東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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人里に向かって狂ったように進撃するバイド達。アズマと早苗は人里に到着する前にバイドを全滅させようとする。
しかし巨大バイド「モリッツG」が2機も投下され、2人はそちらの対応に追われてしまう。
狂ったように突き進む兵器をどうにか無力化出来たアズマ達は、他のバイドが既に人里に到達していないかと案じつつ、飛翔する……。


※こちらは正史ではないエンディングになります。


第11話A ~沈む夕陽~

 人里に到達した。長い長い夏の夕暮れ。いまだ日の入りを迎えず夕陽射すこの場所は……あちこちの建物が破壊されていた。

 

 上空のコンバイラ率いるバイドの艦隊が地上の建造物にミサイルを撃ち込んだりレーザーを照射したりしたのだろう。住民達は既に避難したのか、生きている人間の気配はない。

 

 そう、()()()()()人間はいない。つまり、逃げ遅れた人もいるのだ。そのような人間は既に屍となっている……。

 

「ひどい……」

 

 妖怪賢者や慧音先生の尽力によって妖怪の跋扈する幻想郷において安息が約束されているはずの人里は見るも無残な廃墟になっている。思わず早苗も言葉を漏らしていた。

 

 だが、上空を見ると恐らくフラグシップであろう赤い暴走戦艦「コンバイラ(※1)」を除くとバイドはいない。そのコンバイラも片方のスラスターから黒煙が上がっており随分と痛手を負っているらしいことが分かる。

 

「誰か戦っているのか?」

 

 あれだけいた艦隊はほとんど全滅、しかもコンパイラも手負いなのだ。いったい誰が……?

 

 思索を巡らせていると七色に光る弾が弧を描きながらコンバイラに迫っていく。光はコンバイラに着弾するとはじけ飛んでいく。対するコンバイラもミサイルで反撃を試みるが、その対象はまるで実体を持たないかのように残像をまといながらすべて回避してしまう。

 

「霊夢さんっ! それに紫さんまで!」

 

 光弾は紅白巫女のものである。そう、俺なんかでは全然歯が立たないあの反則級の人間「博麗霊夢」だ。しかも妖怪賢者こと恐らく最強の妖怪の一人であろう「八雲紫」まで加勢しているのだ。

 

「遅かったじゃないのアズマ。ちょっとイタズラが過ぎたから勝手に始めているわよ」

「紫、これがバイドっていう侵略者? 大したことないわね」

 

 まさか二人であれだけいたバイドの艦隊とやり合ったというのだろうか? つくづく滅茶苦茶な二人である。

 

 更にこの結果組の追撃は続く。霊夢は高く跳躍したかと思うとコンバイラに飛び蹴りを放ち、怯む間もなく紫は式神である藍を突撃させた。

 

 再びコンバイラの推進装置が爆発を起こすと、光が失せた。動力を失ったコンバイラはゆっくりと高度を下げていき……激しい地響きを起こしながら墜落した。遅れてバイドを屠った二人も地上に降り立ち、ゆっくりとコンバイラに向かう。

 

 コツコツと靴の音が遠ざかり、そしてコンバイラにとっては近くなっていく。手負いの暴走戦艦は破損したスラスターを強引に起動させようとスラスターを吹かすが、虚しく擦れた音が響くのみであった。

 

『ウォォォォォン……』

 

『ウォォォン……』

 

『ウォ…ォン……』

 

 次第に弱まりゆくスラスターの音。漏れ出る光の粒子。迫る脅威を前にして何の抵抗も出来ずに泣き叫んでいるようにも見える。粒子はまるで流れる涙だ。

 

「コイツ、泣いている……?」

 

 すっかり弱ったコンパイラはいまだに悲しげな声を上げる。沈む夕陽の中、規格外の人間と妖怪に敗れ、まさに息の根を止められる彼。泣くだけのエネルギーも使い果たしたか、スラスターを吹かして嗚咽していた。俺にはそのように聞こえてしまったのだ。

 

『キガ ツク トワ タシ ハバ イド ニナ ツテ イタ』

 

 不意に声を聴いた気がした。それは恨みつらみこもった声というよりかは、本当に理不尽な暴力にさらされて涙しているような声であった。声はまだ続く。

 

『ソレ デモ ワタ シハ チキ ユウ ニカ エリ タカ ツタ』

 

 こいつ、まさか……!?

 

『ダケ ドチ キユ ウノ ヒト ビト ハコ チラ ニジ ユウ ヲム ケル』

 

 間違いない、これはコンバイラ……いや「提督」の声だ。幻聴かもしれないが、今の状況を考えるとそうとしか考えられない。その彼は今まさにとどめを刺されそうになっている。俺は反射的に声を上げていた。

 

「待ってくれ!」

 

 無意識の力というのは恐ろしい。大声を上げたかと思うと、俺はまるでタックルするかのように俺はお札を掲げる霊夢の肩に抱き付いていた。

 

「待ってくれ! こいつは、こいつはぁっ……!」

 

 こちらも気が動転しており次の言葉が出てこない。

 

「何よ、手柄を横取りする気?」

 

 当然のように冷めた反応。知らないからだ、霊夢は何も知らないんだ!

 

「違う、手柄なんてどこにもない! こいつは人間だっ! 英雄なんだ! だのに……こんな仕打ちはあんまりじゃないか!」

「気でも触れたのかしら? どう見ても化け物じゃない」

 

 相変わらず冷淡な反応。わずかに冷静さを取り戻した俺はなおも反論を続ける。やはり霊夢は何も知らない。ここは一から説明をしなくては。

 

「それでも人間だ。いや、正確には人間だった。艦隊率いてバイドの中枢を破壊して帰って来たんだよ!」

「でもこいつどう見てもバイドとかいうバケモノじゃないの。仮にアンタの言っていることが正しいとしても中枢で負けたとか乗っ取られたとかしたんでしょ?」

 

 ぐ……反論できない。さらに悪いことに追撃が別の方向から仕掛けられた。

 

「どの道……、バイドの種子で幻想郷を汚染しようとしたり、人里を荒らし回って犠牲者まで出した怪物を英雄として迎え入れることはできないわ。貴方は本当に私、ひいては幻想郷の意思に反抗するのがお好きなのね」

 

 確かに……。後ろで控えていた早苗さんも俯いてしまっていた。

 

 今も悲しげな音を張り上げるコンバイラの傍にいた俺はつまみ出されてしまった。抵抗したら「アンタも巻き添えにする」と言い出すのだ。これではどうしようもない。

 

 抵抗出来ないのをいいことに堅牢な結界を展開する準備を執り行い、そしてスペルの名前が紡ぎだされた。

 

「二重結界!」

 

 四角形の結界が2つコンバイラを中心に回転し、そして爆発四散した。残った残骸もドロリと溶けてそして消えてしまった。

 

「『提督』、おかえりなさい。そして、ありがとう……」

 

大物を仕留めたと喜ぶ結界組の後ろで、俺は静かに涙した。

 

「……」

 

 恐らく俺の必死の説得を見て何かしらの事情をくみ取ったのだろう。早苗も無言で俯いていた……。

 

 

__________________________________________

 

 

 

 コンバイラが人里を襲撃して1年が過ぎた。バイドの爪痕は深いものではあったものの、人里はかつての活気を取り戻しつつある。

 

それでも俺は夏の夕暮れになるとあの事件がどうしても脳裏によぎってしまうのだ。ああ、またあの夏がやって来たのだ……と。

 

 命蓮寺墓地の一画、俺は比較的新しい墓標に金水引を手向ける。金水引の花言葉は「感謝の気持ち」。

 

「幻想郷中の誰もが認めなくても、俺は貴方を知っている。提督、ありがとう……」

 

 どうしてもこの時間になると勝手に足が向かってしまうのだ。手を合わせて墓地を後にしようと振り向くと神妙な面持ちをした住職サマがいた。

 

「貴方にとってとても大切な人だったようですね」

 

 正直言うと確信は持てない。あの時聞こえた悲痛な叫びが幻聴だったのか、それとも本当にコンバイラのものだったのか。さらにそのコンバイラが本当に「提督」つまり「ジェイド・ロス(※2)」のものであったのか?

 

 それでも俺は弔わずにはいられなかったのだ。白蓮さんにも相当無理を言って葬儀を執り行って貰ったりもした。だからこそ、俺は「提督」の声を聴いたと信じたい。

 

「ああ、かつて地球を救った英雄だからね」

 

 白蓮さんには「ジェイド・ロス提督」の話をしている。英雄としてバイドに挑み、そして帰還した後の涙なしには語れない経緯も含め。

 

「人里の件は許されないことですが、アズマさんの言うことが本当なら悲劇ですね……」

 

 俺の隣で白蓮さんも手を合わせる。しばし無言の時が流れるが、懐で激しい振動と光が発生する。宝塔型通信機だ。慌てて取り出すと地面に置いてホログラムを表示させる。一輪のものであった。

 

「妖怪の山ふもとにてバイドらしき妖怪の大群を発見しました! 私一人ではどうにもなりませんっ!」

 

 うむっ、緊急連絡か。俺はレプリカの宝塔を乱暴に回収するとアールバイパー格納庫へと走った。

 

 この1年で幻想郷も大きく様変わりした。人里を蹂躙したコンバイラを屠った霊夢は突如体調不良を訴え昏睡。共にコンバイラを退治した八雲紫も何か神妙な面持ちで昏睡する霊夢を連れて地底へと潜り込んでしまったのだ。

 

 あれから数か月、妖怪賢者や博麗の巫女の姿を見た者はいない。連絡も途絶えてしまい、紫の式神達や霊夢と特に親しい関係にあった魔理沙がその身を案じる日々が続く。

 

 幻想郷の結界を司る二人が一気に音信不通となったのだ。下手すると幻想郷も危ないかもわからない。もちろんそんなことにならないように藍が尽力してはいるが……。

 

 そして二人が地底へ向かってからだった。その地底から地殻を蹴破ってバイドが幻想郷を襲い始めるようになったのは。

 

 ここ最近はそのバイドも数を増やし、なおかつ狂暴化しているという。バイドが地上に出てくるのを待って叩くばかりでは埒が明かない。

 

「これはいずれ本格的に対バイドミッションを発令しないといけないかもしれない……」

 

 そんなことを脳裏に描きつつ、銀翼は命蓮寺から出撃するのであった……。

 

 

 

東方銀翼伝ep3 T.F.V. Bad End




(※1)コンバイラ
R-TYPEに登場した暴走戦艦。4面のボスであり分離合体を繰り返して攻撃してくる。
番外編であるR-TYPE TACTICSではバイド編の主役艦のような立ち位置になっている。こちらでは分離機能はオミットされているようだが、強力な波動砲「フラガラッハ砲」を装備している。

(※2)ジェイド・ロス
R-TYPE TACTICSシリーズに登場する提督。階級は少将。
かつて艦隊を率いてバイドの中枢「漆黒の瞳孔」を撃破するも、取り込まれてしまいバイド化。本人はそのことに気付くことなく地球に戻ってきてしまう。理不尽な暴力に晒されながらも……。

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