道化と往く珍道中   作:雪夏

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メガロメセンブリアへ行く為、路銀と情報を集める一行。横島が遺跡で悲惨な目にあっている頃、小竜姫たちは仮契約について説明を受けるのであった。

一言:日刊ランキングに時折、拙作があがるようになりました。感謝です。



その2 小竜姫さん名を得る

 

 

 

 

――財宝を手に入れた彼を襲ったのは、遺跡の主が仕掛けた最期の罠であった。それは、侵入者を遺跡諸共葬り去る、悪魔の所業であった。

 

しかし、彼はその最期の罠を見事突破することに成功する。そう、彼は無傷で脱出を果たしたのである。

 

そして、彼は自分を待つ美女たちの元へと帰るのであった……。

 

 

 

 

 

「ってな感じで、この不肖横島、無事に女神の元へ帰還した次第であります!!」

 

宿の一室にて、自分の武勇伝を語る横島。それを聞く女性陣の反応は冷たい。一日の成果を報告していこうとした矢先に、自慢話を延々と聞かされたからなのだが、横島本人は悦に入っていて気づいていない。

 

「まぁ、アンタの武勇伝はどうでもいいとして……。この腕輪は何で所々、焦げていたり、溶けたりしているわけ?」

 

タマモが指で摘まみ上げた腕輪。大きな宝石を中心に、見事な装飾を施された腕輪は、かなり価値があるものであろう。……所々焦げついていたり、装飾が溶けていなければ、であるが。幸い、宝石部分は無傷であるが、全体の価値が下がるのは間違いないだろう。

 

「あー、それ?多分、アレだ。リュックが焦げちまったからな。底にあったんだろ」

 

「ふ~ん。……まぁ、リュックがあれだけ焦げてりゃね~」

 

タマモの視線の先には、焦げが目立つリュック。龍のブレスにも耐えるなんて商売文句にのせられて買ったリュックであったが、こんなすぐに焦げるならその耐久性も疑わしいものである。

 

「まぁ、いいわ。この財宝の山があれば、目標金額を大幅にクリアできそうだしね」

 

タマモが言うように横島が持ち帰った財宝は、大きなリュックがパンパンになるくらいであり、まさに財宝の山という言葉が相応しい量である。

 

「そうだろ?これだけあれば、メガロセンブリャ?までは余裕だろ?と言う訳で……、僕ちゃんご褒美が欲しいかなーって。いや、何でもいいんだけどね?でも、その……メガロの手前に混浴の温泉があるらしくて……」

 

何でもいいと言いながら、露骨に要求してくる横島。そんな横島に、小竜姫とタマモは苦笑を浮かべる。

 

「そうね……。いいわ、私と小竜姫さまの二人で、アンタの喜ぶことをしてあげる」

 

タマモが了承の意を告げると、横島は何を想像したのか鼻から赤い液体を一筋垂らす。そんな横島に、はやまったかもと考えてしまうのは、仕方ないことであろう。

 

 

 

 

 

横島が落ち着くのを待って、報告会は再開された。横島の報告は、先の武勇伝で終わりとした。その内容は真実か疑わしい所が多々あったが、財宝の山がある以上、遺跡に行ったことは間違いないので問題はない。

 

次に報告を始めたのは、小竜姫であった。彼女はタマモと別れた後、武人としての興味から、主に魔法についての情報を集めていた。

 

「攻撃呪文、回復呪文、転移呪文あとは、日常で使う魔法と様々ですね。まぁ、日常で使う魔法は、攻撃魔法と同系統みたいですが……。威力を高めたのが攻撃魔法なのか、攻撃魔法の初歩が日常で使われているのか」

 

「なんかそう考えると物騒なもんですね~。日常で使えるってことは、誰でも使えるんでしょうしね」

 

「その通りです。学術体系が確立されていますし、魔法を使用するのに必要な魔力は大小はありますが、誰にでもあるそうです。ここからは私の予測でしかありません。ヒャクメがいれば、魔法を見て完全な解析できるのですが……」

 

残念そうに肩を落とす小竜姫。魔法という未知の力に興味はあったのだが、解析できずに終わるのが残念でしょうがないのであろう。

 

「おそらく、私たちが霊力を使うのと同じように魔力も魂から引き出すのでしょう。しかし、彼らの扱う魔法とは、霊能程効率よく魂から力を引き出せないのではないでしょうか。だから、精霊の力を借りているのです。この精霊は神魔のなりそこないだと思ってください。信仰によって集まった力で形を得たのが、神魔だとしたら、形を保てず世界に拡散しているのが精霊です」

 

「……難しいっすね。簡単に言うと、どういう事ですか?」

 

「つまり、魔法とは魂から引き出した魔力を引き金に、力を行使しているんです。但し、霊能力者ほど上手く引き出せないから、精霊の力で増幅して……です」

 

「あ~、神父やピートみたいな?」

 

説明を聞いて思い浮かぶのは、貧乏神父とその弟子のヴァンパイアハーフ。彼らは、聖譜を唱え、(キーやん)や精霊の力を借り、増幅して霊能を行使しているからである。

 

「近いですが、少々違います。魔法使いが、精霊たちの力を増幅するのに対し、唐巣さんたちは聖なる力――つまり、神の力を増幅しています」

 

「へ~。ま、何でもいいですけどね。要は、霊能に近いってことでしょ?」

 

「ざっくり言ってしまえばそうなんですが……。もう少し、興味を持ってくれてもいいじゃないですか」

 

全く興味を持つ様子のない横島に、肩を落とす小竜姫。横島の態度から、これ以上言っても仕方がないと、これ以上魔法について話さないことにした小竜姫。その為、彼女が本当に伝えたかったこと――魔法を使用できる可能性――については報告されることはなかった。

 

「まぁいいです。あとは、“気”と呼ばれるものがありますが、こちらは魔法とは違い、厳しい修練を得たものが行使できるようです。こちらも、魂の力でしょうね。魔法が精神を介して行使する力で、気は肉体を介して行使するようです。だから、修練で鍛えないと“気”は使えないのでしょう。……って、聞いてないですね」

 

小竜姫はため息を吐くと、タマモに報告を促す。その肩は下がりに下がり、哀愁を漂わせている。そんな小竜姫に、タマモは自分も聞いていなかったと告げたらどうなるだろうと考えるのであった。

 

 

 

 

 

「じゃ、私からね。色々情報は集まって来たけど、まずはメガロ関連の情報について話すわ。いい?大事なことだから、絶対に聞くのよ!!アンタのことよ、横島!!」

 

名指しで怒られた横島が姿勢を正すのを確認したタマモは、集めた情報を披露し始める。

 

「いい?まず、胡散臭いヤツらの話ね?メガロ元老院とか言うとこは、魔法使い絶対主義者っていう過激派と、共存を目指す穏健派がいるらしいわ。この絶対主義者ってのは、旧世界の人間や、亜人たちを見下しているみたい。大体、メガロにいるのが純血の魔法使いばっかりだって言うから、相当ね。純血ってことは、混血を差別してるってことだもの」

 

「そりゃ、マズイな。間違ってもオレたちゃ純血の魔法使いにゃ見えないしな」

 

横島の言うように、頭に角がある小竜姫、狐に変化するタマモ、回復力が化け物な横島の三人組は間違っても純血とは言えない。そもそも、魔法使いでさえない。

 

「まぁ、そこら辺は大丈夫だと思うわ。私も小竜姫さまも、人間に変化してれば問題ないし。アンタもちゃんと人間のフリしなさいよ?」

 

「おう、分かった!……って、ワイは正真正銘の人間じゃ!!」

 

憤る横島と、それを涼しい顔で流すタマモ。そんな二人を他所に、顎に手をあて考えこんでいた小竜姫が口を開く。

 

「……そうですね。タマモちゃんの言う通り、人間に変化しておけば問題はないでしょう。ただ、街中での会話は気をつけるべきでしょうね。何かをされるってことはないでしょうが、不要ないざこざを招かないようにしなければ。特に横島さんは」

 

「あのー小竜姫さま?聞いてます?オレは人間なんですよ!?人間に人間のフリをしろって、どういうことですか!!」

 

「バカね。小竜姫さまはアンタのナンパ癖のことを言ってんの!!正義の魔法使いのお膝元で騒ぎを起こすなって、アンタに釘をさしてんのよ。分かる?」

 

「気をつけろって言われてもな……。美女には声かけるのは、当然のマナーってヤツだろ?何が問題なんだ?」

 

「立派な魔法使いからしたら、アンタのナンパは犯罪よ(私たちから見ても……だけど)」

 

「くっそー!ワイのライフワークを禁じるとは、何て奴らやー!!くっそー、イケメンやないんが悪いんかー!!」

 

 

「「ああ、不安だ……」」

 

 

横島の怨嗟の声が響く中、不安に頭を抱える二人。普段から横島のナンパは問題になってはいたが、喜劇じみた横島の振る舞いから深刻な問題になったことはない。しかし、目指すメガロメセンブリアは正義主義の国なのだ。問答無用で捕まるのではないだろうかと、心配なのである。

 

 

 

 

 

気を取り直して、タマモの報告は続く。

 

「それで、上層部はきな臭いんだけど……。下っ端連中は本当に親切心の塊みたいよ?人助けが趣味みたいな集団みたい。人助けは無償だけど、他に職を持ってるから生活できてるみたい」

 

「あ~、ボランティアってヤツか。それなら、胡散臭い連中ばっかりってわけじゃなさそうだな。無償で危険なことやるって考えは、理解できんが」

 

「まぁね。旧世界の紛争地帯に行くこともあるそうよ?それもあってか、旧世界の管理者気取りのヤツもいるみたい」

 

「そういうヤツとはお近づきになりたくないな。それで?他には?」

 

横島が、更なる情報はないのかと促す。すると、その言葉を待ってましたと言わんばかりに、タマモがニヤッと口角をあげる。

 

「とっておきの情報があるわ。ゲートは大体一週間に一度の頻度で開いて、一度に大量の人と物資を転送するらしいわ。そして、次に開くのが二日後の午前と午後。午前は旧世界から魔法世界への転移で、午後が魔法世界から旧世界への転移って話だから……。明日、次の街へ行って一泊。翌日にメガロに行って、午後の転移に横島の文珠でソレに紛れてしまえば……」

 

「おおー!!ほぼメガロを素通りできるってわけか」

 

「そ!メガロまでの路銀は十分集まっているから、この財宝はこのままとっておいて、旧世界で換金すればお金も心配ないってわけ!!」

 

「いやー、でかしたぞタマモ!!これで米が食える!!」

 

「アハハハ、お稲荷さんにキツネうどん、厚揚げ!!油揚げが私を待っているわー!!」

 

笑いながらタマモを抱えあげる横島。タマモも笑いながら、なすがままにしている。もしかしたら、抱え上げられていることにも気づいていないのかもしれない。

 

 

 

 

 

「さて、これで旧世界へ行く目処がたったわけだが……」

 

十分ほどタマモと喜びあっていた横島が、重々しく言葉を紡ぐ。その横島らしからぬ姿に、小竜姫とタマモはすわ偽物かと疑いを持ってしまうが、そんな訳はないとすぐに頭を振る。そんな二人の行動に疑問を持つこともなく、横島は言葉を続ける。

 

「タマモはまだいい。問題は小竜姫さま、アナタです!!」

 

「な!私の何が問題だというのです!!まさか、私が角を隠せないとでも思っているんですか!?」

 

「へ?いや、違いますけど……。タマモって名前は普通じゃないですか」

 

「まぁ、珍しい名前ですが……。全く聞かないってわけではない……ですよね?それが?」

 

「いや、オレらは小竜姫さまって呼び慣れてますけど……。普通、さま付けなんてしないっすよね?しかも、小竜姫って珍しいというか……」

 

「まず、聞かないわね」

 

「そう言うことです。人前で呼ぶには目立ちます。今までは、魔法世界ということで目立ってなかったかもしれませんが、オレたちが行くのは米や油揚げのあるところ。すなわち、日本です。日本人の前でも不自然ではない名前を考えないと……」

 

横島の発言に考え込む小竜姫。横島が言うことは、偽名を名乗れということであるが、偽名を名乗ることに異論はない。元々、小竜姫という名も老師と父がつけたあだ名であるから、抵抗もない。問題は、本名で呼ばせるかなのだが……

 

(本名……というか“真名”を告げていいのは、家族だけですし……。横島さんとタマモちゃんだけなら構わないですが、他の人はちょっと……)

 

考え込む小竜姫を他所に、横島は小竜姫の名前をタマモと考える。

 

小竜(こたつ) (ひめ)とかは?」

 

「適当すぎでしょ。そうね~。小山(こやま) 竜姫(たつひめ)?」

 

「あ~、なんか日本人ぽくなってきた。じゃあ、妙神山からとって、妙神(みょうじん) 竜姫(たつひめ)は?」

 

「う~ん、あと一歩足りない感じね。こうかゆい所に手が届かないって感じ?」

 

適当な偽名からはじまり、次々に候補をあげていく二人。考え事から復帰した小竜姫は、二人の様子に結局自分の真名を告げることをやめる。真名を二人――正確には一人――以外に名乗るつもりがない以上、偽名は必要であることにかわりないのだから、それに水を差す必要はない。

 

「……で、どうですか?小竜姫さま」

 

「へ?」

 

「聞いてなかったの?私たちはこれがいいってのがあるんだけど、やっぱり最終的には本人が決めないとね」

 

急な問いに戸惑う小竜姫に、タマモが説明をする。タマモの言葉によれば、候補を絞ったので、選んで欲しいということであった。

 

「まず、小山(こやま) 竜姫(たつひめ)ね。ちょっとひねりがないかな~って感じだけど。名前をもじって小竜姫ってあだ名になるようにしたの」

 

「それで、もう一つが妙神(みょうじん) 竜姫(たつき)っす。オレとしては、こっちっすかね。バックグランドも考えてるんすよ?妙神流っていう流派の免許皆伝で、小竜姫さまってのがあだ名っすね。流派の門弟に小さな竜姫で、小竜姫とあだ名をつけられた。それが、あまりにも強いんで、いつの間にか小竜姫さまに変わったってのはどうっすか?」

 

二人とも、今の名――小竜姫――をあだ名として残すことができるように考えているようである。小竜姫としては、二人が真実を知らない為仕方ない事なのだが、あだ名が変わらないと言うのは、何処か可笑しく感じるのであった。

 

「それで、どっちにします?他のがいいなら、また考えますが……」

 

「ふふ、その必要はありませんよ」

 

「じゃ、決めたのね?どっち?」

 

答えを催促するタマモに、小竜姫は笑って答える。

 

 

 

「今日から私の名前は――

 

 

 

 

――妙神(みょうじん) 竜姫(たつき)です!!

 

 

 

 

 

「あ、私の苗字、葛葉(くずのは)にしたから」

 

「「え?」」

 

 




小竜姫の偽名確定。これで、小竜姫が麻帆良で生活する基礎ができたわけですね。
ただ、地の文は変わらず小竜姫です。

小竜姫の真名関係の話は独自設定です。
元ネタは、名前を呼ぶという事は、その人を霊的に支配することである為、主君または親族以外には名前を呼ばせないという考え方からです。

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また、活動報告にもアンケートなどを記載しております。宜しければ、ご協力の程お願い致します。タイトルに【道化】とある記事が関連記事となります。

では次回。

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