道化と往く珍道中   作:雪夏

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強烈に発光する転移符。一体何があったのか……?

一言:こんな世界転移もありじゃないかな。


その3 小竜姫さん説明する

 

 

「ここ……何処かわかります?」

 

「さぁ……?どこでしょうか?」

 

現在地を尋ねるのは横島。答えるのは小竜姫。彼らの眼前に広がっている光景。それは、岩肌が剥き出しになった荒れた大地と、生物の悲鳴が聞こえる鬱蒼とした森林。

 

先程までいたアパートの一室ではないことだけは確実であった。

 

 

「あ~龍が飛んでますね~。お知り合いですか?」

 

「あんな龍はしりませんね~。天界の黒龍ならほとんど知ってるんですが……。魔竜の類でもないようですが……どなたかの眷属でしょうか?それにしても、霊力が小さいですね。弱ってるのでしょうか?」

 

二人が観察しているのは、森林の上空を我が物顔で飛翔する一体の龍。翼を含めると二十メートルほどの全長であり、どこか誇らしげにその漆黒の体躯で悠々と飛翔している。

 

「あ~、確かに。アレならタイガーでも何とか勝てそうですね~。雪之丞だったら、瞬殺でしょうか?」

 

「そうですね~。タイガーさんの場合は、直接攻撃だと時間がかかるでしょうね。まぁ、龍の割に霊力が小さいですから、彼の精神感応も十分に効果が期待できますね。あとは何を見せるかによるのでは?雪之丞さんでしたら、霊波砲で一撃ですかね」

 

「ですよね~。で、あの龍にここが何処か聞きます?」

 

「それも考えましけど、眷属だと獣程度の知能しかない場合もありますし。話が通じるかどうか……」

 

「そうなんすか~。あ、また喰った」

 

二人が見ていることに気づいているのか、いないのか。黒龍は悠然と飛翔しながら、時折鳥を捕食しいている。その飛行スピードはそこらの鳥よりは速い。が、その程度である。神魔の飛行速度には到底及ばない。おそらく、眷属であろうと二人は見切りをつけ、再び周囲を観察する。

 

 

 

 

 

観察という名の現実逃避も飽きたのか、横島が気になっていたことを小竜姫に問いかける。

 

「ところで……小竜姫さま。少し小さくなってません……?」

 

横島の言うように、小竜姫の身長は僅かに小さくなっている。以前は横島の顎まであった身長が、今は肩までしかない。

 

「ああ、それは天界からの霊力供給がなくなってるからです」

 

「ええっ!?それって、マズイですよね?霊力源が無くなったってことは、あん時みたいに人形サイズになるってことじゃ……?くそっー!!その前に是非ともわたくしめに、その胸を……「せい!」……ドムッ」

 

飛びかかる横島を肘で沈める小竜姫。そのまま、何事もなかったかのように会話を続ける。

 

「まぁ、妙神山とのつながりがないですからねぇ……。受け取れないのはそのせいかと」

 

「妙神山とのつながりがないって……?だって、小竜姫さまは妙神山に括られてますよね?そんで、妙神山から遠く離れると力が弱くなって……あの色気のない角の姿に……。ハッ!!つまり、角になっちまうってことですか!!」

 

「それも大丈夫です。元々、私たち神魔は人界で活動する際、その霊力源は拠点から――私の場合は妙神山ですね。そこからの供給に頼っています。これは、人界に大きな影響を与えない為でもあります。私たち神魔は、その保有する霊力の大きさのせいで、人界では何かしらの影響を与えてしまいますから。それを避ける為、人界に派遣される神魔は大半の霊力を天界なり魔界なりに保管することで、保有霊力を下げているんです。そして、活動する際はその保管した霊力を拠点を通して、自身に供給しているんです。ここまではいいですか?」

 

「あ~、つまり、アレですか?天界が貯水タンクで、霊力が水、そんで拠点が蛇口みたいなもんですか?そんで、自分が水筒とかで、使った分だけ蛇口から水を補給するみたいな」

 

「……それでいいです。間違いってわけでもないですし。それで、以前のアシュタロスの時は、その蛇口が壊されました。その為、私たちは水を補給できなくて小さくなったわけです。私たちは、人界に居るだけで霊力を消費しますからね。補給できなければ、ああなるのは当然です」

 

「はぁ。でも、その理屈だと今もそう変わらないのでは……?」

 

横島の言うことは最もである。現在、天界とのつながりがないのなら、状況は変わっていない。むしろ、理由が不明な状態である分悪いと言える。だが、小竜姫に焦った様子は見受けられない。

 

「そうですね。そこだけ見ればそうなんですが……。そもそも、私たち神魔の霊力が何処から来るかご存知ですか?」

 

「何処からって、そりゃ魂から……」

 

「それは、半分正解ってところです。私たちは、人間やタマモちゃんのような妖狐と違い、その身を構成するのは霊体だけです。知っているでしょ?私たち神魔は死ねば何も残りません。霊波となり、世界に溶け込むんです」

 

横島はそれを間近で何度も見ている。敵対した魔族の最期。……そして、ルシオラの最期。

 

「その分、魂の力を存分に発揮できます。それが、神魔が強大な力を持っている理由の一つです。でも、それだけなら……あなた達GSがよく相手している霊と変わりません。神魔を神魔たらしめているもの。その強大な霊力を神魔に与えるもの。それは……」

 

「それは……?」

 

 

 

「信仰です」

 

 

 

「信仰……ですか?」

 

「ええ。人間の信仰――恐れでも構いません。それを、自身の力とするのが神魔です。当然、より信仰されているものが力を持ちます。老師を思い出してください。彼は、その名をよく知られているでしょう?それこそが、彼の信仰となっているんです。集められた信仰は、天界や魔界で神魔の霊力に変換されます。そして、貢献度や位階が高いほど、魂が大きいほどより多くの霊力を受け取ることが出来ます。中級から下の神魔などは、その集まった信仰のおこぼれを貰っているにすぎないんです」

 

「神魔の力の強さの秘密は分かりました。けど、それが何の関係があるんですか?」

 

「ああ、すみません。少し脱線しましたか。つまり、神魔の霊力は集められた信仰と、自身の魂から変換される霊力。この二つで構成されています。そして、今の私はその信仰が受け取れていない状態にあります」

 

「やっぱりダメじゃないっすか!!嫌ですよ、小竜姫さまが消えるなんて」

 

横島の顔は真剣である。小竜姫が消える危険があると思っているからであるが、小竜姫自身はその顔に見惚れており、何処か呑気である。

 

「……心配してくれてありがとうございます。でも、大丈夫といったでしょう?何故か今の私は霊力を消費していないんです。天界以外ではかかる筈の負荷が……ないんです」

 

「でも、消費しないからって……供給できないんなら一緒じゃ!?」

 

「横島さんが思っている以上に、負荷で消費する霊力は大きいんですよ?実際、天界から供給された霊力は、ほぼその負荷で消費されます。アシュタロスもそれを知っているから、供給源を絶つと言う方法を取りました。負荷がない今の状態なら、私は自身の霊力だけで十分、自分を保てます」

 

「じゃあ、大丈夫なんすね?……で、結局何で小さくなってんすか?」

 

「私自身の霊力で維持できるのがこのサイズってことです。普段の姿は、天界からの供給があるときの姿ですから」

 

「そうなんすか。知らんかった……」

 

説明を聞いた横島は何度も首を上下に振る。小竜姫はその姿に、本当に理解したのだろうかと疑問に思うが、自身に問題がないと言うことが分かってもらえればいいかと追求はしないことにした。

 

「そうか、そうか。そういう事やったんか……」

 

「ええ、そういうことです。それで、これから…「小竜姫さまは普段から盛ってたんかー!!」…せいっ!」

 

どうやら横島は、現在の小竜姫の姿が本来の姿であり、今までの姿を霊力を使用して“盛った”姿であると理解したようである。ある意味では、間違っていない……と、言うか真実その通りではあるのだが、女性に対する台詞ではない。当然のごとく、小竜姫の制裁を受けることになった横島である。

 

 

 

 

 

「どうでもいいけど、どうすんのよ。これから」

 

静観していたタマモの呟きで、正気に返る二人。タマモは、妖狐が持つ超感覚で付近の様子を探っていたのだが、分かったことは生物の臭いが全くしないと言うことであった。

 

「生物の臭いがしない……か。じゃあ、あの龍とかは全部……?」

 

「多分そういうことなんじゃない?」

 

「幻覚!!」

 

「違う!!」

 

「タマモちゃんが言いたいのは、あれらは私と同じ霊体で構成された生物ってことですよ。霊波は感じるでしょう?」

 

「まぁ、そうなんだけど……。全部、同じ臭いが混ざってるのよね。まるで、同じヤツから生まれたみたい。まぁ、微かに混ざってるだけみたいだから、大元が同じ生物ってことも考えられるけど」

 

「ふ~ん。じゃあ、ここは箱庭なのかもな。宇宙の卵みたいな。様々な生物を真似て創って、観察でもしてんじゃねぇか」

 

タマモの推測を聞いた横島が、何でもないかのように言い放つ。それを聞いた小竜姫は、疑問が解けたとばかりに語りだす。

 

「そういうことですか……。別の宇宙なら、世界法則も当然違いますからね。私に負荷がかからないという事は、神魔が存在しない宇宙なのかもしれません。あの負荷は、元々、神魔から人界を守る為に世界がかけているものですから」

 

「問題は、箱庭だとして出る方法……か。観察してるんなら、管理者が異物として放り出すだろ。それまで待つか?」

 

解決策を提示する横島。横島らしく他人任せの策である。自分たちの驚異となり得る存在がいないからこそ、出来る策でもある。それに、小竜姫が待ったをかける。

 

「それも、確実とは言えませんね。この世界がどの程度かは把握していませんが、別の宇宙を創造する力をもっているのなら。おそらく、最上級……少なくとも上級神魔程度の力を持っている筈です。その様な存在が、私たちに気づかないと言うことは……現在、この宇宙を放置している可能性は高いです」

 

「そうね……。臭いの混ざり具合から言っても、数百年は経過しているのは間違いないし……。放置中の宇宙とかなら、何時戻れるか分からないわ」

 

小竜姫の意見に、タマモが同意する。

 

「それもそうっすね。それに、ヤバイやつが創ってたら見つかった瞬間に、消しに来るかもしれないっすからね。じゃ、どうします。美神さんたちの助けは……」

 

「そうですね~。私が消えたことは、天界にも伝わるでしょうから、ヒャクメが探してくれているとは思うんですが……、あの娘もちょっと、抜けてるところがありますからね。すぐ……とは行かないでしょう」

 

あんまりな言われようであるが、誰もフォローしない。横島はヒャクメのうっかりを何度か体験しているからであり、タマモは単純に知らないからとその理由は違うのだが、フォローがないことには変わりない。

 

 

 

 

 

あれこれ、議論していた一同であるが有効な意見は一向に出る気配がない。そこで、タマモがそういえばと口を開く。

 

「そういえばさ……。知らない場所に飛ばれたから、自己紹介だけして後回しにしてたけどさ……」

 

「ん?どうした?」

 

「何で、小竜姫さまが此処に居るの?私と横島は一緒に居たからわかるんだけど」

 

その言葉に、ビクッと肩を震わせる小竜姫。そんな彼女に気づかない二人は、転移した状況を思いだし始める。

 

「ああ、そういやそうだな。大体、何で俺たち此処に転移したんだっけ……?確か、転移符が光って……何かがぶつかって来て」

 

「そうね。アレは痛かったわ。それから……?確か、転移先に出たと思っても、また転移して、何か延々と横島の部屋を転移し続けて……ループってやつ?ずっと、転移し続けて……。気づいたら、転移時空とでも言うの?何か、転移中の空間に長く留まるようになって……、それで、文珠で脱出しようとして……」

 

「ああ、そうだった!!そん時、『脱』『出』って文珠を発動しようとしたんだ!!」

 

「そう!それよ!そしたら、『転』『移』って文珠が何故か近くにあって!!」

 

「そうだ!それで、制御できなくなって……気づいたら此処に。ってオレのせいか!?すまん、タマモ。すいませんでした、小竜姫さま。……オレのせいみたいっす」

 

自分のせいで巻き込んでしまったと、落ち込む横島。そこに、小竜姫が声をかける。

 

「気にしないでください、横島さん。直接の原因は、文珠の暴発でしょうけど……その、間接的には私のせいと言うか……」

 

「どう言う事っすか?」

 

いつもの凛とした雰囲気はどこに行ったのか、口篭る小竜姫に横島が問いかける。問いかけられた小竜姫は、一つ大きく息を吐くと静かに語り始めた。

 

 

 

 

 

その……。横島さんが持っていた転移符が光った時、ぶつかったのは私なんです。はい。その、転移出来るかのテスト……と、いいますか。それで、その……転移したんです。

 

横島さんが、部屋に転移符をちゃんと貼ってくれたか分からなかったんで、横島さんの霊波が近くにある方を出口になるようにして。

 

そしたらですね。その……目の前に横島さんの顔がありまして。口と口がですね……その。つまり、重なったというか……いえ、別に初めてだったのにとか、責任をとかは思ってないんですけど。その、事故。そう!事故ですし!私は事故でも嬉し……

 

……はい、今はそんなこと関係ないですよね。はい。その、あとで……

 

はい。続きを話します。はぁ、タマモちゃんも敵か……全く、横島さんは……。いえ、何でも。それで、ですね。ぶつかった衝撃で、多分壁の方にあった転移符に入っちゃたんだと。ええ、普通は発動しないんですけど……。転移する時に、横島さんに近い転移符ってだけで出口を開きまして……。壁と横島さんが近かった為に、そちらも出口が開いてたみたいで。

 

そうです。あとは、ぶつかった衝撃で宙を舞った転移符が、徐々に壁に貼った転移符に近づいて……。その二つの符の間をぐるぐると。その、超加速を使えば良かったんですけど……色々、集中できなくて。集中しなきゃって思う度に、その口づけのことを……。

 

そうしたら、タマモちゃんの尻尾だと思うんですけど……。それが、壁に貼ってあった転移符を上手いこと剥がしまして……。良かった、これで転移が終わると思ったらですね。

 

どんな偶然かは分かりませんが、その……剥がれた符と、宙を待っていた符がその……。はい。そうなんです。その、まさか……です。重なったみたいなんです。

 

 

え?文珠ですか……?アレは、美神さんが持ってきた文珠です。小判と交換してくれって。それで、私があの符に組み込んでみたんです。私の竜気を込めた文珠と、術式を併用することで創った特製の符です!!……あ、はい。すみませんでした。

 

 

 

 

 




中途半端に終わります。ようやくネギま世界に突入。突入しましたが、麻帆良ではないと。
彼らが辿り着いた場所が何処かと言うのと、これからどうするのかは次回以降。

未だ説明が多いです。申し訳ありません。小竜姫を活動させる為の措置と思って我慢頂けたら幸いです。

ここからは更新ペース落ちると思います。
あと、設定集分割しました。


頂いた意見、ご感想は今後の参考にさせていただきます。

では、次回。活動報告にてアンケート及び、お願いを掲載中です。ご協力頂けたましたら幸いです。

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