるで僕を霊夢から引き離そうとしている意図すら透けて見えるようであった。

 

「なぜ手紙すら許してくれないんだ? 手紙なら意識が回復してからじっくり読めばいいだけじゃないか」

「さあ、これ以上は蓮子の体に障る。そもそも年端もいかぬ下着姿の少女のいる部屋にいつまで居座っているつもりだ!」

 

 このまま僕を部屋から追い出そうとする。納得のいかない僕はそれでも抵抗して押し返すのだがやはり相手は九尾の狐。僕なんかが敵う相手ではなく、押し倒されてしまった。

 

「観念するんだ道具屋。今は一人で眠らせてあげようではないか」

 

 ぐう、やはり僕に荒事は向いていない。こうやって組み伏せられてしまっては抵抗が出来ない。

 

「分かった、分かったから乱暴はよしてくれ。霊夢……いや、蓮子との面会は後日行うことにする」

 

 諦めた旨を藍に伝えると、僕はようやく立ち上がることが出来た。だが、今の騒ぎで下着姿の少女が目を覚ましてしまったようだ。ベッドから体を起こした彼女は……恐怖にひきつった表情を見せていた。

 

「バ、バケモノ……。狐のバケモノ!」

 

 驚きのあまり硬直していた彼女はその直後に金切り声を上げて周囲の物という物を藍に投げつけてくる。

 

「いたたた、私は君の味方だ。だから落ち着いてくれ!」

「いやぁっ! メリー、メリーはどこにいるのっ!?」

 

 見境なく物を投げつけてくる彼女はもはや手が付けられない。これは避難するべきと踵を返した瞬間、後頭部に強烈な衝撃が走る。どうやら「流れ弾」に当たってしまったようだ。凄まじい衝撃は僕の意識を途切れさせるには十分すぎる威力を誇っていた。

 

 薄れゆく意識の中、どうして霊夢が外来人の蓮子と呼ばれていたのか、藍を見て半狂乱になったのかを思索していた。

 

 もしや藍のことを覚えていないのだろうか? やはり大怪我のショックで記憶がなくなったのか……?

 

 それでは藍が呪術で行おうとしていたのは破壊された霊夢の記憶を復元するもの……?

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