東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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記念するべきアールバイパーの初陣。その相手は妖精最強と名高いチルノである。
果たして初戦を白星で飾れるか……!?


第7話 ~初陣~

 俺の初陣だ。気合を入れてアールバイパーを再起動させる。にとりから指定されたボタンを押すと周りの景色が大きくなっていく。否、自らが小さくなっているのだろう。

 

 2メートル弱くらいに小さくなるって話だが、確かにこれなら生身の人間よりも少し大きいくらいで済むだろう。垂直離陸を行い、再び大空へ。

 

 先に攻撃を仕掛けたのは向こう側。ツララ状の弾を固めて飛ばしてくる。いくらこちらが小さくなっているとはいえ、隙間をくぐるのは危険だろう。ならばその塊ごと避ける!

 

 右に大きく旋回し、危険なツララをやりすごした。体勢を立て直し、一気に距離を縮める。

ターゲットサイトがチルノと重なった。ここぞとばかりにトリガーを思い切り引き、何発もショットを撃ち込んだ。オレンジ色の弾が一直線に飛び、チルノに命中する。

 

 よし、効いているぞ! 大きくのけ反り、怯んでいるようだ。しかし回復も早い。ショットを受けたチルノは両腕を振り回し、プンスカ騒いでいる。

 

「やったなー! あたいを本気にさせたこと、後悔させてやるっ! 氷符『アイシクルフォール』!」

 

 その手にはカードが握られており、光り輝いていた。今のがスペルカード発動の宣言なのだろう。叫び声と共に、辺りが薄暗くなる。何故かこちらのコクピットも一瞬光っていた気がするが、そちらを調べるのは後だ。

 

 先程はこちらを執拗に狙ってきたツララ弾であったが、見当外れの方向にツララが飛んでいく。ははは、どこを狙っている。いや、急にツララが角度を変えると一気にこちらに押し寄せてきたではないか。急な変化についていけず、思わず後ろに引く。

 

 しかしツララは隙間なく微妙に角度を変えて押し寄せており……、しまった、反対側にも同じようにツララが……駄目だ、かわしきれない!

 

 コクピット全体に衝撃と冷気が走る。被弾したらしい。冷気にエンジンがやられたか、出力がどんどん落ちて、我が銀翼は地に落ちた。……敗北だ。

 

「どーだ! まあ相手が悪かったわね。なにせ最強のあたいだもの」

 

 空中で得意げにふんぞり返る妖精。悔しい……、だがこんな所でへこたれては打倒紫など夢のまた夢。

 

「もう一回だ。まだこいつは動けるぞ!」

 

 少し乱暴にエンジンを吹かす。よし、熱によって復活した。再びアールバイパーで飛行し、再戦を申し込んだ。

 

「なかなかガッツあるじゃない。あたいそういうの好きだよ。それじゃあ今度はあたいからっ」

 

 再びアイシクルフォールが宣言される。先ほどと同じく、ツララ弾は一度チルノから大きく離れ、そして円弧を描きながらこちらに向かってきている。最初に大きく離れる角度も少しずつ変化を付けており、まるで大きな腕を前後に動かしているようにも見えた。まさにツララ落としといったところか。複数の角度をつけてのツララの波状攻撃はやっぱり避けにくい。

 

 と、ここで俺はデジャヴを感じた。そういえば前にもこんな攻撃を受けたことがあったような……。ええと何だったかなぁ?

 

 思い出したぞ、クリスタル型のボス(※1)が触手を振り回しながらレーザーを撃っていたが、弱点を覆う為の腕の懐がガラ空きだったというもの。今のチルノを見るとなるほど、彼女のすぐ目の前だけ弾幕が薄い、いやまるでない。

 

 一か八かスピードを最大に上げてチルノの目の前に飛び込んでみた。案の定ここは安全地帯になっているようだ。

 

「ヤバッ……、フフン。よくぞ見破ったな!」

 

 何故か偉そうである。回避手段がないらしく居直っているらしい。まあやることは一緒だ。これだけ近距離だとわざわざターゲットサイトを見るまでもない。これでもかとトリガーを引きまくる。

 

 周りの薄暗さがなくなり、元の明るさに戻った。それと同時にツララ弾も消えてしまう。どうやらスペルカードを1枚攻略したようだ。

 

 すぐさま次の攻撃に移るチルノ。今度は青白いレーザーを飛ばしてきた。これもまた旋回して……。

 

 うおっ旋回しすぎた。ぐわんと景色が横に流れる。フラフラとした挙動で体勢を立て直すと、次のレーザーがどてっ腹に迫ってきていた。

 

 慌てて高度を下げつつ今度は左に操縦桿を傾ける。ぐるんぐるんとローリングしながら辛うじてレーザーを回避した。チチチチと弾が機体をこする音がしていた。あ、危ねぇ……。

 

 無茶な動きの連続で頭がふらふらする。気を取り直して反撃を……、う、嘘だろ? 目の前に第三のレーザーが!

 

「ぐわあああ!」

 

 もう一度操縦桿を傾けて……駄目だ、かわしきれない!

 

「アズマさんっ、スペルカード発動の宣言をするんです!」

 

 地上から助言が来る。聖さんのものだ。そうだった、こちらもスペルカードが残っているのをすっかり忘れていたよ。ありがとう聖さん。そう心でお礼をしつつ、コクピットの一角に差しておいたお手製カードを取りだし、宣言する。

 

「爆撃『スモールスプレッド』!」

 

 ただの紙切れだったはずのスペルカードが光った。だがその直後、非情にもチルノの放ったレーザーは我がアールバイパーを貫通したのだっ。

 

 そう、そのまま通りぬけてしまっただけだ。被弾していない? これもスペルカードルール特有の現象なのか?

 

 何だか視界に青白いモヤがかかっているような気がする。炎上した? いや、熱さは全く感じていない。一体何が起きているのか、俺の視点からでは見当がつかない。

 

「ちょ、アズマさん大丈夫ですか!? 機体が青白く燃えているんですけどー!」

 

 そんなアールバイパーを指さしながら慌てるのはムラサであった。なるほど、そういうことか。彼女の言動で確信した。どうやら自機全体を包むオーラのようなバリア「フォースフィールド(※2)」を纏っているようだ。

 

 どうやらスペルカードを発動すると、フォースフィールドを纏い、ある程度の攻撃を防ぐことが出来るらしい。となると、このフォースフィールドが完全にはがれた時がスペルブレイクの瞬間なのだろう。

 

 まあいい、せっかくカードの宣言をしたんだ。今のうちに一気に高度を上げて上空からポロポロとミサイルを落とす。

 

 ちょこまかとチルノが爆風の隙間を縫って動いている様が見える。爆風が残っているうちにこちらも高度を下げてショットをお見舞いする。

 

「うわわっ! こっちもスゴイの発動するわ! 最強スペルにビビれー!」

 

 ゴソゴソと懐から二枚目のスペルカードを取りだす氷精。そしてそれを掲げつつ、高らかにカード名の宣言をする。

 

「凍符『パーフェクトフリ……』フンギャ!」

 

 スペル名は「パーフェクトフリーズ」だったのだろうが、宣言が終わる前に遅れて落ちてきたスモールスプレッドがチルノの脳天にぶつかる。ゴツっと痛そうな鈍い音の後、爆発を起こす。哀れ氷精はピヨピヨと頭にヒヨコを飛ばしながらフラフラと墜落していった。

 

 スペルカードは外の世界におけるシューティングゲームのボンバー(緊急回避と強力な攻撃を同時に行うもの)にあたる機能も持ち合わせているらしい。たとえ強力なスペルでも発動出来ずに抱え落ち(緊急回避手段であるボムを残したまま撃墜されること。非常にもったいない)してしまうこともあるのだろう。

 

 俺も聖さんの声がなければ同じ状況に陥っていたはずだ。弾幕ごっこにおけるスペルカードの重要さ、美しさと強さ、そして勝つためには上手く使っていかないといけない。改めてその重要さに気付かされた。

 

 ……と、いつまでも感慨にふけっている場合ではない。脳天に爆弾がクリティカルヒットした妖精の少女の安否が気になる。地上に降り立つと我が愛機から降り、彼女の元に駆け寄る。頭にでっかいタンコブを作って目を回しているようだ。

 

 俺が近づくのに反応するとパチリと目を見開いてこちらに詰め寄って来た。

 

「もう一度あたいと勝負しろ! 今度こそあんたに勝ってあたいが最強であることを証明する!」

 

 その前にこちらの呼び方がずっと「あんた」なのでいい加減名乗ることにした。

 

「俺は『あんた』じゃなくて轟アズマ。アールバイパーの乗り手『アズマ』だ」

 

 大怪我してたらどうしようと思ったが、杞憂だったようである。さすが妖精最強。俺もアールバイパーもまだ動く。彼女の申し出を断る理由などないだろう。俺は再び我が愛機に乗り込み、大空を舞った。

 

「今度はあたいが勝つよ、アールバイパー!」

 

 そっちが俺の名前じゃねぇ!

 

 

____________________________________________

 

 

 

 戦闘機と妖精が上空で戯れている。もうこれで何回戦なのだろうか。下で見ていた命蓮寺一向も聖を除き持ち場に戻っていた。聖も縁側に腰掛けてお茶を啜りながらの観戦だ。

 

 ある時は戦闘機が煙を上げて不時着、ある時は氷精が地上に膝をついたりと、お互いに勝ったり負けたりを繰り返していた。爆風と弾幕が吹きすさぶ上空を見て聖は笑みを絶やすことなく「二人とも楽しそう」呑気にこう漏らすのであった。当人たちにとっては真剣な試合なのだろうが、聖にしてみれば、スケールの小さい可愛らしい勝負といったところである。

 

 そしてそれは聖だけではなく、命蓮寺から少し離れた物陰からアールバイパーの様子をうかがう影二つにとっても……。

 

「あれが超技術の翼か。一応弾幕ごっこのつもりなのだろうか」

 

 耳をぴくぴくと動かす狐の妖怪に、2本の尻尾をゆっくりとゆらりゆらりと揺らす猫又。八雲紫の式神「藍」とそんな彼女の式神である「橙」がその戦いを無言で見届けていたのだ。

 

「実力は氷精レベル……。あの程度では紫様の脅威にはなり得まい」

 

 地霊殿の地獄烏のような強力なものを想像していた藍にとっては思わぬ肩すかしだったようだ。

 

「藍様ー、私もまざりたーい!」

 

 橙が一緒になって遊びたいと口にする程なのである。銀翼、式神たちに相当ナメられている。

 

「これ橙、今日は様子を見に来ただけなんだ。出て行ってはいけないよ。さあ、紫様にこのことを伝えに行こう」

 

「はーい……」

 

 その気になれば藍ならあの場に乱入してアールバイパーを撃墜することも可能だったであろう。だが、式は主の命令に絶対である。ゆえに藍は手出しが出来ない。あくまで任務を忠実に遂行するまでである。

 

 人知れず一組の妖獣たちは寺を去っていった。

 

 

____________________________________________

 

 

 

 日も傾くころ。俺は地べたに寝っ転がっていた。幾度も拳ではなくて弾幕で語り合った氷の妖精のくせに暑苦しい奴も隣にいる。お互いに既に立ち上がる気力はなく、ただただ息を弾ませていた。オーバーワークで煙を上げていたアールバイパーは既に元のサイズに戻り、命蓮寺の庭で横たわっていた。

 

 ああ、涼しい風が心地よい。俺は我が愛機と死闘を繰り広げてきた強敵に称賛の言葉を贈る。

 

「お前……本当に強いんだな。効いたぜ、土壇場で発動した『パーフェクトフリーズ』」

 

 自分で撃った弾幕を凍らせたかと思いきや急に動かされた時は、度肝を抜かされて撃墜されてしまった。お互いの手の内(スペルカード)はあまり多くなかったようで、あとは弾と弾のぶつかり合いだった。撃つ、避ける、時たまスペル発動。

 

「アンタも……ね。あんな高い所にすぐに飛んでまた元の高度に戻るなんて芸当、そうそう見ないわ」

 

 こちらも息を弾ませているチルノから称賛の言葉を貰う。お互い、自然に笑みがこぼれていた。非常にすがすがしい。

 

 夕陽の相乗効果も相まって気分は河原でお互いが倒れるまで拳を交えた後、友情が芽生えるという青春ドラマでよく見るアレである。こうなったらやるしかないだろう。上体を起こすと握手を促す為に右腕を差し出した。

 

 彼女もそれに応じて俺の手をグッと握る。この間は終始無言だった。口元をニヤリとさせる程度。もはや言葉はいらない。言いたいことは弾幕で全部言いつくしたのだから。いかに暑苦しい性格でもその体は氷の妖精、やはり冷たいものだった。体が火照っていたのでちょっとありがたい。夕陽が目にしみる。遠くでカラスの鳴き声まで聞こえてきた。

 

「あ、カラスが鳴いたから帰る! じゃあまた今度、もっともっと最強になって『あたいのマナデシかつえーえんのライバル』であるアズマを驚かせてやるから。バイバイ、また遊ぼうね!」

 

 愛弟子で永遠のライバル? はは、そりゃ光栄なこった。要はまた遊びましょうってことだろうからな。チルノには認められたようである。俺は笑顔のまま帰路につく氷精に手を振り続けた。

 

 弾幕ごっこを通じて妖精と仲良くなれた。思い切り全力と全力がぶつかり合えば友情が芽生える。これはもしかすると、あの大妖怪とも……和解出来るかもしれない。淡い希望が俺を包んでいた。




※1
「グラディウスII」に登場したボス「クリスタルコア」のこと。触手を振り回しながら弾を撃ってくるが、弱点の目の前が安全地帯になっている。恐らくチルノのアイシクルフォールの元ネタの1つ。
なお、遊戯王カード「安全地帯」もこれが元ネタとなっている。

※2
フォースフィールドとは「グラディウスII」以降に登場するバリア。機体全体を青白い炎のようなオーラで包む。3発まで攻撃を防ぐことが出来る。
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