ASOA   作:空中儀礼

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原作69話広域エリアマップ実装後


「サモン・モンスター!」

 レムトの東、E1マップ。

 湾曲した川の流れの先に見える町並はレジアかソルトレック……どっちだっけ?整備の行き届いた街道は人の行き来があるだけで魔物の姿は見かけない。

 時折足を止めてこちらを見やる者もいるが、すぐに興味を失って去っていった。

 私がこの河原に下りて何をしているかというと、ただ石を拾っているだけだ。手頃なものを選んでは道具袋に放り込む、ひたすらそのくり返し。自分でも絶対すぐに嫌気がさすものと思ったけど、どういうわけか楽しくさえある。一応これも冒険の準備だから?それは確かにあるけど、それだけじゃない気もする。

 いい感じの石を見つけると、まるで子供のころに返った気分でそれを眺めてる自分に気がつく。

 ふと思いついて大きすぎる石をつかんで持ち上げてみた。もしも小さな虫たちが石の下から一斉に這い出てきたら本気で異世界説を考えたところだったが、そんなことはなかったよ。

 

「おーい」

 

 クワンコには河原で石拾ってるってメッセで伝えてあったが、ついさっき「河原ってどこの河原?」広域マップの座標位置をスクショで添えて送信したら街道にそれらしい人物が見えたので声をかけたが、これで別人だったら恥ずかしいな。

 

 クワンコは即席で組んだパーティとソリが合わなかったらしい。挨拶代わりの愚痴をひとしきりこぼすと荷物を広げ、食事の用意を始めた。「ここで飲むぞ」

 自家製のタレにつけた肉を焼き始めたドワーフを尻目に私は石を拾い続けた。

 

 ***

 

 石の投げ方について。

 石を取って投げるまではなるべく短い方がよい。それは野球でいえば野手の投げ方だ。

 でも魔物にぶつけたり有効な牽制としたいならば、野手のように相手にとって受け取りやすい、ボールの出所が分かりやすい投げ方ではダメだ。その点を考慮するなら投手のように投げなければならないだろう。あ、もちろん投手はぶつけたらダメだけど。

 ボールを持ってる時間が短くなおかつ打者にとってボールの出所が分かりづらいピッチングフォームをもつピッチャーがいないわけではない。ただ私の好みではないだけで。

 とりあえず何人か思い当たる投手の動画をピックして表示させる。

 なんかブサイクじゃない?まぁ彼らは観賞されるためにあるわけじゃない、打者を抑えればいいのだ。私もその伝でいこう。見てくれなど気にするな。魔物に対して有効であればいいのだ。

 

 「投擲でのみ武器判定あり(AP+0 破壊力2 射程10)」拾った石の【鑑定】結果に添えられた一文だ。

 足場がよくないので助走はつけずに遠投してみる。川向こうへ大きく逸れる放物線を眺めながら思う、なかなかの強肩じゃないの。プロテスト受けてみっか?つーか石の射程って何だ?

 今のが魔物狙って当てられる距離だとは思わないが器用値上げればなんとかなるんじゃないかという気がした。まぁぶつけられたところで意味は薄いが。

 

「いまいち分からないんだけど、どうして投げやすい石かどうかで射程に差が出ないんだ」

 

「あんたにとって投げやすい石がだれにとってもそうとは限らないからだよ」

 

 うん。私はとんだ阿保だな。

 クワンコはつづける。

 目に見える数字は大抵がシステム後段の補正値だ。後付けの数値だ、と。

 

「スキルなんかと一緒だ。べつに【投擲】スキルがなくても石を投げることはできるだろ?

 ASOで起こる全ての事象がどのようにサーバー上で処理されているのか、俺たちプレイヤーに知らされる数字やスキルはシステムのほんの末端に過ぎないってことだ」

 

 なるほどVRでありながらAR的、ね。

 今日も今日とて日の高いうちから肉食って飲んでるわけだが、こういう考察好きなところは相変わらずだ。いまのところ攻略に関しては私並にドンガメだが、主に掲示板と酒場を介した情報収集には余念なく、すこしずつ飲み友達も増えてるらしい。いいじゃん。

 

「俺はこれくらい酒が入った方が調子いいんだよ!」

 

 リアルじゃ下戸のくせによ。

 ま、変われば変わるもんだと思う。たまに中の人の素を感じさせるところがないわけではないが基本別人だな、ドワーフだし。

 

「肉出すから俺の分も焼いてくれ」「いいぞ。タレも分けてやる。酒はやらんが」

 

 こいつの影響で私もアルコール類を常備するようになっていた。好みも違うしな。

 

「サンキュ。漬け込んでなくてもいいのか?」「まあ、ないよりはいいだろ」

 

「あーいたいた!」

 

 先頭の赤毛の女はともかくとして見知らぬプレーヤーがほか二名。そして緑マーカーの虎と鷹が追従する。識別するまでもなくサモナー。レア職じゃん。

 

「あの女も呼んだのか」

 

「なんだ嫌そうだな」

 

 べつに呼んじゃいないが居場所は教えたというと、クワンコは渋面を作った。つーかかなり強引だったとはいえアニスとフレンド登録してたよな?連絡取り合ってないの?

 

「あいつは俺の髭を燃やしたんだぞ!」

 

 ……。

 そうか、そうだったな。

 もうすっかり忘れていたが。

 どうやらクワンコは根に持つタイプらしい。

 いや、ちがうか。なにせドワーフの髭だしな。

 あのあとしばらくログイン時間が噛み合わなくて再会時の謝罪感が薄れていたのもよくなかったと思う。少なくとも私は、その場に立ち会っておきながらそういえばそんなこともあったなくらいにしか思っていなかったから。

 うん。なあなあで済ますのが一番よくないパターンだ。アニスにはあとで相談しとこう。

 

 一種のロールプレイ?もしかしたら綿密なキャラ設定があるのかもしれないが私の勘はそうではないと告げている。

 もっと生々しいクワンコらしさが彼の中で育ちつつあるのを感じる。面白い。少なくとも私はクワンコはいいキャラだと感じている。

 極振りは酒が不味くなると生命力精神力中心にフラット気味なステ振り。壁と探査を兼ねるドワーフハンターという半端さを補えるプレイヤースキル、そしてリーダーシップ。

 常にパーティの先頭に自分の位置を求めながら、後ろに目がついてんのかと思えるほど的確な指示を飛ばし続け、窮地にあって仲間を鼓舞するため声を張り上げる姿など非常にポイント高い。べつに真似する必要はないにしても、ああいうのを見せられるとどうも自分には照れがあってイカンと思う。

 これがVR廃人のキャラメイク……。やっぱりただの飲みキャラじゃないじゃないか。軽く嫉妬するがどうせ時間はあるんだ。私はゆっくり「ハセル」を煮詰めていこう。

 

 ***

 

 クワンコの姿を見るとアニスはやや緊張の面持ちで前に進み出て、アイテムボックスから何やら琥珀色の液体が詰まった瓶を取り出した。

 

「遅くなりましたが、詫びの品です。どうかお受け取り下さい」

 

「むう、これは……。むう。

 いやその方の誠意しかと見せてもらった」

 

「では」

 

「ああ、許す!」

 

 片膝をついていた体勢からヤッター!と叫びながら飛び上がると背後に控えていたサモナー女子二名とハイタッチを交わし合い、私はおそらく気の抜けたような顔で求められるままアニスの手を叩いていたのだろう。どうやら自分の知らないうちに事態は収束へ向かったらしい。どっちも大人だ。気をもむ必要などなかったのだ。バカみたい。

 

 「一月足らずでよくもまぁ……苦労したんじゃないか」「したよー。もうねレムト中駆けずり回って」「おかげで夜の楽しみが一つ増えたな」「ご相伴にならあずかるよ!」「……あんたも懲りないな」「「あのー」」

 

 二人の会話を聞き流していた私の耳に耳慣れない二つの声が被さった。ああ、サモナーの。

 明るい茶色のショートボブで杖を抱えているのがマキノで、矢筒と弓を背負った黒髪ツインテはユーノというそうだ。ユーノの方は以前レムトで見かけた、やはり二人組のサモナーと同じくらい幼い見た目をしている。

 

 二人とも今日がログイン初日で、サモナーの常道としてパートナーとなる同職を見つけるため出会いの酒場を目指していたところアニスに捕獲されたらしい。一日で二人も!どうだこの引きの強さとわけのわからん自慢をしている人がいるが無視して(それなら初日に五分で諦めたというサモナーくじに再挑戦したらどうだと思う)、何か用があって来たんじゃないかと訊いてみる。話を進めるべき人がいつまでも遊んでるからな。

 マキノはかなり恐縮していたが、どうもクワンコに先達のサモナーと繋ぎを取ってもらいたいようだ。

 要はアニスの安請け合いなんだろうが、クワンコは特に問題ないようで「先方にかけあうくらいはしてやれるがその先は知らんぞ」いいながらメッセを送っていた。私やアニスが知ってて彼に紹介できそうなサモナーというと……

 

「モンフォート?」

 

 ああ彼なら大丈夫じゃないかな。私と同じでムッツリっぽいし。

 

 サモナープレイヤーの外見が平均してやや幼めなのは初期ステータスの低さから来るものだと推測されているのを掲示板で見た。

 通常初期ステータスのトータルは90以上、今のところ最大で95を叩き出したプレイヤーが知られている。これがレア職を狙ってキャラクリをくり返していると、要した時間によってお目当ての職を引き当てたときのステータスに差が生じてくるということだった。

 ユーノほどの見た目で80台前半か?通常と10近い差となるとかなりきつく感じるが、サモナーには他に替え難い特性がある。

 マキノは単に運がよかったかたまたま引き当てたクチだろう。ああ先日の闘技大会で活躍した彼もきっとそうだろうな。なぜか自然と笑いが込み上げてくるが。




※闘技大会での一幕
「おお、あれが噂のサモナーさん。……ということは?もしわたしがサモナー引けてたら今頃あそこに立っていたのはわたしだったということに?」
「どういう理屈だ」
「見た目はふつーだな、サモナーさん」
「でもサモナーで予選通るってヤベーよ。そりゃ攻略も捗るわ」
「風評被害はともかく、序盤のサモナーは結構しんどいはずなんだが」
「ふふん、今まで謎だった最初のサモナーの秘密がいよいよ明らかになるってわけだ!」
(テンションたっけーなおい。酒入ってるわけでもねーのに)
(飲んでるぞ)(ああ、お前はね)
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