真剣に私と貴方で恋をしよう!!   作:春夏秋冬 廻

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第26話投稿。


第26話 変わる関係、神の決意

いつから気なりだしたかと言われれば、たぶん正確には答えられないだろう。

 

いつも一緒にいたし、幼少の頃なんかまさに四六時中隣にいたと思う。

それが当たり前で、何の違和感を感じることなく今まで過ごしてきている。

俺たちはたぶんお互いが家族でもなく友達でもない想いを持っているだろう。でも絶対に何があろうともお互いの最も信頼する相手で心を預けられる1番の存在だし、彼女もそう思っていてくれると言い切れる。

 

でも、言葉にすると物凄く曖昧な関係だと言える。

 

家族とは違う。

友達という言葉も当てはまらない。

友達以上恋人未満とよく噂されるがそれもなんか違う。

相棒、という言葉がもしかして1番しっくりくるのかもしれない。

 

こんなあやふやな関係が実に3年以上続いている。

 

と言ってもこれは俺が感じているもので彼女は恐らく違うだろう。

彼女の想いに気付いていないわけじゃない。意外と恥ずかしがり屋な彼女が、時に驚くようなアプローチをしてくるのはちゃんと分かっていた。

それを気付かない振りをしていたのは自分だ。

 

曖昧であやふやだけど居心地のいいこの関係を変えたくなかった。

変えたところでお互い決定的に変わる事はないと分かっていても、俺はその1歩を踏み出すことに躊躇していた。

 

 

何より俺は『俺という存在』を明確に持っていなかった。

 

 

赤ん坊の頃に川神院の門前で置き去りにされた孤児。

それは俺の境遇でしかなく、俺という存在の由来にはならない。

俺は自分が自分だという確かな認識はもちろん持っているが、その俺がどう生まれで本来はどうやって生きる存在なのかを全く知らないのだ。

 

分かりやすく言えば、俺は“暁”という一族がいったいどういう一族なのかを知りたかったのだ。

 

だから鉄心さんから“暁”の一族についての話を聞いた時、自分とその周りをありのまま受け入れてもいいと思った。

 

それがきっかけになったのは間違いない。

彼女にしてみればかなり時間を掛けてしまったと思うだろう。

 

女の方が精神的な成長が早いとはよく言うが、全くその通りなのかもしれない。

少なくとも、彼女は俺より先に2人の関係をどうにかしたいと思って行動を起こしていたのは確かなのだ。

 

なら俺もそろそろ覚悟を決めなければならないのだろう。

 

先日聞いた俺という存在の意味を俺なりに受け入れたのだから、先に進むのは決して悪い事にはならないはずだ。

 

手の中の箱を眺めながら、俺は小さく笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

          §  §  §

 

 

 

――2005年 3月14日 月曜日 PM5:00――

 

今日はホワイトデー。

 

製菓会社の陰謀によって作られたバレンタインデーのお返しの日。

ここ日本ではものの見事に製菓会社の陰謀にはまった人間が1ヶ月のお返しを切磋琢磨に励んでいた。

 

まあ偉そうに言ってみたものの、俺たちもファミリーの女子たちへのお返しをちゃんと用意しておく。

ちなみにファミリー以外の女子にはお返しはしない。可哀想とも思うが、数が数だけにお返しなんて用意できるはずがない。

 

チョコを貰うと同時に告白をしてきた女子もいたがその場で断っているし、手渡しすらされていない物に対してのお返しなんて出来るものじゃない。

実際キャップとヒロもファミリー以外にはお返しは一切していなかった。

 

昨日は男全員で今日のためのお返しを買いに行った。

今年は何にしようかといろいろ悩むのが毎年恒例だ。お菓子は確実に却下される。モモが言うにはバレンタインで俺たちが貰ったチョコを分けて食べたのに、ホワイトデーのお返しまで食べ物はやめてほしいのだそうだ。

 

分からんでもないが貰う人間が貰う物にダメだしをするのはどうなんだ?

 

だがお菓子は欲しくない心情が分かるから無駄なツッコミはしない。

そうなると候補として挙がるのはアクセサリーなどのファッション系かぬぐるみなどのファンシー系、あるいはハンカチなど日常的に使うものぐらいだろう。

 

ちなみにガクがお笑いグッズにしようと言い出したが、その瞬間に物理的に黙らせた。そんなお笑い路線に行ったら去年みたいにモモにボコボコにされるのは目に見えている。

 

ただでさえ3倍返しが鉄則になっているのにそんなこと出来るか。

 

ノビてるガクを放置して残りで意見を出し合った結果、無難にもマグカップとハンカチにしようという意見で纏まった。

ちなみにヤマに個人的にミヤにお返しするのかと聞いてみたら速攻で否定してきた。

 

『そんなことしみろ! 次の日から彼女どころか妻ですって周囲に言いふらすに決まってる! そんな怖いこと出来るか!』

 

必死に言うヤマの言葉に違和感なく頷いてしまった俺たちは、改めてミヤの一途な想いが常識とは違うものだと実感したのだった。

 

まあそんな事が昨日あったわけなのだが、今俺たちがいるのは秘密基地として使っている部屋の扉の前。

さっきまでお返しの品を取りに行っていたヤマを待っていたのだが、到着したので女子たちが待つ部屋の中に入る直前だ。

 

今日の朝、やけに機嫌のよかったモモの姿が目に浮かぶ。

あれは今日のホワイトデーのお返しを楽しみにしていると同時に、何か別の事を期待しているような雰囲気だった。

そして玄関でじっと俺を見つめて、物凄くいい笑顔を浮かべると颯爽と学校に向かって行った。

 

なぜか変なプレッシャーに襲われた俺だった。

 

もしかしてあれか? 俺のやろうとしている事ばれてるのか? これもいつもの『女の勘』ってやつなのかな?

 

何やら背中を走った薄ら寒さに体を震わせた俺をカズが不思議そうに見ていた。

 

そんな朝のやり取りがあったため、俺は特別に用意したお返しを入れたポケットの上からさりげなく軽く叩くと、全員に目で合図を送ってきたキャップに向かって頷き返した。

そして扉を開いたキャップに続いて部屋の中に入るのだった。

 

「お~! 遅いぞお前ら」

 

入って正面のソファーに腰掛けていたモモが最初に声を掛けてきた。

カズはモモの隣に座り、ミヤはいつもの定位置の1人掛けの椅子に座っている。

 

「わりーなモモ先輩。ちょっと物を持ってくるのに時間が掛った」

 

代表してキャップが言葉を返す。

俺たちも部屋に入りそれぞれのいつもの定位置へと向かう。。

 

ちなみに風間ファミリーの基本の定位置を説明しておこう。

 

扉正面で窓を背にしたソファーにキャップとヤマ。

部屋に入って左側のソファーにガクとタク。

その対面右側のソファーにカズ。

扉を背にする手前のソファーにヒロ。

キャップたちが座るソファーの隣の1人掛け椅子にミヤ。

扉から1番奥に位置するタンスのような棚の上にモモ。

そして窓の前の掛けられたハンモックの上に俺。

 

以上の構図が秘密基地での基本の定位置だ。

今は正面のソファーにモモとカズが座っているのから、キャップとヤマは右側のソファーに腰を下ろした。

 

「さあ男ども、今年の献上品を差し出すがいい」

 

「とっとと出しなさい!」

 

全員が腰を下ろしたのを見てモモが早速催促し、カズがそれに合わせて声を上げる。

あの雰囲気から察するにカズは今年もお菓子だと思っているのだろう。可哀想だが期待に添えそうにないな。

 

「ワン子、気合入っているところ申し訳ないが、今年は食べ物じゃないぞ」

 

「ガーン」

 

ヤマの注釈に目に見えて落ち込むカズ。そんな予想通りなカズに俺は持っていたカバンからマシュマロの袋を取り出すと、カズの太腿の上に投げて寄越した。

 

「ジン兄? 何これ」

 

「余りモン。それしかないけど良かったら食べろ」

 

俺の言葉に『ありがとー』と言って早速袋を開けるカズ。そんなカズの行動を見ていたモモは意味ありげな視線を俺に向けてきた。

その視線が何を言っているのか分かっている俺は頷いて返す。小さく笑っているヒロの顔が視界の端に映った。

 

カズに渡したマシュマロは昨日、コユキに渡したホワイトデーのお返しだ。

実は先月の2月13日にヒロと一緒にコユキからチョコを貰っていた。それのお返しとして昨日、俺が代表でコユキにお返しをしたのだった。

ちなみに何でマシュマロかというとコユキのリクエストだった。

 

「よし! じゃあ今年の上納品だ大和!」

 

「了解だキャップ」

 

キャップの宣言にヤマが持っていた紙袋からお返しの品を取り出すと、ミヤには手渡ししモモとカズには目の前のテーブルの上に置いて見せた。

 

なにやら儀式めいたやり取りたが恒例のやり取りだ。

3年前のホワイトデーの時にヤマが面白半分で献上の儀式をやったところ、モモがそれを気に入り毎年やるようにと決定したのだ。

 

「ほう、今年はネタものじゃないのか。去年と同じだったらそれなりの制裁を加えようと思っていたのにな」

 

「やっぱりその気だったんだ。ガクトが言い出したけどジン兄が一瞬で黙らせたよ」

 

「俺様の意見、聞かれる事なく終わってよかったのかもな」

 

モモの言葉にタクが真っ先に反応し、ガクの体がビクリと震える。

思った通りだ。ガク、俺に感謝しろよ。モモの制裁の方が俺の物理的強制沈黙よりも酷い事になるのはさすがのお前でも想像できるだろ。

 

渡したマグカップとハンカチは思いのほか好評だった。

カズには茜色のマグカップとハンカチとい言うよりはハンドタオルを。

ミヤには藍色のマグカップとレースの付いた白いハンカチを。

モモには黒色のマグカップとシルクのハンカチをそれぞれ選んだ。

 

意外と嬉しそうだったのがモモの反応。

恐らく余り女の子らしく扱われたり、女の子らしい贈り物もしてもらった事がないモモにとって、シルクのハンカチは予想外だったのだろう。

 

ああ見えて意外とロマンチストなところがあるからなモモは。

 

「それで、今年は誰の意見を採用したの?」

 

「マグカップは僕。ハンカチはジン兄の意見」

 

ミヤの質問にヒロが答える。

このお返しをした後のネタばらしみたいなやり取りも恒例の儀式となっている。

ミヤも今年は満足気だ。まあ去年、初めてのホワイトデーなのにネタもの渡されたミヤは可哀想だった。

 

「うん、ナイスセンス。キャップやガクトじゃこうはならないね」

 

「なんか僕もそこに入ってそうな気がするな」

 

「ちなみにモロの意見は?」

 

「僕はぬいぐるみ。お金がかかり過ぎるから却下された」

 

「仕方ないさ。7人の合計でも予算的に無理だった」

 

ミヤとタクのやり取りに割って入る。

別段タクの意見でも問題はなかったのだが、実際却下の理由はキャップとガクがぬいぐるみを持ったモモとカズの姿を想像して爆笑したからだ。もしタクの意見を採用していたら今頃キャップとガクはモモに叩きのめされていただろう。

 

「ねーねー大和。バレンタインで京に個人的にチョコ貰ったのに、大和は京に個人的なお返しはしないの?」

 

「いつでも大歓迎! 365日受け付けるよ大和!」

 

さすがミヤ。さっきまで俺たちとの会話に参加していたのにヤマのお返しの話が出た途端、カズの言葉に食いついた。相も変わらず変わり身の速い事だ。

そんなミヤに顔を引きつらせながら言葉を掛けるヤマ。

 

「もはやそれだとホワイトデー関係ないだろ。なあ京、もし俺がお前に個人的なお返しをしたらどうするつもりだ?」

 

「もちろん大和の近所の人たちに『大和の妻です』って自己紹介して回るの」

 

ヤマが想像したまさにその通りの返答に俺たち男連中は顔が引きつるのを止められなかった。

その返答を間違える事なく予測したヤマも凄いが、躊躇う事なく行動すると言い切ったミヤもある意味で凄いな。

 

「そう言うと思ったから個人的なお返しはしない」

 

「私の事をそこまで分かってるなんてさすが大和。もうこれは結婚しかないよね。だから好きです付き合って」

 

「言葉に脈絡がなさすぎるぞ京。お友達で」

 

もはや恒例なりつつあるやり取りに、突っ込むのすら無駄だというのが最近になってみんなで導き出した答えだ。

だからこのやり取りのきっかけを作ったカズも2人を無視して、今度は俺にさっきヤマにしたのと同じ質問をしてきた。

 

「ジン兄は? お姉様に個人的なお返ししないの?」

 

まさかカズから言われるとは思っていなかった俺は、飲んでいたジュースをもう少しで吹き出すところだった。

そんな俺を見て先ほどのやり取りはどこに行ったのか、2人してニヤニヤした厭らしい笑みを浮かべて俺を見るヤマとミヤ。

 

「モモ先輩から個人的に貰ってたのかよジン兄!?」

 

「何でそこで驚くのさ? 去年も渡してたじゃないモモ先輩」

 

ただ1人驚くガクに速攻で突っ込むタク。キャップは興味がないのか眺めているだけで、ヒロは成り行きを静観している。

俺と同じようにカズに言われた事で少し驚いていたモモだったが、ニヤリと笑うとミヤと同じ返答をしてきた。

 

「いつでも大歓迎、365日受け付けるぞジン」

 

あの顔はアレだ。絶対にお返しがないと思ってるな。

まあ去年の一昨年も渡していないからそう思っているのかもしれないが、いい機会でいいきっかけだ。仲間がいる前でやってやろう。

 

「それじゃあ受け取ってもらおうか」

 

「えっ!?」

 

覚悟を決めて言った俺の言葉に、1番驚いたのは予想通りモモだった。

 

「カズ、ちょっと悪いがそこ代わってくれるか?」

 

ハンモックから飛び降りモモの隣にいたカズに声を掛ける。

言葉もなくコクコクと頷いたカズはモモの隣を離れ、対面のヒロの隣へ腰を下ろす。全員が呆然としている中で俺はジャケットのポケットに入れていた箱を取り出しながらモモの隣へと腰を下ろした。

 

部屋の中を静寂が包んでいた。

 

モモは呆然と俺が取り出した箱に視線を向けている。そんな姿を可愛いと思いながら俺は緊張を振り払うように大きな息を吐くと、姿勢を正し座りながらもモモと正面から向き合う。

 

さて、一世一代の大舞台の始まりだ。




あとがき~!

「第26話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。今回のお相手は――」

「あ~暁神だ」

「何やら照れていらっしゃる模様」

「うるさいな……」

「迫力がないね。さて今回のお話ですが、主人公がついに覚悟を決めました」

「それなのに次回に続くのはどうなんだ?」

「別に意図したわけじゃない。理由は文字数が1万2千にいきそうだったから2話構成に分けただけ」

「バレンタインの話と同じ理由か」

「そういう事。最近ちょっと意味のあるエピソードを書こうとすると軽く1万文字超えちゃうんだよね」

「意味のあるって……その言い方だと意味のない話もあるのか?」

「言葉のあやだ。日常的な話ではなくイベント的な話って意味の事。日常的な話は逆に文字数が増えなくて困ってるんだけどね……頑張って書いても5千~6千文字ぐらいかな?」

「約2倍の差か……確かに2話構成になったりするはな……ちょっと待て。最初の頃の話をみると大体3千~4千文字だぞ? いつから5千以上になった」

「鋭いね君……いつってことはない。いつの間にか増えてるだけ。小雪編なんて全話5千文字超えてるからね」

「まあの話は仕方ないだろ……それで? 次はこの話の後編なんだろ?」

「もちろん。だた少しシリアスで小難しい話です。作者は書いている途中でわけ分からなくなりました」

「おい……それでいいのか……」

「まあちょっと変な話で終わり方も強引になっているかもしれませんが、次投稿もよろしくお願いします」

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