道化と往く珍道中   作:雪夏

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25万UA突破記念短編集。時系列無視。本編で膨らます可能性もあります。
また、文量にばらつきがあります。ご了承ください。
程度の差はあれネタバレを含みます。話によっては結構なネタバレがあります。


以下、簡易的内容
亜子@背中
円@演奏
千鶴@子供

一言: ありがたいことです。次は30UA。


記念小説 横島くんと彼女たち その5

気持ちよかったで(亜子@背中)

 

 

 

 可愛い水着を着てみたい。

 

 それが、和泉亜子の無数にある願いの一つであった。

 背中に大きな傷を持つ彼女は、その傷が見えないように露出の多い水着を避けてきた。海やプールなどでは、必ずシャッツを着用してきたし、そもそも水着に着替えないことの方が多かった。

 

 しかし、今の亜子はずっと避けてきた水着姿である。そう、彼女の夢が叶う日が来たのである。

 

「とは言っても、こんなんは流石に想像しとらんかったわ……」

 

 そう呟くと彼女は、ゆっくりとあたりを見渡す。まず目に入ったのは、今彼女が横たわっている横島のベッド。丁度、枕に顔を埋めるようにしている為、横島の匂いを強く感じとれる。その匂いを嗅いでも、安らぎを感じる自分はかなり毒されているんだろうなと亜子は思う。

 

 次に、顔をずらした亜子の目に入ってきたのは、何やらドロっとした液体を手に垂らしている横島の姿。そして、姿見に写っている、露出の多い水着姿で横島の前にその肢体を晒している自分の姿であった。

 

(えらい恥かしいなぁ。でも、これも傷を治すため……それに、これくらいのことは今更や)

 

 そう。今から、彼女は背中の傷の治療を行うのである。

 

 

 

「ほんまに、治せるん?」

 

「どうだろなー。一応、裏の秘薬らしいから期待していいんじゃないか? これでダメだったら、文珠使えばいいし」

 

「文珠はいいわ。文珠って、えらい高いんやろ? そりゃ、うちも治せるもんなら治したいけど、今は前ほど気にしとらんし」

 

 そう言って、リラックスするように目を閉じる亜子。背中に感じる、暖かな液体とそれを伸ばしていく横島の手の感触を感じながら、彼女はまどろみの中へと旅立っていく。

 

 

 それから数分後。打撃音で目を覚ました亜子が見たのは、うつ伏せに倒れふす横島とその背中に仁王立ちで立っているタマモの後ろ姿であった。

 

「えっと……どうしてこうなっとるん?」

 

「ん? ああ、起きたのね。横島も横島だけど、アンタもアンタよ。こんな明るい内から、ロー○ョンプレイするなんて。扉あけたらプレイ中だったから、思わず横島をボコっちゃったじゃない」

 

 色々とツッコミたい亜子であったが、未だ脳が覚醒していないのか適切な対処が思い浮かばない。何とか、覚醒していない頭で振り絞った言葉。それは……

 

「なんや、タマモちゃんも混ざりたかったん? でも、ダメや。これはうちと横島さんだけの特別な行為なんや」

 

 ……色々とダメだった。

 

 この言葉を聞いたタマモが、どう言う行動に出たのかは皆様の想像に任せるとして、次第に意識がはっきりしてきた亜子は、ふわりと微笑むと傷のことを一切気にしない大切な友達と、想い人に向かって口を開くのであった。

 

 

 ――気持ちよかったで、横島さん

 

 ――ちょ、まっ、わざと! わざと言ってる!?

 

 ――さぁ~?

 

 

 

 

 

特徴のない女の子(円@演奏)

 

 

 

 釘宮円。チアリーディング部所属。好きな音楽は洋楽。背も普通。スタイルも普通。ちょっと、声がハスキーっぽくて、ギターを少し弾けるだけの、これといった特徴のない女の子。

 

「ダメだ。何の面白みもない、普通だ」

 

「どした?」

 

「……何でもないよ。そうだ! 横島さんって、楽器とかやってなかったの?」

 

 危ない、危ない。自分のスペックを確認して、勝手に落ち込んでいたとか言える訳がない。大体、私には明日菜の馬鹿げた体力も、那波さんのような圧倒的戦闘力もないことは分かってた筈じゃん。

 

 それより、今は横島さんと二人きりという滅多にないチャンスを活かさないと。

 

「オレ? 楽器はトランペットなら自信あるぞ? 何せ、昔猛練習してたからな」

 

 へー、横島さんって、ペット吹けるんだ。ペットかー。ギターとペットでセッション? 微妙か。というか、絶対猛練習した理由って、アレだとね。

 

「モテると思ったんだけどなぁ……」

 

 やっぱり。何でトランペット選択したんだろ? モテたいなら、サックスやギターの方がいいだろうに。

 

「そりゃ、考えたさ。ただ、うちにあったのがトランペットだったからな」

 

「そうなんだ。横島さんが、ギターをやってたら色々教えてもらえたのになぁ」

 

 ここで、残念そうに横島さんを見つめる……うわっ、意識してやるとはずっ!?

 

 こんなこと平気で出来るヤツらって、凄いわ。うん。って、横島さんがこっち来る!?

 何で?

 

 

 !? 後ろから……か、抱え込まれてる!? ど、どうすんの!?

 

 え? これがEマイナー? って、違う! どうしてこんなことを?

 

 

 はぁ。つまり、さっきの落ち込んだ私の顔が可愛かったから、ギターを教えてあげようと思った? じゃ、この体勢は? 教えやすいから? いや、いやじゃない! 嫌じゃないけど!

 

「どしたー。いきなりは難しかったか?」

 

 そうじゃない! そうじゃないんだよ、横島さん! この体勢はマズイって。え、手とり足取り教えるって? 無理! 絶対に無理! 

 

「うう……そんな嫌がらんでもええやんけ。ちょっとした冗談やないか。ほれ、ギター貸してみ? 教えたるから」

 

 うう、まだ顔がああついよ……。って、うまっ!? 横島さんギターめっちゃ弾けるじゃん!

 

 しかも、弾き語りまで……いや、簡単だろって、いきなりそれは……せめてどっちかなら。

 

「じゃ、オレがギター弾くから円ちゃんはボーカルね」

 

 え、ちょっと……。

 

「ほら、早く。オレ円ちゃんの歌好きなんだから、オレの為に聞かせてよ」

 

 どうして、この人はこう私の心を……。ま、いいわ。歌ってやろうじゃないの!

 

 

 ――やっぱ、円ちゃんの歌声好きだなー

 

 ――そう? でも、ありがと。

 

 

 

 

あらあらまぁまぁ(千鶴@子供)

 

 

 

 

「すみません、手伝ってもらって」

 

「あー、いいのいいの。これも仕事だし」

 

 ここは麻帆良市内にある千鶴がボランティアで通っている保育園。いつも子供たちの笑い声が絶えない園内は、静まり返っている。別に休園だと言う訳ではなく、今がお昼寝の時間だからである。

 

 そんな子供たちが寝入った園内で、千鶴が淹れたお茶を飲んでいるのは“よこっち”の所長である横島忠夫である。彼ら以外の職員は、園児に付き添っている為、この場にはいない。

 

「でも……お疲れになったでしょう? そうだ、肩を!」

 

 そう言うと、ソファーに腰掛ける横島の背後に回り込み肩に手を添える。すると、自然と横島の後頭部には千鶴のたわわに実った果実が……

 

(おお、やーらかいものが!? くー、圧倒的ではないか!? 何でこれでちゅうがくせいなんやっ!? いや、でも千鶴ちゃんくらい大人っぽかった手を出しても? でも、子供っぽいとこもあるし……そのギャップも可愛いしなー。こう、成長中の少女? って、結局これじゃ、手出したくても出せんやないかっ!?」

 

「あらあらまぁまぁ」

 

 途中から葛藤の内容を全て吐き出す横島。それを聞いた千鶴は、冷静であろうと頑張っているが、口から出るのは意味のない文字の羅列。顔も真っ赤に染まっている。

 

 千鶴は普段、大人ぶって横島のことを誘惑するこが多々ある。それらは、何だかんだ言っても横島が強引に手を出すことはないという信頼からの行動である。無論、本当に手を出されても、横島ならウェルカムなのだが。

 その為、横島には大人っぽいと思われていると思っていたところに、子供っぽいところもあると言われて、予想外に恥ずかしくなったのである。それも、普段言われ慣れていない可愛いという言葉付きであったので、その威力は倍と言ったところである。

 

 それでも、今まで培われた奉仕精神からか、肩を揉む手が止まっていないのは流石というべきだろうか。さらに胸を押し付けているように見えるのも、きっと無意識なのであろう。

 

 無意識に感触を楽しみながらも、己が正義と泥沼の戦いを繰り広げる横島と、半ば無意識に横島の頭を抱え込みながら、顔を真っ赤に染める千鶴。

 

 そんな彼らが正気に戻ったのは、それからしばらくしたあとのことであった。

 

 

 

「いや、その、ね?」

 

 正気に戻った横島は、頭部に感じる感触を気合で意識の外に追いやり、千鶴に対し何やら言い訳を考えているようである。

 

「私、そんなに子供っぽいですか?」

 

 対して、千鶴は先程までの態度が嘘であるかのように自然体に戻っていた。

 

「いや、そんなことは……普段の千鶴ちゃんは大人っぽいよ? ただ子供と遊んでるときとかで、ちょっと負けず嫌いなとことか見ると子供っぽいっていうか……可愛いなーってだけで。だから、ほら、アレだ! 千鶴ちゃんは中学生にしては大人っぽいってことで……」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

「どういたしまして……?」

 

 横島の言葉を遮り、礼を言う千鶴。横島は何に礼を言われたのか分からず戸惑うが、振り向いた先で千鶴が嬉しそうに微笑んでいるのを見て、考えることをやめる。

 

(この人は……本当によく私を見てくれてる……)

 

 向かい合い笑う二人。先程まで、横島を背中から抱きしめるようにしていた為、千鶴と横島の距離は近い。そんな至近距離で、互いに憎からず思う二人が見つめっていたらどうなるか。答えは、簡単。次第に、距離が近づき……やがて、その距離はゼロに……

 

『あー!? 千鶴先生と横島がうちのパパとママみたいにくっついてる!?』

『あらー、邪魔しちゃダメよ? あ、ゴメンなさいね? 今日はもういいから、あとは二人でごゆっくり~』

 

 突如乱入してきた園児の一声に驚き、横島たちは慌てて離れると園児に向かって、何を言うべきか迷っている。すると、保育士の女性が園児を回収しに来た。その女性は全てわかっていますと言わんばかりの笑顔を浮かべながら、意味深な声かけをして去っていくのであった。

 

 時間にして一分にも満たない出来事に二人は呆気にとられる。

 

 

 ――ふふ、続き……しますか?

 

 ――今日は勘弁して……

 

 

 




皆様のおかげで25万UAを突破しました。ありがとうございます。
時系列は内緒ですが何時かはこう言う関係になっていく……“かも”と思って頂ければ。ええ。“かも”です。


以下、各話あとがき。

亜子:お題はシバかれる横島。なぜこうなった。以上。

円:お題は音楽系。セッションや演奏など、音楽のイメージが先行しているようです。そして、なぜこうなったその2。以上。

千鶴:年齢ネタって、意外と難しい。なぜこうなったその3。以上。


これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
活動報告は気が向いたら更新しています。関連記事はタイトルに【道化】とついています

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