道化と往く珍道中   作:雪夏

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小竜姫とタマモに向けられる視線。その視線が意図するものとは……

一言: 皆様のおかげでお気に入り数が1000件を突破しました。ありがたいことです。


その2  竜姫とタマモと少女たち 中編

 

 

 

 

下着姿になり、体重と身長の測定を待っている間にタマモと小竜姫は刹那と会話をしていた。

 

「あ、あのぅ? さっきから、その、何を見ているのでしょうか?」

 

「う~ん、いや、横島の言った通りだって思って。いや~、凄いわ」

 

「よ、横島さんが? 何を言ってたんですか? というか、そんなジロジロ見ないでください!!」

 

タマモの全身を舐め回すかのような視線に、悲鳴をあげる刹那。いくら同性といっても、恥ずかしいものは恥ずかしいのである。勿論、タマモが刹那を性的な目で見ている訳ではない。

 

「いや、アンタって歳の割に筋肉がついてるから。横島の言ってた通りだなぁって。……いくらアンタがハーフだからって、鍛錬のやりすぎじゃない?」

 

最後は小声で刹那に伝えるタマモ。その言葉に自覚があるのか、黙る刹那。そこに黙って見守っていた小竜姫が話しかける。

 

「鍛錬も大事ですが、何事にも適度と言うものがあります。アナタの場合、このままでは身体の成長を阻害することになります。アナタの場合は特に」

 

「そ、それでも! 私は……強くならないと」

 

「そういえば学園長から話は聞きましたか?」

 

「え? あ、はい。何でも私に修行をつけてくれるとか」

 

急な話題の転換に少々戸惑う刹那だったが、すぐに修行のことだと気づく。刹那の返答に小竜姫は頷くと、小声のまま続ける。

 

「そうです。そのことについては、刹那さんが是と言えば今日からでもと思っています。詳しく説明もしたいですしね」

 

「で、でも、今の流派の技も未熟な私が、他の流派の方の教えを受けても……。あ、別に嫌って訳ではないんですよ? その方が私の為になるって刀子さんも言ってましたし。……ただ、横島さんに会うのがちょっと恥ずかしいというか、嬉しいというか」

 

「あら、刹那は聞いてないの?(この娘、私が妖狐って忘れてるわね。その声の大きさでも聞こえてるのよ? ……しかし、バカ犬よりチョロいんじゃない?)」

 

何処か躊躇する刹那。本人は聞こえないように言ったつもりだろうが、妖狐であるタマモには全部聞こえている。竜姫に目を向けると苦笑しているので、こちらは唇を読んだのであろう。指摘して騒がれても困るので、タマモは話しを進めることにする。

 

「私たちが教えるのは、剣術じゃないわ。そもそも、私も横島も剣術は修めていないしね」

 

「そ、そうなんですか? じゃあ、一体何を……?」

 

「それはここでは。今日の放課後にでも。……それと、いつも鍛錬は何時に?」

 

「筋トレや素振りなどは時間のあるときに。技や型の鍛錬は、刀子さんと一緒に夜の九時過ぎから。刀子さんの仕事があって、一緒に鍛錬出来ない時は部屋で瞑想とかしています」

 

「そうですか……(暇があれば鍛錬しているってことですか)」

 

「本当は毎日でも技の鍛錬をしたいのですが……。幾ら認識阻害があっても、それも万全ではないですからね。人目を避けるとなると、そのような時間帯に」

 

実は麻帆良学園には、麻帆良にいる多くの魔法関係者の為に修行場がある。利用人数、時間帯などを申請して利用するもので、結界で完全に隔離されており、魔法使いが人目を気にすることなく鍛錬に励んでいる。

 

当初、刀子は刹那との鍛錬の為にこの修行場を昼間に利用しようと申請を行っていた。しかし、神鳴流剣士を快く思っていない一部の魔法使いが、昼間から魔法使いでない者が修行場を利用することに反発した為、刀子たちは昼間に修行場を利用できなくなったのだ。そこで、刀子と学園長は利用申請が少ない夜間に利用することとなったのである。

 

そのような事情を知らない刹那は、単純に人目を避ける為という刀子の言い訳を真に受けているのであった。

 

「門限とかはないのですか?」

 

「門限は八時ですね。管理人さんも関係者なので、連絡さえすればその点は融通してくれます」

 

刹那の言うように寮の管理人も関係者である。最も、事情を知っているだけで何の力も持っていないが。麻帆良には魔法生徒と呼ばれる学生たちがいる為、このような措置が取られているのである。無論、無断外泊や夜間の無断外出は禁じられている。

 

 

 

刹那の説明を聞いたタマモと小竜姫は、それならばと提案する。

 

「今、私たちの家の地下に修行場を建築中です。完成したら、そこで鍛錬をされては如何でしょうか? それまでは、事務所で教えることになると思いますが」

 

「いいんですか?」

 

「ええ。構いません。優先して作りますから……そうですね、早ければ三日後。遅くとも週末までにはできるかと」

 

「とりあえず、今日は夕飯前に来てくれればいいわ。出来れば技とかも見たかったけど、それは完成後ね。はい、決定。順番が来たから行ってくるわ」

 

「夕飯を作って待ってますね」

 

そう告げるとタマモは身長を、竜姫は体重を計測しに向かう。残された刹那は、いつの間にか夕飯を共にすることが決まっていることに戸惑っていた。その頬が若干赤いのは、何を考えていたのだろうか。

 

 

 

 

 

「竜姫」

 

「この視線ですか? 気にしないことです」

 

「でも、鬱陶しいわよ? たかが吸血鬼のくせして、私たちを観察して」

 

自分たちの測定を終え、クラスメイトの計測を待っている間、タマモが小竜姫に話しかける。朝からずっと感じている視線に、我慢出来なくなってきたようである。

 

「まぁまぁ。わざと気づかせて私たちの反応を見たいんですよ。反応しなければ、その内焦れて接触してくるか、諦めるかします」

 

「冷静ね。美神みたい」

 

「まぁ、近くであの人を見ていたら多少は身に付きますよ。横島さんもそうですしね。タマモちゃんだってそうでしょ?」

 

「そうなんだけどね。ただ、前世のせいか観察とかそういう視線が嫌いなのよね。しかも、私より格下の癖に」

 

「タマモちゃんより霊格が上なのは、それこそ神魔くらいですよ」

 

小竜姫の言うように、九尾の妖狐であるタマモに比べれば、人界のほとんどの生物は格下である。例え、転生前の力を完全には取り戻していないとは言っても、である。それでも、転生前や横島と出逢う前まで追い回されてきたタマモにとって、その手の視線は不快なものであった。

 

「あ~あ、これが横島の視線だったらなぁ」

 

「横島さんの……ですか? ……それは恥ずかしくないですか?」

 

横島にジッと見られている自分を想像した小竜姫は、恥ずかしくないのかとタマモに尋ねる。

 

「だって、視線を独り占めしてるってことは、アイツが私だけを見てるってことじゃない。それに、アイツの寵愛を受ける為に頑張っているのよ? これくらいで恥ずかしがってたら、やってられないじゃない」

 

「まぁ、そうかもしれませんけど……」

 

あっけらかんと答えるタマモと、恥ずかしがる小竜姫。そんな二人に近づく影が……

 

「それ!!」

 

「あ、ちょっと」

 

「わ、すご! 体重めちゃくちゃ軽い。いくら私より背が低いって言っても、これ軽すぎでしょ! ほら、みてアキラ」

 

「や、やめなよ裕奈。妙神さんに返しなよ」

 

その影――明石裕奈は、小竜姫が机に置いていた身体測定結果を記した表を掴みあげ、目を通すなり驚愕の声をあげる。それをアキラがとめているが、聞く耳を持たない。

 

「あの、明石さん? 返してくれませんか?」

 

「ん? あ、ごめんね。置いてあったから、つい」

 

「別に構いませんが……。他の人にはしない方がいいですよ。嫌がる人もいると思いますし」

 

「あははは……」

 

「……妙神さんでもう五人目なんだ」

 

小竜姫の言葉に乾いた笑いで答える裕奈。その理由を後ろに控えていたアキラが教える。

 

「ま、まぁこれ以上しないということで。ね? 竜姫さんでいいかな? 私も裕奈でいいしさ。あ、タマモちゃんも裕奈でいいからね? ……そんでさ、どうやったらそんなに軽くなんの?」

 

小竜姫を質問攻めにする裕奈。アキラはそんな裕奈にため息を吐くと、小竜姫の横に座っているタマモに話しかける。

 

「裕奈ったら……騒がしくてゴメンね? 私もアキラでいいから。裕奈って初等部のころからこんな感じで……」

 

「楽しくていいんじゃない? 私もタマモでいいわ。あっちは勝手に呼んでるけど」

 

「本当、ゴメン」

 

「いや、いいのよ? 気にしてないし、苗字で呼ばれるよりいいし」

 

「ありがと。タマモちゃん計測は? 終わった?」

 

「終わったわよ? ほら」

 

そう言うと自分の記録表を開いて差し出すタマモ。思わず受け取ったアキラは、記録に目を通すと小さく驚く。

 

「タマモちゃんも軽いね。それに、身長が153cm? もっとあるかと思ってた」

 

「あ~、髪型じゃない?」

 

「髪型? それもあるかも知れないけど、何かオーラっていうか、存在感っていうか……そういうのが大きく感じさせてるのかな?」

 

「オーラねぇ……(この娘も面白いわね……ま、いいか)」

 

「あ、ゴメン。返すね」

 

謝罪しながら記録表を返却するアキラ。どうやら、タマモがジッと見ているのを催促と思ったようである。

 

 

その頃、裕奈と小竜姫はというと、裕奈が喋り、小龍姫が相槌といった感じで会話が進んでいた。

 

「そうだよね! やっぱり、運動って大事だよね。私もお父さんが勧めたバスケをやってるんだけど、おかげでダイエットとは無縁だよ。ま、そのお父さんが運動をあまりしないんだけどね? だから、休みの日に運動に誘ったりさ……」

 

「良かったですね~(さっきからお父上の話ばかり……)」

 

「でさ? お父さんったら、朝だらしなくてさ。いつもモーニングコールしないと起きないんだよ? 全く、男の人ってダメだよね~」

 

「そうですね~。横島さんも私かタマモちゃんが起こさないと、起きてきませんしね~」

 

「そうそう……って。男と同居してんの!?」

 

裕奈の父親話に疲れていたのか、深く考えずに答えた小竜姫。それを聞いた裕奈が思わず大声を出すが、幸い体重計を見てあげた悲鳴に紛れ教室中に拡散することは防がれたのであった。

 

 

 

因みに、悲鳴をあげた生徒は雪広あやか。前日の社交パーティが原因であった。

 

 




徐々に構築される人間関係。そして、エヴァとの接触は未だお預け。

それと、活動報告に【道化】学校行事について【お願い】を掲載しております。ご協力いただけると幸いです。

寮の管理人、門限、規則。麻帆良での修行環境。タマモの身長。
これらは拙作内設定です。

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