真剣に私と貴方で恋をしよう!!   作:春夏秋冬 廻

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第2話投稿。

第1話の数時間後、緋鷺刀視点のお話。


第2話 風間ファミリー、川神院にて

「山門を抜けるとそこはお祭り騒ぎだった~」

 

川神院の大きな正門を通り抜け広い境内を視界に収めると、そこはいろんな出店が並びたくさんの子供たちがいた。

 

今日は5月5日の子供の日。

今年の川神院はこの日、川神市内の子供たちの為に院内を開放し、小規模ではあるがお祭りのように出店が並ぶちょっとしたイベントを開催していた。

 

「ねえねえ大和。『サンモン』ってなに?」

 

前をキャップたちと歩いていた一子ちゃんが、言葉が聞こえたのか振り返りながら僕の隣を歩いていた大和くんに問い掛けた。

 

「いい質問だワン子。山門とは山に門と書く。仏教寺院の正門である、数字の3に門と書く『三門』の異称のことだ。寺院とは本来、山に建てられ山号というものを付けて呼んでいたんだ。その時の名残りで今現在は平地に建てられていても寺院の正門は山門と呼ばれている」

 

「へ~そうなんだ」

 

感心したように頷く一子ちゃんに対し、その横にいた岳人くんは眉間にしわを寄せていた。

 

「説明長すぎるだろ! しかも全く言っている事の意味が分らん!」

 

「あはは、やっぱガクトは馬鹿なんだ~!」

 

「ンだとこのワン子! じゃあテメェはさっきの大和の説明で分かったのかよ!?」

 

「ぜんっぜん分かんない!」

 

「胸張って言うこと!? てかそれじゃあなんでさっき頷いたのさ!?」

 

間髪入れず卓也くんのツッコミが入った。

 

「分かんなくても頷いておけば賢く見えるって大和が言ってたもん」

 

全員の視線が大和くんに集まる。

みんなの注目を集めた大和くんは前髪を軽く払うと腕を組んだ。

 

「フン。しょせん人間は見た目とその行動に騙されるということさ」

 

ニヒルに返す大和くん。

 

「お前さあ、そのアニメキャラっぽい喋り方どうにかしろよ」

 

呆れたように呟くキャップに一子ちゃんも岳人くんも卓也くんも一様に頷いた。

 

 

今僕の周りに居る5人の友達。

 

先頭を歩くのはバンダナがトレードマークの風間翔一くん。

僕の隣に並ぶのが最近やけにニヒルな言動が多くなった直江大和くん。

こちらを向き後ろ歩きしている1人だけ女の子だけど元気一杯の岡本一子ちゃん。

頭の後ろで腕を組み翔一君の隣にいる背が高く力持ちで喧嘩が強い島津岳人くん。

後ろからついて来ている物静かだけどいつもみんなに気遣っている師岡卓也くん。

そして僕、(たかむら) 緋鷺刀(ひろと)

 

去年の今頃から一緒に遊ぶようになった6人組は、リーダーでキャップと呼ばれている翔一くんの名字を取って『風間ファミリー』と称している。

 

学年は僕以外同級生で僕だけがただ1人の年下。といっても、僕とキャップと大和くんと一子ちゃんは3人が小学校に入る前からの友達だから、僕以外が上級生でも特に仲間外れにされたり、扱いが変わる事もなかった。

まあ岳人くんがやたらと僕を子ども扱いしているが、特に不満に思わない。

 

『年下を子ども扱いすることで自分の方が大人なんだと誇示したいのさ。そういった態度をとるほうが子供じみてるのにな』

 

と大和くんは言う。

 

 

「よし! 今日はここにある出店をすべて制覇するぞ!」

 

「よっしゃあ! 俺様は全部の食べ物を食ってやる!」

 

「いやそんなにお金持っていないし。そもそもそんなに食べたら絶対お腹壊すから!」

 

腕を振り上げ威勢よく宣言するキャップと岳人くんに卓也くんのツッコミが絶妙なタイミングで入る。

 

「なんだよモロ感じ悪いな。もう少しテンション上げろよな」

 

「現実問題、卓也くんは凄くまともなことを言ってると思うよ岳人くん。そもそも今日お小遣いいくら持ってきてるの?」

 

唇を尖らせて言う岳人くんに、卓也くんをフォローするように僕が言葉を掛ける。すると岳人くんは急に肩を落とした。

 

「俺様、今日は母ちゃんに500円しか貰えなかった……」

 

「それで全部の食べ物を食べるって無茶にもほどがあるよ」

 

「そもそもみんな今日の軍資金はいくらだ?」

 

「グンシキン?」

 

「今日の為にお小遣いいくら持ってきたかって事だよ一子ちゃん」

 

落ち込む岳人くんを無視して質問をしてきた大和くん。

軍資金の意味が分かっていなかった一子ちゃんに砕けた意味を教える僕。

 

「俺様さっき言ったように500円」

 

「僕も500円貰ったよ」

 

「同じく500円!」

 

「アタシもアタシも!」

 

「俺も500円だ。という事はみんなだいたい同じか……ヒロはいくら持ってきた?」

 

全員に確認するように聞いていた大和くんは最後に僕に問いかけてきた。

僕は財布を取り出しながら答える。

 

「6500円」

 

「「「「「なにぃぃ!」」」」」

 

僕を囲むように身を乗り出し、全員の口から同じ驚いた言葉が出た。

 

驚くのも無理はないと思う。1000円持っているだけでも凄いと言われる僕たちの年齢で、年下のしかもまだ小学3年生の僕が5000円以上の大金を持っていたら誰でも驚くだろう。といってもこれは全部僕のお金ではない。

 

「セレブだ! セレブがここにいるぞ!」

 

「何を基準にガクトがセレブって言ってるか意味分かんないけど、小学生がお小遣いで貰う金額越えてるよね、それ!?」

 

「すげーなヒロ!」

 

「セレブって何だっけ? あのクッキーみたいなお菓子?」

 

「ワン子、それサブレだ」

 

ワイワイと騒ぐみんなに囲まれつつも、僕は財布から千円札を5枚取り出すと、扇状に広げてみんなの前に差し出す。突然に僕の行動にいったいなんだと首を傾げるみんな。

 

「おば――凛奈(りんな)さんからみんなにお小遣いだって」

 

叔母さんと言い掛けた瞬間、背筋になにか薄ら寒いものが奔ったので慌てて言い直しながら、なぜ僕がこんなにお金を持っていたかの種明かしをする。

 

「「「「「なにぃぃ!?」」」」」

 

みんな一瞬、僕の言葉の意味が理解できなかったのかポカンと口を開けていたが、次の瞬間またしても全員の口から同じ驚いた言葉が出てきた。

 

今日なぜこんなにお金を持っていたかというと、理由は至って単純。僕の叔母さんである(たかむら)凛奈さんがお前と坊主たちの分だ、と言って千円札を6枚手渡してきた。それがなければ僕のお小遣いもみんなと同じ500円だった。

はじめは申し訳なく持っている分で十分だと断ったのだが、凛奈さん曰く――

 

『子供が遠慮なんかすんな。それに今日は子供の日だからな。ただ外に遊びに行くなら別にそれで問題ないかも知れんが、川神院に行くんなら出店も並んでいるだろうしな。ああいう所で遊ぶならそれなりに金がいるんだよ。分かったら持って行ってあいつらにも渡しておけ。今日は昼飯準備する時間がないから昼も食って来い』

 

らしく、ほぼ無理やり持たされた。

 

言い方はぶっきらぼうでいい加減なところがあるけど、それが凛奈さんの優しさだと分かっているから『ありがとう』とひと言お礼を言って家を出てきたのだ。

 

「サンキュー! なんだよタカ、お前の叔母さんめちゃくちゃ気前がいいな!」

 

「ありがとうタカ。そうだ帰ったらありがとうございましたって伝えておいて」

 

「有りがたく貰うぜ! よしゃあ! 今日は遊びまくるぞ~!」

 

「ありがとうねヒロ! うん、いっぱいお店回れるね」

 

「サンキューヒロ。みんなを代表して後でお礼に行くから凛奈さんにそう伝えておいてくれ」

 

口々に感謝の言葉を出しながら、僕の手から1枚ずつ千円札を取って行く。みんなに渡った事を確認しながら僕も財布中を覗く。きちんと千円札が入っていることを確認すると、財布の口を閉じてジャケットのポケットにしまう。

 

「よっしゃあ! 今日は遊んで遊んで遊びまくるぞ! 皆の者! 続け!」

 

「「「「「おぉ~!!」」」」」

 

勢いよく腕を振り上げたキャップに倣うように、みんな声をあげて同じように腕を振り上げた。

 

周りの大人たちの温かな笑顔に見守られている事に気付く事なく、僕たち風間ファミリーは意気揚々と川神院の境内を進んで行くのだった。




あとがき~!

「はい第2話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。
 今回のお相手は――」

(たかむら) 緋鷺刀(ひろと)です」

「2人目のオリキャラにして『プロローグ SIDE H』の語り手だった緋鷺刀くんですが、君の名前も振り仮名がないと分かり辛いね」

「貴方が付けた名前なんですけど……その辺ちゃんと分かってますよね?」

「いやまあ、そうなんだけどね。オリキャラだからカッコイイ名前にしようと思ったんだけど『普通なら読めねえだろ』って名前になってしまったのだよこれが」

「そもそも貴方の作者名ですら『普通なら読めません』からね」

「『一年』の別の読み方が『ひととせ』だから『春夏秋冬』を『一年』に見立てて『ひととせ』と呼ばせているからね。これでも『春夏秋冬』にしようか『四季』にしようか迷ったんだよね」

「あの、物語に関係のないどうでもいい事はここまでにしませんか?」

「どうでもいい事って……ホントの事だけど身も蓋もないね……」

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