一言: ノートPCは使いづらいですね
「西の長ですか……まさか、直接なんてことは」
「そのまさかじゃ。婿殿に直接手渡して貰いたい。なに、事前に連絡はするから大丈夫じゃて」
横島の呟きに、学園長が軽く答える。
「相手が長だってのにやけに軽いっすねぇー。担当する人物が変わるだけってことですか」
「そうじゃ。今までも、事情を知っとるだけの人間に連絡係を頼んでおった。それを君へ変更するだけじゃからの。今頃、人員の変更を伝えとる筈じゃ」
「オレが断ったらどうするつもりだったんですか?」
「おお、それは考えておらんかった。ま、引き受けてくれるんじゃろ?」
「ええ、まぁ受けますけどね。定期収入が増えることは嬉しいことですし」
「フォフォフォ。次の定期連絡は一週間後の予定じゃ。ああ、木乃香のこともよろしくのぉ」
朗らかに笑う学園長に“タヌキ爺”という単語が浮かんだ横島。横島に木乃香の状況を告げたのも、詠春に木乃香の置かれた危険性を横島からも説明させ、自衛の手段を持たせることについて同意させようというのだろう。
「それで?このことだけじゃないですよね?これだけなら今日じゃなくともよかった筈ですし」
横島の問いかけに、学園長はお茶を飲みながら答える。
「依頼はこれだけじゃよ?ただ、君と直接会って確認したいことがあったから、今日呼んだんじゃ」
「確認したいこと……ですか。それは“霊力”のことですか?」
「うむ。その通りじゃ。君たちは、途絶えて久しい“霊力”を使える可能性があった。その事実を確認したかったんじゃ。その上で、頼みたいことがあったからのぉ」
「頼みたいことですか?」
「うむ。刹那君のことじゃ。彼女は訳あって力を求めておる。同門の刀子君に師事しておるが、刀子君の話によれば刹那君は、過剰と言ってもいいほどの修行を己に課しておったそうじゃ」
そこまで言うと、学園長は再び湯呑に手を伸ばす。対面に座する横島は、つい先日会ったばかりの刹那の姿を思い浮かべる。
確かに刹那は、武を身につけていた。こんなに幼いのにと驚いたのも覚えている。しかし、それが同門から見ても過剰な鍛錬の結果だとしたら、なんと悲しいことであろうか。自分が中学生の頃と言えば、ばか騒ぎをしていたのにと思う横島であった。
「そこに、刹那君は霊力があるという言葉を聞いた。刹那君が本当に霊力を持っているのか、身につけることができるのかは正直どうでもいいんじゃ。儂らは、刹那君に過剰な修行を止めてもらいたいのじゃ」
「刹那ちゃんに霊力の修行を……ってことですか?」
「うむ。霊力の修行ならば、刹那君は素人。師匠の言うことを聞くじゃろうし、その修行に時間が取られれば」
「過剰な修行はできないだろう……と。オレらが霊力を使えなければ、ただのブレーキ役。使えるのならば、尚よしと考えたわけですか。しかし、刹那ちゃんが霊力の修行をしますかね?自分の流派の修行に集中したいとかで断るんじゃ?」
「それは大丈夫じゃろうて。刹那君の流派は、もともと霊力を使っておったからのぉ。霊力を身につけることは、流派の極意に近づくなり、技の威力向上に繋がるなり言えばよかろうて。事実、霊力の方が気より強いしのぉ。これなら、刹那君も素直に教えてもらう気になるじゃろうて。無論、本当に教えるかは君たちの自由じゃ。教えない場合でも、気の出力向上に繋がると言えばよい筈じゃ」
「……修行については相談させてください。あ、どっちにしても、刹那ちゃんの修行はしますよ。竜姫もタマモも放っておけないでしょうしね」
「そうか!受けてくれるか!刹那君のこと、よろしく頼むぞ(それに、刹那君も君を気に入っているようだと聞いたしのぉ。タマモ君と竜姫君もそのようじゃし、面白くなりそうじゃ)」
学園長室から退出した横島は、よこっちの宣伝の為にポケットティッシュを配りながら歩いていた。
「いやー、ナンパもせず宣伝しているオレってのも変やなー。ま、オレも一家の大黒柱や。頑張らんと……あ、お嬢さーん!便利屋“よこっち”でーす!美人、美少女の依頼ならデート一回で…「結構です」…あ、そう?君だったら初回は無料で…「結構です」…そうですか。あ、せめてティッシュだけでも……。あ、受け取ってくれるの?ありがとう。何かあったら連絡してくれれば格安で受けるから……」
本人はナンパせず、真面目に宣伝しているつもりであるらしい。ここからは、横島の宣伝活動(?)の一部をご覧いただこう。
「お嬢さん!便利屋“よこっち”をよろしく。今なら初回格安で何でもやるよー」
「あ、そこ行く美人さん!そう、あなた!私、便利屋やってまして……あ、待って!ナンパじゃないから!ただ、ちょっとデートしたいなぁって思っただけで……せ、せめてティッシュだけでも!」
「へい!そこ行くマダム!何かお困りなことはありませんか?何かあったら、便利屋“よこっち”に!あなたの様な美人なら、初回は特別価格!あなたを食事に誘う権利を私に頂ければ……って、いないっ!?」
「便利屋“よこっち”でーす。今なら開業記念サービスで、依頼料半額でお受けしまーす」
「お、君たち中学生?よかったら宣伝してくれなー。君たち可愛いから、半額でやったげるよー。え?裏に開業記念で半額って書いてあるって?あちゃー、バレたかー。でも、君たちが可愛いってのは嘘じゃないぜ?ま、よろしくなー」
「そこの頑張っているお父さん!便利屋“よこっち”をよろしく!」
「おー、部活帰りの少年!これを使って、汗を拭うんだ!ついでに、宣伝もよろしく!」
「あなたの様な綺麗な方は初めてだ。是非これを。便利屋“よこっち”あなたの為なら何でもします」
女性ばかりに宣伝(とナンパ)しているのは、横島だから仕方がないことであろう。
横島はティッシュを配りながら、麻帆良の街並みを一人歩く。横島は考える。麻帆良に来てから一人で目的もなく歩くことはなかったと。大抵の場合、目的地があったり、誰かが一緒であった。
こうして、一人でゆっくりと歩くと、街の景観がよくわかる。日本にありながら、日本ではないかのような街並み。魔法世界で見た街並みにも似ているし、ヨーロッパの街並みにも似ている。きっと、ルーツは同じなのだろう。
そんなとりとめのないことを考えていた横島は、気がつくと街の何処にいても見える大きな樹の下に立っていた。
「神木、
横島が見上げる樹は、麻帆良学園都市の中央にある全長270メートルの大樹である。小竜姫やタマモの見立てでは、地下に膨大な魔力があるらしい。
「本当に別世界に来たんだなーってお前を見てると思うよ。例え、魔力の影響があっても此処まで成長する為には、お前も随分頑張ったんだろうなー」
そう言うと、巨大な幹に背中を預け、眼下に広がる街を見下ろす横島。その顔は普段お目にかかれない、真面目な顔であった。
「オレも
「“男は慕ってくる人間を守るもんや。それが自分が好いた女やったら命を懸けて守らなあかん”って。
そのあと、せやったら全世界の女をワイが守ったるっていうたらオカンには呆れられたけど……その方がワイらしいやろ?」
そう言いながら笑う横島の眼には、自分へ向かい歩く少女たちの姿が。
横島は声には出さずに世界樹に誓う。あの少女たちを守ると。
それに予感もするのだ。これから先、守りたい人が増えるとも。
横島は少女たちへと歩き出す。そして、思うのだ。
力がないことを嘆くことがないように、頑張ろう。痛いのも、苦しいのも嫌いだ。それでも頑張ろう。自分なんて信用できないけど、やれることをやってみよう。
笑って日常を過ごす為に、美人な嫁さん(たち)と楽しく暮らす為に。……後悔を増やさない為に。
この見知らぬ世界で生きていく為に。残した人たちと再会する為に。あの少女たちと……
「横島ー!!」
「横島さーん!!」
「「帰りましょう!!」」
「おう!!」
前話の続きです。京都に行くのはまだ先の話です。最後の方で横島君が決意していますが、気持ちです。気持ち。ええ、たまにはシリアスで終わりたいんです。ここまでがある意味プロローグかな?
4時間目はヒロインと出会っていったり、フラグを立てていったり、京都いったり。その前に休み時間かも?その場合、横島と学園長が会っていた時のタマモたちの話ですね。
出会い方が決まっていないキャラが多いため、時間はかかるかもしれませんが、ご容赦ください。
感想返しは、次話投稿時にまとめて返します。ちゃんと見てはいますが、時間がなかなか。ptとかは計算しています。
投票について、投票前に一度ご確認をお願いします。一人三名までが有効ptです。三名以上の場合、先に記載されたキャラから三名までを有効とし、残りは無効とします。
学園長が詠春と原作前から連絡を取っている。神鳴流が霊力を使っていた。
これらは拙作内設定です。
ご意見、ご感想お待ちしております。頂くと調子に乗って更新速度が上がります?
―追記―
感想で横島が文珠を使っているのに……というのがありましたので少々補足させていただきます。
今回文珠には『冴』と入れています。この文珠の効果は、あくまで勘が冴えるという類のものです。なので、相手の発言からその発言の裏を見抜くことはできても、自分の知識に無いことは当然知らないままです。
また、文珠の効果は横島の人格に影響を与えている訳ではありませんので、予想外のことには普通に驚きますし、混乱もします。前回カマかけに引っかかっていますが、これは交渉経験の差であり文珠は影響していません。