あの事件から、数年が経った。
九喇嘛と同化したわたしは、数ヶ月の間意識を失ったままで、目を覚ました時には、木の葉隠れの里から遠い南西の森にいた。
チャクラだけの存在になった筈のわたしだったけど、九喇嘛が自身に残っていたチャクラとわたしを融合させて、チャクラ体として新たな生命にしてくれた。
尾獣の中で、最も多くのチャクラを持つ九喇嘛だからこそ出来たこと。
その影響が強く出てしまったからか、わたしには狐の耳と尻尾が生えていた。
でも、それは純粋に嬉しいこと。より九喇嘛に近い存在になれたってことだから。
ただ、容姿に問題があった。
どこからどう見ても、少女……と言うより、幼女だった。
九喇嘛のチャクラによって出来た体なら、大人の体だって形成できたにも関わらず。
だから、どうしてこうなったのか聞いてみた所、九喇嘛は凄く間を置いて……結局何も言ってくれなかったから、理由は分からないまま。
4歳児くらいの大きさで、ずっと生きることになった。
もちろん、チャクラ体になった利点もある。
自然と会話することが出来る様になったり、遠くの存在を感知することが出来たり、空に浮いたり、水の上を普通に歩けたり。
あ、でも、体が未成熟な状態になってしまってるからなのか、話す時に少し、呂律が回らないことがある。
九喇嘛のことは、ちゃんと九喇嘛って呼んでるつもりだけど、どうにも、くらま、と言う風に聞こえてしまうらしい。
まあ、それはそうと……当の九喇嘛だけど、ミナトによってチャクラを引っ張り出されたことで一回り程小さくなってしまい、加えてわたしを生み出した際に、残っていたチャクラの大半を使ってしまったらしく、今は普通の狐より一回り大きい程度になった。
尻尾の数も、チャクラ量に比例しているのか、一本になっている。
でも、わたしの尻尾も同じく一本。
残り七本分がどこに行ったのか気になるけど、確かめる術が無い以上は気にしても仕方無いと割り切ることにした。
「――ユイ」
名前を呼ばれて上を見上げると後ろに転んでしまい、丁度その上に九喇嘛がいた。
「勝手に出歩くなと言っただろう?」
「ごめんなさい、くらま」
心配の色を含んだ朱い瞳に見つめられ、素直に謝る。
すると、彼は1つ溜息を吐いて、わたしを抱き上げた。
ふさふさの朱い毛皮に包まれた彼の体はどこでも気持ち良よく、つい顔を擦り付けてしまう。
「今日は何をしていた?」
「みんなの様子を、感じてた」
そうか、と短く答えて、九喇嘛はゆっくり歩き出した。
「…………」
「くらま、おこってる?」
「そういう訳ではない。ただ、心配を掛けるな」
心配、してくれてたんだ。
「くらま」
「なんだ?」
「……ありがとう」
お礼を言うと、九喇嘛は小さく鼻を鳴らした。
それから住処、と言うよりは、巣と表現した方が正しい、大きな木の根元に空いている穴に戻り、九喇嘛のお腹を枕に、尻尾を布団にして寝る準備をする。
「…………」
「…………」
時折聞こえる鳥の囀りや、小さな動物達の足音。
この森で過ごす時間は、いつもこうして静かに流れていく。
「くらま……くらまは、わたしのこと好き?」
「嫌いな者を腹に寝かせたりはせん」
「そっか……」
ただ静かに流れる時間の中、いつのまにかわたしは眠っていた。
こうして今日も、これからも、わたしと九喇嘛は静かに生きていく。