ASOA 作:空中儀礼
初期職業にハンターを選んだ理由――。
友人にお勧めを訊いたらハンター一択だって言われて。
いや、それが理由ってわけじゃないんだけど。
だいたいその友人がハンターを勧める理由は尋常じゃなかった。
彼と違って私はβプレイヤーってわけじゃなかったから彼のいってることを理解するのはもう少し後――そのときはただ右から左へ聞き流してるだけだった。
友人は本サービスではクワンコってドワーフハンターでプレイしてる。
ブリュワーと最後まで悩んでいたけど、検証に検証を重ねた結果出した答えがこれなんだそうだ。
どうもβテストを通じてお酒が美味しくいただけるプレイスタイルを模索し続けていたらしい。
きっかけは冒険者ギルドに併設された出会いの酒場、本サービスではたいていプレイヤーでごった返しているアレだ。β版でもおおよそ同じレイアウトだったその場所で彼は見たという、冒険者たちを尻目に昼間っから飲んでるNPCの男を。普通ならただのフレーバー要素とみなすか、あるいは男に話しかけて何らかのイベントが生じる可能性を考えるところだ。だが彼は、NPCが勢いよく呷る杯の中身のほうが気になっていた。それを自分でも飲めそうだと感じたんだそうだ。
本人リアルじゃ下戸なんだけどねー。
実際ジョッキを一つ空けただけでカウンターに突っ伏してしまったようだけど、もともと一滴も飲めなかった彼にしたらそれでも大躍進だったわけで。
……いや再現性については――それが重要なのは承知してるけど――私が何か言うより自分で身をもって知ってもらうのが一番だと思う。
あんたが一刻も早くASOをプレイできる状況になることを祈ってるよ。
友人はその後ドワーフでキャラを再作成して今度は空のジョッキが三つに増えた。その上意識までなんとか保っている。ここまでの流れでマスクデータにアルコールに対する耐性があることを確信した彼は、種族職業ステータスをちまちま変えてキャラの再作成をくり返しながらときに狩りに精を出しあるいは昼間から飲んでみたりして、ASOにおける正しい飲兵衛スタイルを確立させていった。
私がハンターを選んだのはこんな話を延々聞かされたからじゃないかという気がする。ほとんど理解していなかったにもかかわらずだ。刷り込み?
公式サイトの職業紹介にハンターは高い汎用性が魅力とある。戦闘、探索、生産、何をやらせてもそこそこの適性を示すそういう職業であるらしい。スキル獲得に必要とされるボーナスポイントの多寡にもそれは当てはめられていてどんなスキル構成にしようと必要BPが重すぎずに済む。実感としてはどんな構成でもそこそこBP消費するといった方が近いのだが。
ひたすら眉唾な友人の話の中でどういうわけか私が無条件に鵜呑みにしたハンターの特性が一つあって、どうも五感の鋭さに他職より補正がかかっているのではないかとのことだった。彼はまず味覚でそれを察しその他の感覚については検証半ばというか、彼にとってそれほど重要ではなかったため多分そうだろう程度に留まっているのだが。私はなんとなくなるほどそういうゲームバランスの取り方かと納得していた。
器用貧乏職が持ち前の感覚の鋭さによって飛躍する、そういう成長イメージを思い描いていた。実際ハンターのクラスチェンジ先にはバーバリアン(女性プレイヤーはアマゾネス)という物理寄りながら五感をフル活用して戦闘に探索にと幅広く適応可能な職業があった。
ハンターのクラスチェンジ先が判明したのは割合早く、九重という攻略組プレイヤーによって掲示板の各スレに情報がもたらされた。
クワンコはその独特の嗅覚が働いたのだろう、真っ先にバーバリアンに喰いついた。私は私でバーバリアンは強職だろうという予感があった。無理に差別化を図る必要はないにしてもこの先どうなるんだろうっていうワクワク感がほしいよなと思いながらスレをスクロールさせると、魔法戦士的存在を待ち望む声がポツポツ上がっているのを見つけた。なんだ?すぐ上に出てるレンジャーのステ振りがいかにもそれっぽいのになぜかだれも指摘しない流れ。ああこいつらたしかハンターじゃなかったなそういうことか。
私の勘は明確にレンジャーはやめとけと囁いていた。あれはダメ職だ、ハンターの汎用性の高さの意味をはき違えてもう地を這いつくばることしかできない見え見えの地雷だと。
どんなプレイヤーか知らないがナリスとやらのやや否定的な意見に同意しつつ、私はもうすっかり自分がレンジャーを選択する前提でこれからのプレイを考えていた。