真剣に私と貴方で恋をしよう!!   作:春夏秋冬 廻

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第15話投稿。

初期メンバーやっと集合です。


第15話 孤独な心、新たな仲間

――2003年 6月6日 金曜日 PM4:30――

 

原っぱ、秘密基地。

 

俺、キャップ、ワン子、ガクト、モロ、ヒロ、姉さん、兄弟。

 

全員が俺の召集で集まり、昨日の朝に起こった事件の顛末を聞いていた。

俺が一緒に連れてきた椎名京は、遠くでこっちを不安そうに見ている。

 

「――以上が、今回の事件についての経過と昨日の出来事の顛末だ」

 

「なるほどね、だから傷だらけなわけだ」

 

話の後、真っ先に言葉を返したのは同じクラスで昨日の俺の姿を見たガクトだった。

 

ガクトはイジメに関しては積極的に参加もせず、俺と同じ肯定的でも否定的でもなかったが、巻き込まれた時はその場のノリに任せて楽しんでいた。

 

だから今回の話、真っ先に反対するのはおそらくガクトだ。

 

そう考えながらも言葉を続ける。

 

「椎名は守ってやりたいと思った。許せないとも思った。そして、知りながらも何もしてこなかった自分を1番許せなかった」

 

「うん……で?」

 

俺の言葉を黙って聞いていた姉さんは、簡潔に頷くと優しく聞いてくる。

こういうところは、やっぱり年上なんだと実感する。

 

「椎名を守るのは簡単だ。俺たちファミリーで守ればいい」

 

いったん言葉を切り、みんなを順に見渡す。

 

「椎名京を仲間に入れてやりたい!」

 

俺の決意の籠った言葉にやっぱり反論したのはガクトだった。

 

「ふざけんな! 入れる意味がねーよ! 椎名を入れたら、ワン子とかまで何を言われるか分からねーんだぞ!」

 

「俺は問題ないと思う。それとガク、みんなの心配をするのはいいが、自分の本音の逃げ道に使うなよ」

 

「私もいいと思うぞ。その弟の心意気を買う」

 

反対するガクトに問い詰めるように言う兄弟と、俺の意見に賛成してくれる姉さん。

ファミリー内のある意味で最大権力を持つ2人が賛成の意見のため、ガクトは一気に形勢不利となる。

 

「どういう意味だよジン兄!? それにモモ先輩は1つ上だからいいかもしんねーけど! 俺様と大和は同じクラスなんだよ! 冗談じゃねぇ!」

 

不機嫌に言い捨て遠くにいた椎名京を睨み付けるガクト。

その視線と椎名京の間に体を潜り込ませた俺はガクトに声を掛ける。

 

「そんだけでかい図体して怖いのかよガクト」

 

「あぁ!? 何えらそーに言ってんだ! 大和がこんな火種を持ちこんで来たんだろうが!?」

 

声を荒げ凄んで見せるガクトだが、今回ばかりは俺も引くつもりはない。

 

「俺の話を聞いて怒りを覚えねーのか!」

 

「そりゃあムカつくがよ! 女子どもに嫌われるのは勘弁なんだ」

 

ガクトは珍しく声を張り上げた俺に驚きながらも賛同したが、本音が漏れ声が小さくなる。

 

「やっぱり本音はそれか」

 

「……それはあんまり心配しなくてもいいだろ。元から余りいい印象を与えてないんじゃないか?」

 

「岳人くんの噂って大概が『怖い』『キモイ』『あんまり近寄りたくない』だよね」

 

「だあ! ジン兄! モモ先輩! それにタカまで!? 酷い事言わないでくれ!」

 

的確に心えぐるような3人の言葉にガクトは少しだけ泣きそうな声で言う。

 

確かにガクト個人の思いもあるかも知れない。

でも今回は何があろうとも引けない。中途半端は出来ないのだ。

 

「椎名を入れるのに反対だってんだな」

 

「ああ。だいたい大和も椎名のことを『イジメられる奴に責任がある』とか言って見下してたろ!」

 

痛いところを突いてくる。

 

確かに言った。しかもガクトの前で。

あの時の言葉を否定するつもりはない。あの時は関わり合いがなかったから言えた言葉ではあるが、本心から思って言った言葉を、心変わりしたからと言ってなかった事にはしたくない。

 

だからその言葉の責任を取るために、俺はこの件に関しては妥協しない。

 

「その事については考え方を改めたとしか言えん。もうニヒルはやめだ。何も解決しねぇ」

 

「おぉ?」

 

感心したように呟くガクト。

他のみんなからも同じような雰囲気を感じる。

 

「だからその事は忘れて頼むって言ってんだ。女子の事は別にいいだろ? イジメから守ったから嫌いなんていう奴はこっちから願い下げろ」

 

「違うぜ! 話す機会とかも少なくなる!」

 

それでも食い下がるガクト。

 

だから吹っ掛ける。

プライドを揺する。

 

「……なんか、小せぇなガクトぉ?」

 

「ああん?」

 

案の定、思った通り挑発に乗ってきた。

俺の行動に、姉さんはどこか嬉しそうに、兄弟は呆れたように溜息を吐いた。

 

たぶん俺の考えをきちんと理解しているのだろう。

 

「俺様が小さければ大和は何だよ? ふざけてんと腕力で軽くねじ伏せるぞ、この野郎!」

 

だから返された挑発にわざと乗っかる。

 

以前から感じていた鬱憤と一緒に。

 

「……今なんて言ったの?」

 

「あぁ!?」

 

一段低くなった俺の声に気付いていないガクトは変わらず声を荒げたままだ。

 

「軽くねじ伏せるって言ったのか?」

 

「だから何だと……」

 

ようやく俺の変化に気付いたのか声が途切れた。

 

「俺をそうやって軽く見てたの?」

 

「大和……?」

 

さあ怒りを込めろ。力を込めろ。

 

「ねじ伏せられねーよ。なめんな」

 

静かな怒りのまま拳を握った。

 

「上等じゃねぇか! やるかコラ! 痛えっ!?」

 

言い切るのを待たずガクトの頬を思いっきり殴る。

 

「先手必勝だこの野郎!」

 

殴られた頬を抑えるガクトに喧嘩開始の宣言をするように声を張り上げた。

 

 

「始まっちゃったね」

 

「だーかーらー! 2人がやりあってどうするの!?」

 

俺たちを眺めながら普段通りの口調で呟くヒロと、止めようと声を上げるモロ。

だが姉さんが制止している。

 

「いいよやらせとけ。大和がキレてる。なめられてた事が我慢ならないらしいな」

 

「プライド意外と高いからなー」

 

呆れたキャップの呟きにワン子も頷くのだった。

 

 

「ブッ倒れろや! オラァ!!」

 

声を上げパンチを繰り出して来るガクト。

だがそんな大振りの攻撃が当たるわけがない。

 

俺は事あるごとに姉さんに殴られてるんだ! 姉さんのパンチに比べて遅いんだよ!

(自慢できる事じゃないのが悲しいがな!)

 

いとも簡単にかわす俺に、ガクトは苛立ちながらさらに攻撃をしてくる。

 

焦った攻撃なんかさらに当たるわけがない。

距離を取りつつ牽制のパンチをガクトの体中に当てる。

 

だが、いくら回避に優れているとはいえいつまでも逃げられる訳じゃない。

何しろ体力が違い過ぎるのだ。

時間が経てば経つほど不利になってくるのは俺だった。

 

「よっしゃ! ようやく捕まえたぜ!」

 

体力が落ちてきた頃、ついに捕まった。

そして捕まれば体格差の前に何もできなくなる。

 

「食らえ!」

 

抱え上げられ投げつけられる。

 

「ぐはぁ!」

 

背中から叩きつけられ思わず苦悶が漏れて出る。

だがこれで終わりと思わるわけにはいかない。

 

即座に身をひるがえして足に噛みつく。

痛みで戸惑っているところで蹴りを放つ。

だが蹴りが当たった途端にラリアットが胸を直撃する。

 

ふっ飛ばされる俺。

 

体格差、体力の違い、さらに喧嘩に慣れていない俺はボロボロにされる。

 

その視界に椎名京がこちらに駆け寄ろうとしているのを姉さんと兄弟が止めているのが見えた。

 

ありがたかった。

 

きっかけは椎名京の加入の事かもしれない。

でも今はお互いのプライドを掛けているのだ。余計な横やり入れてほしくなかった。

 

 

数十分後。

 

さすがに疲れたのか息を切らせるガクト。

 

そして俺はそれ以上に息が荒く全身ボロボロだった。

 

それでも倒れず諦めない俺に、ガクトが折れた。

 

「分かったよ……俺様が間違ってた……これでいいだろ?」

 

「ふん……分かればいい。いいかガクト、力ではお前は絶対的だけど、だからと言って俺を軽く捻れるとか思われてたらムカつくからな」

 

「だから悪かったって言ってるだろ!? もう倒れておけ!」

 

「分かればいいんだ、分かれば」

 

実際もう限界だった。

 

ガクトの言葉に従うように俺は仰向けに倒れた。

 

「無茶するなよなヤマ」

 

呆れて、でも優しい笑顔を浮かべた兄弟が俺の手当てをする。

 

その間にみんなで話し合いがあった。

 

モロは賛成。俺の話を聞いて助けなければと思ったみたいだ。

ワン子も賛成。みんなでいれば頑張れるしイジメを止めさせられると思ったようだ。

ヒロも賛成。はっきり言えばもっとも関係ないのがヒロだが、心優しいヒロが反対する事はないだろう。

 

元よりキャップと姉さん、兄弟は賛成だったのだ。

 

後はガクトを説得するだけだ。

 

俺は立ち上がりガクトの前に進み出る。

 

「俺は椎名を助けたいんだガクト。俺を助けたい人を助けられる男にしてくれ」

 

姿勢を正し頭を下げる。

 

これは俺の我儘なんだ。だから最大級の誠意を示さなきゃならない。

 

「その胸の内から出てくる『誠』の言葉……私もお前に力を貸すぞ!」

 

そんな俺の行動に姉さんは感心し、俺の力になってくれると言ってくれた。

 

結果的にガクトは椎名京の加入に賛成した。

まあ、その理由が女子にモテなくなるのから嫌だっていうのがガクトらしかった。

 

ちなみに後で姉さんに元からモテてないと突っ込まれて落ち込んでいた。

 

こうして椎名京――これからは京と呼ぶ――は風間ファミリーに加入した。

 

ファミリーに入ることでの恩恵は大きい。

なにせ圧倒的な暴力を持つ川神百代が後ろに付いた事になる。

同学年で人気者の風間翔一、クラスで1番成績の良い直江大和、腕力ならけた外れの島津岳人。これらの仲間になるのだ。

 

無視されがちなのは変わらなかったが、報復を恐れ陰湿なイジメはやんだ。

 

それでもイジメられていた原因の1つに京の性格がある。

だから少しずつ京自身も改革させることにした。

 

京はイジメの発端となった自分の家庭環境の事もみんなに話した。

その結果で京が得たのは『親は関係ない、自分は自分』という事だった。

 

京の心的外傷(トラウマ)を癒すこと。

 

それが助けた俺の最重要事項だった。

 

 

後日、俺は兄弟に聞いた。

 

俺が原っぱで京と話していた事を知っていたいみたいだし、俺の気持ちを俺が気付く前に理解していたのも兄弟だった。

 

だからどうしても聞きたかったのだ。

 

『どうしてもっと早く京を助けようしなかったのか? 兄弟なら1人でも助けられたはずだ』と。

 

その問い掛けに兄弟はワン子と姉さんと遊ぶ京を眺めながら答えた。

 

『前にも言っただろ? 助けを求めているのなら助けるべきだと。そして助けたいと思うなら覚悟する事だと。そしてミヤから助けを求められたのはヤマ、お前だ。俺じゃない。全く関係のない俺が出しゃばるべきじゃないと思ったのさ』

 

『だから何も言わなかったのか?』

 

『それもある。でも何より俺はミヤとはクラスが違ったからな。同じクラスならたぶん俺1人でも出来たと思うけど、クラスが違うとどうしても手が回らないところが出てくる。下手に救いの手を出して、自分が知らないところでどうしようもない事態になったら救う以前の問題になるから』

 

そう言って俺を見た。

 

『だから、ヤマが覚悟を決めてミヤを救うと決めた時はよかったと思ったよ。それに、お前ならやってくれるって期待してたから、その期待に裏切られなくて安心したよ』

 

どこかからかうような兄弟の言葉に俺は照れ臭かった。

 

『買いかぶり過ぎだよ兄弟。結局俺は自分が許せなかったから行動を起こしたんだよ』

 

『それでもいいさ。人ってのは結局は自分のためにしか行動できないんだと思う。善意も感謝されたい心から生まれるんだ。それに他人のためってのはそれを見た周りの人の評価で自分が下す判断じゃない。だからヤマ――』

 

いつものように俺の頭を軽く叩く。

 

『お前は自分のやった事を誇れ。自分のためにやったからと卑下するな。俺はお前が取った行動を仲間として嬉しく思うよ』

 

そう言って締めくくった兄弟を見て、俺は一生この人には勝てないんだろうな、と思ったのだった。

 

 

ちなみに。

 

京が心的外傷(トラウマ)に怯える度に、落ち着かせるために抱きしめたり頭を撫でたりを約1年ほど続けていました。

 

するとどうでしょう。その結果――

 

「大和」

 

「なに?」

 

「好き♥」

 

こうなりましたとさ。




あとがき~!

「第15話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。今回の相手は――」

「愛に生きる女、椎名京」

「はい、大和LOVEのプチストーカーヤンデレ少女です」

「病んでない、愛し過ぎてるだけ」

「言い方変えればいいってもんじゃないでしょ、君の行動は。まあそれはいいとして、さて今回のお話で京加入エピソードは終了です」

「大和カッコイイ! 私のためにあんなになってくれるなんて!」

「お~い、別に君のためだけじゃないだろ。何かほかに感想はないのか?」

「特にない、私には大和がカッコよければ他はどーでもいい」

「そーですか……」

「あまり思い出したくない事だからね、イジメカッコワルイ」

「まあ、小学生のイジメってある意味残酷だよね。加減ってものを考えないから」

「あ、1つ思った事がある」

「何?」

「ジン兄ってつくづく小学生らしくない発言するよね」

「前にも言ったけどオリ主の彼はある意味で作者の考えの投影だからね」

「ふ~ん。そんなもんなんだ」

「そんなものですよ。さて、次回はちょっと脇道のお話。物語から逸れてはいませんがファミリーは登場しません」

「それじゃあ、次回も期待せずにお待ちくださいね」

「最後でキツイ言葉……」

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