「こっちや~」
時間はタマモたちが横島を見送った直後まで遡る。横島を見送った後、木乃香と夕映の二人と合流していた。
「さて、ここからは先回りするわよ。のどかは何時ごろ寮を出たの?」
「大分早く出ましたからね。あの時間だと待ち合わせの三十分前には着いてるです」
「ちょい早いけど落ち着きなかったし、あのまま寮に居るよりかは良かったとは思うで?」
「それは……横島さんをもう少し早く出させれば良かったですかね?」
喋りながら横島たちが待ち合わせをしている場所へ向かうタマモたち。彼女たちはこれからのどかと横島のデートを
横島とのどかが合流したのを見守った四人は、商店街を歩く二人を尾行していた。
「ここに来て間もないというのに、横島さんに慣れているというか」
「凄いな~」
横島に対する街の人々の対応に驚く木乃香と夕映。これも横島の特性だと理解している小竜姫とタマモの二人は、途切れることなく会話を続けているのどかの様子に思った以上の危機感を覚えていた。
「ちょっと、これは……」
「ええ……」
それは、噴水公園で横島に駆け寄るのどかを見て確信へと変わる。
「まずいわよね?」
「そうですね。嵌りかけ……でしょうか。経験があるので分かります」
次に二人が危機感を覚えたのは、図書館島が見える高台で赤面するのどかに尚も言葉を紡ごうとしている横島に向かって夕映が紙パックを投げたときである。
「ああん、いいとこやったのに何で邪魔したん?」
「いや、放っておくとのどかが爆発しそうでしたので。それより、先ほどからお二人とも様子が可笑しいですがどうかしましたか?」
「え、いや、何でもないわよ?」
「そ、そうですよ?」
何故疑問系と思いながらも、夕映はそれ以上問い掛けることはしない。それよりも気になったことがあるからである。
「ならいいですが。それより、横島さんの用事とは何なのですか?」
「そや、それも気になっとったんよ。今日は大停電やから、大抵のお仕事は早上がりなのに、何で横島さんが仕事に行くん?」
この質問は予想出来ていた為、当初の打ち合わせ通り警備の仕事との台詞を二人に告げるタマモ。
「ならタマモさんたちはあの事務所に二人きりなのですか?」
「そうよ」
実際はタマモたちも警備に出る予定の為、よこっちには誰もいないのだがそれを言う訳にはいかない為肯定する。
「ちゃんと準備はしたん? ろうそくとか」
「そこは大丈夫です。自家用発電機がありますので。四時間くらいなら問題なく動きます」
「それはええな~」
「確かに。私たちの寮にはありませんからね。規模が大きいのに何故でしょうか? それさえあれば、ろうそくの明かりで読書をせずに済むというのに」
「さぁ? 大型になると維持費とか大変になるからじゃない?」
夕映の疑問にどうでも良さそうに答えるタマモ。事実彼女にとって、そんな疑問よりのどかの様子を伺う方が大事なのだから仕方ない。
だから、次の木乃香の言葉に適当に相槌をうってしまったのも仕方がないことなのである。
「じゃ、うちらお泊りしてええ」
「ええ、いいわよ」
「ちょ、タマモちゃん!」
「え?」
「やったー! 丁度、見逃した映画のレンタルが始まってるんよ。皆で見よな? あ、明日菜も呼んでええ?」
手で額を抑える小竜姫に、歓喜する木乃香。それを見たタマモは自分がやらかしたことを悟るのであった。
取りあえず、問題を先送りにしたタマモはのどかと横島の二人を追い抜き図書館島の内部へと来ていた。
「はぁー、凄い量の本ねー。これだけあるのに、地下にもあるってんだから、どれだけ集めれば満足するのかしらね。人間って本当に謎よね」
「そうですねー。人間の欲深さの一端を見た気がします」
「お二人も人間ですよ」
タマモと小竜姫の言葉に突っ込む夕映。夕映やのどかほど本好きではない木乃香が、二人の言葉に同意するところもあるなぁと思っていると、入り口にのどかたちの姿を見つける。幸い、身を隠す場所が多く、それなりに利用者もいるのですぐに見つかることはなさそうだが、ここに立ったままでは何れ見つかるのには変わりない。木乃香に促されて、タマモたちは身を隠すのであった。
横島たちが本を借りにカウンターに向かっている間に、タマモたちは図書館島を後にし合流地点である駅前広場にやって来ていた。
予想以上に楽しそうだったのどかの様子に、木乃香と夕映はナイスな企画だったと考えているようだが、タマモと小竜姫の二人はライバルを増やしただけなのではと後悔していた。
「のどかは本を選ぶのに夢中だったんでしょうけど、横島に触れていたわよね?」
「そうですね。本棚を移動するときとか手を引いてましたから」
「次の約束もしてたんだけど」
「タマモちゃんほど聴覚は優れていませんが、私にも聞こえました」
力なく危機感を覚えた箇所をあげていく二人。二人の中では、のどかは既に手遅れだと認定されていた。
「あの笑みはダメよね。本人は無自覚だろうけど、相当気を許してるわよ。匂いも安らいでいたし」
「現状、自覚しても気になる人程度でしょうけど……横島さんですからねぇ。気になりだしたら、一気に引きずり込まれて手遅れになりますよ。経験者は語るって奴です」
一応、現時点で対処する方法は存在している。それはこれ以上横島とのどかを接触させないという方法である。しかし、それはするのは流石に戸惑われる。結局、のどかは自覚しても内気で奥手だろうということ、幼い容姿で横島の対象外だろうから大丈夫だろうと前向きに考え始める二人であった。
その後、横島たちと合流した四人は、木乃香のお泊り発言を認めた横島により、女子寮経由でよこっちへと向かうことになる。その際、木乃香の提案でメンバーに加わった明日菜は、木乃香に急かされるまま泊りの用意を進め、半ば強引に連れさられることになり怒っていたが。
そんな彼女を宥めながら、彼女たちは二度目(明日菜は初めて)のよこっちでのお泊りが始まるのであった。
――その頃、横島くん――
「のぉおおおおおおーーー」
数多の怪物に追っかけられる横島。彼は高畑と一緒に大停電に備えて待機していたのだが、シフトに入っていないにも関わらず見回りに出た魔法生徒の対応に高畑が抜けたところで無数の光とともに召喚が行われたのである。
事前に配られた無線は、他の箇所でも同様のことがあったとの通達があった後沈黙している。どうやら、妨害電波も発生しているようである。
「一人でどうにかしろってのかー!!」
『悪いのぉ、兄ちゃん。ワシらも陽動しろっ言われとるんで、派手にやらせてもらうわ』
「あのー、陽動でしたら私めはここでおとなしくしてますので、見逃しては……?」
下手に出る横島に、怪物たちは考える素振りをするが、やがてないないと手を横に振る。
「やっぱりかー! くっそー、一体一体は大したことないけど数が多いってーの! 文珠で『爆』を使おうにも、目立つし木に火がつくし……取りあえずっ!」
怪物たちに追いつかれそうになった横島は、一瞬振り向くと両手に霊力を纏わせて叩きつける。瞬間、強烈な光が霊波と共に辺りを照らす。“サイキック猫だまし”横島がそう呼ぶ技である。
「よーし、今のうちに身を隠して……って、減ってる? ま、減る分にはいいか」
そう呟くと横島は木の陰に身を隠し、サイキックソーサーで静かに一体ずつ倒していくのであった。
のどかデートの裏側とお泊り前まで。あと、横島君のお話でした。
次回はお泊り編とその頃横島の続きです。
図書館島関連。
これらは作中設定です。
ご意見、ご感想お待ちしております。
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