道化と往く珍道中   作:雪夏

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出逢った少女たちと買い物を楽しむ横島の元に、学園長からの電話が。それは、日常を楽しむ横島を再び非日常の世界へと(いざな)う。


一言: 展開遅いですね?


その4 横島くん初めての依頼 中編

 

 

 

 

買い物に行った翌日。横島は学園長室で学園長と向き合って、ソファーに腰掛けていた。勿論、初めての依頼でコケる訳にはいかないので、『冴』の文珠でドーピング済である。

 

「わざわざ来てもらって、すまんかったのぉ」

 

「別に構わないっすよ。それで、仕事ってのは?」

 

「うむ。それなんじゃが……。木乃香に会ったそうじゃな?」

 

「ええ。それが何か関係が……?」

 

「木乃香を……どう思った?」

 

真剣な顔で尋ねる学園長に、横島は正直に思ったことを伝える。

 

「いい子でしたよ。今は可愛いらしいって言葉が似合いますが、間違いなく将来は美女ですね。大和撫子って言葉が似合うようになりますよ」

 

「そうじゃろ、そうじゃろ。どうじゃ?今のうちに……?」

 

「そりゃ、木乃香ちゃん次第でしょ?オレなんかにゃ、木乃香ちゃんは勿体ないですよ」

 

「フォフォフォ。まぁ、そう結論を焦ることでもないじゃろう。して……」

 

朗らかに笑っていた学園長であったが、再び真剣な顔を作る。すると、横島も和やかな顔から一変、真剣な顔になり口を開く。

 

「あの魔力のことっすか?それとも……」

 

「魔力も……が正解じゃな。まず、木乃香は両親ともに裏の人間じゃ。特に父親はその世界では名が通っておる。しかし、木乃香は裏の事情は一切知らん。裏と関わらずに育てたいという親の願いで……のぉ」

 

「まぁ、物騒なこともある世界ですからねぇ。まぁ、いいんじゃないっすか?親のことが広まらなければ」

 

そこで一息入れる為、お茶に手を伸ばす横島。お茶を一口飲むと、横島は話を続ける。

 

「出来れば、学園長との関係も隠した方がいいんですけどね。学園長としての表の顔だけでも十分狙われますから。ま、アナタのことだから手配はしているんでしょうが」

 

「うむ。麻帆良にいる限り、木乃香に危険がないように手配はしておる。儂の肩書きに目をつけて、木乃香を誘拐しようとする者がいないとも限らんしのぉ」

 

横島につられるように学園長もお茶に手を伸ばす。そして、何てことのないように横島に告げるのであった。

 

「ただ……、父親――娘婿殿は敵対組織の長でのぉ」

 

「ブッ!!」

 

その言葉にお茶を吹き出す横島。驚愕の表情で、学園長を見るのであった。

 

 

 

 

 

「いやいやいや!!何でそんな不思議な状態に!!」

 

「何から説明したものかのぉ……。まず、日本には二つの魔法組織がある。関東魔法協会と関西呪術協会じゃな」

 

「魔法と呪術……ですか」

 

「うむ。儂らが関東魔法協会じゃな。こっちは魔法世界の支部みたいなものじゃ。魔法世界からの留学生の受け入れや、旧世界で活動する魔法使いのサポートなんかもこれの一環じゃな」

 

「その言い方だと、関西呪術協会ってのは……」

 

「うむ。旧世界由来の魔法を使う者たちの組織じゃ。元々日本には、関西呪術協会しかなかったんじゃよ。そして、儂の実家の近衛家はのぉ。関西呪術協会の設立当時から続く名門じゃ」

 

「あー。じゃあ、学園長は……家出したんすか」

 

「簡単に言えばのぉ。ま、その頃は上手く共存出来ておったんじゃが……」

 

「あー、ナワバリでも被っちゃいました?」

 

「そういうことじゃ。関西呪術協会はその名の通り、呪術も扱う。そして、その力を日本のトップの為に、それこそ平安の時代から振るってきた。しかし、それは魔法世界出身の者にとって、看過できることではなかったんじゃ」

 

「あー、呪術の妨害にでたんすね(美神さんとエミさんみたいな関係ってことか)」

 

「そうじゃ、今でこそ表立って対立はしておらんが、一時は小競り合いが絶えんかった。今でも、東には西をよく思っておらん者たちは沢山おる。無論、西にも東を邪魔に思っておる者たちは、それこそ山のようにおるじゃろうて」

 

「対立を緩和する為に、娘婿――木乃香ちゃんの父親が長になったってことですか」

 

「そうじゃ。婿殿は魔法世界で西洋魔法使いと活動しておったこともある。つまり、東側に理解があるんじゃ。そして、東のトップである儂は西に理解があり、身内じゃからの」

 

「それなら、この状況にも納得できますが……。木乃香ちゃんがこっちにいる理由も。長の娘である木乃香ちゃんが、東に行くことで東西の融和は進んでいると示してるんすね。東からも西に派遣とかしてるでしょうし。……ついでに、木乃香ちゃんの将来を見据えてってとこですか。西を継ぐなら、東とも縁が強い後継者に木乃香ちゃんがなれるようにと」

 

成程と頷く横島に、困ったように頬を掻きながら答える学園長。

 

「いや、婿殿はそこまで考えておらん。言ったじゃろ?木乃香は裏を一切知らんと」

 

「……そういえば、言ってましたね。じゃあ、何で?」

 

疑問を告げる横島。それも仕方ないことであろう。木乃香に事情を伏せるだけならば、必ずしも麻帆良に向かわせる必要はないのだから。学園結界があれば、確かにリスクは減るだろうが、事情を知る可能性が無くなった訳ではないのだから。

 

「単純に麻帆良の方が向いておったんじゃ。此処には認識をズラす結界があるしの。それに比べて実家では、いつ事情が知れるか分かったもんじゃないからのぉ」

 

「はぁ……」

 

「まあ、婿殿も悩んだ結果じゃ。手元で木乃香を育てるには、少々危険が多いんじゃ。元々、婿殿は東――西洋魔術師びいきだと、頭が固い連中からの評判が悪くてのぉ。そういう奴らに限って、旧家で呪に長けておるんじゃ。そやつらから木乃香を守るには、骨が折れるからのぉ。そもそも、婿殿は守りには向かん」

 

「それはまた……。難しい話っすね。木乃香ちゃんに事情を知らせて、自衛の力を与えればいい話なんですけど。それは、そもそもの願いに反しますからねぇ」

 

「うむ。まぁ、大分話がそれたが此処までは理解したかのぉ?」

 

「ええ。東西と木乃香ちゃんの微妙な関係は。それで、魔力の方は?」

 

「今となっては、あまり説明する必要はないかのぉ。自衛手段がない木乃香を西におけない理由が増えるだけじゃ」

 

「そうですね~。魔力目当てに狙われる可能性が増えただけで、他に何が変わる訳でもないですし」

 

「ま、極東で一番の魔力を持っておるってのは知っておってくれ」

 

「了解です。それじゃ、木乃香ちゃんに関してはオレらも気は配っておきますよ。まぁ、専属警護の人もいるでしょうから、オレらがすることはないと思いますが」

 

「うむ。頼んだぞ」

 

その言葉を合図に立ち上がる横島。そのまま、学園長室から退出しようとドアへと向かう。それを学園長も見送ろうと立ち上が時。彼はあることに気づいた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!結局、依頼について話とらんぞ!!」

 

「あ」

 

 

 

 

 

気まずい雰囲気の中、再びソファーに腰掛けて横島が口を開く。

 

「それで、依頼とは?」

 

「先までのことを、なかったことにしようとしとらんか?」

 

「や、やだなー。学園長」

 

ジト目で追求する学園長に、そんなことはないとアピールする横島。反応が露骨過ぎて、学園長はこれ以上追求することをやめ、話を続ける。

 

「まぁ、いいじゃろ。儂が脱線したのも悪かったしのぉ。それに、先までの話は全くの無関係と言う訳でもない」

 

「そ、そうですか。いやー、そりゃ良かった」

 

「調子いいのぉ……。で、改めて依頼の話なんじゃが……。君には、定期的に京都に行ってもらいたい」

 

「京都……ですか?」

 

「西の本部があるんじゃ。西と交渉するにも、根回しは必要じゃろ?」

 

「オレなんかにゃ、荷が重いっすよ」

 

「……そうでもないとは思うがのぉ。……まぁ、安心せい。基本的に儂が指定した場所に向かい、指定した相手に書を渡すだけじゃ。君は麻帆良にも最近来たばかりじゃし、西は魔法世界との繋がりは薄いからのぉ。君が東からの書を運んでおるとは思わんじゃろうて」

 

「はぁ……。そんなもんすかねぇ?」

 

学園長の言葉に猜疑的な横島。西の本部があるのは、かの有名な京都である。麻帆良のように、結界が貼ってあると考えてまず間違いないであろう。それなのに、この学園長の余裕は一体どういうことだろうと、横島は疑問に思っているのである。横島の表情からそのことを悟ったのか、学園長は話を続ける。

 

「もう一つ加えるとのぉ。西は西洋魔法には敏感じゃが、気の使い手には寛容じゃ。協力組織が気の使い手じゃからの。それに京都の結界は、魔――妖魔なんかに対してはその力を抑え、居場所も感知するようになっておる。……が、魔力や気にはそれほど作用せんのじゃ。勿論、破壊活動をすれば立ちどころに察知するがのぉ。君たちのように“霊力”を扱うものは、感知も出来んじゃろうて。なにせ、“霊力”を扱う者がその昔、魔を感知する為に創った結界をベースにしておるからのぉ」

 

「まぁ、それなら安心……“霊力“?」

 

学園長が口にした“霊力”という言葉に反応する横島。それを見た学園長は、やはりと呟くと口を開く。

 

「君たちが刹那君の正体を見破った経緯は聞いておる。そして、その時霊力と零していたことものぉ。それに以前見せてもらった君の力。あれは気より遥かに強力じゃ。それこそ、(いにしえ)の力――霊力のようにのぉ」

 

「はぁ……。オレの力が、気で誤魔化せるか確かめたのが裏目に出ましたか」

 

「何……あれは確かに気で誤魔化せる。実際、儂も気だと思っておった。君たちが口を滑らせるまでは……のぉ。なにせ、霊力の最盛期は平安の時代と言われておるからのぉ。そこからは次第に廃れていき、今は魔力や気を扱う者しかおらん。気や魔力は誰でも鍛錬すれば扱えるが、霊力は生まれ持った資質がないと扱えないと言う話じゃから仕方がないことじゃろうがのぉ。今や霊力の存在を知る者は極わずか。ほとんど御伽噺と思われておる」

 

「ま、うちの先祖は権力闘争に敗れた霊能者の集団だったそうですからね。それで魔法世界に隠れ住んだらしいです。今やその心配もなくなったので、オレたちは旧世界に来たんです。それでも要らぬ誤解を生まないようにと、隠してたんですが……」

 

自然に嘘を吐く横島。横島たちにとって、異世界人と言う事実さえ隠せれば、他はバレてもそこまで問題はないのだ。学園長の話からしても、霊力があったことは事実なのであろう。学園長が作り話までして、霊力について言及する必要はないのだから。

 

「ふむ。そうじゃったか。昔からそういう話は絶えんからのぉ。して、霊力の使い手である君が京都に入れることは分かって貰えたかのぉ?」

 

「ええ。ついでに、霊力のことはそこまで気にしなくとも問題ないということも」

 

「まぁ、大多数は気としか思わん。それに、バレたら詮索はされるじゃろうが、一族の秘術とでも言えば誤魔化せるじゃろうて」

 

「それで、京都へ行って書を渡す相手は?」

 

「うむ。西の長――

 

 

 

近衛詠春(このええいしゅん)じゃ」

 

 




今回は説明回です。男二人の会話です。


関西呪術協会が日本古来の魔法組織。近衛家が名門。京都の結界。ネギま世界の霊力が廃れている。
これらは拙作内設定です。

ヒロインは決定済です。ご協力ありがとうございました。以後のptについては、ヒロイン表下部に記載してあります。投票の前に一度ご確認をお願いします。

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