実況パワフルプロ野球 鋳車和観編   作:丸米

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松井選手も杉内選手も引退。
野球ファンとしては大好きで横浜ファンとしては(特に杉内選手)大嫌いな選手でした。悲しいなぁ-----。


二遊間、及びエース同士の心

「なあ、石杖」

「あん?」

海東学院との激戦を終えた次の日。帝王実業野球部は当然の如く練習が組み込まれた。

海東学園を下したことで、ほぼほぼ甲子園のチケットを手にしたと言える帝王学園。9回まで投げ切った久遠ヒカルは特別に休養日が設けられ、現在は内野練習が行われている。

控えの二遊間がヒィヒィ言いながらノックを浴び続ける中、軽々とこなし終えた友沢と石杖がベンチに戻って来た―――その時。

珍しくも、友沢が石杖に声をかけた。

珍しい事もあるものだと胡乱げに顔を向けると、友沢は何となしにまごついていた。

ますます訝しむ石杖に、友沢は話題を探す様に下を一瞬俯き、気を取り直し話題を口にする。

「------山口さん、本当に復活できるのか?」

「まあ、出来るだろ。------で、何だよ」

「え?」

「え、じゃねーよ。今更な話題だろ、山口さんの事なんざ。お前が俺に自発的に話しかけるなんて珍しいったらありゃしなくて怖いの。さっさと本題を話してくれ」

「あ、ああ-----。そうだな」

実の所、もう友沢は以前のように石杖を嫌ってはいなかった。

元々石杖の人間性そのものを嫌っていた訳ではなかったし、海東学院との戦いで見せた野球への姿勢は見直すには十分すぎる程のものであった。嫌う理由は、もう存在しない。

ただ、それ故に気恥ずかしい。改めて石杖に自分から話しかける事が。

------ただ、それでも聞きたい事があった。

「なあ、石杖。単刀直入に聞かせてくれ。―――お前、何で海東学院とのゴタゴタの時あんなに怒ってたんだ?」

「怒ってた?俺が?馬鹿を言え馬鹿を。そんなキャラクターじゃないよ俺は」

「そうだよ。そんなキャラじゃないだろ。―――山口さんのケツ叩いて、瀬倉の対策を必死こいて考えて、勝ちへの執念を恥ずかしげもなく見せた。間違いなくお前のキャラじゃない」

「------」

「何で、お前が怒ってたんだ?俺でも久遠でも山口さんでもなく―――お前が一番、怒っていた」

そう。

石杖所在という人間は、そんなキャラじゃない。

飄々とした皮肉屋。冷えているというよりは、乾いた心魂を持った男。掴みどころがないキャラクターこそが、石杖所在という人間のはずであった。

だが―――あの時に垣間見せた勝利の執念は、明らかに感情の栓から這い出たマグマだった。

「------まあ、何だ。友沢」

「うん?」

「山口さんから聞いたけどお前超がつくシスコンらしいな」

「な-----!」

「小さい妹と弟いるんだって?いいなー。俺もなー。可愛い妹がいればよかったんだけどねぇ。----俺もなぁ。妹いるんだけどなぁ。アレは何というか、アレなんだよ。うん」

「何だよ------」

「まあ、とにかくさ。お前、自分の身体ぶっ壊されんのとその可愛い肉親がぶっ壊されんの、どっちが腹立つよ?」

「そりゃあ、まあ----」

無論。そんな疑問答えるまでも無い。

「人間、自分の事に一番感情が動かされると思ったら、案外そうではないんだよ。自分の事は自分でしまい込めばそれで終了だけど、自分以外はそうはいかない。そいつの痛みとか苦しみとか、自分じゃ解んないし理解も出来ない。―――だから、どんだけ感情を振り回せばいいか解んないんだよ。解んないから、どれだけ怒ればいいか解んねぇんだよ」

全部を言い終えた後―――うっわ恥ずかしいと勝手に頭を抱え始めた。

「------とまあ。こんな風にキャラが変わることもまた人間の一つの側面と言う訳だ。以前捻挫でかかったドクターロマンの所為で死ぬほどクサい台詞を思わず吐いてしまう事もたま~にある。まあ、それでいいじゃない」

「誰だよドクターロマンって----。まあ、言いたい事は解った。要するにさ。お前―――」

「何だよ?」

「ツンデレなんだな」

「お前にだけは言われたくないな------」

ノックで足を縺れた後輩を叱り飛ばす監督の声と、チャイムの音が丁度重なった。

日暮れが落ちるように、友沢の心に少しばかり染み入る時間であった。

 

 

地区大会、決勝。

その相手は―――。

「パワフル高校、ですか」

あかつき大付属高校野球部部室内。ポツリとそう呟くのは猪狩進。

「まさに古豪の復活って感じだね。十数年前までは甲子園の常連だったんだろ?」

その声に、パワプロはそう返した。

「ええ。けれども相次ぐ不祥事で一時野球部が解体されて、そこからまた復活した高校の様です」

かつて幾人ものプロを輩出し、幾度も優勝旗をかっさらって行ったパワフル高校。

されどそれは軍隊の如き縦社会と強烈かつ理不尽な練習によって生み出された功績であった。時代と共に排斥され、消え去り、そのまま塵となったはずであった高校。

されど、時が経ち、甲子園へあと一歩の所まで歩を進めるまでにまた復活した。

「エースの館西と、四番の東條、五番の神宮寺。ショートの佐久間、セカンドの駒坂の鉄壁二遊間。―――館西は典型的なゴロピッチャーで、カチカチの内野陣と相性が実にいい。館西が粘っている間に、バランスのいい打線が大量得点を挙げて勝ち進んできたチームだ」

そう、ベンチで休息をとっていた鋳車が声を挟んできた。

「確かに----内野陣がどこをとっても穴が見えない」

二遊間は言うに及ばず、ファーストの神宮寺とサードの東條も非常に守備が安定している。そうなれば、至極当然ゴロヒットの可能性は非常に低くなる。そこに、コントロールと球種の多さがウリの館西が入った事で強力となったチームだ。

「戦い方は帝王と若干似ている。フライ率が非常に低い山口と、鉄壁の二遊間の組み合わせ。帝王ほど二遊間が突出している訳ではなく、サードとファースト含めて全体をカバーしている感じだな」

「------決勝投げるのは鋳車さんですか?」

「いや。猪狩に決まった。俺が新球種の調整中だと言ったら、すぐに猪狩が決勝戦を投げると監督に直訴してきたとさ。―――こっちのストレートはもう完成したから、俺を休ませろってさ」

「-----へぇ」

何と言うか、猪狩らしいというか。

「ここまで、あいつのストレートの調整の為に俺の登板が多かった事を結構気にしてたらしい。〝借りは返す”だとよ」

「本当、何処まで行ってもプライドの高い奴」

プライドが高くて単純な野球馬鹿。猪狩守はいけ好かないように見えて、何処までも解りやすい奴だった。

「まあ、アイツが本気出すならまず負けんだろ。左の好打者が並ぶ打線なら、俺よりも猪狩の方が相性もいいだろうしな。------後は任せる」

「------意外だな」

「何がだ?」

「後は任せる、なんて台詞。―――お前の口から出るとは思わなかったよ。カズミ」

パワプロは、少しだけ感慨深げにそう言った。

土手で投げ続けてきた孤独なピッチャー。それが、同格の天才ピッチャーとは言え今やマウンドを譲るほどまでの心の余裕を得られようとは。

今となってはそこまで不思議ではないが―――昔を思えば、随分と違う所に着地したなぁ、と思ってしまう。

「------俺も昔のままじゃないって事だよ。俺は別に猪狩の様なバカ高いプライドなんざ持ち合わせてないしな」

「そうか?」

「ああ。------俺は、試合に勝てるならベンチに引っ込んでいたって構わない。それが勝つために、勝ち続ける為に最善であるならな」

「------」

それは、つまり―――こういう意味でもある。

勝つために最善であるならば、自分がずっと投げ続けたって構わない―――という事でも。

「まあ、だから次は俺はお休みだ。アイツが投げるなら、意地でもマウンドは譲らないだろうしな。―――まあ、見てろよ」

鋳車は表情を変えずに、言葉を続けた。

「多分、アイツは捻り潰してくれる」




最近バッティングセンターでフォークを投げる練習をしました。中指が攣りました。もう二度としない。

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