ASOA 作:空中儀礼
初日を終えて その1
アナザーリンク・サーガ・オンライン本サービス開始一日目――。
***
ここはレムトの町の酒場――といってもプレイヤーがパーティを組むために集まる出会いの酒場ではない。
冒険者ギルド前の通りをしばらくいって小路に入り相棒のドワーフプレイヤーに案内されてやって来た、ごく普通の酒場だ。
残念ながらエルフは見当たらないけど、ドワーフがいて(横にすでに酔い潰れたのがいるが)冒険者がいて職人がいて、誰もが酒と食事とその場限りのバカ話を楽しんでいる。
彼らの頭上に浮かぶ黄色のマーカーについては……私はすでに考えることを放棄している。NPCに搭載されたAIの性能や正気とは思えないリソースの配し方など気になることはいろいろある。だがそのいちいちに答えを求めていてはゲームを楽しめなくなると思ったからだ。
技術詳細は一切明かされていないに等しく……私の場合、友人にβプレイヤーがいて彼から聞けた話をもとにASOへの参加を決めたのだが、そうでなければ初日からログインするのは躊躇われるくらい、とにかくこのゲームは胡散臭かった。
まるで一世代前に流行したオンゲを題材にしたフィクション群を彷彿とさせるいかがわしさ――あれらはネットの地層に埋もれながらいまだ私のような人間のために開かれている。よくもこんなわけの分からない仕様のフルダイブゲーに初日から数万人も参加したな?とかツッコミどころは無数にあるにしても面白いものは面白いのだ。でもまさか自分が同じくらい妖しさ満点のゲームをプレイすることになるとは思いも寄らなかった。
ログインして最初にしたことは?もちろん入念なシステム面のチェックです。でもデスゲームは突然に、だからなー。正直意味ない。
そんなわけで様子見組が結構いるという相棒の話ももっともなことだと頷きながら聞いたのだが……。
視界の端に小さく表示された仮想ウィンドウは先ほど運営から送られてきた初日終了時点での統計データであり、これがかなりショッキングな内容だった。
サービスの存続を危ぶむレベルを通り越して運営側に何故始まったといいたくなる。いくら何でも見切り発車が過ぎるんじゃないか。
別窓で開きっぱなしの外部掲示板では早速ASOのプレイヤー数がネタにされていて、あいかわらず悪い意味で注目されている状態だ。
本サービス開始前、どうやら本当にβプレイヤーだったらしいASO最強厨が散々暴れ回ったおかげで私の常駐先の掲示板ではまともにASOの話ができなくなった。
一応国産とはいえどマイナーMMOネタにいい食いつきぶりだなと呆れる思いでレスを追ったが、勢いがよかったのは最初だけのようだ。ま、ASOに関しては公式の掲示板を利用すればいい。
ゲーム内の日付が変わっていることに今更ながら気が付いた。初日終了時点の統計データが送られてくるんだから当然だ。
酒場の賑わいが変わらないので時間の経過が分からなかった。
いつもこんな調子なのかと訊くと、強面のバーテンダーは少し疲れた様子で明日は休日だからなと答えてくれた。皆はしゃいでるのさ、と。愛想は決して悪くない、顔が恐いだけで。
――いい雰囲気の店だ。私たちのような駆け出し冒険者の稼ぎで十分に飲み食いできて質も悪くない。その辺のこともちゃんと踏まえた上での店選びだったんだろうが、クワンコは何も言わなかったし私は彼の後をついてきただけだった。
クワンコ――隣でイビキをかいているドワーフプレイヤーの名前だ。
「人間の輩を置いて先に酔い潰れるとはドワーフの風上にも置けぬ――」
そのNPCにしてみたらそれはきっと侮蔑の言葉にちがいなかった。
けれども私の中で生じた感情は全く別のものであって、おいお前いまドワーフにツッコまれてたぞとクワンコの寝顔に呼びかけた。
いやあいいゲームだね、ASO。
ASO最強厨の気持ちがほんの少しだけ分かったログイン初日。
ほんの少しだけな。
そしてほかのβプレイヤーに共通する口の重さも――今なら理解できる。まともな感性でいえば到底信じられる内容ではないからだ。
何の実績もない国内メーカーからこんなゲームが出てくるとはね。かなりの人材がゲーム業界に流れ込んできてる?そうとでも考えなければ辻褄が合わなかった。
カウンターから店内を見渡せばプレイヤーを示す緑色のマーカーを浮かべた客が私たちのほかにもう一組いる。本サービス開始一日目にわざわざこんなとこまでやってきて飲んで駄弁ってるのが自分たちだけじゃないというのが驚きだ。まあ、この再現性であれば納得もするが。
初日にして溢れる場末感、たまんねー。この酒場のことじゃない。ASOの話だ。
突然ログアウトできなくなることよりログインできなくなる心配をした方がよさそうだと思った。