道化と往く珍道中   作:雪夏

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妖狐と竜神。吸血鬼とガイノイド。人ならざる彼女たちが紡ぐ物語とは……


一言: 主人公がタマモと小竜姫に見えてきた。何故だろう?


その4 妖狐と竜神と吸血鬼と……煩悩人と 前編

 

 

 

 

初日の授業を終えたタマモと小竜姫は、談笑しながら帰宅の準備を整えていた。

 

「今日から入部受付も始まるけど、タマちゃんたちどうするん?」

 

「あれ? 見学とか説明会が始まるんじゃないの?」

 

「間違ってはないです。麻帆良では多くの学校で部活、同好会の掛け持ちが認められているです。その為、見学と同時に入部ができるようになってるです。説明会も順次開催されてますが、それより先に入部も可能です。というか、先程説明があった筈ですが?」

 

「あ~、聞いてなかったわ(……お子様吸血鬼のせいで)」

 

「それで、お二人はどうするんですか?」

 

のどかの質問にタマモは小竜姫を伺う。小竜姫はお任せしますとだけ告げ、タマモに判断を任せるようである。

 

「う~ん、部活にはあまり興味ないのよね。それより、横島が気になるわ。真面目にやってるのかしら……。あれでしっかりしているとこもあるってのは知ってるんだけど、どうもね」

 

タマモの言葉に揃って苦笑を浮かべる一同。木乃香たちが横島と会ったのは、僅か一日のことであり、その短い時間で自分たちでも驚く程馴染んだが、何処か情けない印象を少なからず受けたのも確かである。

 

「最初は営業って言ってたし、成果なんてほとんどないって言ってたけど……。やっぱり気になるわね」

 

「気持ちは分かるです。何事も初日というのは気になるものです」

 

夕映がタマモの気持ちも分かると言うと、のどかたちも口々に気持ちを告げる。

 

「……何だか私も気になってきた……。大丈夫かな? 怖い人に追いかけられてないかな?」

 

「なんや、ウチも気になって来た……。横島さん女の人好きみたいやし、悪い女の人に騙されてないやろか……」

 

「……まさか……いや、あの光景を見ている身としては否定しきれないですね。成果とは違う意味で気になってきました……」

 

次第に不安になっている面々に、小竜姫がこの後どうするのかを尋ねる。横島に関してフォローの言葉がないのは、小竜姫も否定出来ないのであろうか。

 

「それで、皆さんはどうするんですか? 部活を見学に?」

 

「いえ。私たちは入りたい部活は決めてますし、説明会の日取りもチェック済みです」

 

「そんで、今日は何もないからタマちゃんたちに着いていこうかと思ってな?明日菜は高畑センセが美術部顧問って知って突貫したし、ハルナは漫研に行ったみたいやし」

 

「ハルナは会心のネームって言ってました……」

 

「でも……私たち部活に興味ないし、今日はまっすぐ帰るわよ? どうするの? 一緒に帰る?」

 

タマモの言葉に三人は顔を見合わすと、目で会話しているようである。やがて、結論が出たのか、三人は頷くとタマモと小竜姫に向かって告げる。

 

「タマモさんと竜姫さんにご一緒するです」

 

「その、横島さんも気になりますし……」

 

「アカンかな?」

 

「構いませんよ。それでは行きましょうか」

 

そう言う小竜姫は既に教室のドアの前へ移動していた。それを見たタマモたちは苦笑しながら、彼女を追いかけるのであった。

 

 

 

 

 

学園を後にした一行は、女子寮の最寄り駅に到着していた。そのまま、改札を通り抜けようとした時、改札の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「お嬢さん! 何か困ったことがありましたら是非、便利屋“よこっち”にご連絡ください。迷子のペット探しに、お部屋の蛍光灯替え、バイトの代役、引越しのお手伝いも。何でもやりますよ。今なら開業記念でなんと25%OFF!! お嬢さんなら……そうだ、特別料金で半額! どう?」

 

「ふふ、楽しい方ですね。でも、困ってることは特に……。それに、そろそろ保育園のボランティアの時間なので……」

 

「その年齢でボランティアとは……。お嬢さんは偉い! オレも子供は嫌いやないけど、あのバイタリティ相手にボランティアではちょっとなぁ……。ま、人手がいるようならいって。お嬢さんからならいつでも半額でうけるよ」

 

「でも、半額というのは……」

 

「いいの、いいの。お嬢さんは特別。気にしなくてもいいから」

 

「そんな……」

 

 

聞きなれた声にタマモと小竜姫は走り出す。残された木乃香たちは慌てて後を追う。それほど距離はなかったようで、すぐに現場に着いた彼女たちが見たのは、横島の背中に飛びかかるタマモの姿であった。

 

「よ・こ・し・ま~!!」

 

「おお!! なんか背中に柔らかいものが……って、タマモじゃないか。ん? 待て! 首に腕をまわすなんじゃない! 柔らかい感触が……ち、違う! 首が絞まるって!!」

 

「問答無用! 多少のナンパには目を瞑るつもりだったけど、クラスメイトに手を出すなんて……。学校で噂が拡がったらどうするつもり!!しかも、胸の大きな子に……私のじゃ不満かー!!」

 

「ち、違……! ナンパなんてしてない!!」

 

横島の背中にしがみつき、腕を横島の首にまわすタマモと振り払おうとする横島。二人とも本音が溢れていることには気づいていないようである。

 

「タマモちゃん、言いたいことはわかりますが離れて。ここでは目立ってしまいます。那波さん……でしたか?ちょっと着いてきて頂けますか?」

 

「ええ。構いませんよ、妙神さん。」

 

横島とタマモのやりとりを、じゃれあう子供を見る目で見ていた少女――那波千鶴は小竜姫に声をかけられ返事をする。それを聞いた小竜姫は、いつの間にか首絞めからおんぶに移行していたタマモを降りるよう促しながら、状況についていけていない木乃香たちに話しかける。

 

「タマモちゃんもいい加減おりなさい。横島さんの背中が気に入ったのはわかったから。木乃香さんたちもこちらに」

 

「それはええんやけど……」

 

「横島さんは大丈夫なんですか……? 首を絞められてましたけど」

 

「それより、タマモさんの台詞の方が…「何?」…なんでもないです。確かにここから移動した方がいいようです」

 

タマモの言葉に思うところがあった夕映であったが、下校途中の生徒が多い駅前に留まるよりはと移動に賛成する。小竜姫を先頭に一行は、一路“よこっち”を目指すのであった。

 

 

 

 

 

「ああ、そういえば那波さんはボランティアがあると言ってませんでしたか?」

 

”よこっち”までの道中、小竜姫が千鶴に問いかける。因みに横島は、千鶴から一番遠い位置を歩いており、その腕には監視と言わんばかりにタマモがしがみついている。また、もう片方の手は、横島が強気に出られない人物に抑えてもらおうと、タマモが頼み込んで木乃香と繋いでいたりする。

 

「千鶴で構いませんよ? 保育園に連絡したら、今日はいいと断られてしまいました。ですから、時間は気にしなくともいいですよ」

 

「そうですか。私のことも名前で。……この度はうちの人がご迷惑を」

 

「いえ。特に迷惑とは。お話を少し聞いていただけですし」

 

「本当にすみません。全く、中学生相手に商売だなんて……。そうだ、横島さんに飛びかかられたりしませんでしたか? 」

 

「いいえ。どうしてですか?」

 

「その……なかったのならいいんです(横島さんが女好きだから……何て言えませんよ)」

 

 

 

 

 

歩くこと数分、“よこっち”に到着した一行は事務所でお茶を飲んでいた。

 

「で、言い訳は?」

 

「言い訳ってもなぁ……。それより、いい加減手を開放してくれないか?」

 

「逃げるからダメ」

「ゴメンな~。そういう事やから」

 

鋭く答えるタマモと、朗らかに答える木乃香。二人は変わらず横島の手を掴んだままであった。

 

「木乃香ちゃんまで……。兎に角だ、オレはきちんと仕事をしていただけだ。千鶴ちゃんだっけ? 彼女に声をかけたのだってたまたまだし」

 

「それにしては熱心に口説いていたようだけど?特別に半額にしてあげるからって」

 

「いくらオレでも制服姿の中学生をナンパはせん。下手したら通報されるしな。それに、特別ってのは中学生料金ってことだ」

 

「そうなの? じゃあ、千鶴が私服で歩いてても声かけない?」

 

「そりゃ、デートに誘っ……誘導尋問はずるいんやないか?」

 

見事に引っかかった横島にジト目を向けるタマモ。しかし、仕方ないとばかりにため息を吐くと、横島に告げる。

 

「今回は勘違いだったみたいだけど……。アレはナンパと誤解されても仕方ないわよ? これからは気をつけてよね」

 

「そうですね。麻帆良には報道部と言う部活があるそうで、そこに報道されると都市全体に知れ渡るそうです。例え貴方が仕事の宣伝の為に声をかけていても、ナンパと思われて報道されるのは本位ではないでしょう? アナタも知っての通り、一度報道されてしまうと中々評判を回復することは出来ませんし」

 

「……はい、気をつけます。これからは宣伝方法も考えます」

 

タマモと小竜姫の言葉に重々しく返事をする横島。そこに木乃香が言葉を紡ぐ。

 

「あんな? ウチらのクラスに報道部の朝倉って子がおってな? 近いうちに横島さんのこと取材させて欲しいって言っとるんよ。宣伝やったら、そこですればええんよ。そうすれば、変に誤解されることもないし。だから、きっと大丈夫やって」

 

「……心配してくれてありがとな、木乃香ちゃん。タマモに竜姫も悪かったな。ちょっと考えが足りんかった」

 

横島の手を離して語りかける木乃香に、横島は木乃香の頭を軽く撫でながら三人に礼を言う。その光景を黙って見ていた千鶴が、横島たちに声をかける。

 

「そういえば、お三方はどういうご関係で?」

 

「一緒に住んでるのよ。此処の三階にね」

 

「まぁ、そうなの?驚いたわ」

 

「いや、全然そんな風には見えないです」

 

タマモの言葉に驚いたと告げる千鶴であったが、微笑みを浮かべたままの姿からは夕映が言うように驚いているとは思えなかった。

 

 

 

 

 

その後は、今日の出来事を聞かれた横島が、老人の荷物運びや、迷子のペットを探したりして宣伝してきたことなどを答えていく。その中で、千鶴に声をかけたのはタマモと小竜姫と一緒に帰ろうと思い立った横島が、待っている時間を有効に使おうと宣伝活動を行った結果であり、最初に声をかけたのが千鶴であったことが判明する。

 

それを聞いた一同が、タイミングが良かったのか、それとも悪かったのかを少々考え込んでしまったのは仕方がないことであろう。

 

「まぁ、相手が那波さんで良かったのでは?少なくとも、今回のことを騒ぎ立てるような方ではないようですし」

 

「そうねぇ。例え本当にナンパだったとしても、別に騒ぎ立てることでもないし……。お仕事の宣伝だったのだから尚更ね。それにタマモちゃんと竜姫さんが、横島さんと同棲しているってのも別に……。男女の関係は他人が騒ぐことじゃないもの」

 

「同棲じゃなくて、同居です。男一人に女二人って、どんな同棲ですか」

 

「あらあら。男女の愛の形なんて他人には分からないものよ? 愛があれば妾が何人いても……っていうのもアリじゃないかしら」

 

「……凄いですー」

 

「のどかも感心しないでください。……まぁ、こんな感じなので那波さんが噂することはないかと。駅前での騒ぎは麻帆良ではそう珍しくはないですし、すぐ移動しましたから大丈夫だと思います」

 

中学生になったばかりとは思えない千鶴の言動に、やや呆気にとられていた横島であったが、夕映の噂にはならないと思うとの言葉について木乃香に尋ねる。

 

「そなの?」

 

「せやなー。ウチは遭遇したことはないけど、駅前は男女の痴話喧嘩が多いらしいで? あの駅が寮の最寄りって人は多いから別れ際に揉めたり、待ち合わせ時間に遅刻したとかで」

 

「まぁ、噂にならないならそれに越したことはないか……。千鶴ちゃんも、黙ってくれるみたいだし。お礼にデートでもする?」

 

「ふふ、デート楽しみにしてますね?」

 

「横島?」「横島さん?」

 

横島にとっては冗談で言った言葉であったが、思いがけず了承されてしまい戸惑う。そこに、タマモと小竜姫がジト目を向ける。

 

「じょ、冗談だって。流石にデートはな。一回無料で依頼を受けるってのでいいかな?」

 

「あら、残念。デートでも良かったのに……。それでは何かあったら連絡しますね?」

 

「お、大人の女性って感じですー」

 

横島をからかう千鶴に大人の余裕を感じ取るのどかであった。

 

 

 

 

 

その後、お茶を飲みながら談笑していると、横島がそういえばと口を開く。

 

「そういえば、木乃香ちゃんたちにもお礼しないとね。お店とか色々助かったし。千鶴ちゃんと同じでいいかな?」

 

「ウチはそれでええよー」

「私もそれで構いません」

「わ、私も……」

 

「私はデートね?」

 

「分かった……って、お前は特に何もしとらんだろうが」

 

「ちっ、騙されなかったか」

 

便乗して来たタマモにツッコミを入れる横島。タマモは不満そうである。

 

「あ、あの……私もデートしたいです」

 

そして、小竜姫の呟きは小さすぎて誰に耳にも届くことはなかった。

 

 

 

 

 

「そろそろ、お暇しますか」

 

「せやなー。もう明日菜も帰っとるやろし」

 

「ハルナは……どうだろ?」

 

「あやかと夏美ちゃんは……帰ってるわね、きっと」

 

夕映の言葉をきっかけに帰り支度を始める面々。横島たちも見送るために玄関まで移動する。

 

「送ってかなくて大丈夫か?」

 

「大丈夫です。ここから寮までそんなに距離もありませんし、四人一緒ですから。大体、横島さんが女子寮まで来たら、噂になってしまいます」

 

「そっか。あ、木乃香ちゃん。ちょっといいか?」

 

横島がのどかと談笑していた木乃香に声をかける。呼ばれた木乃香は不思議そうな顔をしながら、横島の元へ向かう。

 

「なんなん? 忘れ物でもしとった?」

 

「いや、そうじゃなくて。近いうちに学園長のお使いで京都へ行くことになったんだ」

 

「そうなん? オススメのお土産屋さんでも聞きたいん?」

 

「いや違うから。で、本題なんだけど……。木乃香ちゃんのお父さんとも途中で会う予定なんだ。何か伝言とか手紙とかあったら伝えるけど……どうする?」

 

横島からの突然の提案に悩む木乃香。急に言われてもと言ったところであろうか。

 

「あ~、急に言われても困るよな。まだ、日程は決まってないし、決まったらタマモか竜姫を通して教えるから、その時でいいよ」

 

「了解や。何かないか考えとくな」

 

「おう。じゃ、皆気をつけて帰れよ?」

 

「「「はーい」」」

 

 

 

 

 

四人の姿が見えなくなるまで玄関で見送っていた三人は、中に入ろうとせずある人物が姿を現すのを待っていた。

 

「出てこないわね」

 

「何故でしょうか?」

 

「なぁ、ちゃんと約束したのか?」

 

「したわよ。ね?」

 

「ええ。ちゃんと待ってますと伝えました」

 

「う~ん、じゃあ何で出てこないんだ?」

 

「……いい加減隠れていないで出てきなさい!!」

 

中々出てこないその人物に、タマモがしびれを切らしたのか声を荒げる。やがて、観念したのかその人物――刹那は一同の前に姿を現す。

 

「……何で隠れているって分かったんですか?」

 

「妖狐舐めないでよね。まぁいいわ。ようこそ我が家へ」

 

「いらっしゃい。すぐ夕飯の準備しますね?」

 

「あ、そんな急がなくとも……」

 

「ま、詳しい話はメシの後でだな。時間はあるんだろ?」

 

「あ、はい! よ、横島さん。こ、この度はお招き頂き、あ、ありがとうございます!」

 

「そんな緊張しなくとも……。じゃ、中に行こうか?」

 

 

横島に促され、中へと入る刹那。刹那の心中は、修行に対する期待や不安、疑問。夕食を共にすることへの緊張、不安、戸惑いと様々であった。

 

その中で、一際大きく刹那の心を専有している事があった。それは一つの決意。刹那にとって大切な誓い。それを守る為の力を手に入れてみせるという固い決意であった。

 

 

(きっと、私は強くなる……今よりももっと。あの時の後悔を繰り返さない為にも……私は強くなってみせる!!)

 

 

 

 

 




いつの間にか千鶴が登場していた件について。予定ではまだ登場は先だった筈なのに。不思議です。

刹那メインのような引きですが、そんなことはありません。彼女がメインをはるのはもう少し後です。

入部関連。駅前の騒ぎ。
これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
活動報告もたまに更新してますので、宜しかったらご覧ください。

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