side 風間翔一
「ウソだろ!?」
「そんなの信じるわけねーだろ!!」
「そんなの俺はゼッテー信じないからな!!」
「おい大和!! 今すぐ風間ファミリーを秘密基地に集めろ!! いいな!!」
「俺もすぐに行く!! 詳しい話はそれからだ!!」
言いたい事だけを言って大和から掛って来た携帯を一方的に切った俺は、蹴り破る勢いで部屋のドアを開けると、急いで家を飛び出していった。
そんな俺を不思議そうに見ていたお袋には後で連絡を入れておけば問題ない。
とにかく今は秘密基地に行くことが最優先だ!
俺は絶対に信じないからな!! ジン兄!!
side out
side 島津岳人
「はぁ!?」
「おい大和! お前何言ってんだよ!?」
「嘘ついてんじゃねーよ!! 冗談にもほどがあるぞ!!」
「冗談じゃないって……マジなのかよそれ!?」
「キャップからの召集命令!? 分かった俺様もすぐに行く!!」
大和から掛って来た携帯を切って俺様は日課の筋力トレーニングを切り上げ急いで家を出る準備をすると、玄関から飛び出していった。
後ろでかーちゃんが何やら叫んでいたけどそんなの今はどうでもいい。
1秒でも早く秘密基地に行かなきゃなんねーんだ!
マジに何がどうなってんだよ!? ジン兄が行方不明ってホントかよ!?
side out
side 師岡卓也
「えっ!?」
「大和……それ本当なの……?」
「僕を担ごうと思ってみんなで嘘ついてるんじゃないの?」
「本当なんだ……それでみんなには連絡したの!?」
「キャップから召集命令? うん分かった。僕もすぐに向かうよ!」
大和からの信じられない報告に一瞬呆然となりながらも何とか返事を返すと、僕はゲーム本体の電源を切ると、急いで出かける準備を整え、書置きを残して家を出た。
今日はたぶん遅くなるかもしれない。後でもう1度連絡しておこう。
それよりも今は早く秘密基地に向かわなくちゃ!
とにかく大和から詳しく話を聞くんだ!!
side out
side 篁緋鷺刀
「大和くん!?」
「ジン兄が行方不明って本当なの?」
「うん、僕もテレビ見てたからニュースで……」
「ねえ大和くん、僕たちどうすればいいのかな?」
「えっ? キャップからの召集がかかった? うん、すぐに行く」
ニュースを見て呆然としていた僕に大和くんから連絡が来た。とにかく秘密基地に集まるようにとキャップからの命令も出ているみたい。
僕は凛奈さんに事情を話して急いで家を出た。
何も出来ないけどまずは秘密基地でみんなと会わなくちゃ!!
ジン兄! 無事に決まってるよね? 信じていいんだよね!?
side out
side 椎名京
「大和……」
目の前でみんなへの連絡を終えた大和に声を掛ける。
私とワン子はあの後、鉄心さんに促されて大和の家に来た。私たちが家に着いた時、大和はちょうどキャップに連絡を取ってる時だった。
私たちが来た時に連絡を始めたという事は、それまでは大和のおじ様の情報を待っていたって事かな?
携帯を折り畳み1つ大きな溜息をついた大和は、玄関で立ち竦んでいる私たちの方に振り向いた。
その大和の顔を見た瞬間、私の隣にいたワン子が私の服の袖を強く掴んだ。私も思わず身を固まらせてしまった。
大和の顔が、今まで見た事のないぐらい悔しさで歪んでいた。
でもそれはほんの数秒だけで、大和は2・3度軽く首を振るといつもの表情とは言えないが、だいぶ落ち着いた表情に戻っていた。
「京、ワン子、キャップからの召集令だ。秘密基地に今から行くぞ」
端的の目的だけ言った大和は、リビングに顔を出しおば様に出かける旨を伝えると玄関に戻って来た。その大和にワン子は声を掛けた。
「大和……お姉様は――」
モモ先輩が鉄心さんと一緒にアメリカに行く事を伝えようとしたのだろうが、大和に手で止められた。
「知ってる。電話で話していた時に鉄心さんから聞いた。姉さんは鉄心さんと一緒にアメリカに行くんだろ?」
靴を履きながら言葉を掛けてきた大和に、ワン子と私は頷いて答える。
たぶんワン子も確認のために言ったんだと思う。鉄心さんと大和が話しているのを私たちは横で聞いてたんだから、大和も知っているはずなのは分かっていた。
「何か情報を大和のおじ様が持っているだろうって鉄心さんは言ってたけど……」
「詳しい事は基地に行ってから話す。今は急ごう」
私の言葉を引き継ぐように言い、爪先で床を叩き靴を調整すると、大和は玄関のドアを開けて私たちを外へ促した。
それに従ってワン子が先に次に私が外に出て、最後に大和が後ろに玄関のドアを閉めがら外に出た。
「とにかく行こう。みんな基地に向かってるはずだから」
そう言って歩き出した大和を先頭に、私たちは秘密基地へと歩みを進める。そんな大和の背中を見ていた私は、唐突に分かってしまった。
私たちは1番嫌な役を大和に押しつけてしまったんだという事を。
side out
side 川神一子
大和は秘密基地に向かっている今、ひと言も喋ろうとしない。
ずっと難しいそうな、それなのにちょっと怖い顔のままじっと道の先だけを見て歩いていた。
アタシはそんな大和が少し怖くなって思わず隣を歩いている京の服を引っ張った。そんなアタシの行動がどんな意味を持っているのかを悟ってくれた京は、困ったような顔で小さく首を振った。
たぶん、アタシと同じで今の大和には何を言っても意味がないと思っているんだ。
でもそれは仕方ないかもしれない。
だって大和にとってジン兄は、アタシたち仲間の中でも特別な存在なんだと思う。
前にちょっとだけど言ってた。
大和にとってジン兄は憧れであり目標であり、でもたぶん一生勝てると思えない偉大な存在なんだって。いつかジン兄にどんな事でもいいから認めてもらう事が今の目標なんだって言ってた。
今の大和は、そんな頑張るための目標が突然いなくなったような感じを受けているんだと思う。
きっと大和にとってジン兄は、アタシにとってのお姉様と同じなんだ。
アタシがもし今、お姉様が消えてなくなったら凄く悲しくて何をしていいか分からなくなっちゃうもん。
でも大和は泣く事も、アタシたちみたいにどうしたらいいかって迷う事もしないでお姉様に電話してきたし、みんなにも連絡をしていた。
お姉様と同じですぐにでもジン兄のいるところに行きたいのは、アタシたちの中ではたぶん大和が1番強く思っているんだと思う。
やっぱり大和は大人なんだと思う。自分の気持ちよりも周りのみんなの、ファミリーの事を今は最優先に考えてくれている。
でもそうなると、大和はいつ自分の心の中の思いを出すんだろう。アタシたちはたぶんこの後の秘密基地で集まってそれぞれ言い出すんだろう。
そして大和はそれを受け止めてみんなに説明をするんだろう。
アタシじゃどんな風になるか分かんないけど、何故か大和の心がどうなっちゃうかが心配だった。
お姉様はじいちゃんとアメリカに行っちゃうし、ジン兄は今回の事件でここにはいない。大和がアタシたちファミリーで頼りにしている2人がいない中、ホントに大和はどうなっちゃうんだろう。
アタシはそれが凄く気になっていた。
side out
side 直江大和
俺たちが秘密基地に着いた時、既にキャップ、ガクト、モロ、ヒロの4人は部屋の中にいていつもの定位置に座っていた。
でもみんないつもと雰囲気が全然違うのは一目瞭然だった。
「遅いぞ大和! 急いで来いって言ったよな俺! なんでこんなに時間かかってんだ!」
入って来た俺に最初に声を掛けたのはキャップだった。
声の感じからして明らかに怒っている。いや怒っているというよりは苛立っているといった感じだろう。俺が言った事を信じたくないから苛立っているんだろう。
ただその苛立ちを他人にぶつけるのはキャップにしては珍しかった。
「おい大和! オメー事の重大性が分かってんのか? 女とゆっくり来るなんてどういうこった?」
ガクトも苛立っている。
こいつはキャップとは違って状況が分からないから苛立っているんだろうが、だからといってその苛立ちを俺にぶつけるのはどうなんだろうな? ガクト?
「ガクト! 何で大和にそんな事言うんだよ!? 連絡してくれたの大和だろ!? 大和はみんなに連絡してくれたんだから遅くなるのは当たり前だろ!! どうせガクトはニュース見てなかったんだろ!!」
モロも珍しく声を張り上げてガクトに食って掛かった。
そう今回はどう見てツッコミじゃない。たぶんモロも自分でも訳が分からない苛立ちを抱えてるんだろう。
珍しく声を荒げしかも馬鹿にしたような言葉にガクトは表情を歪める。
「ああ!? 今なんつったモロ!?」
「ガクトはニュース見てなかったんだろって言ったんだよ!!」
「オメーがそれ言えんのかよ!? オメーもどうせゲームやっててニュース見てなかったんだろ!?」
「ああそうだよ!! だから僕たちは大和を悪く言う権利なんてないんだよ!! なのに少し遅くなったからって厭味ったらしく言って!!」
「テメーモロ!! 俺様にそんな口きいていいと思ってんのか!?」
怒りを露わにして立ち上がったガクトは、隣に座っていたモロの襟元を掴み強制的にソファーから立たせた。そんなガクトの行動にモロは本当に珍しく挑戦的に嘲け笑った。
「ほら!? 自分の分が悪くなるとすぐそうやって暴力に訴える!! 前から言いたかったんだけど僕はガクトのそういうところが嫌だったんだよ!!」
「へっ!! そりゃ奇遇だな!! 俺様はテメーのそんな根暗で陰険なところが大嫌いだったんだよ!!」
「何やってんだお前ら!! 今はそんなくだらない言い合いをしてる場合じゃねえだろ!!」
ともすれば掴みあいの喧嘩になりそうなヤバイ雰囲気になりだしガクトとモロにキャップが声を荒げた。2人はお互いを睨みつけた表情のままキャップに視線を向ける。
ああ、もう本当に嫌だこいつら。
「くだらないってなんだよキャップ!? そんな事言われる筋合いはないんだけど!?」
「そうだぜキャップ!! これは俺様とモロの問題だ!!」
「個人の問題じゃねーって言ってんだよ!! 今はジン兄の事をどうするかって話し合いをするから召集したんだ!!」
「それこそ意味ないじゃないか!! 僕たちみたいな子供が何か出来ると本気で思ってるの!? そんなの無理に決まってるじゃないか!!」
「無理かどうかは俺が判断する事だ!!」
「お気楽なんだよキャップは!! 判断するってどう判断すんだよ!! どう考えても無理だろ!! 俺様たちに何が出来んだよ!?」
「もうやめてよ!!」
キャップたちの言い合いに我慢が出来なかったんだろう。扉の前で佇む俺の隣にいた京が珍しく声を荒げて叫んだ。ちらりと視線を向けるとその目に涙を浮かべていた。
珍しかった。声を荒げる事もだけど涙を見せるのも京にしては珍しかった。俺たちの仲間になってからは泣く姿は殆ど見せてなかったのに。
京は前から仲間の絆を大切にしているところがあった。だから今回のこの状況に不安を感じてしまったのだろう。
なんせ、仲間の絆を繋いでいた最大の存在が消えてしまったのだから……
「やめてよ……今ここでみんなが言い合っててどうするの? せっかく大和が情報を持ってきてくれたのに……これじゃあ集まった意味ないじゃない……」
嗚咽を漏らしながら懇願するように言う京。
だが今の3人にはそれすらも届かないくらいの苛立ちが心を覆ってた。
「いい加減にしてよね京。何かあるとすぐ『大和大和』って。京って結局いつも大和頼りで自分から何かしようとしないよね」
冷たいモロの言葉に京は身体をビクリと大きく震わせる。図星を突かれたんだろう。縋るように俺を見上げてきた京だったが、俺はそれに何も応えなかった。
モロの言う通りだ。俺も前々から思っていた。京はいつも俺を頼る。いい機会だから少し自分でなんかしてもらおう。
顔を逸らし何も言わない俺に京は愕然と目を見開いて固まった。
「ちょっとモロ!! 何よその言い方!! 京に当たってんじゃないわよ!!」
モロの言葉に反論したのはワン子だった。文字通り犬が敵に威嚇するかのように唸り声でも上げそうな勢いだ。
その言葉に反応したモロはワン子と睨み合いを始めた。
「おいワン子! モモ先輩はどうした!? 俺は全員集合だって言ったろ!!」
そんなワン子にキャップが声を掛ける。
ようやく姉さんがこの場にいない事に気付いたのだろう。本来のキャップなら真っ先に気付くはずなのにやっぱりいつもとは違うのだろう。
なんか本当にどうでもよくなってきた。
「うっさいわよキャップ!! それを言う前にあんたたちが勝手に言い合いなんか始めたんでしょ!? 大和の話を全く聞こうとしないあんたたちが悪いんじゃない!!」
「んだとワン子!?」
今度はワン子とガクトの言い合いだ。
もう誰が誰に声を掛けても言い争いしか発生しない。
「ワン子にまで当たってどうするんだよガクト!! 凄めばどうにかなると思ってんの!? いい加減力で解決しようとするのはやめなよ!!」
「黙れっつてんだろモロ!!」
「俺たちの一大事にどんな用があるってんだ!! モモ先輩も薄情だ!!」
「お姉様がどんな気持ちでいるかも分かってないで!! 自分の言いたい事言ってんじゃないわよキャップ!!」
「や……やまとぉ……」
こんなに駄目になっちゃうものなんだろうか。こんなに脆かったんだろうか俺たちは。たった1人居なくなっただけでこうなっちゃう程に……
俺は本当にどうでもよくなった。
何なんだろうな今のこの状況。
ここは俺たちの憩いの場だったはずだ。
俺たちが楽しく笑うための場所だったはずだ。
それが今はどうだ?
兄弟がいない。
姉さんがいない。
キャップは苛立ちを他人にぶつけ。
ガクトはいつもより感情が昂り。
モロはあり得ないほど卑屈になり。
京は珍しく泣く姿を見せてしまい。
ワン子は感情のままに叫び。
ヒロは不気味なほど静かで。
全然いつもの俺たちじゃない。
いつもの俺たちと違う。
秘密基地にいる時の俺たちは……
キャップが勢いのまま振り回し。
ガクトが馬鹿な事をやって。
モロがそれにツッコミを入れ。
京が呆れたようにいじり。
ワン子が元気に笑い転げ。
ヒロが穏やかに慰めて。
姉さんが尊大に言い放ち。
俺がそのとばっちりを受け。
兄弟がさり気なくみんなをフォローする。
これがいつもの俺たちのはずだった。
いつもの風間ファミリーの姿のはずだった。
ここは俺たちにとって理想の場所のはずだった。
それなのに苦痛しか感じない。
この場所にいる事が嫌でたまらない。
自分の言いたい事だけ言い合うみんなが許せない。
それなのに冷静でいようとする自分が馬鹿らしくなってきた。
なんで俺はこんなところに居るんだろう。
なんで俺は何も言わずに佇んでいるんだろう。
なんで俺は自分の言いたい事をみんなみたいに曝け出さないんだろう。
ああもういい。
どうでもいい。
もう何も知らない。
もうどうにでもなってしまえ。
そう思っていても、俺は兄弟みたいにこの仲間たちを守りたいんだろうな。
全部を放棄しようとする思考の中で、俺はそんな事を思った。
そう思ったらもう終わりだ。何もしないわけにはいかない。
そう思ったらどうしても考えてしまう。どうするのかと。
こんな、みんなの纏まりがなくなってしまった状況で、あいつなら、兄弟なら、暁神ならどうするのかと考えてしまう。
そしてすぐに答えは出た。
兄弟なら簡単に治めてしまうんだろうなきっと。
何だろう。無性に笑いたくなった。
なんでこんな状況だっていうのに、俺は未だに兄弟には勝てないって思いが浮かんでくるのだろうか。
憧れで、目標で、いつか追い付きたい、いつか認めてほしい存在。
勝てない――いや違うな。
勝ちたくないんだ。
ずっと憧れでいてほしいんだ。
いつまでも憧れていたいんだ。
ずっと目標であってほしいんだ。
いつまでも目標にしていたいんだ。
ずっと俺の前を歩いて欲しいんだ。
いつまでもその背を追いかけたいんだ。
ならやろうじゃないか。
兄弟のように上手くはいかないだろう。
みっともなくてもいいじゃないか。上手くなくてもいいじゃないか。
俺は『直江大和』であって『暁神』じゃない。
俺は俺のやれる事を俺のやり方でやるだけだ。
だから失敗しても文句を言うなよ。兄弟。
あとがき~!
第34話終了。
内容的にはあまり進んでいません。
さて今回のお話ですが、初めてメンバー全員の視点をやりました。
最初の男4人は大和からの連絡を受けた時の状況です。
今回の大和の心境を考えるのが大変でした。
展開は遅々として進んでいませんが、次投稿もよろしくお願いします。