真剣に私と貴方で恋をしよう!!   作:春夏秋冬 廻

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第23話投稿。

小雪救済編、最終話になります。


第23話 壊れかけの雪、新しく歩む道

――2004年 8月30日 月曜日 AM10:00――

 

  side 暁神

 

「どうよこの場所! 新しい秘密基地にはもってこいだろ!?」

 

島津家が所有する土地に建っている廃ビルの1室で、キャップは自信満々に言い放った。

それに同意するように頷くヤマとガクとタク。

 

新しい秘密基地探しに参加しなかった俺とヒロと女子たちは、やや呆然としながら室内を見渡した。

 

「よくこんなところ見つけたね」

 

感心したように呟くミヤと頷くカズ。

キャップたちはその言葉に嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 

確かにミヤの言う通り、よくこんなところを見つけたもんだ。

話を聞くとここの土地はガクの家、つまり島津家が所有している土地で10年前ぐらいから使われていない廃ビルが建っていたらしい。

 

そこに目を付けたのがキャップとヤマ。

 

ビルの所有者が川神ではなく県外、九州の福岡にいる事を調べたヤマがこのビルが当分取り壊されない事を知り、秘密基地にしようと提案したのだ。

 

「でも大丈夫なの? 僕たちのような子供が使われなくなったと言っても、廃ビルで遊ぶなんて危ないと思われるよ」

 

ヒロのもっともな意見だが、ヤマが言うにはそれも既に解決済みらしい。

全くもって相変わらず見事な手筈だ。ファミリーの軍師を自称するだけのことはある。

 

「実際の管理はビルの所有者だけどその管理の代理をガクトのお母さん、つまり麗子さんが書類上なっているんだ。で、俺たちはボランティアとして忙しい麗子さんに代わりこのビルを見て回る」

 

「なるほど、そうすることでこのビルに入る代替的な理由になるわけだ。さらにビルの所有者にはボランティアは一応成人した人だと伝えておけば問題なしという事だな」

 

「さすが兄弟。みなまで言わなくても分かるとはな」

 

言葉を引き継いで言う俺にヤマは感心したように言葉を返してきた。

 

「電気は通ってないけど水道はなぜかまだ繋いだままだ。だから照明には困るかもしれないけど、秘密基地にするには申し分ないと思う」

 

ヤマの言葉に全員が頷く。

確かにここなら今までの原っぱと違っていろいろ持ち込む事が出来るし、雨の日でも気にせず集まる事が出来る。誰も文句を言わなかった。

 

満場一致で俺たちの新たな秘密基地が誕生したのだった。

 

ちなみにキャップが『風雲風間城』とか、ガクが『俺様ガクトキャッスル』とか名前を付けようとしていたが、モモとミヤにボコボコにされていた。

 

 

川神の工業地帯を見渡せる屋上で、手すりに肘をつきボーっとその景色を眺める。

既に日が傾き始めている。今日1日の半分は新たに出来た秘密基地の掃除に追われていた。だがなんとか人がすごせるぐらいには綺麗になり、明日から持ち込む物をみんなは話し合っていた。

 

俺は1人そこから抜け出し、こうして屋上からの景色を眺めていた。

 

「こんなところで何してるんだ、ジン?」

 

後ろからモモが声を掛けて来た。

気配で気付いていたので別段驚く事はない。モモも気にせず俺の隣に並び同じように屋上から見える景色を眺めた。

数分沈黙が続いたが、先にそれを破ったのはモモだ。

 

「ユッキーの事を考えてたのか?」

 

「まあな」

 

気付かれていた事に少しだけ自嘲気味な笑みが漏れた。

最近やけにモモに見抜かれることが多くなったような気がする。今回の事だけでなくいろいろな事に対して。俺自身気を抜いているつもりはないのだが、なぜかモモにはばれてしまう。

 

「何で分かった?」

 

「女の勘だ」

 

これだ。

何で分かったのかと聞くたびに返されるこの返答。そう言われて言い返せなくなる俺にも問題があると思うのだが、勘と言われて納得してしまっているところもある。

 

「何か納得のいかない結果だったのか?」

 

その言葉に首を振る。

そんな事はない。どんな結果であろうとコユキが幸せになるのならそれが1番いい。俺にそれを決める権利なんかないのだから。ただ――

 

「コユキにとって“最良の結果”だったかもしれないが、俺にとっては“最善の行為”じゃなかったからな……」

 

それが少し悔しいのかもしれない。結局俺は自分が出来なかったから他人に任せたのだ。

モモはそんな事を考えてる俺を慰めるように手を頭に乗せ撫でてきた。

 

「私たちはまだ子供だ。出来ない事の方が多い。でもお前は自分が出来る事の中でやれる事は全てやったんだろ? だったらそれを誇れ。今回の件でお前を責める奴は誰ひとりいない」

 

モモの言葉に、俺は自分がヤマに言った言葉を思い出した。

そうだ。俺はミヤを仲間に入れた後で聞いてきたヤマに対して、今モモが言った事と同じような言葉をヤマに言った。

 

『自分のやった事を誇れ』と。

 

なら俺も自分のした事を誇ればいいんだ。確かに“最善”ではなかったかも知れない。でも結果は“最良”になったのだ。今はそれでいい。

 

「サンキュー、モモ」

 

笑顔を浮かべてお礼を言うと、モモの顔に朱がさすのが見た。

珍しいその反応に俺は調子に乗って続けた。

 

「しっかしこうして撫でられているとやっぱりお姉さんだな、モモちゃん」

 

   スパンッ

 

いい音を立てて後頭部をはたかれた。やっぱり『モモちゃん』は禁句のようだ。

 

「元気が出たならとっとと戻るぞ。早く戻らないと自分の持ち込みたい物が却下される事になりかねんぞ」

 

「了解」

 

去っていくモモの背中に、叩かれた頭を撫でながら返事をする。

そしてもう1度振り返り屋上からの光景を眺めた俺は、気持ちを切り替えるように大きく息を吐くと、前を向きモモの背を追って屋上から離れたのだった。

 

  side out

 

 

 

          §  §  §

 

 

 

  side 榊原小雪

 

今日この日、僕は榊原小雪になった。

 

あの日、ジンにーたちとたくさん話し、僕の今後の身の振り方を考えるように言われた日。午後になってみんなが帰った後、僕の部屋に1人の男の子がやって来た。

 

僕はその男の子を見た事があった。

同じ小学校に通う同じ学年の男の子だった。1年生の時に1度だけ同じクラスになったけど、話しかけ事も話しかけられた事もなかった。見た事があるだけ。

でも男の子はいつも誰かの中心にいる子だった。頭がよくてお話し上手。だから僕も覚えていた。

イジメられて無視されていた僕でもその子の存在だけは覚えていた。

 

初めましてと男の子は言った。

 

本当は初めましてじゃない。けど男の子は僕の事を覚えていないなのだろう。だから僕も初めましてと返事をした。

 

どうしてここに来たのと聞いたら、男の子は僕とお友達になるために来たと言った。

今までの僕だったら直ぐに喜んでいたかもしれないけれど、僕は少しだけ男の子の事を疑問に思ってしまった。

だって今まで同じ学校の子が僕のお友達になりたいなんて、ひとりもいなかったからだ。だから僕は違う学校の子とお友達になろうとした。

 

僕が男の子の言葉に答えずに考えていると、男の子は少し困ったような笑顔を浮かべていた。

その笑顔を見た時、この男の子は本当に僕とお友達になりたいのだと思った。

 

だって、男の子が浮かべたその困ったような笑顔は、ジンにーが親の話をした時に浮かべる笑顔と同じだったから。本当に僕の事を心配してくれている事が分かる笑顔だったから。

 

だから僕は男の子の事を信じようと思った。

 

僕は少し遅くなったけどお友達になろうと返した。男の子は安心したような笑顔を浮かべた。

そうして僕は初めて同じ学校のお友達を手に入れたのだった。

 

男の子は自己紹介をしてくれた。

名前は葵冬馬くん。僕は知っていたけどね。『トーマ』って呼んで下さいと言ったので、そう呼ぶことにする。

 

僕も自己紹介をする。たぶんトーマは僕の事を知っているはずだけど、自己紹介を受けたなら自己紹介で返さなきゃいけない。

少し心配だったけど、僕は強く生きる事を決意したのだから、きちんとフルネームの『姫川小雪』と名乗った。

ちょっとだけ考え込んだトーマは、僕の事を『ユキ』と呼ぶ事にしますと言った。

僕はまた嬉しくなった。だって昨日と今日で2つのあだ名をつけられたから。

 

嬉しくて笑顔を浮かべる僕にトーマはいろんな事を話してくれた。

 

1番驚いたのはトーマがジンにーとお友達だったという事。

驚いている僕を見るトーマの顔はまるでイタズラが成功した時のような笑顔だった。でも僕はその笑顔に不愉快になる事もなく、一緒になって笑ったのだった。

 

たぶんトーマはジンにーのお友達だから僕のお友達になってくれたんだろう。

でも僕はそれでもいいと思った。だって、例え最初のきっかけがそうだったとしても、トーマはちゃんと僕とお友達になりたいと思ってくれているし、これからお友達として過ごしていくのに、きっかけなんてすごく些細な事だと思ったからだ。

 

日が暮れてそろそろ門限だから帰るといったトーマは、また来ると約束してくれた。

それに頷き答えた僕は部屋を出ていくトーマに手を振って見送ったのだった。

 

翌日、お見舞いに来たのはジンにーとモモ先輩の2人だった。ヒーくんは別のお友達との用事で来れなかったらしい。

 

僕は昨日みんなが帰った後で、トーマとお友達になった事を2人に話した。

モモ先輩はよく分からなかったみたいだけど、僕に新しいお友達が出来た事を喜んでくれたし、ジンにーも凄く優しい笑顔で僕によかったなって言ってくれた。

 

午後になって2人は帰っちゃったし、トーマも今日は来なかったけど、僕は悲しいとか寂しいとか思わなかった。明日が来る事が本当に楽しみで仕方がなかった。

こんな風に感じるなんて初めてで、僕はこの感情をずっと大事にしようと思った。

 

ある日、トーマは1人の男の子を連れてきた。

 

名前は井上準。

そういえば学校でもいつもトーマの近くにいる男の子だと気付いた。トーマと違ってなんていうのかな、存在感が余りないから僕は殆ど覚えていなかった。

 

素直にそう言ったらなんか落ち込んじゃって、でもトーマは慰めることなく笑っていたから僕も笑っちゃった。さらに落ち込んでいた背中がなんか凄く印象的だった。

その準も僕のお友達になってくれた。僕は『準』って呼んで、準も僕をトーマと同じ『ユキ』って呼ぶことになった。

 

でも今日トーマが準を一緒に連れてきたのは、ただ単に準を僕に紹介するためだけじゃなかった。

 

この前の自己紹介の時に、トーマのお父さんが今僕が入院しているこの大きな病院の院長さんだって事を聞いた。そして準のお父さんが副院長。

 

どうしていきなりそんな話をするのかな、って思っていたら、トーマが僕に養女になりませんかって聞いてきた。

僕は驚いたけど準は驚いていなかった。きっと先にトーマから話を聞いていたのかな。

 

トーマは僕の家の事情を知っていた。最初はどうしてって思ったけど、トーマはジンにーから聞かされたって言った。そしてジンにーに僕の力になってあげるようにと頼まれたって言った。

 

ジンにーはホントに凄いと思った。僕が考えている事のはるか先をいつも考えている。それでいて僕の事を凄く気に掛けてくれている。

 

僕にとってジンにーはヒーローだ。僕の命と心を救ってくれたヒーローだ。

 

トーマが言うには、トーマのお父さんの病院であるこの葵紋病院の先生の1人が、ずっと子供が生まれなくて、もう奥さんの年齢的にも出産は難しいから、養子を欲しがっているらしい。

もし僕が望めばその先生の養子としてこれから生きていく事も出来るし、もしそうなったらどんな事でも手伝うと言ってくれた。

 

分かったのはそれぐらいで後は弁護士がどーのこーの、養子手続きがどーのこーのと難しくて理解できなかったけど、もし僕が養子になる事を望めば、後の事はトーマたちが全部やってくれる事は分かった。

 

トーマは返事は早い方がいいって言ってたけど、僕はすぐには返事が出来なかった。

だから僕はその日の夕方に会いに来てくれたジンにーに相談した。

 

ジンにーは僕が望むならその方がいいって答えた。アドバイスは出来るけど決めるのは僕自身だと教えてくれた。

 

そう答えた後で、僕のお母さんの事を教えてくれた。

 

お母さんは結局、鉄爺が言った通りになった。

僕を殺そうとした殺人未遂と保護責任者遺棄の罪で逮捕され、僕の親権を剥奪された。

 

お母さんの事を聞いて悲しかったけど、涙は出なかった。慰めるように頭を撫でてくれたジンにーのおかげで、僕は強くなれるんだと思えた。

 

僕が取ることの出来る選択は3つ。児童相談所の保護施設に入るか、孤児院に入るか、トーマの提案の養女になるか。

ジンにーはしっかり考えて自分で決断しろって言った。例えどの決断をしても友達に変わりはないとも言ってくれた。

 

だから考えた。その日の夜は眠れなかった。たぶん僕は今まで生きてきた中で1番考えたと思う。

 

そして僕は決めた。

 

 

養女になる事を。

 

 

いっぱいいっぱい考えたけど、1番の理由はせっかくお友達になったトーマと準と離れたくなかったから。

ジンにーたちはずっと友達でいてくれると言ってくれたけど、トーマと準は僕がここを離れたらもう会えなくなっちゃう気がしたんだ。

だからトーマと準と一緒にいられる道を僕は選んだ。

 

そう伝えた時、トーマはこれからもよろしくって言ってくれたし、準もこれからの長い付き合い仲良くしようと言ってくれた。

ジンにーもモモ先輩もヒーくんも、僕の選んだ道を応援してくれるって言ってくれた。会う事は難しくなるかもしれないけどずっと友達だと言ってくれた。

 

だから僕は、自分が選んだこの道を一生懸命生きていこうと思った。

 

それからはホントにあっという間だった。

 

次の日には僕を養子にしてくれる榊原先生とその奥さんと会い、担当になる弁護士の先生とも面会した。僕にはホントに何が何だか分からなかったけど、あれよあれよと手続きはあっという間に終わり、僕の養子手続きは1週間で終わったのだった。

 

 

そして2004年8月30日。

 

 

「お~い! 2人とも~! 何やってんだ~!」

 

 

遠くで準が呼ぶ声が聞こえてくる。

 

 

「行きますよユキ」

 

 

隣でトーマが優しく声を掛けてくる。

 

 

「うん!」

 

 

僕は元気よく答え、トーマと一緒に準の元へと歩いて行く。

 

 

今日この日、僕は榊原小雪になった。




あとがき~!

「第23話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。今回のお相手は――」

「榊原小雪だよ~」

「はい、今回エピソードの主役、榊原の姓になりました小雪ちゃんです」

「いえ~い!」

「救済されたってのに性格変わんないね君は。さて今回のお話ですが、これにて小雪救済エピソード終了となります」

「終わり終わり~」

「相変わらず小雪視点では会話文は入れませんでしたが、なかなか上手くいっていると思います。後日談の回想っぽい構成で終わりましたがなかなかいい終わり方ではなかったでしょうか?」

「自己満足自己満足!」

「話聞いてないってのに的確なツッコミだね」

「あはははは~」

「もうわけ分かんないよこの子。さて5話に渡ってやりました今回のエピソードをもちまして、とりあえず原作突入前にやりたかった話はやり終えました。次回からの再び日常編を数話やりまして、そろそろ原作に入ろうと思っております」

「おお~! 頑張れ~!」

「はい、頑張らせていただきますよ。では次回投稿もよろしくお願いします」

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