半荘二回戦目。友哉が着いている卓は特に波乱もなく対局が終了した。
結果は三位。一回戦目では最下位だったので地味に能力を使いつつのフィニッシュとなった。
「早和了りで親番の連荘を阻止してからオーラスで一発ツモをトップに直撃させた流れは鮮やかやったな」
「ですよね!」
「まあその分、牌の切り方は綱渡りなとこも多かったさかい運が良かっただけとも言える」
「ですよねー……」
軽く凹んでみせるが実際愛宕監督の言うとおりである。純粋な実力勝負であれば友哉は三位にすらなれなかっただろう。
とはいえ三位は三位だ。決して悪い結果ではない。
ちなみに他の卓では男子が連続で四位を獲得していた。
「ふむ、他の卓もそろそろ終わりそうやし、次は……」
と愛宕監督が何やら言いかけたところで部室の扉がノックされる。
「失礼します」
ガラガラと開いた扉からどこかおっとりとした空気を感じさせる声が聞こえてきた。
友哉がそちらに視線を向ける。そこにいたのはショートボブの黒髪が良く似合う、これまた美少女だった。
(Yes!さすが女子麻雀部!)
朝の一幕でほぼ確信していたが、やはり美少女揃いという噂はデマではなかった。友哉は卓の下で拳を握って周りから見えないような小さいガッツポーズを作る。
「怜。体の方はええんか?」
「はい。ただの定期検査ですから。むしろ調子ええですよ」
そういって怜と呼ばれた少女は柔らかく笑った。
まるで天使のような笑顔に友哉は思わず見惚れてしまう。いや、もしかしたら本物の天使なのかもしれない。そんな馬鹿なことを考える友哉だった。
「無理はせんようにな」
「分かってます。じゃあウチは第一部室に……」
と怜が言いかけたところで新たな乱入者たちが現れた。
「あ、怜!」
姿を現したのは例の学ラン少女と清水谷だった。その二人は駆けたまま怜に抱き着く。
怜はそれを少し後ずさりながら受け止めた。
「おっとと」
「怜、来るのは午後からじゃなかったん?」
「予定よりスムーズに終わってな」
「どうやった?」
「問題なしや。目一杯麻雀できるで」
女三人揃えばなんとやら。まあ姦しいというよりは百合百合しい雰囲気だったが。
それはそれで友哉にとって眼福である。網羅しているジャンルの幅にはそこそこの自負があるのだ。
「それで二人はどうしたん?」
「そや、監督!」
「なんや?」
「俺達、三河屋と打ってみたいねん!」
「三河屋?」
「それもしかして俺のことか?」
たまらず口を挟む友哉。
部室にいた人間全員の視線が一気に集まる。その中で学ラン少女が力強く頷いた。
「せや!」
「自分、三河屋言うんか?変わった名前やなぁ」
「フルネームは古谷友哉だけどな」
「三河屋要素どこやねんな……」
見た目は天使でも大阪出身だけあってしっかりツッコミを入れてくる。
まあ朝のやり取りを知らない怜が三河屋と呼ばれているのを疑問に思うのはしかたのないことだ。しかしその理由は今説明するべきことではないだろう。
「まあそれはさて置き。なんで俺と打ちたいわけ?」
「おたくの部長に聞いたで。三河屋」
「古谷な」
「聞いたで古谷。お前、異能持っとるんやろ?」
律儀に言い直した学ラン少女の一言に部室中の人間がザワつく。愛宕監督すら意外そうに目を細めている。
確かに異能を持っているかどうかといえばそんな感じのものを宿しているのは事実だ。
「ホンマなん?」
「あー、まあ否定はしないけど」
断じて天使に聞かれたから素直に答えたわけではない。
本当の能力はこれまで誰にも打ち明けたことはないが、その能力を麻雀で異能っぽく見せてきたことは何度もある。それが平然と受け入れられる麻雀界も大概だと思うが。
「なるほど、そういうことか。セーラ、竜華、それに怜。みか……古谷と打ってみい」
「マジっすか」
「不満があるんか?」
「いや全く」
むしろ美少女に囲まれるのでありがたい展開である。相手を見つめても不審に思われることもないので眺めたい放題だ。
麻雀は勝とうが負けようがどうでもいい。
「やった!じゃあやろうぜ!」
待ち切れないとばかりにセーラと呼ばれていた学ラン少女が友哉の左隣に座る。それに続いて清水谷が右隣、そして天使こと怜が友哉の正面に座った。
『よろしくお願いします』
四人の声が重なる。
こうして友哉は千里山女子麻雀部の大黒柱とも言える三人と卓を囲むことになったのだが、本人はその事実に気付いていなかった。
怜の一人称は「ウチ」と「私」の二通りありますが、この小説では「ウチ」で統一しようかと思います。