東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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地霊殿で「さとり」に敗れたアズマ達は原始バイドの「バラカス」が統治する村に身を隠す。
ところがさとりのペットである「お燐」の魔の手はここにまで伸びており、無防備なアズマに牙をむくのであった。


※本エピソードが正史となります。


第10話B ~お燐の想い~

 露天風呂で無防備になっていた俺にゆっくりと近寄ってくるのは地霊殿で見かけたあの黒猫だ。直接戦闘を仕掛けるのはあまりに無謀である。

 

 冷静になるんだ。お燐がいくら人知を超える能力を持った妖怪といえど、化け猫は化け猫。そう、猫なのだ。

 

 猫は何が嫌いか? そう、猫は濡れることを極端に嫌う。そしてこの風呂場という場所はその苦手な水がそこら中にあるではないか。

 

 俺は思い切り深呼吸をした。何を仕掛けるのか? いいや、仕掛けるのではない。俺は思い切り息を吸って……潜るっ!

 

 こちらは水の中、いくら妖獣といえど水を嫌う猫の体では手出し不可能の筈だ。咄嗟のことだったので息継ぎのことなど考えていなかったが、この邪魔の入らない水の中で対策を考えればいい。今の俺に必要なのは冷静さを取り戻すための時間と安全な場所だ。

 

 鼻をつまみ、その全身を水中に沈める。さて、どうしたものか。どうにかして助けを求めたいところだが、浴槽の中から白蓮達のいる場所まで繋がってる筈もない。ううむ、このままでは袋の鼠。いずれこちらの息が続かなくなって水面に出た時にやられてしまう。考えろ、考えろ……!

 

 どうにかしてこの事を外に知らせなくてはいけない。白蓮、提督、それこそバラカスや罪袋どもでもいい。……そうだ罪袋だ! あいつら、バラカスと一緒に白蓮のお風呂を覗きに行っていた筈。あいつら専用の秘密の水路とかあったりしないだろうか?

 

 水中ゆえに視覚は不明瞭なので手探りで浴槽を調べて回る。

 

 ……駄目だ、排水溝らしきもの以外見つからない! まさか排水溝を使ったとも思えないし……くっ、時間切れだ。もう息がもたない!

 

「ブハッ! はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 たまらず俺は水上に顔を出す。待ち構えた居たかのようにこちらをじっと睨み付けるお燐。命運尽きたか……?

 

 まさに蛇に睨まれた蛙。お燐は化け猫の姿ゆえに俺よりもずっとサイズが小さいが、当然俺が蛙の方だ。

 

「……せよ」

 

 もはやこれまでだ。俺は自暴自棄になっていた。

 

「とっとと殺せよ! 地霊殿を襲撃した報復に俺を殺しに来たんだろ! 隙を突かれた俺の負けだ、もう戦う意思もない。とっとと首掻っ切ってアンタの飼い主、さとり様とやらに献上しやがれよ!」

 

 浴槽で仁王立ちしながらも、俺は目に涙を浮かべながら最後までお燐を睨みつけていた。それを聞くと化け猫は俺の喉元に飛びかかってくる。俺にはその動作が非常にゆっくりに見えた。そして走馬灯のごとくフラッシュバックするのは幻想入りしてからの刺激的すぎた毎日……。

 

 そのビジョンを引き裂くがごとく、鋭い爪を今も隠しているであろう猫の手が……プニュと俺の額を押した。に、肉球!? 爪を突き立てるのではなく、柔らかな肉球で俺の額を蹴ると背後にまで跳躍したのだ。

 

「馬鹿にしやがって! さては俺を散々精神的に屈服させた後で……」

 

 温泉のお湯が湧き出る少し高台となっている岩場に立つと「ニャーン」と再び大きな鳴き声を上げる。上げながらその体は眩く発光し、そして化け猫は少女の姿となった。

 

「この姿にならないとさとり様以外とはお話も出来ないから辛いもんだねぇ。少女の姿は窮屈だというのに」

 

 何か様子がおかしい。猫の姿でも十分に俺を殺ることで出来たはずだ。だというのに話が出来ないと言って赤毛の少女の姿に変わったではないか。これでは話すことが目的であると言っているようなものだ。お燐は俺と何を話しに来たんだ?

 

「話だと? 何の用事だ? どんなに説得されても貴様の仲間になるつもりなどない! お前らの手先になるくらいならここで殺された方が数倍マシだ!」

「あー、何もわかっちゃいないわね。あたいはね、確かに死体は好きだけど、自分で死体を作るのはナンセンスだなーって思ってるわけよ」

 

 むっふっふと含み笑いをするお燐はさらにこう続ける。

 

「それにさ、そうやって強がっている割には本当は怖くて仕方がないんじゃないかい? だって、こんなに縮こまってる。ふふっ、小さいと結構可愛いもんだね♪」

 

 そうやってからかうお燐が俺の下半身に視線を移していることに気が付いたのはその数秒後。俺は慌てて浴槽に入り込んだ。み、見られた……。

 

 俺が落ち着いたのを確認するとお燐はコンパクを解放した。彼女はプルプルと身震いすると俺の後ろに隠れてしまった。よほど怖かったのだろう。

 

「それで、わざわざ裸の俺なんて捕まえて何を話そうってんだよ?」

 

 お燐の視線は湯船に座り込んでもどうも股間に行っている気がして落ち着かない。今もニヤニヤしてるし。

 

「あと人と話す時は相手の顔を見なさい、顔を」

「ああ、これは失礼。実はお兄さんに頼みがあってきたのよ。さとり様に一撃ぶちかまそうとした変な鳥の妖怪の正体はお兄さんでしょ? あたいは猫に変化するけど、お兄さんは随分と不恰好……いやいや、個性的な鳥に変化するんだねぇ」

 

 くそう、こいつもかよ。だが、天狗の新聞にも出るようになったし、知名度は明らかに上がっている筈。ひょっとしてワザと言ってるんじゃないだろうか? 最近になって俺はそういう疑念を抱くようになったが、それを確認する術は俺にはない。仕方ないのでお約束の返事をする。

 

「だからアールバイパーは変な鳥の妖怪じゃなくて超時空戦闘機、乗り物なの」

「知ってるよん」

「こいつ……。で、おおよそ人に物頼むものとは程遠い態度で何を望むって言うんだ?」

 

 ひとしきりこちらをからかうお燐であったが、いよいよ本題に入るのか、その面持を真剣なものに変えた。

 

「さとり様と戦うのをやめて欲しいんだ」

 

 こいつ、散々人を弄んでおいて主に手を出すなというのか。それともアレか? 私の命を差し出すから見逃してくれっていう……。いやそんな感じでもないな。

 

「馬鹿言うんじゃない! あんたの主は『バイド』という名前の悪魔に魂を売り渡したんだぞ。バイドってのは有機物無機物問わずに取り付いて本人の無意識下に凶暴化させ、更に周囲をバイド汚染させる。そしてバイド化した存在はその肉体を滅ぼさない限り救われないというシロモノ。俺の知る限り最も恐ろしい生体兵器だ……」

 

 リリーホワイトの一件が今も脳裏でちらつく。俺はさらに続けた。

 

「さとりがどんな野望を持ってバイドと手を組んだのかは知らないが、アレは人類の手に余る存在だ。このまま放っておいたら幻想郷は大変なことになる。今までのどんな異変よりも……だ」

 

 こんなこと頼むためにわざわざバラカスの城まで忍び込んだのか? 主への忠誠心は十二分にあるが、外交をするにはいささか知恵が足りないようだ。

 

「やっぱり……。そう、お兄さんの言う通り放っておいたら大変なことになるのね。でも、そのバイドって奴と手を組んだのはさとり様じゃないの」

 

 なんだと? 俺はガバっと立ち上がると身を乗り出してその話を詳しく聞こうとした。

 

「ふむふむ、それがいつもの姿。暖まったんだね♪」

 

 う、うるさいっ! こいつまた人の股間を……。

 

 込み入った話になりそうだし、場所を変えるべきだろう。俺も十分に暖まったし。

 

 今も自分にないモノをしげしげと観察しているお燐。俺は無言で無礼な化け猫の首根っこを掴むとそのまま脱衣所まで歩みを進めた。

 

 風呂から出ると着替えに袖を通す。お燐は脱衣所の隅っこで椅子に腰かけているが、なんか視線が気になって集中できない。よし、とっとと着替えて話を聞こう。

 

 俺は適当な部屋を借りてじっくりと話を進めることにした。

 

「よし、さっきの話を詳しく頼む。つまり、あんたの主であるさとりはバイド異変の首謀者ではないんだな? でも彼女は俺達の調査に非協力的だったぞ」

「うん、あたいの魂をかけてもいい。さとり様はバイド異変の首謀者でもなければ賛同者でもないわ。でも協力できなかったのは……そのお兄さんの言う『首謀者』のせいかな?」

 

 風呂場での人を食ったような態度とは真逆の面持ちで話してくれる。彼女は本当にさとりが好きなのだろう。今だって自分の身を挺してまで潔白を証明しているではないか。

 

 異変の首謀者のせいで俺達に協力できなかった。つまり真犯人に脅されているとかかな? だが、真相はそんな単純なものではなかったのである。

 

「さとり様はお兄さんの心を読んで地上での出来事を知っているんだ。バイド化した少女を手にかけたんだってね。そしてお兄さんはその異変の首謀者にも同じことをするんじゃないかってのを恐れている」

「じゃあバイドを集めている黒幕ってのは……!?」

 

 伏し目がちに、そして途切れ途切れにお燐は続けた。

 

お燐「そう、あたいと同じさとり様のペットだよ。お空、正しくは『霊烏路空(れいうじうつほ)』って名前でね。八咫烏の力を持った地獄の鴉なんだ。ちょっと忘れっぽいところはあるけれど、大切なことは絶対に忘れないし、あの子もさとり様が大好き」

 

 そいつが黒幕か……。

 

 つまり古明地さとりが俺達に情報を吐かなかったのは、彼女が可愛がっていたペットがバイド化しているのがバレたら俺達に殺されてしまうから……ということになる。

 

 バイド化の仕組みは提督の心を読めばバッチリ分かってしまうし、もしかしたら似たような境遇のバイドが地霊殿を襲撃した際に知ってしまったとも考えられる。

 

 もしも白蓮がバイド化していたとして、それを俺だけが知ってしまった時、俺はどうしていただろう? 彼女は、さとりはそれと同じくらいの苦しみに苛まれていたのだ。

 

「そのお空ってのがバイドに肉体を乗っ取られているならば、俺はその肉体を破壊しないといけない。それしか手はないんだ。辛い選択だが……」

 

 その俺の手を両手で覆うように包み込んだのはお燐。炎を扱う妖怪とは思えない程に冷たくなっていたその手はふるふると震えていた。

 

「うん辛いよ、とっても辛い。お空はあたいの親友だし、バイド化してひとまず旧灼熱地獄から出られないようにしてからも何度か会っているのよ。でもお空が力を制御できなくなっちゃってて、さとり様は危ないから行けない。だからお空に会えるのはあたい一人」

 

 ポタと俺の手の甲に水が落ちる。

 

「でもバイドも心までは侵食しきれないようでね、ちゃんと記憶はそのままなの。さとり様が初めて来なくなった日は『さとり様は?』って寂しそうに聞いて来たり、あの子は普通に振舞ってるつもりでも、あたいやさとり様を怪我させちゃったりとかしてさ、あいつなんて言ったと思う? 呑気に『だいじょーぶ?』だってさ。心まで化け物になったら諦めもつくのに、こんなの余計に辛いよぉ。うっ、うっ……」

 

 先程までの軽口からは予想だにしない声が漏れ出ていた。本当は胸が引き裂かれるような思いなのだ。さとりはそんなお空を守ろうと庇い、お燐はそんなかつての友を本当の意味で救うべく、俺に助けを求めた。

 

 泣きじゃくる猫の妖怪を優しく抱き留める。赤の他人でさえバイド化した少女を手にかけるのは躊躇したのだ。それが親しい間柄となると猶更。少しでも心の支えになって欲しい、俺はただそう思ってこんな行動に出たのだ。

 

「お兄……さん?」

 

 そう、幻想郷の少女同士で小競り合いなどやっている場合ではない。全ての元凶は地霊殿の奴らじゃなく、バイドなのだから。

 

「轟アズマだ。君にとって、そしてさとりにとっては辛いだろう、この真実は」

「あたいも……辛い。これ以上お空が苦しむところを見るのは。お願い、お空を助けてあげて!」

 

 助けるということ、それは即ち……。だがお燐はその選択を下せた。いいペットじゃないか、古明地さとり。もちろん俺も協力は惜しまない。

 

「ああ、あんたの親友をバイドの呪縛から解放しようじゃないか。これ以上の悲劇を出さないって俺も決めている。これで最後にしよう!」

 

 ようやく戦う相手が見えた。こうしてはいられない。俺達は白蓮の待つ広間へと駆けた。お燐は再び猫の姿に変じていた。

 

 さすがにバラカスの一件は落ち着いたようであり、2体のバイドと1人の魔法使いが何かを相談しているようであった。

 

「なんとかしてさとりさんの隠している秘密を暴きたいのですが……」

「しかし我々もひじりんもトラウマ攻撃を受けると機能停止してしまう。『夏の夕暮れ』はもうゴメンだ」

「俺らも地霊殿攻略には協力は惜しまないぞ。奴に睨まれると精神攻撃を仕掛けられるんだったな。そこで唐辛子パウダーを詰め込んだ爆弾を投げつけることで……」

 

 作戦会議か。水を差してしまう形にはなるが俺は皆の道を正すために声を張り上げた。

 

「地霊殿の攻略は中止だ。古明地さとりと戦う必要はない!」

 

 直後、肩に乗っかっていた黒猫が床にしなやかに飛び降りると妖怪の姿を取る。何故か「じゃじゃーん」と軽口を叩いているが、彼女の心の底の様子は俺も痛いほど分かっている。

 

「ああっ、後ろに……!」

白蓮「えっ、アズマさん!? どうしてお燐が……?」

 

 ジャキと銃器を向ける音。ゲインズだ。

 

「アズマ殿、脅されているのか? 地底の魑魅魍魎は斯様な卑劣な策を! 頼む、そうだと口にしてくれ。でないとアズマ殿を撃たねばならなくなる!」

 

 待って待って! こんなに大事になるとは思わなかった。俺はこれまでの経緯を話した。

 

「つまり討つべきはバイドであるということ。そしてバイド汚染して遠方からバイドを呼び寄せている張本人こそ……」

「霊烏路空……。八咫烏とやらの力では飽き足らずバイドの力まで取り込んだ地獄鴉……」

 

 俺からの情報は提督が主だって事態をまとめてくれたことで、ようやく落ち着きを取り戻す。

 

 どういった経緯でお空がバイド汚染したのかはお燐にも分からないくらいなので、ハッキリとはしないだろう。自らが望んでいたのか、それとも事故なのか。俺は後者のような気がする。お燐の話を聞く限りだと、さとりやお燐とあまり会えずに寂しがっているというではないか。

 

「ああ、異変の首謀者を見つけてこんなに悲しい気分になったことは、いまだかつてあったでしょうか?」

 

 嘆く尼僧に俺は同調した。そりゃそうだ。そのお空って子にとっては「気が付いたらとても強くなっていたけれど、皆がこちらに敵意を示すようになる」のだ。不条理に飲み込まれながら最後は死んでいくのだから。

 

 それでも俺達は行かなくてはいけない。地上でリリーホワイトを手にかけたその時に自らに誓ったではないか、「これ以上の悲劇を生まない為にも地底のバイドを倒して地上に帰る」と。

 

「あたいが集めてきた燃料、つまり死体を旧灼熱地獄に運ぶための道がある。あそこならさとり様と鉢合わせすることもないわ。案内したげるからついてきて!」

 

 なるほど、抜け道を使えば旧灼熱地獄の中枢まで一本道というわけだ。そして原始バイド達と別れて俺達は抜け道の入り口まで向かったが……。

 

「こんなに炎が噴き出ていては進むのも困難では……?」

 

 そう、床も壁面も天井さえも燃え盛った通路。生身ではまず通り抜けられないだろう。お燐は毎回ここを使っているんだろうか?

 

「嘘、前よりも激しい……。お空が更にバイドを呼び寄せて力を蓄えているに違いないわ。もう時間がないよ!」

「木の船である聖輦船で突っ込むのは自殺行為。キャプテンムラサ、ここでしばしのお別れだ。あとは私達に任せてほしい。そうだな、ここに待機して疲れ切った我々を回収する準備をして貰えると嬉しい」

 

 提督の申し出には俺も賛成だ。聖輦船は俺達の家でもある。燃えてなくなってしまえば帰る場所を失ってしまうことも意味するのだ。

 

 さて、ムラサ達を待たせるのは悪いし、俺達に残された時間もあとわずかなようだ。お燐を先導させ、俺、白蓮、バイド艦隊と続き炎の道をひた進む……。

 

 誰一人、犠牲者など出させはしない!

 

 

__________________________________________

 

 

 

(その頃地上、妖怪の山中腹部……)

 

 水の楽園である河童の里は至る所から間欠泉が噴き上がり、時折マグマやそれに混じってバイドが押し上げられている。

 

 ジュウジュウと水に冷されて固まる溶岩であり、被害の拡大は鈍りつつあるものの、それによりモウモウと湯気が立ち河童達の視界を奪っていく。それこそ混乱しながら逃げ惑っていた。

 

 ズドンと御柱が突き刺さり、溶岩の流れるコースを変える。空中ではマグマに混じって噴き出たバイドが飛び交っており、スキあらば煙の向こうの河童を襲わんと狙いを定めているのだ。

 

「マグマを大きい水たまりに誘導した。簡単なものでいい、水をせき止める簡易的なダムを……ええい話を聞けぃ!」

 

 訳の分からぬ言葉を撒き散らしながら河童たちは散り散りに逃げ惑おうとしていた。元々統率力がない上に非常事態でパニックに陥っている河童達だ。指示を出すのも一苦労である。

 

「ふんっ、ていっ、やぁっ!」

 

 山の神様があんな調子なので早苗一人でバイドの迎撃にあたっている。前後にショットを放つ「バックショット」を放ちながら、自らの機体を回転させることで広範囲のバイドを駆逐していく。

 

 そうやって小型のバイドを倒しているうちに、やや大きめの四角いバイドが襲ってきた。

 

「あれって『ドップ(※1)』じゃ……。速過ぎるっ!」

 

 バイド汚染を受けて暴走した自走コンテナ「ドップ」の大群が早苗を襲う。どこに運ぶつもりなのか、それともバイド特有の破壊本能がそうさせたのか、早苗を引き潰そうと突っ込んできたのだ。

 

「急いで迎撃を……やっぱりダメだわ!」

 

 ドップの弱点は一方向のみに露出したピンク色の部位なのだが、不幸なことに早苗に迫る奴らは皆弱点を晒していなかったのだ。早苗は慌てながらも対処法を考える。

 

 何とかして後ろに回り込む……絶対間に合わない。ハンターで後ろから狙い撃ち……数が多すぎて対処しきれない。フリーレンジを用いて遠くから狙い撃ち……高速で移動するドップに接近するのは危険。そして彼女の下した決断は……。

 

「ウェーブショットに換装、オーバーウェポンを発動しますっ!」

 

 弱点を晒さずに高速で突っ込んでくるドップの大群には、地形も敵も貫通するウェーブショットで攻撃するのが最良と判断した。確かにドップは直線的な動きをしているし、これならまとめてダメージを与えられる。低い火力はオーバーウェポンで補えばいい。早苗はそれを信じてウェーブでコンテナを炙る……。

 

「ダメだ早苗っ! それでは火力が足りな……くっ!」

 

 再び揺れる大地。激しい揺れで再び地面に亀裂が走る。深々と地底まで続いているのではないかと思ってしまうほどの真っ黒い闇。神奈子はバランスを崩し地面に手をついた。

 

 わずかな空気の揺らめき程度にしか視認できない早苗の攻撃は確かにドップを溶かしていく。しかし耐えきった個体が早苗の戦闘バイクに体当たりを仕掛けた……!

 

「きゃあっ!?」

 

 バランスを崩した早苗はそのままきりきり舞いになり、そして地底に繋がる亀裂へと吸い込まれていってしまった。

 

「さ、早苗ー!」

 

 この山神様は知っていしまっていた。バイド汚染の恐ろしさを。自らの注連縄がバイド化してその影響で精神が乗っ取られていたことを。そしてその事件の元凶たるバイドがウヨウヨ渦巻く地底に早苗が落ちてしまったことを。一気に血の気が失せる。

 

 早苗が倒し損ねたドップに御柱をぶつけて撃墜させる。幸運にも他のバイドは皆退治されたようである。その後神奈子がとる行動は……。

 

「早苗っ、今助けに行くぞー! お前らは……やり方は教えたんだから、自分の住処は自分で守れ! 私は今から地底に行って原因を叩く」

 

 彼女は悔いていた。自らの地位を失うことが恐ろしくて、自分や早苗がバイド汚染することを恐れて、早めに攻めに入らなかったことを。そして「地上を守る為」と綺麗事を並べて心のどこかで脅威から逃げていただけだと自らを戒めていた。

 

「今、目が覚めたよ。あんな腰抜けじゃ軍神の名が泣いちまうな。本当の意味で民の安全を守るには引っ込んでばっかりじゃいけないね! 結果、身近な早苗すら守り切れなかったじゃないか」

 

 もはや姿も見えなくなってしまった早苗を追いかけるべく、彼女には一瞬でピンと来た異変の首謀者を倒すべく、神奈子も地面の裂け目に飛び込んでいった。

 

「これだけ派手にやってんだ。バイド化して暴れている犯人は『アイツ』しか考えられないわ。首洗って待ってなよ……!」




(※1)ドップ
R-TYPEに登場したバイド。コンテナにバイドが取り付いて暴走したものである。
特定コースを高速で飛行する上に、弱点が前のタイプと後ろのタイプが混在する危険な敵だ!

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