一言:連載開始から一年超えてました。
突発的に開催されたお泊まり会であったが、特に問題が起きることもなく朝を迎える。
夜中に起きた横島が誰かと鉢合わせて、そのまま二人きりでお喋りをしたり、寝ぼけて部屋を間違えた誰かが横島のベッドに入る……なんてイベントは残念ながら発生しなかった。
何事もなく朝を迎えた“よこっち”では、小竜姫が朝食の準備に取り掛かっていた。そこに、身支度を整えた木乃香が姿を現す。
「おはよう~、竜姫さん。朝食の準備手伝うわ」
「おはようございます。木乃香さん。手伝うと言われても、後はお魚を焼くだけですので……そうだ、他の皆さんを起こしてくれませんか?」
「了解や!」
元気よく了承すると、木乃香は早速寝坊助どもを起こしに向かう。彼女が最初に向かったのは、階段に一番近い夕映が借りている部屋である。部屋の前に立ちノックをするが、返事はない。
「夕映~、朝やで~。起きて学校行かな~。……聞こえてへんのかな?」
「木乃香さん? 何をしているんですか?」
「あ、のどか。おはよう」
「私もいるです」
「あ、夕映。いまな? 夕映を起こしに来たんやけど、聞こえてないみたいで起きへんのよ」
「それは当然です。私はすでに起きて部屋の外にいますから」
「何や起きとったんか。おはよう、夕映」
「……おはようございます」
木乃香の天然な返しにツッコミを入れようとした夕映であったが、寝起きであることや木乃香の笑顔に気力を抜かれたことでツッコミを放棄するのであった。
「そういえば、何で二人は此処におるん? 起きたなら、下に降りてくれば良かったのに」
「ああ、のどかとちょっと相談してたのですよ」
「相談?」
「持ってきた荷物についてです。流石に学校に持ち込むのは気が引けますから、駅のロッカー預けるか、一度寮に置いてくるかを相談してたです」
「ああ、そういえばそうやな。まだ、時間も早いし一旦寮に帰る?」
「ふぁ~、そんなの次泊まるときの為に置いとけばいいじゃない。洗濯ならしとくわよ?」
廊下で相談する木乃香たちに、部屋から出てきたタマモがあくびしながら声をかける。
「いや、流石にそれは……」
「そうですよ。私と夕映は枕も……」
「どうしたの? 口篭っちゃって。と言うか、廊下で何してんのよ?」
タマモが途中で口篭った二人に対し首を傾げる中、木乃香が普段通りの口調でタマモに話しかける。最も、よく見ると木乃香の口が少々引きつっていることが分かったであろうが。
「タマちゃん……。今、横島さんの部屋から……ああ、起こしに来たんか」
「そ、そうですよね! 横島さんを起こしに来ただけであって、決して同衾していたとかでは……ええ、昨日はきちんと自分の部屋に入っていましたし」
彼女たちが口篭った理由。それは、タマモが出てきた部屋が横島の部屋だったからであった。部屋から出てきたタマモがあくびをしていたことや、更には何故かタマモがパジャマの下を履いていないという事実もその一因である。
「ああ、横島を起こしに来たの? じゃ、さっさと起こしましょ? ほら、入って」
タマモの言葉に促されるまま部屋へと入る木乃香たち。
(ゆえゆえ~。横島さんが壁側に寄ってるのって、寝相じゃないよね……?)
(考えてはダメです、のどか。ここは寝相ということにしておきましょ)
部屋に入ってすぐに夕映とのどかが小声で話し出す。彼女たちは、ベッドで寝ている横島が不自然に壁側に寄っていることに気がついたのである。まるでもう一人そこにいたかのような、不自然なスペースに。
そんな二人のことを気にせず、タマモは横島へと近づいていく。そして、どこからか取り出したハリセンをゆっくりと振りかぶる。タマモは、そのまま横島のだらしない寝顔へとそれを振り下ろす。
「お・き・ろー!」
「なんとー!?」
タマモから漏れる殺気でも感じたのか、身を起こすことでハリセンを回避する横島。その一連の流れを見ていた木乃香たちは、あまりにも乱暴な起こし方に驚いているのか声も出ないようである。
「ったく、その起こし方はやめろって言ってんだろうが」
「あら、今日は見物人がいるからハリセンで勘弁してあげたのよ? いつもに比べたら大分マシじゃない」
「確かに普段よりはマシだが、ハリセンならいいって訳じゃないからな?」
余談ではあるが、普段タマモが横島を起こすときは狐火を使っている。小竜姫の場合は、その時々ではあるが神剣や、霊力を込めた拳または出力を抑えた霊波砲などを使って起こしている。これらは、無防備な状態でも敵意に瞬時に反応出来るようにする特訓として、小竜姫により提案されたものである。
更に余談ではあるが、彼女らはそうやって横島を起こす前に、本当に寝ているかどうかを確認する為に布団に潜りこんだり、頬をつついたりと色々悪戯をしていたりする。
そして、今日のタマモの悪戯は横島のパジャマのボタンを外し、
しかし、タマモはこの悪戯を完遂出来なかった。横島の布団に入ったところで、部屋の外で話す木乃香たちに気づいた為である。最も、添い寝が出来なかっただけであり、横島のパジャマのボタンは全て外されていたのだが。
そんなタマモの悪戯に気づいていない横島は、何故か固まっている夕映とのどか、頬に手をあて顔を横に振っている木乃香へと声をかける。
「三人とも起こしに来てくれたのか。ありがとな。それと、おはよう」
「私には挨拶なし? それと、アンタ前を留めなさい。具体的には、のどかたちがその貧相な肉体に悲鳴をあげる前に」
その言葉に、横島が顔を下に向けると上体を起こしたことで、胸元から腹筋あたりまでが露になっていた。幸い、朝の生理現象はめくれた布団がいい具合に誤魔化してくれている。
「おお、いつの間に。しっかし、筋肉つかねぇな~」
そう言いながら、ボタンを留めていく横島。本人は、筋肉がつかないことを気にしているが、横島の肉体には余分な脂肪は一切なく、かなり引き締まった肉体である。それは、初心な女子中学生たちに、男の色気を感じさせるには十分であった。
その後、上の空のまま朝食を終え横島に見送られて登校したのどかと夕映が、完全に再起動を果たしたのは、学校についてからであった。
「ハッ!? いつの間に学校に?」
「いつの間にって……ウチらと一緒に登校したやん? 竜姫さんが作った朝食も普通に食べてたし、夕映なんておかわりまでしとったで?」
「……おかわり? いえ、そんな筈は。私は確か、横島さんの部屋で……」
「ああ、そういえばそのあたりから、二人とも上の空だったわね。木乃香はそうでもなかったけど」
因みに、木乃香が正気に戻ったのは横島の部屋を出てすぐである。
木乃香と夕映たちの間で、正気に戻るまでの時間に差があるのは、夕映とのどかの二人が横島の肉体に見惚れたのに加え、横島とタマモがナニをしたのではと邪推したことに関係があることは言うまでもないことであろう。
この日、夕映とのどかはこのことでタマモにからかわれ続けるのであった。
「じゃ、行ってくるな。夕飯前には帰れると思うが……」
お泊まり会の翌日。最寄りの駅へと向かいながら話す横島たちの姿があった。まだ、登校には早い時間ではあったが、京都へ向かう横島の見送りも兼ねて一緒に駅へ向かっているのである。
「夕飯前に帰れない場合は、連絡してください。それと、くれぐれも問題は起こさないように。ナンパもそうですが、京都では不用意に“力”を使わないようにしてくださいね?」
「分かってるって」
「ナンパについては言うだけ無駄よ、竜姫。まぁ、京都でナンパしても、こっちに影響はないからいいじゃない。でも、本当に“力”については気をつけなさいよ。陰陽師は、すぐ呪いをかけてくるから」
横島に対し、ナンパもそうだが、力――霊力――を使わないようにと言い聞かせる小竜姫とタマモ。特に、タマモは前世で陰陽師に追われた経験があるだけに、陰陽師に対していい印象がないらしく、不用意に霊力を使用し、目をつけられることがないようにと強く念を押している。
「心配しすぎだって。いざとなれば、文珠があるし」
二人の心配を軽く流す横島。そんな横島の様子に、これ以上言っても無駄だろうと二人はため息を吐くのであった。
その後、駅に着くとタマモたちと別れ、横島は東京方面行きの電車に乗り込むのであった。
麻帆良を出発してから数時間後。横島は指定された茶店で、相手が来るのを静かに待っていた。
「え~と、ここでいいんだよな。しかし、京都は美人が多いな。さっきの店員さんも美人やったし。仕事じゃなけりゃ、ナンパしたんだがなぁ。さっさと終わらせて、ナンパに繰り出したいもんだ」
ブツブツと独り言を呟く横島の前に、一人の男性が声をかける。
「相席してもいいかな? 窓が近い席は落ち着かなくてね」
「横の席じゃダメなんですか? まぁ、ただ相席するだけだし、構いませんが」
「それは助かるよ。この席、去年の春からのお気に入りなんだよ」
そう言うと、男は横島の前の席に座り、紙を取り出すとテーブルの中央に置く。横島も、同じく紙を取り出すと、先に男が置いた紙に重ねる。
その瞬間、二つの紙から認識阻害の術式が発生する。そして、初めて二人は視線を合わせて言葉を交わすのであった。
「初めまして。横島忠夫です」
「初めまして。木乃香の父。近衛詠春です」
「「よろしくお願いします」」
最近、仕事が暇なときと修羅場が交互にやってきます。そんな日々だと、モチベーション上がりませんよね。はい、言い訳です。更新遅くて申し訳ないです。
連載も一年すぎていたので、その内またアンケかリクエストをとると思います。その時は、宜しくお願いします。
ようやく、横島くんは京都入り。まぁ、すぐ(二話くらい?)麻帆良に帰るのですが。
タマモの陰陽師に対する感情。分割符。
これらは拙作内設定です。
ご意見、ご感想お待ちしております。
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