「うぅ、今年もこの季節が来てしもた……」
ゴールデンウィークも差し迫った四月の下旬。部室で週刊少年誌を読み耽っていた
声の主は千里山高校男子麻雀部部長・西田。彼は今、雀卓の上に置かれた一枚のわら半紙を前に膝を折って嘆いている。他の部員も失意に暮れている者が多く、例外なのは友哉と一年生部員の三人くらいのものだ。
最初は無視を貫こうかと思っていたが、いい加減ウザくなってきた友哉は読んでいた週刊誌を閉じると西田に声をかける。
「さっきから何やってんの?」
「……そういえばお前と一年は知らんかったな……」
絶望を色濃く浮かべた顔を上げる西田。そしてわら半紙をつまみ上げると、それを部員全員に見えるように掲げる。そこには『第七回麻雀部男女交流会』の文字が躍っていた。
「これや。今年もこれが開催される」
「麻雀部男女交流会?女子部と仲良くバーベキューでもするのか?」
「ドアホ!そんなやったら落ち込むわけないやろ!」
「そりゃそうか」
「これはなぁ……悪魔が仔羊を食い散らかす恐怖の晩餐会なんや」
「はあ?」
意味不明な発言に思わず素っ頓狂な声が出た。友哉は一旦教室から出ると、出入り口に下げられているプレートを見る。それにはしっかりと『麻雀部』の文字が記されている。
今日から唐突に『オカルト研究部』などと言った胡散臭い部活に変わったわけではないようだ。
その事実に一安心しつつ部室に戻った友哉は西田の対面に座る。
「それで?」
「今の行動はツッコミ待ちか?」
「いいからいいから。恐怖の晩餐会とはこれ如何に?」
「まあええけど……友哉、お前も転校生とはいえ千里山の麻雀部が全国レベルなのは知っとるな?」
「そりゃな。麻雀にあんまり興味がない奴でも聞き覚えあるくらいには有名だろ」
「そやけど強いのは女子部だけなんや」
「それも入部初日で理解してる」
西田の言う通り全国に名を轟かせる千里山麻雀部は女子麻雀部のことを指す。男子麻雀部との実力差は月とスッポン。比べるのも烏滸がましいほどである。
まあそもそもとして麻雀は女子の方が圧倒的に強いので別に珍しい話ではないが。
「それを踏まえて聞けよ。早い話が交流会ってのは男子部女子部合同で学校に泊まり込んで麻雀を打ちまくるんや」
「……女子部に得あるかそれ?」
関西最強とも名高い千里山女子麻雀部がゴミクズレベルの男子部と合同練習をしたところで得るものがあるとは思えない、というのが友哉の正直な感想だ。
「と思うやろ?あるんやなぁこれが」
西田の話はこうだ。
女子麻雀部は全国二位という順位からも窺い知れる通りとにかく強い。激戦区の北大阪においても頭一つ抜けた実力であり、練習のために県外の強豪校まで出向いたり逆に千里山へ招いたりということを頻繁に行っているのだという。
そのおかげで三軍まで含めて女子麻雀部は高い実力を維持できているのだが、その反面格下との対戦経験が著しく不足している。三軍でも他校でならレギュラーを張れると言われる千里山女子麻雀部故の悩みでもあった。
しかし全国大会ならまだしも地区大会や県大会でははるか格下の高校と戦うことは少なくない。大抵は大将戦を待たずにトバして一蹴してしまえるのだが、時にあまりにつたない麻雀を打つ相手と戦って調子を崩してしまうことがあるのだという。
千里山女子麻雀部は全国優勝のため、このわずかな躓きすらも許せなかった。そこで浮上したプランが男女部の交流会という名のジェノサイドゲーム。
千里山高校が少子化の煽りを受けて女子高から共学へ変わったのが十年ほど前。その際に設立された男子麻雀部は女子部にとって都合のいい格下相手だった。
それ以降、男子麻雀部はゴールデンウィークになると女子部に虐殺されるのが恒例になったのだという。
「世知辛ぇ……」
それが西田の説明を聞いた友哉の第一声だった。
「俺達も一昨年去年とズタボロにされたんや。そして今年もな……」
西田が遠い目をする。この二年間で一体どれだけのトラウマを植え付けられたのか想像に難くない。
これが交流会の一週間前、千里山高校男子麻雀部の部室での一幕だった。