ASOA 作:空中儀礼
私をゲームの世界へと誘った人は私の早速のやらかしを知ってこのまま一人でログインさせていいものかと思ったに違いない。べつにログインを控えるように言われたわけではない。ただ、数日後あるプレイヤーを紹介され、しばらくこの人に面倒見てもらうように言われたのだ。子供扱いに憤慨する気持ちがないでもなかったが、私はこの世界では全くの素人さんなのだ。殊勝な態度を見せておいた方がいいと判断して言われるまま従った。
***
「……PKKか」
目の前で胡座をかいているのはサモナーのポージー。さきほど先生――私にASOを勧めてくれた人。さっき知ったがプレイヤー名はビショップという――から紹介された私のゲーム指南役で、先生との関係は古い知り合いとのことだった。黒髪眼鏡。背丈も普通と地味な容姿だが瞳の色が淡く青みを帯びて見え、よいアクセントになっていた。なんというか、品のいいアバターだと思った。行政の窓口担当が対応に困ったとき奥から呼び出される人っぽいというのが最初の印象だった。それにしてもきれいに刈り揃えられた芝生の手触りが気持ちいい。私も胡座かいていいですか?後方の館から出入りする人型の召喚モンスターらしきものを何体か見かけたが庭の手入れなども彼らの仕事なんだろうか。
私のコートがレベル不相応なものであることにポージーが気付いてそれで先日の話をすることになったんだけど、あの女性プレイヤーがPKKであることは私も見当がついていた。でもどうしても分からなかったことが一つ。
「結局カルマって何なんですか?」
大多数のプレイヤーにとっては秘匿されたデータであるらしいということ、PKKのみ識別可能なこと、許容限界を超えると悪堕ちという現象が生じること。ここまではネットで調べて理解できたのだが、肝心のカルマが何なのか、私にはいまいちのみ込めなかった。相対的な要素であって、概ねオンラインゲームの常識と照らし合わせてみれば何が問題行動に当たるかは判別可能ということだったが、私にはその常識がない。ほとんど一夜漬け状態の常識しか。プレイヤーキルが悪とかそういう分かりやすいものばかりなら問題ないんだけど。しかしカルマについてはポージーもなんとなくでしか把握してないようだった。そのなんとなくが今は遠い。
「一応言っておくとこれからきみとすることにも悪堕ちの危険はあるとされている。詳細は不明だし問題ない程度に止めるつもりではあるが」
来たパワーレベリングというやつだ。
私の面倒を見る代わりにポージーの出した条件が、召喚モンスター同様に私を鍛えるというものだった。私としては単に子守りされるよりずっといいしむしろ望むところだったが、先生は初めて聞いたのか納得できない様子だった。でも、
「俺は自分のできることをやりたいようにやるだけだがそれでもいいのか?と初めに聞いたはずだぞ」
要はニュアンスの問題なのだと思う。ドナドナ?されて彼の拠点へ移動する途中、普通プレイヤーはサモナーに召喚モンスター扱いされると怒るものだと彼に教わった。私や先生を怒らせて話をなかったことにしたかったのかと聞くと首を振り、本人の意思を確認しておきたかった、と。こんな機会滅多にないからな――
どうもこのポージーというプレイヤーは召喚モンスターの育成が趣味らしく、その欲望が長じてプレイヤーの育成に関われたらと常々思っていたそうだ。単に初心者に対するレクチャーというレベルを越えてあたかも召喚モンスを鍛えるがごとくやりたいのだと。ふむ、それはいいことを聞いた。迷惑に思われるより何千倍もマシだと私は思った。先生は、初心者からゲームを進める喜びを奪うのかと言ってたけど、こういう場合ある程度相手のペースに合わせるのが礼儀だろうし、正直型に押し込んでもらった方が助かるというのもあった。この数日のプレイで薄々感じていたことだ。いうなれば今の私は型なしなのだ。普通は時間をかけて少しずつ見出していくものなんだろうけど……。彼のことは心の中でコーチと呼ばせてもらうことにした。
***
超絶美女モンスターが食事の用意ができたことを知らせに来たのでミーティングはテラスに移って朝食をとりながらということになった。えーと、何て言うんだっけこういうの?奥さん?
「嫁っていいたいの?」
俺には嫁が三人いると豪語するコーチ。コーチスゲー。
私なんか追いかけ回してた連中よりよっぽど健全だし尊敬できるよね?
そこはかとなく基準が狂ってきてると感じなくもないが……おお、ケツがぷりんぷりんだよぷりんぷりん……。
***
「サモン・モンスター!」
私が甘海老とオクラとペンネと何だか分からない野菜のサラダの味を回帰させるべくはしたなく口をもごもごさせている間、コーチが召喚したのは一匹の愛らしい妖精だった。
今日はパンだったけどあれはご飯にのっけて食べてもいいんじゃないかな。その場合ペンネは抜きで――などと考えている場合ではない、名前だ名前。ミーティングで話した通り彼女(彼?)は私の同期であり見本となる存在なのだ。名前はきみが考えろと言われたんだけど要するに同期のライバル的存在だよね?パッと思い浮かんだ友人の名を拝借して、ツージーとした。
「おい天使にするんだからせめてスージーとか」
いいじゃんツージーとポージーで。コンビ名みたいで。まあスージーでも変わらないけど。
ツージーは気難し屋。