真剣に私と貴方で恋をしよう!!   作:春夏秋冬 廻

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第17話投稿。


第17話 拳と剣、暁神VS篁緋鷺刀

――2003年 10月13日 月曜日 PM2:00――

 

瞬く間も与えず放たれた右から襲ってくる袈裟斬りを、1歩踏み出し左手の甲で刀身の横、(しのぎ)の部分に当て軌道を逸らす。

 

返す刀で斬り上げた斬撃を、今度は右手の甲で同じように鎬に当て逸らす。

 

剣を振り上げた事で無防備になった胴へ左掌底を叩き込むため踏み込んだ瞬間、後ろに下がられ距離を開けられる。

 

無理に距離を詰めず、その場に踏みとどまりいつもの構えを取る。

 

瞬きする間もなく行われた行動に、間抜けにぼけっと見ている男連中を視界の端に収めながら、私は目の前で繰り広げられる勝負に心を躍らせるのだった。

 

 

 

          §  §  §

 

 

 

「今日は体育の日だ。ここは1つチーム分けをして戦闘をしよう」

 

私の言葉にポカンと口を開けて振り返るみんな。

ただ1人、ジンだけが呆れたような疲れたような溜息を吐いた。

 

「モモ、いきなり何を言い出すんだ」

 

「いきなりもない。1度ファミリーの戦闘能力を確認したいと前々から思っていたんだ」

 

そう思っていたのは本当だ。

以前からこの風間ファミリーは面白い奴が集まったと思っていた。

 

性格や気質ももちろんあるが、何より強い奴が結構いるのだ。

さらに京が加入した事で戦闘力は跳ね上がったと思う。大人しいが京は強い。

 

そして1番知りたいのがタカだ。

 

強いのは分かっている。

気配や身のこなしから何かしらの武道を習っているのは直ぐに分かった。

実際に去年のあの原っぱでの台風の時、私やジンと同じように飛んできた色んな物からみんなを守っていた。

それでもはっきりとした強さが見えないのだ。

 

今日は体育の日という事で、門下生全員を連れてどこかでイベントのようなものをしているらしく、川神院には余り人がいなかった。

だからジジイに許可をもらい、今日は道場にみんなを呼んで遊んでいたのだ。

 

ちょうどいいタイミングだと思った瞬間、私は先ほどの言葉を口にしたのだ。

 

「楽しそうだな、それ! 俺はやるぜ!」

 

イベント事の大好きなキャップは私の提案に乗るのは分かっていた。

キャップが参加するなら恐らくガクトも参加だ。

 

「おぉ! 俺様もやるぜ! 俺様の力がどれほどのものか見せてやるぜ!」

 

やっぱり馬鹿2人は参加だ。

こういう時は扱いやすくて実に楽だな。うん。

 

「僕はパス! この中で1番弱いって分かってるのにやるわけないじゃん!」

 

ビビリのモロロは当然ながら不参加だが、期待はしていなかったから別にどうこう言うつもりはない。参加したらそれはそれで面白かったとは思うが。

 

「俺も不参加で」

 

「何だ弟。たまには男らしいところを見せろよ」

 

「無理だから姉さん。頭脳派の俺は武闘派の中に入るほど愚かじゃないから」

 

大和も当然不参加。

まあこいつの場合は切羽詰まったり、覚悟した時しか自分から闘う事はしないからな。

 

「アタシは参加! どれだけ強くなったか確認するチャンスだわ!」

 

ワン子は今日も元気良く発言する。

京はどうするかと視線を向けると大和と何やら話してる。

大和と2言3言交わした後、京は小さく頷くと参加の意を示した。どうやら戦ったらみんなに嫌われるかもと思っていたようだ。

 

「よし。キャップとガクト、ワン子と京は参加だな」

 

「モモ、仕切るのはいいけどお前は参加できないの分かってるよな? 鉄心さんに勝負禁止されてるの覚えてるよな?」

 

せっかく上げたテンションを下げるような事を言うジン。

 

「ちゃんと覚えている。私は今回は審判だ。という訳でジンとタカは強制参加な」

 

「どうしてですか!?」

 

突然の参加命令に、即座に驚いた声を上げたのはタカだった。

そんなタカに向かって私は笑みを浮かべる。

 

「決まっているだろ、ジンとお前が参加すればちょうど3対3になる。チーム分けをすると言っただろ? 奇数にしないと決着つかないだろ」

 

「そんな!?」

 

「ヒロ、諦めろ。姉さんが言いだした事に逆らうの得策じゃない」

 

それでも何かを言おうとしたタカの肩を大和が叩いて慰める。

 

さすが弟。よく分かっている。

 

「それじゃあチーム分けも私の判断でするぞ。

 Aチーム、キャップ、ワン子、ジン。Bチーム、ガクト、京、タカ。ルールは参ったと言わせるか相手を気絶させたら勝ち。時間は無制限。2勝したチームが勝ちだ」

 

そうして体育の日風間ファミリー大決闘大会が開かれたのだった。

 

 

と、荘厳に言ったものの、私にとっての前哨戦の2戦は割愛させてもらう。

 

結果だけを言うなら――

キャップ対ガクト――不意を付いたキャップの勝利。

ワン子対京――地力の差から京の勝利。

 

そして、今回の私の目的でもあるジンとタカの勝負を私は眺めているのであった。

 

 

 

          §  §  §

 

 

 

やっぱりタカは強かった。

 

普段は感じる事のなかった闘気が溢れ出んばかりにタカから放たれている。

 

剣術を習ってるという事で川神院にあった刀を1振り渡した。

試合開始直後は躊躇っていたタカだったが、ジンの『本気でこい』の言葉に表情を引き締めると、鯉口を切り刀を抜き放った。

 

その瞬間にタカを纏う全てのものが変わった。

 

少なくとも私はそう感じた。

 

篁緋鷺刀の本領は刀を抜いた時に発揮する。

 

以降、仲間内で認識されるタカの強さはこのとき初めて解き放たれたのだった。

 

常に仕掛けているのはタカの方。

 

剣道三倍段という言葉がある。

武器を持たない者が剣を持っている者を相手にするには、その剣を持つ者の三倍の段数が必要という意味だ。

 

その考えからいうと不利なのはジンの方。

だがそんな常識に当てはなる男ではない。

タカもそれが分かっているからこそ、先手を取られないように、さらに反撃をさせないために常に自分から仕掛けているのだ。

 

「はっ!」

 

裂帛の気合から放たれるタカの5連斬。

ジンは殆どタイムラグなしの同時に襲い掛かってくるその斬撃を、2つをかわし3つをいなす。最後の斬撃をいなした後、生まれた僅かな隙を突き刀を叩き落とそうとタカの手首を狙って左手刀を放つ。

 

それを察したタカは流れる刀の勢いを手首を返す事で振り上げる勢いに変え、逆にジンの手刀に向かって刀を振り下ろす。

 

それに対してジンの取った行動に私は度肝を抜かれた。

 

左手刀が空を切る否や、手首を返しなんと迫り来る刀に向かって振り上げたのだ。

 

「ヒッ!」

 

隣で京が息を飲む音が聞こえた。

 

タカが持っている刀は刃引きがしていない真剣だ。しかもタカほどの技量を持つ者が放った斬撃をくらえば腕が切り落とされるのは間違いない。

 

斬られる、と思った時――

 

   ガンッ

 

鈍い音がした。

 

私は驚きで目を見開いた。

タカも信じられないものを見たかのように驚愕していた。

 

ジンはタカが振り下ろした刀を手刀で受け止めていた。

受け止めた場所がまた凄い。

ジンはタカの刀をハバキ――つばの上にある金具――の部分で受け止めていたのだ。

 

驚きで一瞬固まるタカに向かって蹴りを放つジン。それに気付き当たる直前で身を屈め、タカはそのまま飛び退いた。

 

「京、見えたか?」

 

「うん」

 

隣にいる京は私の言葉に短く頷いて答える。

 

「ていうか、姉さんも京もあれが見えてるの?」

 

未だにポカンと眺めている男ども代表して大和が問い掛けてきた。

 

「もちろんだ」

 

「私は辛うじてだけど」

 

答える私たちを、ありえないものを見るような表情でこっちを見るキャップとガクト。モロロは未だにポカンとしている。

 

「うおぉお! なんだかよく分からねえけど、ジン兄もヒロもすげぇ!」

 

「人間じゃねえだろあの動き」

 

「すごいすごーい!」

 

はしゃいではいるが恐らくキャップもガクトも見えていないし、ワン子もまだ見えるまでにはなっていない。今この勝負を目にする事が出来るのは、私と京の2人だけだろう。

 

間合いを空けたタカは気を落ち着かせるように息を吐き、刀を握り直すと再び正眼の構えを取る。

対するジンは蹴り上げた右足を引き戻し、タカに向かって正面に位置を取ると、左足を少し前に出し両腕は力を抜きだらりと下げ、珍しく無形の構えを取った、

 

「思った通り、強いなヒロ」

 

「やめてよジン兄。全く勝てる気がしないのに褒めれられても嬉しくないから」

 

笑顔を浮かべるジンに苦笑で返すタカ。

 

一見すればタカが攻めていると言えるが、ジンはその攻めに慌てることなく対応し隙あらば攻撃もする。恐らく全く余裕がないのはタカの方で間違いないだろう。

 

「じゃあもう少し本気を出そうか」

 

その言葉に顔を引きつらせるタカ。

信じられないといった表情の京。

 

「安心しろヒロ。まだ俺から仕掛ける事はしない。だから存分に掛って来い」

 

   ダンッ

 

答えるようにタカが道場の床を蹴った音が響いた。

一瞬で間合いを詰め袈裟斬りに放った斬撃を、ジンは触れたかどうかすら分からない柔らかなタッチで軌道を逸らしいなす。

右片手の持ち方にし返す刀で振り上げられた左切上を、今度は峰に手を添え真上に軌道を逸らす。

 

振りかぶる形になったヒロはその勢いのまま両手持ちになると、ジンの頭上から唐竹の斬撃を繰り出した。

 

左半身になり斬撃をやり過ごしたジンは、左蹴りを顔面に向かって蹴り上げる。

タカは上半身を後ろに反らし蹴りを鼻先ギリギリでやり過ごすと、再び右片手持ちに変えそのまま横薙ぎを放った。

しかしジンは振り抜いた蹴りの勢いそのままに身体を捻ると、正面から迫ってきた刀を飛び越え身体を1回転させたかと思うと、その回転の勢いを利用して右足で蹴りを放った。

 

思いもよらない反撃によける暇もなく蹴りを受けたタカだったが、当たる瞬間ギリギリで首を捻りダメージを最小限に抑えたが、崩れた体制を整えるために再び間合いを取った。

 

アクロバットな動きをしたにも拘わらずジンはきちんと足から床に着地した。

 

道場にほんの少しの静寂が訪れた。

 

「人間離れもここまで来ると呆れるしかない」

 

ジンの最後の動きはさすがに見えたのだろう、ポツリと大和が呟いた。

 

「ねぇ! ちょっと待ってよ!」

 

いきなり声を張り上げたモロロに勝負している2人以外の視線が集まる。

 

「何でみんな納得して観戦しちゃってるわけ!? タカの持ってるの真剣だよ!? 下手したら怪我じゃすまないよ!?」

 

「いやモロ、確かにそうだけど別にジン兄、怪我してねーじゃんかよ」

 

声を荒げるモロロにガクトが少し戸惑った様子で答えた。

 

「そんなこと言ってるんじゃないよ! 僕は怪我してからじゃ遅いって言ってるんだ! 見てよ! タカなんか本気で斬りかかってるじゃないか!?」

 

「おーちーつーけ! モロロ!」

 

ガクトに掴み掛らんばかりの勢いだったモロロの頭を後ろ押さえつける。

私が頭を押さえつけたことで多少、冷静さを取り戻した感じではあるが、まだ息は荒く肩を上下させていた。

 

モロロの心配も分からんではない。

 

普通なら受け入れられる状況ではないのは確かだ。目の前で繰り広げられている勝負はどう見ても小学5年生と4年生のものではない。

しかも片方は素手なのに、もう片方は刃引きをしていない本物の日本刀だ。

 

常識で考えればありえないだろう。だが――

 

「問題ないモロロ。タカが本気で斬り掛れるのはジンを信頼してるからだ。自分が本気になってもジンは怪我をしないと確信しているからこそ、あいつは今本気で勝負をしているんだ」

 

私たちの会話の間にも、2人の攻防は続いている。

実際きちんと見えている私にしか分からないだろうが、ジンは危な気なく余裕を持ってタカの斬撃を全部捌いている。

 

「うん大丈夫だと思う。ジン兄、タカの攻撃ちゃんと危な気なく捌いてる」

 

私の考えを肯定するように言葉を発する京。

 

「なんだよ~京は見えてるのかよ。いいな~」

 

「うん、弓は眼が命」

 

羨ましそうなキャップに京は珍しく自慢げに胸を張る。

 

「モロロ、心配するだけお前の損だ。私はまだあいつに1度も勝ったことがない」

 

「 「 「 「 「 「 えっ!? 」 」 」 」 」 」

 

全員が信じられないといった表情で私を見遣る。

 

う~ん。私としては情けなくてあまり話したくない事なんだが……

 

「私はこれまで3回、ジンと勝負をしている。だが結果は3戦3敗だ」

 

「いや……兄弟が強いのは知ってたけど……ホントに姉さんより強いの?」」

 

戸惑う大和の言葉にも無理はない。

ジンの強さは技術的な強さだとみんな思っている。現にあの原っぱで上級生を追っ払った時、ジンは軽く投げ飛ばすだけで圧倒的な力を見せつけたのは私だ。

 

その印象がみんな強いのだろう。だが――

 

「ジンは私なんかより遥かに強いよ。力の速さもジンの方が上だ。他者との隔絶が凄いからからこそ、普段のジンは基本的に力ではなく(ワザ)をもって相手と対するんだ」

 

そう、それが真実だ。

1度だけ(ワザ)なしの純粋な身体能力の身で勝負をした。その結果開始直後の気を失った。

 

そんな話をみんなにしていると、急に勝負をしている2人の気配が変わった。

 

見ればいつの間にかタカは刀を鞘に収め、抜刀術の構えを取っていた。

 

「次で決着が付くな」

 

私の呟きに全員が食い入るようにジンとタカを見る。

 

数秒の静寂の後、先に動いたのは抜刀術の構えをしたタカの方だった。

 

本来抜刀術は後の先。待ち技だ。

それなのに先に仕掛けたという事は、そういう技なのか。あるいは待っていても勝てないと判断したのか。

 

ジンの拳が届く1歩手前間まで間合いを詰めたタカは、納刀状態から鞘走りを利用し今日見せる最高速度の斬撃を放った。

 

だが――

 

「惜しかったな」

 

余りにもデタラメ過ぎるジンの行動に、私も含めた全員が目を見開き驚いた。

 

なんとジンは右手の人差し指と中指だけで、タカの放った最速の斬撃を挟んで止めてみせたのだ。

 

その瞬間タカの敗北が決定した。

 

驚き身を固めたタカの鳩尾にジンの掌底が吸い込まれるように入り、タカはそこで気を失った。

 

 

あの後、目を覚ましたタカは勉強になったとジンに頭を下げ、今日はお開きとなりみんな興奮が冷めないものの帰って行った。

私はタカの強さを見て取れ今日はとてもいい気分だったのだが――

 

帰ってきたジジイに子供だけで真剣を使い試合をした事がばれ、ジンと一緒に夜遅くまで説教をくらう羽目になってしまったのだった。




あとがき~!

「第17話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。さて今回のお相手は――」

「暁神です」

「何かお久し振りだね」

「本当だな。7話以来だから10話ぶり。俺は本当に主人公か?」

「主人公だよ、て言うか結構視点描写してるじゃん」

「なんか3回連続ヤマだったからどうもな……」

「まあ、京の事件はしょうがないさ。あれは大和がやってこそのものだからね。代わりに君がやったら京が君に惚れてしまう。さすがにそれは物語的にヤバイからね」

「納得せざるを得ないのか」

「そういう事。さて今回のお話ですが、意味合いには深い意味は全くありません。閑話、骨休め程度と考えて下さい」

「だったら書くなよ」

「まあそうなんだけど、とりあえずは一人称による戦闘描写の練習。あと君と緋鷺刀の強さを見せるためのお話だと思ってね」

「ああ、そういえば以前のあとがきでも言ってたな」

「そ、今回は観戦者視点の一人称での戦闘描写。さすがに戦闘者視点の一人称はまだ出来なかった。これが凄く難しい。途中までは君の視点でやってたんだけど……」

「挫折してモモの視点に切り替えたと」

「その通り。つくづく戦闘描写は三人称でやった方が簡単と思い知ったよ」

「精進あるのみ。だな」

「全くもってそうだね。さて次回のお話なんですが、またも原作過去エピソードの1つ、一子が川神院の養女のなる話です」

「あの話を1話にするのか?」

「その通り。というわけで次回『真剣に私と貴方で恋をしよう!!』第18話『ワン子、川神一子になる』をお楽しみ下さい」

「なんでいきなり今までやった事ない次回予告をやるんだよ」

「君はワン子の涙を見る」

「それなんかのフレーズのパクリだろ?」

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