真剣に私と貴方で恋をしよう!!   作:春夏秋冬 廻

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第20話投稿。

ちょっときつい表現がありますので注意してください。


第20話 壊れかけの雪、少女を囲う檻

  side 川神百代

 

最近ジンの様子がおかしい。

 

いや、様子というよりは行動がおかしい。

修練はちゃんとやっているが、それが終わるとここ2週間毎日出かけては夕方遅くまで帰ってこない。

 

何をしているのかさりげなく聞いても答えてはくれない。

 

だが何となく。何となくなのだが。

 

女の影があるような気がする。

 

確信はないし証拠もない。だが私の“女としての勘”が間違いないと言っている。

 

彼女が出来たのか、はたまた好きな子を口説いている最中なのか。

 

気になる事だが今の私にとっては実に些細な事だ。そう些細な事だ。

 

ふふふふふ……

 

笑いが込み上げてくる。

なぜか隣にいたワン子がガタガタと震えているが今はどうでもいい。

 

私の心を不愉快にしてくれた責任は取ってもらおう。なあ?

 

ジン?

 

  side out

 

 

 

          §  §  §

 

 

 

――2004年 8月13日 金曜日 PM1:00――

 

  side 暁神

 

結果報告。

 

モモにばれました。

 

未だにばれた理由が分からない。

 

確かにこの2週間はコユキの事を調べたり、ヒロと一緒にコユキと遊んだりで毎日出かけていたが、怪しまれるような雰囲気は出していなかったし、直接聞かれてもごまかせていたはずだ。

 

なのに昨日。

 

さてそろそろ寝ようかと思ったその時。

 

部屋に入ってきたモモが言い放った言葉。

 

『さてジン。いい加減話してもらおうか。ここ2週間お前が一生懸命に何かをしているのはいったいどんな女のためだ?』

 

薄ら寒さが背中を奔った。悪い事をしてるわけじゃないのになぜか物凄い罪悪感を感じ、問答無用で土下座をしなくてはならない衝動に一瞬だけど駆られた。

 

正直に言おう。怖かった。

 

モモは笑顔を浮かべていたのに、その笑顔がなぜかさらに恐怖を煽った。

 

いわれもない罪悪感を感じつつも、えも言えない恐怖に真っ正直に全て洗いざらい話した。

 

あの原っぱで小雪いう少女と会った事。その雰囲気が昔のミヤ以上に危うかった事。恐らくイジメと家庭内で虐待に近い仕打ちを受けているだろうという事。

 

俺の話を聞いたモモは自分も手伝うと言ってきた。駄目だといっても無理やりついてくるのは目に見えていたため仕方なく了承した。

 

だがその言葉を聞きなぜか安堵している俺がいた。

 

その後、どうして気付いたのという俺の問いにモモは簡潔に答えた。

 

『女の勘だ』

 

返す言葉がなかった。

 

そして今日の朝、ヒロにモモにばれた事とその理由を話した時の返答。

 

『女の人って怖いね』

 

つくづく返す言葉がなかった。

 

 

「それでジン。今日は何を調べるんだ?」

 

隣をやけに上機嫌に歩くモモに小さく呆れた溜息を吐く。

 

今、俺とモモは川神市内だが隣の学区になる地区に来ている。

本当はいつも通り俺ひとりで来るつもりだったが、昨夜モモにばれたので今日から同行となった。ちなみにヒロは原っぱでコユキと一緒に遊んでいる。

 

「とりあえず必要な事に関してはだいたい調べは付いた」

 

「それで?」

 

「思った通り、隣の学校でだがコユキはイジメを受けていた。しかももう3年ぐらい続いているらしい」

 

子供とはやっぱり残酷だ。

同年代であろう子たちに聞いてみたのだが、俺が隣の学区の児童だというのにそれすら関係がないかのように、いとも簡単に答えてくる。

 

恐らくクラスや学年だけでなく、学校の児童全員に認識されているイジメなのだろう。

 

「話を聞いて、理由も何ともふざけた理由だった」

 

「理由? 京の時みたいか?」

 

「大まかはな。最初は外見だった。コユキは白子(アルビノ)なんだ」

 

「アルビノ?」

 

聞いた事のない言葉にモモが首を傾げる。

 

「先天性白皮症の事だよ。遺伝子が関わっている生まれつきの病気で、髪や肌が白く眼も赤くなる」

 

「カッコイイじゃないか」

 

「そう思う子は少ないってことさ。子供たちにとってみれば自分たちとは違う存在は格好のイジメの標的になる。小学校に入ったばかりの頃は気味悪がれて無視されていたらしい」

 

真剣になって聞くモモに1度だけ視線を向け言葉を続ける。

 

「その状況が変わってきたのはコユキの外見じゃなくて格好だ」

 

「格好?」

 

「そう。聞いたところ殆ど同じ服を着て学校に来ていたらしい。場合によっては1週間もずっと同じ服だった時もあったそうだ。しかも洗わずにいた時もあったらしい」

 

その結果がミヤと同じ病原菌扱い。

 

頻繁にイジメが起きだしたのが小学3年生の時。それから約3年、未だにイジメは続いている。

 

「理由は何だ? なぜそんな格好で学校に行く?」

 

当然の疑問だった。

だからこそ俺は家庭内に問題があると考えたのだ。

 

「理由はコユキの家」

 

俺の答えにモモの表情が歪む。恐らくミヤの時の事を思い出したのだろう。

 

学校でのイジメについては、実は聞き込みを始めた1日目と2日目でほぼ全て調べが付いた。それほどまでに彼女のイジメは全児童が知っていた。

 

だから2週間のほとんどが理由があるであろう、コユキの家の事情についての調査だった。

これが意外と大変だった。子供はイジメる奴の家の事情などお構いなしだ。ある意味で最初は理由があったのかもしれないが、イジメが続けばそれ自体がイジメの理由になる。

 

つまり他がイジメるから自分もイジメる、といった感じだ。

 

だから親の世代に聞いてみたが、ほぼ全員が口を紡ぐ。

 

まあどう見ても小学生、よくても中学生でしかない俺が聞いてきたのだから、言っても意味がないという感じの人もいたが、あからさまに関わり合いたくないといった雰囲気で断ってきた人もいた。

 

だからあまりやりたくなかったのだが、コユキの家の近所のひとり暮らしお婆さんの家に聞き込みに行った。コユキの家の住所は子供たちの情報で既に入手していた。

 

育児放棄(ネグレクト)と家庭内暴力があるんだよ。コユキの家は」

 

「ネグレクト?」

 

「育児放棄。親が子供を育てない虐待の一種だ」

 

言った俺も、聞いたモモも表情を曇らせた。

 

 

コユキの家は母子家庭。

 

父親は既に不在。死んだのか離婚したのかは不明。コユキが生まれた頃にはすでに父親の姿はなかったらしい。

家は母親の実家だが祖父母は既に他界。母親が高校を卒業する頃に事故で亡くなったらしく、実質コユキの家族は母親のみ。

 

この母親は中学生の頃から素行が悪く、高校生の頃には所謂札付きの不良と関係があったらしい。

 

近所のお婆さんの話では、コユキは恐らくその男との子供で男は母親が妊娠し堕ろせないと分かった途端に姿を消したのではないか、と言うのが近所で広まっている噂。

根拠はないが殆どの人がそうだと確信しているらしい。

 

そして生まれた子供は先天性白皮症――白子(アルビノ)だった。

 

母親は狂乱して生まれたばかりのコユキを殺そうとしたらしい。

 

その時は医者によって止められ、子供が先天性の遺伝子疾患だという説明を受けたのだが、母親は気味悪さを拭いさる事が出来なかったようだ。

 

説明を受けてさすがに殺す事には躊躇いを感じるようになっていたらしいが、それでも育てるという事を殆ど放棄し、気味悪さから暴力をふるうようになった。

 

コユキが生まれて数年は祖父母の残した財産で生活出来ていたが、それが出来なくなり母親が働きに出だした頃から、本格的な虐待が始まった。

 

一応死なない程度の食事や着れるような服は与えていたらしいが、それも本当に最小限で母親はコユキの存在を殆ど無視し、気に入らない時は暴力をふるっているらしい。

 

近所の人たちは関わり合いをさけ、心配になったお婆さんが掛けあってみたものの、逆に悪し様に罵られたらしい。

 

その結果、腫れものを扱うかのような感じで誰もコユキの家について言及する人間はいなくなっていった。

 

 

聞いて調べた結果をモモに話した。

 

いつの間にか立ち止まっていたモモは、話の内容をどうやって受け止めていいのか分からないのだろう、複雑そうな顔をしていた。

 

話の内容が衝撃的過ぎたのだろう。

俺ですら最初はどう受け止めるべきなのか分からなかったのだ。

 

「それで……ジンは今日、どうするつもりなんだ」

 

何とか折り合いをつけたのだろう。モモは少し声を低く抑えて聞いてくる。

 

「とにかく1度コユキの家を訪問してみようと思ってる」

 

「追い返されるのが目に見えてるぞ」

 

「だろうな。でも別に何かするわけじゃない。ただの友達として1度は正攻法でいかないと反応が分からないかな」

 

まあ、それならそれで別の手段を講じるだけだけどな。

 

そう思いながらもモモと並んでコユキの家に向かう俺だった。

 

  side out

 

 

  sied 篁緋鷺刀

 

今日遊ぼうと約束をしていた小雪さんが、時間になっても来なかった。

 

いつもは僕たちより先に原っぱに着ているのが常だったのに、今日は僕が20分前に着ても姿がなく先に待っていた。

 

最初はこんな日もあるだろうと思っていたが、約束の時間になってもまだ姿を現さないのをおかしく思いながら、同時に焦りを感じた。

 

友達になってまだ2週間だが、小雪さんが遅れる事は1度もなかった。

 

今日は僕が小雪さんと遊ぶと同時に、ジン兄とモモ先輩が小雪さんの家を訪問する事になっている。

 

何かあったのだと思うけど、もし何もなかった時に僕がここにいなかったら小雪さんはどう思うだろうか?

 

ジン兄から小雪さんの事を聞いた。

 

ジン兄の考えていた通り確かにイジメがあったみたいだし、詳しくは教えてくれなかったけど、家庭内でもやっぱり何かある様子だった。

 

そんな状況の小雪さんが僕がいない間に原っぱに来たら、裏切られたと思うかもしれない。

 

そう考えるとうかつにここから動く事はできなかった。

 

「ひとりでどうしたの、ヒロ?」

 

そんな僕に声を掛かる。

振り返ってみるとそこには一子ちゃんと京ちゃんがいた。

 

「2人はどうしたの? 最近はあんまりここに顔出さなかったのに」

 

焦りながらも普通に問い掛ける。

 

「もうすぐここもなくなっちゃうから、ちょっと行ってみようかって」

 

「うん、見納め」

 

感慨深く原っぱを見渡す一子ちゃんの京ちゃんだったが、僕にしてみればちょうどいいタイミングだった。

 

「ゴメン、ちょっと2人に頼みたい事があるんだけどいいかな?」

 

「なになに?」

 

「私たちに出来る事ならやるけど」

 

2人の了承の返事に頷く。

 

「実は今日、ここで友達と会う約束をしてたんだけど、時間になってもまだ来ないからちょっと様子を見てこようと思ってるんだ。でも行き違いになるかもしれないから少しの間ここにいてほしいんだ」

 

僕のお願いに顔を見合わせた2人。

お互い頷き合うと代表して京ちゃんが言葉を掛けてきた。

 

「別に構わないけど……いつまでここにいればいいの?」

 

「30分ぐらいかな。それだけあれば往復できると思う」

 

「うん。じゃあ30分以内にその子が来たら、タカが様子を見に行ったからここで待っていてほしいって伝えればいいんだね」

 

「うん。お願いね」

 

そう言うと、僕は2人の返事を聞く事なく駆け出した。

不思議そうな視線を背中に感じながら、僕は腕時計で時間を確認する。

 

ジン兄たちが家を訪問するのは、遊ぶ約束の時間から30分後。

 

現在PM1:20。

 

急げば直前でジン兄たちに追い付ける。

 

そう考えた僕は走る速度を上げた。

 

  side out

 

 

  side 暁神

 

目の前にある家を見る。

 

お世辞に綺麗とは言えないが、汚いと言うほどでもない。

 

コユキの母親は夜の仕事をいているらしく今の時間なら家にいるはずだ。

 

1度大きく息を吐き、インターフォンを押すが反応がない。

2度3度押してみるが音もしないところをみると、壊れているのかそれとも切っているのか。

 

「どうする?」

 

俺と代わって何度もインターフォンを押しているモモ。

 

「とえあえず直接玄関のドアをノックしよう」

 

そう言って門扉に手を掛けた時、後ろから声が掛けられた。

 

「ジン兄! モモ先輩!」

 

そこにいたのは原っぱでコユキと遊んでいるはずのヒロだった。

 

「ヒロ? 何でここにいるんだ? 原っぱでコユキと遊ぶ約束じゃあ……」

 

「それが時間になっても来なかったんだよ! 今までそんな事なかったから気になって来てみたんだ!」

 

コユキが約束の時間になっても来なかった?

 

俺の言葉をさえぎって言ったヒロのありえない言葉に、嫌な予感がした。

 

手を掛けていた門扉を急いで開けると、玄関のドアに続く小さな階段を一足飛びで飛び越える。

 

「ごめん下さい! すいません! どなたかいらっしゃいませんか!?」

 

激しく玄関を叩きながら大声で呼びかけるが反応はない。

家の中の気配を探ってみれば、確かに2人の気配が感じられる。1つは間違いなくコユキの気配なのだが、何やら様子がおかしい。

 

嫌な予感がますます大きくなっていく。

 

返事を待たず玄関のドアレバーを引っ張るが鍵が掛けられていて開かない。

 

「ジン!」

 

家の中の異様な気配を察知したのだろう、後ろにいたモモが声を荒げる。

左で握っていたドアレバーを右に握り変えて思いっきり力を込めて引っ張る。

鍵が壊れる音と同時にドアが開き、俺は土足のまま玄関を上がり真っ先にリビングへと駆け込んだ。

 

視界に入ったのは、コユキの首を両手で絞めている女性の姿。

 

「コユキ!!」

 

馬乗りになっていた女性を突き飛ばす。

テーブルの脚に背を打ち付け痛みを耐えている女性を組み伏せた。

 

顔立ちが似ている。恐らくコユキの母親なのだろう。

 

「何をしているんだ!? あんたは!?」

 

声を張り上げるが反応がない。

何も言ってこない事をいぶかしく思い、顔を覗き込んでぞっとした。

 

彼女の眼は何も見てはいなかった。焦点の合っていない眼がただ虚ろに見開かているだけだった。

 

「ジン!」

 

慌てるモモの声に女性を組み伏せながら顔を向ける。

モモは血の気の引いた顔をしていた。

 

「この子……息してない」

 

 

……………………………………………………っ!?

 

 

「緋鷺刀! 俺の代わりにこの人抑え込んでろ!! 百代! 急いで救急車と警察を呼べ!! 呆けるな! 早くしろ!!」

 

思考の空白は一瞬。

 

俺は組み伏せている女性から手を離し、未だに呆けているモモとヒロに指示を出すと、ぐったりと動かないコユキの側により心肺蘇生を始める。

 

恐らくそんなに時間は経っていないはずだ! 蘇生の可能性はまだ高い!

 

心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す。

 

死ぬな! 絶対に死ぬんじゃないぞ! コユキ!!

 

救急車が到着するまで5分。

 

俺はその間ずっと心肺蘇生を繰り返していた。




あとがき~!

「第20話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。今回のお相手は――」

「引き続き、暁神です」

「さて今回のお話ですが、小雪のイジメ事情についてです」

「ある意味で壮絶だな」

「まあね、学校の方は京のイジメの時と殆ど同じだと思うけど、さすがに家庭内での描写はオリジナルで考えないといけなかったからね」

「それであの内容というわけか」

「矛盾してる点もあるかもしれないけど、あまりツッコミをしないでほしいと思う」

「コユキの生まれとか母親の経緯とかもオリジナルだろ?」

「そうだね、原作完全無視」

「しっかし最後のシーンは……」

「そうだね。あのシーンは原作にも似たシーンがあったけど小雪の話をするには避けて通れないシーンだと思ったんよ」

「なるほどね。それであと何話ぐらい続くんだ?」

「う~ん、あと2話かな? 場合よっては3話」

「そんなに書くことがあるのか?」

「書くことというより、書いていくとだんだんと長くなってしまうのよ」

「収拾ぐらいつけような、ちゃんと」

「まあそんなんだけどね……では、まだ続く小雪のエピソードですが、次投稿もよろしくお願いします」

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