艦娘達の休日   作:かのそん

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扶桑姉様に続いて、その二番艦山城のお話です


山城の憂鬱な1日

「自分が何をしたか分かっているのですか!」

 普段はおっとりと静かで、優しい響きを含む声色で聴くものを安心させる柔らかい声で喋る扶桑、その彼女の剣呑な声が執務室に響き渡る。それは隠しきれない憤怒の感情を孕んでいた。

 

 普段が普段なので扶桑のこの声を聴く機会があるものはそうはいないだろう、そしてそれは妹の山城でさえも例外ではなかった。

 私は隣りに座った神通と2人でその迫力に息を飲む。

 

 私達は現在、執務室の来客用のソファーで秘書艦扶桑と向かい合って言葉を交わしていた。提督はいつもの定位置で書類を纏めている。

 

 

「姉様・・・。」

「いいえ、扶桑さん。彼女を責めないで下さい、今回の失態は全て私の不始末が招いた結果です」

 今回、私は自分がしでかした事。

 それは、今の自分の立場を自分で否定するかのごとく、責任感を放棄したとも取れる。そんな行為だとを自覚している。

 だから言い逃れも弁解も一切せず、全ての罰を甘んじて受け入れるつもりだ。

 だが、それをさせまいと進言する神通。

 私達二人の格好は制服のあちらこちらが解れ、焼け落ちている、どこもかしこもボロボロで酷いものだ。傷は既に高速修復剤で直した後だが、艤装の修理はまだ済んでいなかった。

 

 今回の私達はまだ誰も起きてないだろうと思われる、朝日も昇りきらない薄暗さの中、夜戦をすることを前提に組まれた日を跨ぐ任務。

 それをこなした後で、勝手な行動を起こしたことについてだ。

 

 

 ◇

 

 出撃自体は特に大きな被害もなく成功を納めた。

 そして旗艦を任せられた私は、提督に無線連絡を行おうとした時に事は起こった。

 

 私はそれに気が付けなかった。

 既に息絶え沈みゆくだけになった死に体の深海棲艦。どこも見ていないだろう虚ろな瞳のまま最後の力を振り絞ったのか、ただ発射装置に指が掛かっただけの偶然だったのかは分からない。

 

 だが、その魚雷がまっすぐこちらを狙っていたことに私は気が付けなかった。そして、咄嗟に動けたのは最後の一撃を与え、沈みゆく敵の最後を見ていた神通だけだった。

 結果、神通は被弾箇所を選んで庇うことが出来ずに大破。敵目標の討伐が済んでいた私達は神通を曳航して帰路に着いていた。

 

 

「ごめんなさい神通。これじゃ旗艦失格ね」

 私は提督にもう一度無線で連絡し、第2艦隊が迎えに来てくれる旨に了解を返し通信を終える。隊列を乱さない様注意を払いながら、僚艦の時雨に曳かれたままの神通に顔だけを向け謝る。

 

「いいえ、仕方がないですよ。敵を完全に無力化したと皆が思っていたんですから。それより山城さんが無事で良かったです」

 まともに動かない缶を懸命に動かし、少しでも皆に負担を掛けまいと行動しながら、小さく首を振り答える神通。

 

 

「それにしても当たり所が悪かったとはいえ殆ど動けない現状がもどかしいです」

「もう作戦自体は終わっているのよ、大人しく曳かれてなさい」

「そうだよ、さっきは神通が頑張ってくれたんだから、僕も頑張るよ」

 そうして第2艦隊との合流予定地点の海域に差し掛かろうかとした時。背後から轟音が響き渡った。

 

 

「何!?」

「て、敵の追撃部隊みたいです!数は戦艦2、重巡2、駆逐2です!」

 僚艦の綾波が咄嗟の出来事とは思えないほど、的確な情報を回してくる。熟練見張員を積んだ彼女にはハッキリと見えるらしい。

 

「回避!皆固まってると危険よ!バラけて!もう少しで合流地点よ!そこまで回避を優先して!

 今回は夜戦が前提、足回りの良さで敵を撹乱し各個撃破の作戦。こちらの戦艦は旗艦の私だけ。駆逐4、軽巡1。内、神通は大破、夜は明け始めている」

 即座に飛ばした指示にも危うげなく対応する皆を見やり、ぶつぶつと子声で呟きながら状況を整理していく。

 

 どうする、どうする。戦艦と重巡がやっかいね。

 こちらの今の編成の状態では真っ向から迎え撃てない、万全の状態ならいざ知らず、今は作戦終了後。

 燃料も弾薬も心許ない、そんなことしたら数分と待たずに艦隊が瓦解するのは火を見るより明らかだ。空が白み始めているからやり過ごすのも難しい。空母がいないのが救いだが、それでも危険な事に変わりはない。

 しかし、だからと言ってこのまま逃げ続けても、こちらは1人曳航している。その2人は持ち前のスピードを活かせない。速度を上げて皆から離れれば2人はハグレて終わりだ。

 

 それに、これ以上の速度を出せば隊列が乱れお互いがお互いの援護が出来なくなる、このままの速度で行くしかない。だがそれだと、いずれは追い付かれる・・・。

 

 目を瞑り一つ深呼吸して私は反転する。

 

 

「時雨は神通を曳く事だけを考えて、他の皆は2人を囲むように輪形陣で移動継続。」

 旗艦として先頭にいた私の反転に皆が怪訝な表情をして減速する、増設された艤装の奥から応急修理要員の妖精達を呼び出し神通へと行き渡らせる。これで処置が済み次第少しは速度が上げられるはずだ。

 

「山城?」

「私はここで敵を引き付けます」

 無線で艦隊の皆に告げると何人かが息を飲むのが分かった、すぐに皆から反論されたが敵戦艦を止めるのに殿が燃料の少ない駆逐艦では荷が重いし、私は皆と違って足が遅い、戦艦と戦えるし、私が居なければ艦隊の移動時間を僅だが短縮できる。と理詰めで説き伏せる。

 

「でも!」

「だったら早く行って、増援を連れてきなさい!」

 今はこれ以上ここで時間を無駄にしてる暇はない、私は無線を切る。何度かこちらを振り返り躊躇していた皆が移動を再開し速度を上げたのが分かった。

 狙いもそこそこに砲撃を放つ、私へと意識を向けさせる為にわざと敵の進行方向の前へと砲撃を落とし水柱を上げる。

 

 

「いい娘ね・・・。」

 時雨の今にも泣き出しそうな顔や、神通の唇から血が滲む程歯を食い縛っている姿を見届け、小さく呟き笑う。離れていく仲間達の気配から、敵との戦闘へと意識を切り替える。

 距離が近づかれ邪魔をされる前に最新鋭の瑞雲を発艦、数機を残して、その他全てを撹乱させるために突撃させる。残した数機は観測射撃用に敵の弾の届かない高度へと上げそれを維持してもらう。

 

 瑞雲からの爆撃、駆逐1大破。少しでも数を減らしたかったが、仕留めきれなかったか・・・。だが足の早い奴の一体から速度を奪ったのは大きい。

 

 

「まずは数を減らす!」

 高高度からの瑞雲の観測データを元に、砲撃の射程範囲に入った瞬間にそれを放ち、無傷だったもう片方の駆逐艦の無力化に成功する。ここからだと沈みゆく姿を視認は出来ないが観測データを送る妖精からの情報で確認した。

 

 敵の戦艦の射程距離に入ったのだろう、あちらの2体分の砲台から炎が上がるのが見えた。私は右へ左へと蛇行し狙いを絞らせないよう舵を切る。

 敵の狙いは練度が低くお粗末なものの、単純に数が違う。

 その内の1発が私の前へと着弾する。

 

 

「扶桑型戦艦を舐めるんじゃないわよ・・・!」

 私へと届かなかった砲撃を見た敵は更に奥を狙って仰角を上げてくるだろう、それを踏まえて私は逆に逃げずに先程の着弾地点へと身体を寄せていく。装填が完了すると同時に再び砲撃を敢行する。次の狙いはアイツだ。今回は足止めが私の役目。

 驚異度の高い戦艦に損害を与える事より、確実に敵を減らす事、速い奴の足を奪うことを主眼に置く。走力が存分に発揮できない駆逐艦を今は放置。

 

 相手に感情があれば、敵旗艦に打撃を与えその負傷した戦艦を庇うために、他の艦の動きに乱れを誘発することをも出来るだろうが。相手は深海棲艦、感情が稀薄な相手の今はそれを期待できない。

 だからこそ、命中すれば沈めることが出来る可能性の高い重巡に狙いを付ける。

 

 此方には観測機からのデータがある、左目を閉じ左手を目の上に添え覆う。観測機に意識を割き、まぶたの裏に大海原を見下ろす視界が展開させる。そして2種類の視界を同時に視て、更に完全に使いこなすには、まだ練習が足りない事を実感する。

 これを戦闘中に当たり前の様に使いこなし、旗艦としての指示、自分の操舵、砲撃が些かも揺るがない姉の姿を思い少し笑ってしまう。

 

 ああ、なんて・・・。

 

 

 それらの情報を元に砲が轟音と共に火を吹き。敵重巡の主砲付近に直撃、弾薬庫に引火したのか大爆発を引き起こした。重巡1体の無力化を確認。

 

 

 私の姉はなんて凄い人なのだろう・・・。

 

 

 もはや死地と言っても過言ではない状況にも関わらず私は、脳裏に焼き付いた姉の姿に少しでも近付こうと足掻く。

 

 撃つ、撃たれる、撃たれる、被弾する、痛い、撃たれる、撃ち返す、至近弾に身体がぐらつく、撃たれる。

 砲弾にばかり気を取られていた私は足元が疎かになっていたらしい。気付いたときには回避不能な距離に魚雷が迫って来ていた、咄嗟に機関部を庇う、雷管を刺激されたそれが爆発し大きな衝撃が私を襲い、水柱で私自身の視界が塞がれる。

 観測機と視界を共有している左目で敵の次弾の着弾地点を予測し先程の衝撃で動きが鈍くなった左舷の舵を、身体を捻る事で無理矢理切る。至近弾だ、大丈夫、私は、まだ、動ける、ワタシハ、マダ、ツカエル!

 

 

 死んで、沈んでたまるもんですか・・・!

 

 

 その顔は笑っていた。

 

 

 

 

 ◆

 

 時雨を除く第1艦隊はそのまま鎮守府に帰投、時雨は弾薬、燃料共に潤沢な第2艦隊の皆を引き連れて戻ってきた。本来は時雨も帰投する予定だったが本人の強い希望で付いてきていた。移動中に艦隊の皆から燃料と弾薬も譲ってもらった。

 先程の海域に戻ってくる、敵艦隊は半壊しているものの、やはり多勢に無勢だったようだ。

 

 ボロボロの山城が見える。

 すぐにそちらに駆け出しそうになり、川内さんに止められる。その視線の先を見ると、まずは敵をとの事だ。

 

 

 救援艦隊は速度を重視した水雷戦隊。

 皆で山城が半壊、無力化させた深海棲艦に2人一組で魚雷の一斉射を重ねて確実にトドメを刺してゆく。

 それらが終わり、彼女に近づいた時には、もう既に息も絶え絶えで、立つのもやっとな、いつ沈んでもおかしくない。満身創痍、そんな有り様だった。

 

 

「山城ッ!!」

 僕は居ても立っても居られず、飛び出して意識も朦朧としているであろう山城に身体を寄せ、成長したとは言え戦艦の人達に比べると小さい身体で山城を支える。

 

「ぁ、しぐ、れ?」

「山城!山城良かった!!僕、今度はキミを助けられる、間に合ったよ!」

「そう・・・。」

 山城は僕を見て、こちらに向かってきている後ろの皆を視界に納めるとそのまま眠る様にぐったりともたれ掛かって来た。

 

 

「山城!?」

「大丈夫よ、安心して気を失ったみたいね」

「よかった・・・。」

 そう言いながら、後から来た川内が僕の反対側に回って、押し潰されそうになっている僕を助ける様に、一緒になって支えてくれる。

 その言葉を受けて、僕は改めて間に合ったんだと実感し、僕達を中心に輪形陣を敷き、回りの警戒をしながら隊列を組み帰路に着く準備をする皆の姿を見て、一筋涙を流した。

 

 

「あーあ。私も夜戦したかったー!やーせーんーーー!!」

 なお、今回の夜戦任務に参加できなかった川内は、山城の無事保護出来たことが分かった途端、凄い勢いで文句を言い始め

 僕の涙は、笑顔と共にすぐに引っ込んだのだった。

 

 

 

 ◇

 

 そして、無事とは言い難いが帰ってきた私が目を覚ますとベッドの横で待っていたのは最愛の姉。

 扶桑の見たことの無い表情だった。

 

 正直、怖い・・・。

 深海棲艦なんかよりよっぽど・・・。

 

 

「山城、とりあえず修復剤を使って傷を癒してきなさい、提督から許可は貰っているから。話はそれからね、執務室で待っています。」

 微笑んではいるが、絶対に何時もとは違う種類の笑顔だとすぐに本能で理解した。

 

 

 

 そして現在に至る。

 

「神通さん。酷く損傷した貴女を見捨てる事は絶対にありえない事ですが。今回の問題は、旗艦の山城が、皆を守る為とは言え、応急修理要員を譲渡し、まるで鎮守府に戻ることを諦めるかの様な、そんな行動をした事に付いての説明を聞きたいのよ」

 

「それは・・・。」

「まあまあ、少し落ち着いたらどうだ扶桑」

 そこで今までずっと黙っていた提督が、今回の作戦書類を纏め終わったのと同時に、話に割り込み姉様の隣に座って話し合いに混じってきた。姉様から放たれる怒気を孕んだ雰囲気が若干和らぐ。

 

 

「それで、何故ああしたんだ。山城?」

 姉様の雰囲気が幾分か軟化したけれど、提督も味方と言うわけではなかったらしい・・・。

 

「あの時はああするのが1番良い方法だと思ったから、です。足並みをある程度揃える為の応急処置を施して、撤退してもらおうと思いました。」

「確かにその方が安全、かつ迅速に損傷艦の撤退ができるだろう。実際にそうだったしな、しかし殿と囮をするお前こそが1番危険な場所で、やられる可能性もまた高かっただけに、その考えには賛同はしかねるな。」

 

 あ、これもしかして・・・。

 

 

「そもそもだ、山城。何をそんなに焦っている。

 最近は皆の訓練や演習を見てくれて指導までしているのに、それ以上の鍛練やらを自分に課しているじゃないか。

 それに。」

「え、あの・・・。」

 隠している自分の事がバレていた事が予想外で驚いたが、それどころではなかった。扶桑姉様が落ち着いたことにより、一度霧散した恐怖心が先程よりも大きくなってぶり返してくる。

 提督はそんなに口が上手ではない、その彼の口数が異常に多い。

 これは、相当腹に据えかねている。

 

 

「あの、提督」

「おぉ、どうした神通」

「訓練や鍛練をしている山城さんの真剣さを、何度か御一緒した私は良く知っています。あまり矢継ぎ早に聞いては」

「む。そう、だな。扶桑に落ち着くように言った私がこれではダメだな」

 それまで沈黙を保っていた隣の彼女が取り成してくれる、そのおかげで私もそうだが、提督も幾分か落ち着いた様に見える。

 

 でも、これは・・・。

 

 

「あー、神通。私はもう大丈夫だ。今回の事はこれ以上は大事にはしない。だから下がっていいぞ」

「はい、提督、失礼しました」

 そう言って神通は立ち上り背筋を正した。着ている服がボロボロだと言うのに表情には些かも陰りがない姿は、妙に良く似合っている。

 そんな彼女が部屋から出ると同時に、提督と姉様がこちらに近付いて来て、2人で私を挟み込む様に座る。

 

 

「ぇ、と・・・。」

 そして両方の手を繋がれる。右手は提督、左手は姉様に。私の低い体温にじんわりと熱が灯る。

 

「ほら、山城落ち着いて」

「ゆっくりでいい、話してみてくれ」

「あ、の、ですね。姉様に」

 これを、この誰にも話したことがない想いを改めて言葉にするのは恥ずかしいけれど。今なら自然と話せる気がした。

 

 

「私?」

「私達、扶桑型戦艦は所謂欠陥を数多く抱えていますよね。それでも姉様は私みたいに、後ろを、過去ばかりに囚われずに・・・。」

「うん」

「それを嘆くことなく。そればかりか、あのレイテ沖の事を念頭に努力しています。そして2回の改装を経て私達の欠陥部分は見違えるほど改善されました。それでも努力辞めずに凜と立つ姿に・・・。

 私はいつもその後ろ姿を見ているだけで。でも、少しでもそれに近付きたいと思ったら居ても立ってもいられなくなって・・・。

 とにかく、私はベストを尽くしたかったんです。我武者羅に訓練して、それで皆を助けてあげて、性能だけが全てじゃない。そう、思って・・・。

 でもそれは旗艦として失格の、考えなしの軽率な行動でした」

 所々つっかえたり、どもったりしながらも懸命に思いの丈を曝け出し、自分でも所々理解が追い付いていない想いの全てを吐露し、最後にすみませんと謝罪の言葉で締めくくった。

 

 顔が熱い・・・。

 

 暫くの間、誰も声を発するでもなく、ただ静かな時間だけが流れる。

 

 

「山城、私達は配られたカードで、用意された手札で勝負するしかないの、それがどうゆう意味であっても、ね」

 その沈黙を破り再び喋り出した姉は、思わず見とれてしまう程の優しい顔をしていた。

 

「姉様・・・。」

「私達艦娘は以前に私達に乗って戦っていた人達の想いを背負っているの。昔は彼等の何百、何千の人達の力が合わさって動いていた一つの艦船。

 それがなんの因果か、今は限り無く1人の人間と同じ身体を持っているわ。

 妖精さんに武器回りの操作を任せているけれど、操舵も索敵も砲撃も全てが自分1人の力でやらなければいけないわ。」

「そう、だからお前達の成長には限界はあれど、意識の持ち方1つであらゆる事に対応できる様にもなる。」

 扶桑の様にな、と。提督は姉様の言葉を受け継ぎ私にそう言って締めくくった。

 

 

 そして、姉様と提督に口が酸っぱくなるぐらい無茶をしないようにと、言い含められ退出が命じられた。

 

 執務室から退出し、最初に目に入ったのは向い側の壁に背を預けて座ったまま眠りこけている時雨だった。

 私はそのまま執務室の扉に背を預け、もたれ掛かり右手を顔の前に掲げる。窓から射し込む1日の始まりを主張する太陽の光、それを受けて反射する右手薬指の指輪。

 

 

『そこはいつか本当に大事な人が出来たときのために取っておけ。』

 そう言って左手ではなく、右手に嵌められた指輪。

 

「馬鹿な人・・・。」

 そう執務室の中の人物に聞こえないことを承知で独りごちる。そうして、右手の指輪をそっ、と抜き取り左手の薬指に嵌めてみる。

 

「ふふっ・・・。」

 私、幸せですよ、提督。

 

 

 

 その後、執務室の前を通りがかった最上が、私の左手の薬指にある存在に気が付くと、妙にキラキラした目で詰め寄り、様々な疑問を矢継ぎ早にぶつけられた。そして、その騒ぎによって目が覚めた時雨はその状況を把握すると素早くそれに参加。兵は神速を尊ぶとはよく言ったものである。

 

 隙を見て逃げても、私の足では単純にこの2人の速度から逃げ切れなかったし、更にアイコンタクトによる連携まで使いこなしていた。

 

「今まで2人で練習してても出来なかったけど、山城の事になったら出来た」

 とは時雨の弁。教え子達の都合よく目覚めた成長のせいで、私は酷い目にあったのだった。

 

 

 ああ、不幸だわ・・・。

 

 




本編中に入れられなかった小話

・山城の退室した後の執務室にて
提督「配られたカード云々ってさ、前に扶桑が俺に同じ様な悩みで相談してきた時の俺の言葉だよな」
扶桑「提督。それだけ、私は貴方に感謝しているって事ですよ。今の私があるのも貴方のおかげですから」
提督「そっか、そりゃよかった。」


・後日鎮守府内の掲示板
『当鎮守府ナンバー2の戦艦山城。いつもの口癖の言葉を漏らしつつも、その表情は女そのもの!指輪の謎に迫る』

山城「青葉アアァァァ!!!」

島風「はっやーい!」


戦闘描写は初めての経験でしたが、書いていてなかなか楽しかったです。多分二度と書かない(←)
読了ありがとうございました。

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