「うずまきクシナだってばね!」
忍者アカデミーの教室に、元気な声が響き、次に響いたのは生徒達の笑い声。
それを聞いて、転校してきた生徒であるうずまきクシナは、木の葉隠れの里で初めての女性の火影になると宣言した。
誰も何も言わない、静かな空間となった教室で、1人の男子生徒が立ち上がり、自分も立派な火影になりたいと言った。
その生徒の名は、波風ミナト。
後に四代目火影となり、うずまきクシナの夫になる人。
そんなミナトを見て、クシナがあの時何を思ったのかは、わたしには分からないけれど、そんなことはどうでも良かった。
後に訪れる危機から、クシナとミナト、ナルトを守ることが。
彼を、助けることが出来れば。
クシナが転校してきて、教室はいつにも増して賑やかになった。
必ずどこかの時間で、男子生徒を殴る音と、殴られた生徒の悲鳴と、クシナの怒る声が聞こえて……それを見ていたミナトが怒鳴られて。
赤い髪からついたあだ名、トマト。
その名を連呼してからかう男子生徒を、片っ端から半殺しにしていったクシナには新たに、赤い血潮のハバネロと言う通り名がつけられた。
ある日の帰り道、クシナが少年2人に絡まれていて、よく見てみると1人はクラスメイト、1人は忍者だった。
いつも教室でやっている様な、クラスメイト同士の喧嘩なら、手出しなんてしない。
子供は喧嘩して成長するモノだから。
でも、それは喧嘩とは違うモノ。
ただの子供に忍者が手を出すなんてことは、あってはいけない。
だから、喧嘩が始まる前に忍者を気絶させ、認知されない速さで姿を消した。
ミナトは気付いていたみたいだけど、目の前に姿を現すことは無かった。
それから暫くして、今度はくしなが何者かに誘拐される事件が起こった。
彼女が持つ、特別なチャクラを狙われたから。
クシナが道に落としていった赤い髪を目印に後を追っている途中で、ミナトのチャクラを感じた。
ここで彼女を助けるのは、わたしじゃいけない。
だから、クシナと一緒にいた忍じゃなくて、先に控えていた忍を殺して帰った。
それからは、特に何かが起きることもなく、平和な日々が続いた。
アカデミーを卒業して、下忍になって、中忍試験を受けて合格して、上忍になって……その頃には、ミナトは四代目になって、クシナと結婚していた。
そして、突如として訪れる、最大の災厄。
――グォオオオオオオォオオ!!
九尾による、木の葉襲撃事件。
甚大な被害を受けながらも、四代目が駆けつけるまで、九尾の動きに制限を掛けるのが、三代目から言い渡された、結遁使いである私の役目。
攻撃の被害から市民を守りつつ、動きを縛る。
戦火が燃え上がる中、九尾が火影たちの顔岩が並ぶ方向へ目を向けた。
そこにいるのは、四代目火影、波風ミナト。
九尾は彼に尾獣玉を放ち、ミナトはそれを里の外れへ、時空間忍術を使って飛ばした。
けれどそのミナトが、九尾を操っている黒幕、うちはマダラによって何処かへ連れて行かれた。
これからミナトが戻ってくるまで、九尾の攻撃からみんなを守らなければならない。
「皆の者! 決して諦めるでないぞ!」
檄を飛ばす三代目の言葉に、皆が応の声を上げる。
暫くして、九尾の様子が変わった。
暴れていたのが嘘の様に大人しくなり、かと思えば、また暴れ始める。
そこへミナトが現れ、九尾をどこかへ連れて行こうとした。
九尾の体に掴まり一緒に飛ぶと、そこは里の外れ。
いたのは、激しく衰弱したクシナと、2人の間に生まれた子供。
うずまきナルト。
生まれて間もないこの子に、これからミナトは、九尾を封印する。
こんな状況にも関わらず、親である2人が口論したのは、無理からぬこと。
やがてクシナは納得し、ミナトが結界を張った。
クシナのチャクラで九尾の動きを封じ、ミナトが封印術・屍鬼封尽を使おうとした所で、前に出た。
「なっ! 君は……どうしてここにっ!?」
「あなた、は……っ」
手を強く打ち付け、術を発動させる。
「結遁・白光十二柱の術!」
眩い光と共に、12本の光る柱が現れ、九尾の動きを封じ込める。
「グゥ……っ! 何だ、これは!」
もがく九尾だけど、ピクリとも動くことは出来ない。
「あの九尾を、完全に封じ込めた」
「感心してないで、早くチャクラを引っ張り出して」
「あ、ああ!」
ミナトがチャクラを引っ張り出し、九尾の体が一回り程小さくなる。
でも、九尾のチャクラ量は半端じゃないから、引っ張り出せたのは全体の半分程度。
「よし、急いで封印に取り掛かる!」
私の後ろで、ナルトに九尾が封印されていく。
これから君は、色んな人と出会って、色んな想いを知っていく。
「く……小賢しい結界を……!」
そしてその力は、きっと君を助けてくれる。
辛いことだって、沢山起こるよ。
でも、大丈夫だから。
ミナトとクシナが、九喇嘛が、君を支えてくれるから。
最初は、喧嘩ばかりするだろうけど、そうやって分かり合って。
いつか九喇嘛は、君を認めるから。
「くぅ! こ、むすめ、があっ!」
封印が終盤に差し掛かったことで、気が緩んでしまい、その隙を九喇嘛は逃さなかった。
「っ……ゴフッ……」
ビチャリと、嫌な音がした。
どてっ腹を一本の尻尾が貫き、咄嗟に結界を張ってミナト達に届く寸前の所で阻止する。
12本の結界は、何があっても解いちゃいけない。
「はっ、はあ、っはあ……!」
結界を、誰かが叩いていた。
いや、この状況で結界を叩く人なんて、ミナトしかいない。
良かった……封印は、無事に、終わったんだ。
なら、後は――。
「私と、一緒に、来てもらうわよ……九尾」
「なにっ!?」
「ずっと、傍にいるからね」
「――――!」
孤独な思いは、寂しい思いは、させないから。
貴方が望む形で、傍にいるから。
「哀しい思いは、絶対、に……させない、から! かはっ……!」
さあ、逝こう、九喇嘛。
悲しみも、憎しみも無い場所へ。
「貴方を、助ける……この日の、為に、生きてきた」
「貴様……」
「ずっと、ずっと……傍に、いさせてね? 九喇嘛」
「なっ! 何故、その名を……」
お話は、これから沢山出来るから。
だから今は、少しだけ休ませて。
腹を貫いている尻尾に手を置き、チャクラの綱引きを始める。
当然、彼に勝てる訳も無い私は、全てのチャクラを取り込まれ、九喇嘛と同化した。
(結界は、解いたから……ここから、南西、に、静かな、森があるから、そこ、へ……)
(おい……おい! チィッ!)
意識を保てなくなる直前に、彼から感じたのは、焦りと、不安と、困惑と……私を、心配する、温かい気持ちだった。
――数年後。
ある旅人が、ある森を訪れた。
そこには、1本の長い尻尾を持つ朱い狐と、その尻尾に包まれて安らかに眠っている少女が居たと言う。
「ずっと、一緒にいよう。九喇嘛」
「…………フン」