どんな人にも平等に、時に残酷に、それでも朝はやってくる。
西田の嘆きから一週間後。世間は昨日からゴールデンウィークに突入し、友哉もその例に漏れず五日間の連休に突入している。
しかし今日と明日は千里山高校麻雀部の交流会で学校に泊まり込みだ。
「よーっす」
緊張も臆した様子もなく、いつもの軽い挨拶をしながら友哉は男子麻雀部の部室の扉を開く。
部室の中には暗雲が立ち込めたような、どんよりと重い空気が充満していた。爽やかな朝の空気には全くもって似つかわしくない。
「キノコが生えそうなくらい湿ってんなお前ら。太陽を浴びようぜ」
「その気楽さがいつまでもつか見物やな……」
そういう西田の目の下には立派なクマができていた。昨夜は恐怖で寝られなかったのかもしれない。
他の二、三年生も似たようなもので、この空気にどう対応してよいか分からない一年生はオロオロするばかりだ。
対して友哉はこの日を割と楽しみに待っていた。
単純に女子麻雀部がどれだけ強いのか実際に対局して肌で感じることができるというのもあるし、何より女子麻雀部には美少女が多いと評判なのだ。健全な男子高校生として胸が躍るのは当然である。
というか女子麻雀界はかなり美女・美少女率が高い。強い子ほど可愛いとまで噂されるほどで、毎年テレビ中継される全国大会などは卓に座る四人全員が美少女ということも珍しくないのだ。
強豪である女子部に期待してしまうのも無理からぬことだった。
友哉の到着から十分と経たずして男子部の部員が部室に揃う。これから全員で女子部の部室へと向かうとのこと。
「行くのは第一部室の方や」
「第一?女子部は部室がいくつもあるのか?」
「三軍制度やからな。部室は三つあるで」
「男子は手狭な空き教室ひとつなのにな」
「言うなや」
などとくっちゃべりながらやたらと広い構内を進む。千里山高校は建物も大きければ敷地面積も広い。
金はあるところにはあるのだ。それが男子麻雀部の方に回ってこないだけで。
そんなことを考えていると先頭を歩いていた西田の足が止まる。目の前には『女子麻雀部 第一部室』と書かれたルームプレート。
「よよよよよよし、ははははは入るぞ……!」
西田の呼吸は荒れ、口もうまく回らず冷や汗の量も大変なことになっている。
ビビりすぎだろ、と思わなくもない。じれったくなった友哉は扉に向けて手を伸ばしては引っ込めるという動作を繰り返す西田を押しのけて、なんの躊躇いもなく扉を開いた。
「ちわー、三河屋でーす」
「うちらは味噌も醤油も頼んどらんで」
さすが笑いの本場大阪、というべきか。友哉のしょうもないボケに対しても素早いツッコミが返ってきた。
「代わりに仔羊連れてきたから煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
友哉は自分の背に隠れるようにして立つ西田の首筋を掴んで女子の前に差し出した。
「仔羊?どういうことや?」
なぜか学ランを羽織った少女が小首を傾げる。友哉としては少女の格好の方に首を傾げたいところだがここはぐっと堪え、場を円滑に進めるために西田を生贄に捧げた。
「部長がこの間『交流会は悪魔たる女子部が哀れな仔羊である男子部を虐殺する恐怖の晩餐会なんや!』って言ってました」
「ちょ、友……!」
西田の抗議の声が最後まで続くことはなかった。
学ラン美少女と黒髪ロングの美少女を双璧に、西田を数名の女子部員が取り囲む。
「西田君、そんなこと言ったんや」
「悪魔なんて傷付くわぁ」
「いや、あの、それはやな……」
薄情な部員にあっさり売られる部長。その様は確かに哀れな仔羊のようであった。
結局この後、女子麻雀部の顧問である愛宕雅枝監督が姿を現すまで正座でお叱りを受ける西田を眺めていた。