南太平洋に浮かぶハフマン島は、
両陣営の首脳がいがみ合っていても、市民同士は案外と自然な付き合いをしていたりする。
野茂、伊達、羽生。
友達だがこいつらを俺は舐めていた。
俺はこいつらとは違うって。
2090年5月。俺、
仲間内でトランプで金をかけたギャンブルをしていた。
「くそ、また負けかよ!」
「お前、悪運強すぎなんだよ」
文句を言うこいつらは負け犬だ。捨て台詞を吐いて出ていった。
「くくく、はははは」
金を巻き上げた俺はガルウィングのクーペを買った。100年前のクラッシックカーで、トヨタのセラだ。
「日本初のガルウィングですよ!」と営業は力説していた。
支払いは現金一括で前払いをしておいた。クラッシックカーを買える俺は、人生の勝ち組だった。
車が届くのを楽しみに自転車でマンションに戻る。
後ろからディーゼルエンジンの響きが聞こえた。4WD車が走って来る。
(メルセデス・ベンツのG350か)
これも100年ぐらい前の車種を再販した高級車だ。運転手は強引な様で減速する様子がなかった。
避けようとしたが車は加速して来る。
(危ないな)
文句を言ってやろうと思ってふと見れば、運転手が野茂だと気づいた。
「えっ」
野茂は凄まじい形相で車を俺にぶつけて来た。
(マジでか!)
ステアリングが重いとかそんな言い訳出来るレベルではない。あいつは俺を見ていた。
「くそ……ったれ……」
意識が遠くなる。
俺が病院で治療を受けている間に世界は大きく激変していた。
ニュースによると6月3日、ハフマン島のUSN勢力圏にあるラーカス地区に停戦条約を無視したOCU軍の特殊部隊が潜入。同地域の工場を爆破し、第2次ハフマン紛争が勃発した。
戦争のどさくさに紛れて俺を殺そうとした野茂は姿を消したと刑事が言っていた。
(しかも、俺のマンションを放火して逃げただと!?)
俺は銀行に金を預けず、現金を箪笥預金するタイプだった。奴の放火で全財産を失った。
(この苦境をどう切り開くべきか……)
病院のベットで考え込んで居ると、来客があった。
「伊藤開司君?」
訪ねて来たのは見知らぬ男だった。
「は、はぁ。そうですが?」
見るからに堅気では無い。犯罪者に思えた。
「私はUSN軍の遠藤大佐」
USN軍がいったい何の用だ?
「古畑武志、知ってるよね」
同じ日本出身と言う事で何回か奢ってやったり、金を貸してやった。
だけどここ半年は会っていなかった。
「入隊誓約書?」
誓約書を見せられた。よく見ると保証人の欄に俺の名前がある。印鑑も本物だ。
「彼が逃げてしまってね。君、保証人だったよね」
何かのバイト保証人が必要だから成ってくれと言われた記憶がある。でも軍隊だったなんて聞いてない。
「軍が負った損失を君が支払う事になった」
冗談ではない。何だってそんな奴の為に。
「ついてないが、まぁ人生山あり谷ありって言うだろう」
ふざけるなと喉まで出かけたが、我慢して事情を説明した。
「俺、車にひかれて、住んでたマンションまで焼かれて、入院費すらどうしようかって。とても他人の尻拭いなんか無理ですよ」
すると遠藤は表情を引き締めた。
「本題に入ろう。一ヶ月後、退院したらエスポワール基地に出頭しろ。我が軍は兵士を募集している」
「兵士?」
俺に人殺しで手を汚せと言うのか!
「エスポワール基地で一年、上手くしのげばお前が10年で返す借金がチャラになる」
いきなり借金が10年に膨れ上がっていて言葉が出なかった。
圧倒される俺に遠藤は畳み掛ける。
「お前の入院費も此方で払ってやるんだ。それどころか、一年後は退職金や給与でプラスだ。良い話だろう? お前は提案に乗って、身綺麗に成るしか選択は無い」
一年後に生きていれば借金はチャラ。他に頼るべき相手も居なかった。
「お、お願いします!」
俺は頭を下げ受け入れた。
地獄への片道とも知らずに、代償を支払う事に成った……。
むわっとした淀んだ空気が会議室に溢れている。
103人も集まっているんだ。それも仕方が無い。
2090年9月1日、人型兵器のヴァンツァー乗りとして即席の教育を修了した俺は早速、中隊配属された。
「現在、戦況は膠着状態にある。だからと言ってお前らを遊ばせている暇はない。役立たずの糞虫は遠慮無く死んでこい」
機甲学校の教官はそう言って送り出してくれた。
各中隊のパイロットが集められ、大隊長の利根川少佐から状況説明があった。
「最後の補充が到着した。まもなく第3次クリエイティブクルーズ作戦を発動する」
フリーダムの南西にあるグレイロックを制圧、ニューミルガンの港を抑え、敵の補給を断つ作戦だ。参加兵力は特機2個大隊規模を基幹とする
戦場では愚図が死んで逝く。ゲームと違って二度とやり直せない。
だから作戦前の説明は非常に貴重な情報だ。海兵隊の方では少女に罵倒されるご褒美があるらしいが、俺達はむさ苦しい男だけだ。余所見をする目の癒しも無い。
「とにかくどうあれ、最終的にニューミルガンを落とせば我々の勝ちだ」
攻めて取るだけ。今はただ勝つ事だけを考えれば良い。
「勝つぞ! 勝つぞ! 勝つぞ!」
初めての実戦を経験する俺達、補充兵は戦いへの恐怖から嗚咽をあげたり、気合いを入れたりしていた。説明が終わると実戦経験者は、機体の調整を行う為、会議室を飛び出して行った。
(やるしかねえ)
ヴァンツァーの性能は俺の力だ。勝つ確率を高める為には機体を弄る事だ。
俺も格納庫に向かった。
俺の所属する小隊は、眼鏡をかけた中年の石田曹長が小隊長でアサルト、同期の吉田が
結合双生児が分かれて生きてはいけない。
バランスだ。
四人は運命共同体、生き残りを賭けた四人の共闘だ。
『俺達は中根小隊の右翼を前進する。要するに山手側だ』
小隊長のフロストを先頭に前進する。俺のシャイアンは両肩に積んだドンキーで攻撃する役割だから最後尾を進む。
敵の歓迎委員はすぐに現れた。
『前方に敵散兵!』
丘陵地帯を抜けるとアサルトのウォーラスが3、ランチャーの炎陽が1。小隊規模の兵力が散開して居た。
『敵のパトロールだな。やるぞ!』
敵も此方に気付いて向かって来る。
戦闘が始まった。もう引き返せない。