実況パワフルプロ野球 鋳車和観編   作:丸米

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軽く記事形式で選手講評を書くつもりが、結構な分量に。ストーリー一切進まないっす。すみません。


幕間 雑誌特集

――パワフルスポーツマガジンX月号特集

~未来のドラフト候補たち~

 

 

いよいよ県予選が始まった。

夏の日差しに映える球児たちの姿が全国各地で躍動している。とうとうこの季節がやって来たのだ。

 

各予選、まさしく波乱の幕開けとなった。

エース山口を欠いた帝王実業の快進撃にはじまり、強豪・千秋楽高校を初戦敗退に追い込んだ謎に包まれたコアラヶ丘高の存在、そして様々な議論を呼び込んだ恋々高校の奮闘劇。

 

これまでの試合だけでも、様々な驚きと感動を我々に運んでくれた。私は確信している。きっと今年の甲子園も面白くなるはずだ。

そして――この予選の中で非常に驚嘆したのが、各校新加入戦力の強力さであった。

今年の予選は本当に予想できない。実績ある高校が次々と破れ、無名の高校が頭角を現し、予選を勝ち進んでいる。

その理由は――強力な一年、二年生の存在が大きいと私は分析している。

 

メイン戦力である三年生の実力は、昨年までの実績を見れば想定しやすいが、新戦力の一年生や、昨年より一気に実力を伸ばした二年生に対してはそうはいかない。予想もつきにくく、各校対策もしにくいのだろう。

今年、ジャイアントキリングを達成した各校それぞれが、どれも例外なく「メイン戦力の下級生」を取り揃えていた。

対策の出来ない、初見戦力。対策も効かないその力に翻弄され、多くの強豪校が涙を呑む事となった。

 

という訳で、今月の特集は「未来のドラフト候補たち」。

今年度ではなく一年後、二年後のドラフトにおいて、必ず候補に上がるであろう高校と選手たち――つまり、一、二年生を中心に幾人かピックアップし、紹介しようと思う。

 

 

 

④あかつき大付属 

あかつき大付属は県下最高の高校として名高いが、順調に決勝まで歩を進めるその姿に全く変わりは無かった。

されど驚くなかれ。強豪校であるにもかかわらず、あかつきのメイン戦力は一、二年生で埋められている。

 

昨年、ドラフト指名を得た一ノ瀬とダブルエースを張っていた猪狩守。長打力の向上に成功し、めきめきと実力を伸ばしているパワプロ。そして一年にして扇の要を司る猪狩進。

そして、恋々高校との試合において「サブマリン対決」を制した鋳車和観。

彼等全員が、一、二年生である。

野球エリート校であると同時に、完全なる実力主義を掲げる高校故の現象であろう。才覚と実力が認められれば下級生であれど関係なくメインの役割を全うさせる。その為に、これだけの下級生の戦力を揃える事が出来たのであろう。

そして、特に取り上げたいのは、現在猪狩とWエースを組む「鋳車和観」である。

 

彼の代名詞は、何と言っても高めの軌道から滑り落ちるシンカーと、それを活かす浮き上がる直球であろう。

直球の最高球速は130キロと、それほど速い部類ではない。

されど彼はここまで出場した試合全てにおいて10以上の三振を奪っている。奪三振率は、驚異の15.6。地方予選とはいえ、これはあまりにも脅威の数字であろう。

その分、どうしても高低を使った配球が多く、ボール球を多く使用してしまう難点があったが、恋々高校で見せたカーブを持ち球に加え、カウントを稼ぐ手段も備えるようになりいよいよ穴が無くなりつつある。

彼に関して、将来のドラフト評価がどうなっているのか中々に想像しにくい。

彼は身体が小さく、それをサブマリン投法という技巧でカバーしている。眼に見える形でその凄まじさというのが伝わりにくいのだ。この状況は「高校野球だから通用しているだけ」という否定意見を作り出されやすい。

その技巧がプロ野球でも通じるかどうかというのは、プロの世界で生きている人間からしても賛否が分かれる所だと思う。否定材料を打ち消すだけの数字的要素が存在しない。だから、どうしても彼を欲しがる母数は少なくなってしまうであろう。

けれども――もし彼がドラフトで入団し、プロの世界で活躍する日が来たのならば、きっと誰もが魅了されるはずだ。

いつの時代も、個性的なフォームのエースというのは恰好がいいものなのだから。

 

 

 

 

⑧帝王実業高校

昨年、甲子園ベスト8にまで歩を進めた原動力であり、精神的支柱であった山口賢の離脱。

誰もが甲子園出場は厳しいと評価する中、彼等は暴風雨の如き打撃力を以て対戦相手を蹂躙し、予想を大きく覆した。

一年生エースとして見事山口の穴埋めを果たした久遠ヒカルや、各選手のレベルの底上げなども元凶の大きな要因の一つであろうが――何よりも大きいのが屈指の破壊力を持つクリーンナップであろう。

三番石杖、四番友沢、五番霧栖。

今大会において、この三人だけで十発を超える本塁打を生み出し、三十に迫る打点を生み出している。

四番友沢の安定感は昨年に引き続いてのものだが、特筆すべきは三番石杖の成長と五番霧栖のバッティングの完成度の高さであろう。

石杖は、今大会における打率は4割後半にまで数字を伸ばし、出塁率は驚異の6割7分。打席数の三分の二以上をしっかり出塁している計算となる。

その上に――彼はここまで三振はゼロ。空振りすら一桁の範疇に収まっている。

四番友沢、五番霧栖の前に立ちはだかるこの男は、当然の如く各校の攻めも厳しくなる。

されど彼はボール球を容易くスイングしない。

彼は今年から左腕で拍を取る事で、打席の中でリズムを作る様にしたという。その結果としてゾーン内の反応が著しく向上したという。

厳しい攻めをいなしながらフォアボールを選び、甘く入ったボールは容赦なく叩きこむ。「支倉の至宝」と中学時代に呼ばれた男の打棒は、今現在においても進化をし続けている。

 

そして、新加入の一年生、霧栖弥一郎。

はっきりというならば、彼の打撃技術はプロのレベルにもう既に到達している。

守備も走塁も高校生レベルからしてもまだまだ荒いが、そんな短所など全く気にもならない程に、彼の打撃はとにかく全てが規格外であった。

 

打率五割前半。本塁打六本。

本塁打のうち、半分が反対方向へ叩きこんだものである。

 

変化球に全く泳がされないフォーム。そのコースであっても真芯に食らわせるバッティング。

彼の打球はとにかく凄まじく、ゴロであっても守備側が全く反応できない事すらあった。

 

石杖も霧栖も、必ずドラフト候補に上がるであろう。

石杖は守備走塁からも高いセンスを感じられる。その上に打撃ですら強力となったとなれば、二遊間が不足している球団は必ず手を挙げる逸材だ。

霧栖弥一郎に関しては――このまま怪我なく二年を過ごせば、どれ程の球団が競合するか。そのレベルの選手であろう。それほど、今大会における彼の打棒には度肝を抜かれた。

 

 

 

 

「オイラも二年でやんす」

矢部が、パワフルスポーツマガジンを手にそういきなり口にした。

「------どうしたの?」

いきなり何事かを口走った男に、パワプロは首を傾げながらそう尋ねた。

「どうした、って決まっているでやんす!おいらも二年生なのに、何でこの特集に乗っていないんでやんすか!将来のドラフト候補でやんすよ!」

おかしいでやんす!今すぐ出版社に抗議すべきでやんすよ!

そう涙ながらに必死に主張する悲しきメガネに、皆が皆生温かい憐れみの視線を投げかけていた。

「------だったら、今日の僕の試合で下らないエラーをしない事だな」

空気を切り裂く様な、冷たく鋭い声が部室内に響き渡った。

「この前みたいにトンネルをしてみろ。君のエラー場面を編集したビデオを24時間不眠不休でループさせて見せ続けてやるからな」

「拷問でやんす!」

「拷問でもしなければ、君の性根は治らないのならば喜んでやってやるさ。----いいから次の試合に集中したまえ」

そう言って、猪狩守は矢部の手から雑誌を取り上げる。

文句を垂れ流す矢部を完全に無視しながら――猪狩はあかつき大付属の紹介ページを読む。

「Wエースか」

その文言を見て――フッ、と笑う。

「悪くない言葉だ。強いチームは強いピッチャーが複数いなければいけない。――でも」

彼は雑誌を丸め、矢部の頭を叩いた後に返却する。

「エースのエースは、僕だ。――見ていろ、鋳車」

彼は闘志を胸に抱き、明日の試合に思いを馳せた。




プロ野球もそろそろ始まり。ウチの上茶谷選手には頑張ってもらいたい。

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