道化と往く珍道中   作:雪夏

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15万UA突破記念短編集。時系列無視。本編で膨らます可能性もあります。
また、文量にばらつきがあります。ご了承ください。
程度の差はあれネタバレを含みます。話によっては結構なネタバレがあります。


以下、簡易的内容
千雨@ハロウィン
のどか@お化け屋敷
夕映@探索
あやか@海水浴

一言: ありがたいことです。次は20万UAですかね。


記念小説 横島くんと彼女たち その3

 

 

 

 

衣装合わせ(千雨@ハロウィン)

 

 

 

 

 

「何で私までこんなことを……」

 

「まぁまぁ、いいじゃないか。似合ってるぞ?」

 

「お世辞はいいって……。大体、この格好に似合うも何もないって」

 

 不平を漏らす少女とそれを宥める男性。彼らの格好は、少女がトンガリ帽子に黒いマントを羽織り、手に箒をもった所謂魔女の仮装であり、男性は同じく黒いマントを羽織っておりお揃いに見えるが、口元に見える牙から分かるように吸血鬼の仮装である。

 彼ら――千雨と横島――は“よこっち”で開催されるハロウィンパーティーの為の衣装合わせをしている所であり、向かい合って相手の格好を確認していた。

 

「本当に似合ってるんだけどな? 特にミニスカ姿とそこから伸びる足がBeautifulだ!」

 

「何処見てんだよ!! しかも、やけに発音いいし。大体似合ってるってんなら、横島さんの方だっての。前世が吸血鬼だったんじゃねぇの?」

 

「う~ん、前世は陰陽師だったから違うぞ? まぁ、吸血鬼にされたことはあったけど、こういう如何にもな格好は初めてだな」

 

「うわ、あんのかよ。……ああ、マクダウェルにされたのか?」

 

「いや、別の奴。あの頃は霊力に目覚めてなくてなー、抵抗する間もなくやられちまったよ」

 

 過去を思い出しながら語る横島。実は用を足している途中だったので、抵抗できなかったのは永遠の秘密である。

 

「しっかし、千雨ちゃんは本当に裁縫上手だよな。自前で衣装を用意できるなんて。ここの刺繍とかも凄いし」

 

 横島が指差したのは、マントの襟元に施された刺繍。見たことがない紋様であるが、何処かの貴族の紋章と言われても不思議ではない凝ったものである。

 

「私はほとんど何もしてないぞ? その刺繍だってマクダウェルが刺繍した奴だしな。それに大半は既製品に少し手を入れただけしな」

 

「そうなの? それにしても、エヴァちゃんがねぇ。興味ないって言ってたのになぁ」

 

「そうなのか? それ作るときはかなり注文つけてきたぞ? 横島さんの仮装を吸血鬼に決めたのもそうだし、デザインしたのもほとんどマクダウェルだからな。何度やり直しさせられたことか」

 

「へー。そりゃ千雨ちゃんは災難だったな。エヴァちゃんこだわる所はこだわるタイプだし。自分の衣装の用意もあるのに、頼んで悪かったな」

 

「いや、私もやり甲斐あったし。それに、一度引き受けたからには完璧を目指さないと。……それに横島さんの衣装だしな」

 

「何か言った?」

 

「な、なんでもねぇーよ! それより、動くなよ?」

 

 横島に動かないように告げると、千雨は箒を壁に立てかけ横島の目の前まで歩み寄る。思わず動こうとする横島に再度釘をさすと、両手を横島の首の後ろにまわす千雨。その体勢は、千雨がキスを迫ろうとしているようにも見えた。

 横島が迫る千雨に釘付けになり、その背中に手を回そうか葛藤していると千雨が離れる。そのことに若干後悔している横島の耳に、千雨の言葉が聞こえてくる。

 

「よしっと。あのな、横島さん。この衣装は首周りをきちんと立てることが大事なんだ。特に後ろの方は気をつけないと、今みたいに折れちまうからな。着るときにこうピンっとなるようにだな……って、どうした?」

 

「……いや、何でもない。気をつけるよ」

 

「そうか? ならいいけど。ま、そういうことだから本番のときも気をつけてくれよ」

 

「ああ」

 

 先程まで、自分がどれほど大胆なことをしていたのか気づいていない千雨は、その後も無防備に密着しては横島を挙動不審に陥れるのであった。

 

 ――ちっくしょー!! 誘ってんのかー!! でも、此処で手を出す訳には……ちっくしょー!!

 

 ――横島さんの意気地なし!

 

 

 

 

 

怖くても(のどか@お化け屋敷)

 

 

 

 

 

「うぅ……絶対に離さないでくださいね」

 

「分かってるって。大体、本物にもあったことあるってのに何を怖がる必要が……」

 

「それとこれとは別なんです~。こういうのは人間の心理を綿密に計算してあって、最も恐怖を感じるようになってるって、ゆえゆえがぁ~。それを思い出したら急に~」

 

「そんなことまで知ってるのか夕映ちゃん。まぁ、オレも関わったことあるから知ってんだけど、確かにこう言うとこは結構考えてあるからなぁ」

 

 何処か懐かしむように語る横島と、彼の手を握り締め震えるのどかの二人。彼らが歩いているのは、所々に転がる生活用品が不気味な廃墟――ではなく、それを模した所謂お化け屋敷と呼ばれる施設である。

 彼らは麻帆良から然程遠くない距離にあるテーマパークに数人で遊びに来ており、くじで二人組を作り順番に入っているのである。横島と一緒という栄冠を勝ち取ったのどかであったが、喜びに満ちていた顔も中に入って数メートルの地点で恐怖へと変貌していた。

 

「うう……トラップとかなら問題ないのに」

 

「それはそれでどうかと思うけどなー。ほら、危険はない訳だし先へ行こう? な?」

 

「そうですけどー。うう、怖いよう……何であの時私もって言っちゃたんだろう」

 

 横島に手を引かれ進むのどか。彼女は、二人きりでお化け屋敷という遊園地デートの定番シチュエーションに誘われ、くじ引きに参加したことを心から後悔していた。遊びに行くことが決まったときから、ホラー系は避けようと決めていたというのに。これも全て横島のせいだとか、後でいっぱい甘えようなどと、恐怖から逃れようとそのようなことを考えるのどかであった。

 

 彼女は気づかない。考え込んでいる間に、既に半分ほど進んでいることを。繋いだ手と反対側の横島の手の中で光る文珠に。

 

(気を『紛』らわす作戦うまくいったな。しかし、入る時は笑顔だったから平気かと思ったんだけどなぁ。夕映ちゃんが余計なこと教えるから)

 

 夕映が知ったら怒られるようなことを考えながら横島は、のどかの手を引きながら進む。途中様々な仕掛けが二人の前に現れるが、横島にとっては驚く程のものではなく、のどかも文珠の効果で違うことに気を取られている為気づかない。

 そのまま出口まで向かうのかと思われたが、のどかがブツブツと呟いている言葉に興味を持った横島が声をかけたことで、それが為されることはなかった。

 

「……あ~んってしてもらう? いや、私がした方が……」

 

「のどかちゃん?」

 

「はい? あ、横島さん。あ~んはする方がいいです!!」

 

「うん? そりゃしてくれるなら大歓迎だけどさ」

 

「じゃあ、今度して差し上げますね?」

 

「おう、頼むな……って、その前にここから出ないとな」

 

「出る? ……あ、あのここって」

 

「うむ。まだお化け屋敷の中だ」

 

 ――あ~んが、あ~んで……。

 

 ――ちょ、のどかちゃん!? 気失わんといてー!!

 

 

 

 

 

求めるものは(夕映@探索)

 

 

 

 

 

「ここは超神水や塩水と言った水ベースのドリンクが置いてあるです。あとはコンビニにあるお水も売ってるです」

 

「へー。水専門の自販機か。超神水は分からんが、塩水は緊急時とかには良さそうだな……飲むのは勘弁だが」

 

「それは主に調理用ですね。飲めないことはないですが、他にもっと塩分控えめなライトなどもあるです。飲むのでしたらそちらを」

 

「いや、いいよ。それで、ここは何を買うんだ?」

 

「ここはいいです。私の目的はここより西のエリアですから。まだ行ったことがなかったので、どんなドリンクが待っているのか楽しみです」

 

 自販機の前で話をしているのは、横島と夕映の二人。横島は何故かリュックを背負っており、夕映は手ぶらである。

 

「しかし、本当に良いのですか? こう見えて体力はそこそこあるんで、自分が求めたものくらい持ちますが」

 

「気にしなくていいって。結構な量あるし、元々今日はそういう約束だろ?」

 

「それはそうなのですが……。お礼と言ってはなんですが、こちらをどうぞ」

 

 夕映が差し出したのは、先程まで夕映が飲んでいたジュース。その名も抹茶コーラ。

 差し出された横島は、顔を引きつらせながらも礼を言い、ストローに口をつけると一口飲む。

 

「……うん、不思議な味わいだね。うん、残りは夕映ちゃんが飲みなよ」

 

 味の感想を言った横島は、複雑な顔でジュースを夕映に返す。せっかく勧めたジュースを返却された夕映は、特に不機嫌になることもなく受け取ると再びストローを咥える。

 その顔は薄らと赤く染まっているのだが、横島は口の中に拡がる味に気をとられていた為、気づくことはなかった。

 

(間接キス……。これはちょっと嬉しいですね。心なしか美味しさが増した気がします。……少々変態チックな気がしないでもないですが)

 

 少々考え込んでいた夕映であったが、すぐに本日の目的を思い出し、未だジュースの味と戦う横島に話しかける。

 

「横島さんへのお礼は後で考えることにするです。横島さんも、何がいいか考えておいて欲しいです」

 

「オレは何でもいいんだがなー。ま、何か考えておくよ」

 

「お願いするです。それでは、行きましょうか」

 

 

 ――未知なる神秘を求めに!!

 

 ――え!? ジュースだよね!?

 

 

 

 

 

楽しいスイカ割り(あやか@海水浴)

 

 

 

 

 

「さて、質問なんだが……」

 

「何でしょう?」

 

「何故、私めは砂に埋められているのでしょうか?」

 

「ふふ、ご自分では何故だと思われますか?」

 

 問答を行う男女。男――横島は頭以外を砂に埋められており、女――あやかは横島からは見えない位置で椅子に腰掛けている。因みに、横島は縦に埋まっていることを明記しておく。

 彼らは、雪広家が所有する島にタマモたち事務所の面々と、何処からか聞きつけたクラスメイトたちと海水浴に来ていた。勿論、横島も最初から埋められていたわけではない。水着姿の少女たちと戯れ、楽しく過ごしていたのである。

 

 

 ある言葉を口にするまでは。

 

 

「横島さんが悪いのですわ。数多くの美少女に囲まれているというのに、“これでもっと大人のお姉さんがいれば……”などと仰ったそうではないですか。そんなことを言われれば、皆さん怒るに決まっているでしょう?」

 

「そ、そうは言ってもだな。ここに居るのは、中学生ばかりじゃないか。確かに、あやかちゃんや千鶴ちゃんのように、大人顔負けのスタイルの娘はいる。でも、君たちは大人じゃない。いくら、大人びていたとしてもだ」

 

「まあ、そうですわね。私たちが大人びていることと、大人であることはイコールではありません。しかし、私たちも女です。一緒にいる男性に、他の女がいいと言われれば怒るに決まっているでしょう? だから、これはお仕置きなんですわ。皆さんの気が済むまで、そこに埋まっておいてくださいな」

 

 横島に視線を向けることなく、作業をしながら告げるあやか。横島の死角にいる為、横島にはその作業の内容はうかがい知れない。

 あやかが用意しているのは、海水浴の定番、スイカ割りである。あやかは用意したスイカの中から一つを手に取ると、ゆっくりと横島へと近づいていく。

今の横島は首を自由に動かすことも出来ない為、あやかが近づいてきているのは分かるが、そこまでである。彼女がスイカを自分の頭の後ろに置いているなど、横島には知る方法がなかった。

 

そのようなことになっているとは、夢にも思っていない横島は、あやかに質問をする。

 

「あー、あやかちゃんはさっきから何やってんの? 何かを置いたり持ち上げたりしてるのは、何となくわかるんだけど。皆のとこに行って遊ばないの?」

 

「ええ、私には準備がありますし。それに、横島さんとお話するのも十分に楽しいですから」

 

「そ、そうか? で、準備って何やってんの?」

 

「スイカ割りの準備ですわ。そうですね……やはり、ここに置くことにしましょうか」

 

「え……?」

 

 横島が言葉を詰まらせる。何故なら、あやかの言葉と一緒にある物が視界に入ったからである。

 それは、紛れもなくスイカであった。横島の顔の横に、それは置かれたのである。そのことに、嫌な予感がしながらも横島は問いかける。

 

「あ、あのー。これは何でしょう? スイカのように見えるんですけど」

 

「ええ、スイカですわ。最高級の物を用意させましたの」

 

「そうですか……。それが何で私めの横に置かれているのでしょうか?」

 

「スイカ割りの為ですわ。先程もそう言ったではないですか」

 

「そ、そうですよねー。これ、間違えたらオレの頭が……」

 

「割れますわね」

 

「ですよねー。……助けてー!!」

 

 理解したくもない事態を理解した横島は、必死に助けを呼ぶ。その叫びに何人かは横島たちを見るが、あやかが口元で立てた人差し指を見ると、興味を失くしたかのように再び遊び始める。

 その様子を見た横島は、助けは望めないと気づくと自力で脱出しようと試みる。

 

「くっそー、こうなったら文珠で……」

 

「あら、ダメですわよ? 文珠なんて使ったら。それに心配せずとも、このままスイカ割りはしませんから」

 

「ホ、ホンマやろな? 嘘やったら、泣くで?」

 

「ええ。こんなとこで割ったら、砂の上に中身が飛び散ってしまいますもの」

 

「……スイカのことですよね? ね?」

 

 怯えた様子で聞いてくる横島に、あやかは笑うだけで答えない。そのことに恐怖を覚えた横島は、必死に許しを請うのであった。

 

(アナタの為に新調した水着ですのに、褒めてくださらなかったバツですわ。これくらいの悪戯くらい、いいですわよね? それに、泣いてる横島さんって可愛いんですもの。もう少し見ても……)

 

 ――シートを用意しますから、それまでお待ちくださいね? 皆さんも、それまでは割らないように

 

 ――スイカのことだよな!? 頭ちゃうよな!?

 

 

 

 

 




皆様のおかげで15万UAを突破しました。ありがとうございます。
時系列は内緒ですが何時かはこう言う関係になっていく……“かも”と思って頂ければ。ええ。“かも”です。

今回は然程甘くなりませんでしたし、投稿が遅くなってしまいました。申し訳ありません。
次は本編更新予定ですが、いつ頃お届け出来るかは未定です。

以下、各話あとがき。

千雨:頂いたお題はコスプレデートでしたが、横島はネギのように嫌がっている所を強引にっていうイメージがない為、ハロウィンイベント絡みにしてみました。しかも、デートしてないし。きっと、パーティーで横島は千雨の衣装を周囲に自慢して、恥ずかしがった千雨に怒られることでしょう。

のどか:お化け屋敷なのに、お化けが活躍しないお話。のどかのドキドキは恐怖と妄想から。最後は許容範囲をこえて気絶。この後はお姫様抱っこで脱出、膝枕、あ~んと辿ったのは別の話。

夕映:謎ドリンク探索中のひとコマ。思春期の時は気になる間接キス。高校生以上になるとそんなこと気にしない人がほとんどなので、これもまたネギまならではと言えるのではないでしょうか。この後、彼らがジュースを発見出来たのかはご想像にお任せします。

あやか:海水浴中のひとコマ。ある意味定番のネタ。横島は二つの意味でドキドキ感が、半端なかったのではないでしょうか。この後、横島が砂から出たあとにスイカ割りは実行されました。

塩水に塩分濃度が違うバージョンがある。
これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
活動報告は気が向いたら更新しています。関連記事はタイトルに【道化】とついています。

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