――2005年 2月13日 日曜日 AM10:00――
闘気を纏った右拳を繰り出す。
拳はいとも簡単に受け止められ、纏っていた闘気は同等の闘気で相殺され霧散する。
拳を引くと同時に左足を踏み込み、顎先目がけて真下から右脚を振り上げる。
的確に捉えるはずだった蹴りは、爪先を左の人差し指1本で抑えられた。かなり本気で蹴ったのにたった指1本で抑えられた事にかなりショックを受ける。
だが戦闘モードの思考は次の行動を指示する。すぐに蹴り脚を戻し地面に着く前にその脚を上段蹴りに変え左側頭部に向かって放つ。
だがその蹴りが当たる前に、右の肘鉄が私の鳩尾を打った。
私が吹っ飛ぶと同時に地面を蹴りる音が聞こえ、さらに飛ばされている私の横を何かが通り過ぎる音も聞こえたかと思うと、背中に衝撃を受け身体は面白いように宙に舞った。
仰向けで宙に浮いている私に影がさす。それに気付いた瞬間、腹に衝撃を受けたかと思ったら間髪入れずに背中に衝撃を受けた。
間違いなく背中から地面に叩きつけられたのだろう。一瞬だけ息が詰まり呼吸が出来なくなると同時に視界も一瞬暗転する。
視界が戻った私が真っ先に見たのは、喉元に突きつけられている手刀だった。
「俺も勝ちだなモモ」
小さな笑みを浮かべてジンは言うと、喉元に突きつけていた手刀を引っ込め倒れている私に向かって手を差し出す。私はその手を掴む。
「ちぇ、今回こそはと思ったのにな」
愚痴をこぼしながらジンの手を借りて起き上がる。
ジンはそんな私を落ち着かせるように頭を軽く叩く。
この行動をされる度にいつも思うんだが、こいつ私が年上だという事を時々忘れてないか? 私としてはみんなと同じ扱いをされていると思う時があり、嬉しいと思う反面どうしても腑に落ちない時がある。
まあ、今は素直に嬉しいんだけどな。
「なんじゃ、まぁた負けたんかモモ」
心地良さに浸っているとジジイの声が聞こえてきた。
言葉と共に突きつけられた事実に私の機嫌は一気に下降する。
「うるさいぞジジイ。今回はいけると思ったんだよ」
「前もそう言っておったのう。それで戦績は?」
「……7戦全敗だ」
視線を外し小さな声で答える。
いちいち聞いてくるなクソジジイ。いつも見てるくせに。どうせ今日の勝負もどっかで見ていたんだろ。
「お前は純粋な力では神には勝てんのだからもっと技を磨け」
「ふん! これでも試合時間は延びているんだぞ!」
「それは神が手加減しておるからじゃろ。今回も攻勢に出られたら一瞬で終わったではないか」
「いや、でもモモの力もだんだん強くなっていますよ。このままいけば俺に勝つ日ももうすぐじゃないですかね?」
私とジジイの会話を遮るように言葉を掛けてきたジンに、
「お前が言っても説得力ないぞジン」
「お主が言うても説得力ないわ神」
同時に突っ込んだ。
「ワタシから言わせれば、全員非常識ですヨ」
そんな風に呟いたルー師範代の言葉は、私たち3人には全く聞こえていなかったのだった。
「そういえばモモ、今日はカズたちと出かける約束があるんじゃないのか?」
休憩で道場の床に腰を下ろした私にジンは確認するように問い掛けてきた。
そういえばと思い出し道場の時計に視線を向け時間を確認する。
只今の時刻AM10:30。約束では京が来る時間だ。
しまった!? もう約束の時間だ!
そう思った瞬間、道場の入り口からワン子が顔を出した。
「お姉様? 京来たよ~」
ああ! ワン子が呼びに来た! まだ全く準備してないぞ私!
「ワン子! すまないが京の相手をしていてくれ! すぐに準備する!」
そう言葉を掛けた私は急いで汗を流すためにシャワーに向かったのだった。
きっかけは京の言葉からだった。
『今年は大和に手作りのチョコをあげる。そして大和の心を貰う』
手作りのチョコを作る。そう言った京の言葉に私は便乗する形で作ってみようと思った。
実は自分がジンの事を好きだと自覚した夏以降、私は一応ではあるがバレンタインにチョコを渡していた。まあ鈍感なジンは私がイベントを楽しんでいるだけと思っている節があり、私の気持ちに全くと言っていいほど気付いている感じがしない。
さすがに少しムカついてきたので、今回は京の言葉にならって手作りのチョコを渡そうと思った。そうする事で少しは気持に気付いてほしいという願望を込めて。
そういった経緯から京とワン子と一緒に手作りチョコの材料を買いに行った。
チョコなんて作った事ない私は何を買えばいいのかさっぱり分からない。京のように事前に調べておくべきなのだろうか。
まあワン子は予想通り食べるためのチョコを買いこんでいた。一応仲間には渡す義理チョコは私たち3人で出し合って人数分買う事になっているのだから、ワン子が買っているのは自分で食べるためだろう。
逆に京はまさに真剣そのものだった。
材料買う時からそんなに力入れなくてもいいだろうと言ったのだが、京曰く。
『モモ先輩。バレンタインで手作りチョコを作るなら材料選びから既に戦いは始まっているんだよ』
らしい。よく分からん。
仕方ないので私の分の材料も京に任せた。あそこまで真剣なんだ、大丈夫だろう。
買い込んだ材料を持って川神院の台所を借りる。
事前に料理長には了解を取ってあるので問題はない。その料理長は女性で、私たちがバレンタインのチョコを手作りで作ると言ったら『若いわね~』と少しにやけた笑顔を浮かべたのだった。
取り出した材料を並べて思った事なのだが、手作りチョコは生クリームが必要なんだな。チョコだけでいいと思っていた。
そう呟いたらまたも京が答えを返して来る。
『チョコだけでも問題ないけど、冷ました後でかたくなるよ。愛情を持って作るなら生クリームは必須!』
らしい。なるほどな。
だがどうして手作りチョコを作るための材料に七味があるのだろう。なんか嫌な予感がしてならないんだけどな。
とりあえず作り始める。
これが以外と手間がかかった。
予想通りワン子はあっさりと諦めた。もともと共同で買った物を渡すつもりだったワン子だから問題ないだろう。作っていたのも私と京が作っていたから一緒にやりたかっただけらしい。かわゆい奴だ。
京は苦戦していた。恐ろしく気合を入れているのにかかわらずまるで空回りだ。
トリュフを作った京だったが、ガナッシュを作るのに3回失敗し、その後に成功したものはそれに気付かなかったワン子に食べられた。
京からの折檻を受けたワン子だが、流石にそれは庇えないぞ妹よ。
その後にも成功したがココアパウダーをまぶすと同時にやはりというか、七味も一緒にまぶしていたのでそれは廃棄させた。
さすがに七味が掛ったチョコを渡されては大和が可哀想だ。
感謝しろよ弟よ。お前の胃袋を私が事前に守ったぞ。
結局6回目にして完成。終わった頃にはもう既に夜になってた。
ちなみに私はレシピに軽く目を通した後、試しにと作ったら1発で成功した。
そのせいかもしれないが京にはなぜか睨まれた。理不尽だなオイ。
明日は秘密基地に全員集まることが決まっていたので、私と京が作ったチョコトリュフは料理長の了承を得て、川神院の冷蔵庫に置かせてもらうことにした。
学校が終わった後に取るに来る手筈だ。その間に食べられにようにきちんと見張っておいてくれるらしい。
夜遅いという事で京を家に送っていき、今日はお開きとなった。
§ § §
――2005年 2月14日 月曜日 PM5:00――
バレンタインデー当日。
秘密基地の部屋の片隅で、毎年恒例でこの世の終わりかのような陰鬱な雰囲気を醸し出しながら落ち込む馬鹿が1人。
「おいモロロ、鬱陶しいからアレをなんとかしろ」
「いやあ、さすがに無理」
私の言葉に速攻で返すモロロ。苦笑いを浮かべているあたり、毎回の事だから何を言っても無駄な事を悟っているのだろう。ガクトの事だどうせバレンタインのチョコを1つも貰えなくて落ち込んでいるのだろう。
実に分かりやすい奴だ。
「なんだよ。チョコレート貰えないぐらいで落ち込むなよガクト」
事態が分かっているのかいないのか、ガクトにしてみれば絶対に言われたくないキャップのひと言にさらに落ち込む。
苦笑いを浮かべてその背中を眺めるしかない大和とモロロ。
「一撃必殺、会心の一撃、クリティカル」
京の含み笑いのこもった呟きに誰もが首肯した。
バレンタインデーは毎年いつもこうだ。今日は秘密基地の廃ビルの1室だが、以前は原っぱに集まり男どもの戦果を比べる日にもなっていた。
ちなみに毎年ガクトは1つも貰えていなかった。(親や私たちからのものは勘定しない決まりもある)
「それでは妹よ! 男どもにバラまけ!」
「了解! お姉様! 受け取りなさい男ども!」
私の命令のもと、私たち3人でお金を出し合って買ったチョコを命令通りそれぞれに向かって投げ飛ばした。
ジンとタカとキャップは難なくキャッチ。大和とモロロは少し慌てたが何とか受け取る。落ち込んだままだったガクトは後頭部に直撃した。
「よかったガクト、チョコ貰えて」
「仲間内のやつは数に入れねーって決めてるから意味ねーだろ!?」
からかうような大和の言葉に声を張り上げて反論するガクト。
しかしそんな事を私たちの前で言っていいわけがない。そっちがそう言うならこちらも言い返してやろう。
「なんだガクト、いらないのなら返してもらおうか。ワン子ならたくさん食べるぞ」
「ありがたく貰っておきます!」
間髪入れずに貰ったチョコを掲げた頭を下げるガクト。
分かればいいんだよ分かれば。
そんな馬鹿な事をやっている最中に、京は昨日一生懸命作った手作りチョコを大和に手渡していた。
「はい大和。私の愛情と情熱と恋慕がいっぱい詰まった手作りチョコ。愛の告白と共に受け取って。好きです」
「ありがとう京。チョコは受け取っておく。お友達で」
オイお前ら、なんだその言葉の応酬は。
「なにこの人たち。さりげなく告白した京も凄いけど、大和は何もなかったかのようにスルーしたよ?」
モロロのツッコミがみんなの心を如実に表している。
「そんなクールな大和はカッコイイ。愛してるから愛して」
「カッコイイは嬉しい。気持ちは嬉しいけどお友達で」
「くすん、今日もダメだった」
告白を玉砕されて座っていたソファーに身を沈める京。誰にでもばれる嘘泣きをしながら手で目を隠す。
そんな京にジンは呆れたように言葉を掛ける。
「もはや告白の大安売りだなミヤ。だけどそれじゃ駄目だ」
「どういうことジン兄?」
「言葉には重みが必要だ。いつも言っていればその言葉はに重みがなくなる。大事な言葉とはたまに言うからこそ、心に響くんだ」
何やら講釈を垂れるジンとその言葉を真剣に聞く京。
モロロとタカはそんな2人を苦笑いを浮かべながら眺め、キャップとガクトは私たちが渡したチョコを、ワン子は自分で持ってきたチョコを早くも食べていた。
大和はジンが何を言うのか気が気でないのだろう落ち着きがない。
「でもジン兄、私はいつでも大和に好きって言いたい」
「ならば方法は1つだミヤ」
「なに?」
「常に言いたいのならいつも本気の気持ちを込めて言い続けろ。一念岩をも通すだ」
「余計なことを言うな兄弟!」
さすがに旗色が悪くなると思ったのだろう。慌ててジンの言葉に詰め寄る大和。そんな大和を京は情熱のこもった眼差しで、ジンは温かな眼差しで見つめていた。
弟よ……少しだけ同情してやる。
「さぁて! 恒例の戦果報告タイムといこうじゃないか!」
そんな馬鹿をやっている3人を無視して私は高らかに宣言した。
ガクトとモロロがあからさまに顔を引きつらせ、キャップとタカはなんか疲れたような溜息を吐く。変わらないのはジンと大和だけだ。
だが忘れないないかガクト。この報告会をやろうと言いだしのはお前だぞ。
さて始めようか。毎年恒例の行事『男の価値を決めろ! バレンタインチョコ誰が1番多く貰えたか報告大会(ガクト命名)』。
さて、今年はいったい誰が1番の恥をかくのかな?
ニヤリと笑みを浮かべる私に、男どもは全員深い溜息を吐くのだった。
あとがき~!
「第24話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。今回のお相手は――」
「男の中の男。俺様島津岳人登場!」
「初期風間ファミリー最後の登場となりました、キング・オブ・馬鹿の登場です」
「おいコラ、誰がキング・オブ・馬鹿だ」
「君の事だ。なんらなアルティメット馬鹿のほうがいいか?」
「どういういう意味だそりゃ?」
「究極の馬鹿」
「もっとわりーじゃねかよ!?」
「馬鹿な話はここまでだ。さて今回のお話ですが、説明するまでもなくバレンタインのお話です。時事ネタですが季節感全く無視してます」
「これ投稿してる時期と全然違うけどな」
「物語の時間経過を重視、という事にしておいてくれ」
「いい加減な逃げ道を作ってるなオイ」
「いいだろ別に。さて話を読めば分かりますが、時事ネタにも関わらず前後編構成です」
「なんか意味あんのか?」
「それが全然ない。ただ単に書いてたら文字数が1万超えたから2話に分けただけ」
「1万超えって……」
「そういうことなので、次回投稿の後編もよろしくお願いします」