真剣に私と貴方で恋をしよう!!   作:春夏秋冬 廻

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第98話投稿。


第98話 球技大会、ワン子大金星

  side 直江大和

 

状況はかなりヤバいと言っていい。

 

さっきの攻防で京もクリスもリタイヤになったのは正直予想外だ。

制限時間が2分だっただけにクリスと不死川の相打ちは頭の隅にはあったが、まさか京が井上にアウトにされ、さらに怪我まで負うとは思ってもいなかった。

 

おかげで予定がだいぶ狂ってしまったがいつまでも悔いていても仕方がない。思考を切り替えなければ負ける。

 

第4ラウンドの後攻で兄弟が攻撃に参加している以上、サイコロのどの目が出ようがF組からはワン子しか出られない。恐らくS組――葵の奴もそれに気付いているはずだから確実に次はワン子の強制退場(リタイヤ)を狙うはず。

 

なぜなら、S組が勝つには次の攻防でワン子を狙う以外にないからだ。

 

現時点で勝ち数はS組5勝、F組4勝。残り人数がS組4人、F組2人。そして次の攻防で兄弟が出る事が出来ない。だからこそ、もし次の攻防でワン子を退場に出来ればS組6勝で4人、F組4勝で1人の状況になり、いくら兄弟が負けないとしてもS組は4人もいるのだから第6ラウンドの2回の攻防をしのぐ事は出来るだろう。

 

結果S組の7勝、F組の5勝。第7ラウンド後攻でF組は『連続して攻撃に参加する事は出来ない』というルールから出場できる選手がいなくなり負けになる。

 

S組が勝つにはこれしかない。逆に勝敗を五分にして相手を退場させれば、後は第6ラウンドの2回の攻防で兄弟が何とかしてくれる。つまりF組が勝つには必ず次の攻防をワン子で勝たなければならないのだ。そうなると――

 

「次の攻防、S組からは誰が出てくると思う?」

 

「忍足あずみか榊原小雪……サイコロの目にもよるけどこの2人、あるいはどちらかだ」

 

兄弟の問いかけに今まさに考えた事を答える。

 

「理由は?」

 

「こっちがワン子しか出られない以上、感情的に九鬼は出てこないだろう。それと同じで井上は恐らく目立ちたくないはず。さっきの攻防で京をアウトにした時、隠れるように行動した事から見て取れる」

 

九鬼英雄がワン子に好意を持っているのは周知に事実だ。そういった感情を勝負事に持ち出すような人間ではないとは思うがあくまで球技大会は遊びの延長。なら九鬼は出てこないと思っていいだろう。

 

そして井上は言葉通り目立ちたくないから出てこないだろう。こっちがワン子1人しか出ないのだから嫌が応でも注目されるからな。

 

「なるほど、F組にとって最悪なのは相手、赤のサイコロの目が2以上になる事か。確かに2対1じゃカズには荷が重いな」

 

「まずは運任せか……キャップの強運がここで発揮されるとは思わないが、望んでいた通りの『逆転してこそ』っていう展開になったんだ。少しはいい流れになってもらいたいな」

 

そう、本当にここだけは運任せだ。兄弟が言うように防御側の人数を決める赤のサイコロが2以上になったら一巻の終わりだ。頼むから1になってくれよ。

 

「追い詰められたF組! 果して次の攻防で挽回は出来るのか? 運命の第5ラウンド後攻の賽が振られる!」

 

姉さんの実況のもと、ルー先生が3つのサイコロを放り投げた。青と黄色のサイコロはまずどうでもいい。お願いだから赤だけは1になってくれ。

 

結果、その思いは通じた。

 

「青6! 赤1! 黄6!」

 

「これはまたずいぶん偏った目が出たな。それにしてもここにきてようやくF組にも運が向いてきたということか?」

 

よし! 最悪の状況は避ける事が出来た。凛奈さんの言う通り運が向いてきたと思っていいだろう。だけど時間が少し長すぎる……というかこの場合時間の加算はどうなるんだ?

 

ルール上、『1回の攻防の参加人数はサイコロの目が4以上が出た場合は3人まで』というものだが、『サイコロの目の通りでなければならない』というルールはない。つまり3以下の目が出た場合は『サイコロの目以下の人数』だったらルール違反ではないという事。

 

だから今回、攻撃側は6の目が出たがワン子1人でも問題ないのだ。まあ兄弟の耳打ちで気付いたルールだったんだけどな。

 

だが時間の加算については少し分からない点がある。『4以上の目が出た場合、余りの数は攻防時間に足し引きする』というルール。それに沿うのなら6−1=5という事になり加算時間は5分。攻防時間は11分になる。これだと少し長すぎる気がしないでもない。

 

そんな事を思い悩んでいると学長の声がスピーカーから響いた。

 

「ここでちぃと補足説明するぞい。ここまでの経過とルールによりF組は今回の攻めは川神一子1人しか出られん。これに関しては問題ない。きちんとルール説明を聞いておれば違反でない事は分かるはずじゃ」

 

やっぱり思っていた通り。というか学長もあえてそこら辺は言葉にしなかったんだろう。ここまでは俺も葵も全部サイコロの目の通りにしてきたから、この言葉を聞いて驚いている生徒も結構いるな。

 

「さて、次に攻防時間の加算についてじゃが、ルールに沿うならサイコロの目6に対し参加人数1という事で加算時間は5分という事になるが、『参加人数3人まで』のルールから4以上の目が出た時は参加人数に関係なく3を引く」

 

なるほど、常に上限人数参加を仮定とする、というわけか。

 

「したがって、今回の攻防の時間は9分じゃ」

 

9分……それなら何とかなるか? S組が忍足さんと榊原さん、どっちを出してくるかによるが微妙なところか?

 

「ヤマ、S組はどっちが出てくるとお前は考えてる?」

 

「可能性が高いのは榊原さんだろうな。S組で兄弟と1番対等に近いのは忍足さんだ。後の事を考えるなら俺だったら温存する」

 

それに榊原さんはキャップを蹴り一発でリタイヤさせている。あのキャップを一撃で沈めているんだ、蹴りの威力は相当高いと見て間違いないだろう。

特に葵は彼女と付き合いが長い分その辺りをよく理解しているはず。分析は得意そうだし客観的に見てワン子に勝てると思っているはずだ。

 

「そうか、コユキの可能性が高いか……」

 

考え込みながら呟く兄弟。

 

そういえば兄弟と姉さん、そしてヒロは榊原さんと仲がいい。以前ちょっと聞いてみたのだが、どうやら俺たちが今の秘密基地を探しまわっている時に出会って何かしらの事件があったらしい。詳しい事は余り話してくれなかったが、その時の事で着かず離れずの友人関係にあるようだ。

 

「……あとはカズのポテンシャル次第だが9分ならいけるか……カズ!」

 

どうやら考えが纏まったようで、クラスの女子と話をしていたワン子を呼びよせ何やら念入りに言い聞かせている。

 

情けない話だが作戦立案以外だと兄弟に頼らざるを得ない。ここは兄弟がワン子に勝てる術を与えてくれると信じるしかない。実際勝てる策がなければF組の負けが確定してしまうのだ。

 

だから頼むぜ、ワン子!

 

  side out

 

 

  side 川神一子

 

『いいかカズ、時間が9分もあるんだ。まずは無闇やたらに攻撃せず見る事とよける事に集中しろ』

 

さっき言われたジン兄の言葉を頭の中で繰り返しつつ、ちらりと横を確認する。S組からはえっと確か榊原小雪だったかしら? あの不思議そうな雰囲気の子が出るみたい。

 

キャップを物凄い蹴りで退場させた子よね。う~ん、だからジン兄もよける事に専念しろって言ったのかしら? 確かに九鬼君のメイドさんが相手だと無理そうだけどこの子の攻撃なら何とかできるかな?

 

ダメダメ、疑っちゃダメ! ジン兄はアタシに出来るって信じてくれたからちゃんと助言してくれたんだもん! それを裏切っちゃダメよ!

 

「攻撃側F組は川神一子、防御側S組は榊原小雪の出場だ」

 

「分が悪いなF組は。言っては悪いが、地力は榊原の方が上だろうな」

 

ううぅ、本当の事とはいえ凛奈さんの言葉は厳しいわ。確かにあの蹴りの威力を見れば、アタシよりあの子の方が強いってのはお姉様や凛奈さんは見抜いているわよね。

 

えっと、とりあえずS組がこの(サークル)(ドッジ)(ボール)に勝つためにはこの攻防で確実にアタシを退場させなきゃいけない、ってジン兄は言ってたわね。だから絶対に戦闘になるから、アタシが勝つには返り討ちにしなきゃならないのよね。

 

始まる前にどうしなきゃいけないかをちゃんとおさらいしておかなきゃ。そう、勝負が始まったら『理性で考えるな本能で考えて感じろ』だもんね。

 

「では第5ラウンド後攻、始メ!」

 

ルー師範代がボールを投げ込む。ジン兄と大和の指示通りアタシは取りに行かない。アタシを倒す事が目的ならどっちが取ったとしても結局は同じだもん。

 

目を閉じ、1度だけ大きく深呼吸をしてから再び目を空ける。

 

すでにボールはあの子の手の中。このまま陣地に入らない限り戦いが始まるわ。でもこっちも準備万端。

 

さあ! かかってきなさい!

 

  side out

 

 

  side 川神百代

 

この攻防で勝たなきゃF組の競技の勝利は難しい。ルール的に出れられるのはワン子しかないないとはいえ、重要な役割を任されてしまったもんだな。

 

だがいい機会なのかもしれないな。ユッキーは蹴りだけの一点突破とはいえ相当上のクラスの武人だ。そのユッキー相手に今のワン子がどれだけの動きを見せるか、いずれ下すべき決断の判断材料にさせてもらおう。

 

「犬っ娘の動きに集中するのは構わんが、実況だってことを忘れるなよ戦っ娘。思う事もあるだろうがそれはお前たちの問題だ。こんなところで顔に出すな」

 

「分かっていますよ」

 

ホントにこの人は侮れない。話した事なんてないのにこちらの事情をあらかた理解しているんだろう。少しだけ咎めるような口調が雄弁に語っている。

 

何となしにジンの方に視線をやる。ジンも私の方を伺っていたのだろう、視線が合うとまるで安心させるかのように穏やかな笑みを浮かべていた。間違いなくあいつも私の心情を察してるな。

 

まったく……私の顔に出ているんじゃなくて2人が察し良すぎなんだよ。でもその通りだな。実況しつつ、勝負を楽しみつつ、ワン子を観察するとしよう。

 

お前の強さ見せてもらうぞ、ワン子。

 

  side out

 

 

  side 暁神

 

「さあ、投げ込まれたボールは守り側の榊原小雪がキャッチ。本来ならこの後は陣地に入ればS組の勝ちは決定になるのだが、果してどういった行動に出るのか?」

 

勝ち星を得るだけなら実況のモモの言葉通りだが、勝負に勝ちに行くなら間違いなくカズを退場させに来る。そして冬馬の性格上、取り得る作戦は――

 

「おお、手にしたボールを投げ捨てたな」

 

周囲の生徒たちのざわめきと同時に凛奈さんの呟きをマイクが拾う。

 

やはり思った通り、コユキはせっかく奪取したはずのボールを投げ捨てカズに向かって走り出した。それを迎え撃つカズも、全身の力を程良く抜きリラックスした状態でコユキを見ている。俺の言った事をちゃんと理解しているようだな。

 

そうだ。お前がお前自身の長所を理解しているのなら、決して才能ある者に引けを取る事はない。お前が積み重ねてきた時間は、絶対にお前を裏切る事はないからな。

 

「ちぇーい!」

 

間合いに入ったコユキの、その気の抜けた声とは裏腹な鋭さの蹴り上げがカズの顔面を襲う。その蹴りを慌てることなく半歩下がる事でやり過ごすカズ。

 

よけられた事に一瞬だけ驚いた表情を浮かべたコユキだったが、すぐにいつもの表情に戻ると腰を捻りよけられた蹴りの勢いを利用して脚を振り上げ踵落としへと繋げる。

勢い良く振り下ろされる踵に、カズは後ろに下がらずに半身になりコユキの体勢の死角、蹴り脚である右側へと滑り込むように移動する。

 

だがコユキもカズがどうよけるか分かっていたらしく、振り下ろした右足が地面に着くとほぼ同時に身体を捻り今度は左脚で回し蹴りを放つ。

 

恐らくはテコンドーだろうが技の繋ぎ目の動きに無駄がない。よく鍛錬されている証拠だな。蹴りだけならコユキは相当上のクラスの武人だろう。

 

一点突破。武術の世界においてただ1つの才能のみ特化した人は以外に多い。突き抜けたその才能が他の不足いている部分を補って余りある力を発揮するタイプの人間だ。

 

武道関係とは違うが分かり易い例をあげるとしたらキャップだ。あいつは人生の大半を『冒険』とか言って無茶をやらかしているのになんともなかったり、怪我はしても命にかかわる事はない。

それはあいつの生まれ持った強運が、行動を起こす事で降りかかる災難を退けているに他ならない。

 

コユキはそういったタイプのようだ。それに対してカズは……

 

はっきり言ってしまおう。カズに武術の才能はない。これは川神院で武を学ぶ者、全員の見識だ。カズ本人が夢と豪語している事、誰もが舌を巻くほどの努力をしている事、そしてまだそれに対する判断をモモが下していない事から誰も言葉にする事はないが、きっとカズには受け入れられない事実だろう。

 

確かに努力は凄い。その努力で武人として一定上の強さを手に入れたのだから。だが川神院の師範代は努力だけでどうにか出来るものじゃない。明確な才能があってこそ成し遂げられる役職だ。あれでいて意外と聡いところもあるカズの事だ、恐らくだが薄々気付き始めているのだろう。

 

でも今はその事実に目をそむけ、努力する事で不安を乗り越えようとしている感もあり、時々だが最大の長所である『努力する事を苦に思わない』事が痛ましく見える時もある。

 

出来る事なら手助けしてやりたいが、結局はカズ本人の問題だ。納得出来る『答』を手に入れられる事を祈っておこう。

 

「ワン子もやるな……あの猛攻を全部よけてるぜ」

 

「うん、攻撃はしてないけどよけるだけでも凄いよね。僕たちには絶対に無理だよ」

 

素人目にも程度は分からないが凄いという事は見て取れるようだな。確かに今までのカズを見てきたヤマたちなら、今のカズがどれだけ凄い事をこなしているかは理解出来るだろう。きっと救護テントでミヤたちも驚いているだろうな。

 

それにしても良く俺の言う事を聞いて見る事とよける事に専念している。攻撃するタイミングは俺が教えると言ってあるから、今は攻撃を考える必要がないのが功を奏しているんだろう。

 

実は攻撃の手段については教えていない。カズはその事に気付かなかったが、コユキの動きを見続けていれば、自ずと隙を見つけどう攻撃すればいいかを理解出来るからだ。

一連の動きに無駄がないとは言え、完全に隙をなくすには膨大の反復練習が必要だ。それこそ数千、数万、数十万回もの練習が。

 

まあそれを実践した人を知ってるから不可能じゃないのは確かんだけどな。

 

「よけるよける! ワン子がただひたすらによけ続けているぞー!」

 

「ふむ。よく見ているな。あれは考えてよけているというよりはほぼ直感に近い。見て、感じて、最適なよけ方を本能が感じ取っているんだろうな」

 

「我が愛しの妹よ! 頑張れ!」

 

「だから実況が贔屓するなと言っているだろ」

 

どうやらモモも調子を取り戻してきたみたいだな。

 

しかし少しだけ予想外、まさかカズがここまでやれるとは思っていなかった。確かに見る事とよける事に集中しろと言い聞かせたが、それでもギリギリだと思っていた。

だが実際始まってみるとカズはコユキの蹴りのその殆どを余裕を持ってかわしている。時々危ない時もあるが、ちゃんと攻撃の予備動作、起点、起動、軌跡を見抜いている何よりの証拠だ。

 

集中力の高さと目の良さは前から分かっていたが、思っていた以上の能力に少しだけカズの評価を改める必要がありそうだな。

 

と、そろそろ残り時間も1分を切る頃だな。終了の30秒前になったら合図をすると言ってあるからもうすぐだ。集中し過ぎて完全に外界を遮断しているような事になってくれてるなよ、カズ。

 

そしてどういう結果になるのか、少しだけ楽しみにさせてもらうぞ。

 

  side out

 

 

  side 川神一子

 

左下からの蹴り上げを上半身を右にわずかに傾けるだけでやり過ごし、切り返すような感じで戻された踵を半歩下がってかわす。捻じり込むような腰の入った左回し蹴りを今度はちゃんと一歩下がって間を空ける。

 

あ、もしかしてさっきの蹴りは左手で軌道を変えれば下がる必要なかったかも。

 

それから気付いたんだけどこの子、キャップをやっつけた時は下段のローキックだったけど殆どが上段から中段の蹴りだ。

下段が得意じゃない? ううん、それだったらキャップが一撃でやられるわけないわ。なら下段は余り使わないルールの蹴りの武道? って事は恐らくテコンドーよね。

 

「う~、そろそろやられてよ~」

 

「うわっ!?」

 

そんな事を考えていたら、まさにそのローキックが迫って来ていた事に気付いて慌ててよける。危ない危ない。ちょっと考え過ぎていたわ。

 

集中集中! いろいろ考える事はとにかく後回しよ! 見る事とよける事に専念して、ジン兄の合図を待つのよ!

 

意識を目の前の子に集中させ、目と耳以外の情報を出来る限り切り捨てる。予備動作から起点、初動の起動から予測できる蹴りの軌跡を読み取る事だけを感じ取る。

 

左脚が膝を起点に少しだけ上がるのを見てローキックが来ると予測。狙われる右脚を下げかわした後、蹴り脚が持ち上がり身体の中心線に寄る。

 

前蹴り!

 

左半身になり鳩尾を狙ってきた前蹴りをやり過ごし、すぐに後ろに下がり間合いを空ける。直後に刈るような左の回し蹴りが横切った。

 

でも安心は出来ない。足が地面に着いたと同時に唸るような風切音に咄嗟に頭を下げる。頭上を多分だけど右回し蹴りが通過している。それを感じながら自分のよけ方が拙いのに気付いた。

 

「ッセィ!」

 

ありったけの力を振り絞って上半身を持ち上げ三歩ぐらい下がる。さっきまで頭があった位置を勢いの乗った左後ろ回し蹴りが通過していた。

 

危ない! やっぱり頭を下げてよけるのは拙いわ! 咄嗟の動きでもこれだけはしないようにしなくちゃいけないわね!

 

でも分かった。この子、相手を仕留めようとする時、殆どが上段でしかも頭を狙った蹴りが多い。連続蹴りの繋ぎもあんまり隙がないけど、狙った時だけ溜めを作るからなんだろうけど一瞬だけ動きが止まるわ。

 

そこを狙えばアタシでも何とかなるかもしれない。でもどうやって? 方法は何となく分かるけど果して今のアタシの実力で無傷で終わる事は――

 

「カズ!」

 

ジン兄の声!? もう残り時間30秒を切ったの!?

 

相手を見るとアタシのほんの少しの動揺を見て取ったらしく、腰を落とし力を溜め、仕留めるための蹴りの予備動作に移っている。

 

時間がない! やるしかないわ! そうよ! ここでのアタシの役目はこの子をリタイヤさせる事! 後ろにはジン兄がいる! アタシが無駄に考える必要はないわ! それに相打ちになってもこの終了の合図までは何がなんであろうと立ち続けてやるわ!

 

迫り来る蹴りに対し一歩踏み込む。間合いはアタシの方が短いから踏み込むしかない。同時に間違いなく顔面に来るだろう右上段蹴りを受け止めるため、顔の横で両腕を合わせて防御の体勢に入る。

 

直後、とんでもない衝撃が両腕を襲った。さらにその衝撃は防いだはずなのに両腕を透して頭にまで響いてきた。

 

痛ったー! でも痛がっている暇なんかないわ!

 

蹴りを受け止めると同時に左足で地面を強く踏み、足首、膝、腰の順に捻り込み、右脚でローキックを放つ! 狙いは軸足の左! さらには膝裏!

 

   バシィィン!!

 

不思議な感覚がアタシの身体を突き抜けた。

 

どう表現したらいいんだろう。なんて言うか、緩んでいたい紐が一気に引き伸ばされた感じ? なんかそんな感じで一本芯の通った何かがアタシの身体を通って行った感じだった。

 

「榊原ダウン! 試合続行不可能! よってF組の勝ち!」

 

その不思議な感覚の正体を確かめたくて両手を閉じたり開いたりしていたら、ルー師範代の勝ち名乗りが聞こえてきた。

 

「ええっ!? アタシの勝ち――――痛いぃぃぃ!?」

 

思い出したかのように襲ってきた激痛に、喜びたかったんだけど結局は痛みに耐えきれずにその場で悶えるアタシだった。

 

せっかく勝ったのにしまらないなぁ……ホントに……




あとがき~!

「第98話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。今回のお相手は――」

「暁神です」

「さて今回のお話ですが――」

「終わらなかったな」

「……終わりませんでしたね」

「相変わらず話数調整が下手というか見通しが甘いというか……」

「だからそ辺のツッコミはしないでよ。見通しの甘さは以前から言われ続けてるんだから」

「どうにかしようとは思わないのか?」

「いや、書くとどんどん書きたい事が増えてね。いつの間にかこうなっちゃうんだよ」

「いいのか悪いのか分からんぞ……それよりのカズは原作通りにいくのか? それともやっぱり変えるのか?」

「原作より確かにほんの少し強くしてるからね。まあそこら辺はお楽しみって事で」

「なにも考えてないから先送りしてるだけじゃないだろうな?」

「さてね。では今回はこの辺まで。そうそう、活動報告にちょっとした質問を載せています。もしよろしければお答え頂ければと思います」

「本編がちょっと長かったからあとがきが短めだな」

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