凛奈さん視点でどうぞ。
――2002年 10月26日 土曜日 PM13:30――
今日は私の可愛い甥っ子、篁緋鷺刀の9歳の誕生日だ。
ん? 私がいったい誰だって?
名乗らんでも分かると思うが一応名乗っておこう。
おい誰だ。気持ち悪いと言った奴。
死にたくなければ後で私のところに来い。刀の錆にしてやるからな。
まあ今はそんな事どうでもいい。
今は可愛い緋鷺刀の誕生パーティーの最中だ。この前購入した最新のビデオカメラでヒロの姿を収めなければならない。
それが今の私に課せられた最上級の使命だ。
「あの~凛奈さん?」
―ん? なんだ暁の坊主?
「ケーキの蝋燭に火を点けようと思うんですけど、凛奈さんが点けてくれませんか?」
―何故だ? 私は緋鷺刀の撮影で忙しい。いいからとっとと点けろ。さっさとしろ。早くしろ。
「いや、一応火を使うわけですから。俺たちじゃあ危ないじゃないですか」
―お前がそんな事で失敗するたまか。一応見ててやるからお前が点けろ。
「分かりました」
何故か呆れたような表情で頷き、暁の坊主はライターでテーブルの中央に置いてあるケーキの蝋燭に火を点けた。
テーブルの上座に座り蝋燭の炎で揺らめく緋鷺刀の顔を、私は真正面に陣取りカメラに収める。
うん。
照明のスイッチに1番近かった直江の坊主が照明を落とし、部屋の明りが蝋燭の火のみになる。ある種の幻想的な雰囲気に、緋鷺刀の女の子ともとれるその姿がぼんやりとファインダー越しに見えた。
ああ、やっぱり可愛いな緋鷺刀は。
段々と母親の
蝋燭を吹き消す緋鷺刀の姿をビデオカメラで収めながら、恍惚となる私。
ちなみにそんな姿は表には決して出さない。あくまでも自分の中での感情だ。
また1つ崇高な使命を果たせた満足感と充実感に包まれている私を無視して、暁の坊主がケーキを切り分けている。
―おい、デコレーションのチョコ板は緋鷺刀に渡せよ。
「分かってますよ。おめでとうの言葉が書かれているのにヒロ以外に配ってどうなるんですか」
こいつは空気も読めるし頭もいいから話していて疲れない。
他の坊主どもはまだまだガキなところが抜けてない。そのぶん暁の坊主は付き合いやすいところがあるから密かな私のお気に入りだ。
料理を摘みながらカメラを回し誕生会の風景を撮影し続ける。
たまに横から飲み物を回して来る暁の坊主。何故か撮影の助手と化しているが、こいつは本当に使える。
川神の戦っ娘が何やら睨んでくる。
どうやらあいつは暁の坊主が好きなんだろう。嫉妬の視線だぞあれは。
安心しろ。無駄な嫉妬だそれは。
そう視線に思いを込めて見つめ返してやると、私の言いたい事を悟ったのだろう、バツが悪そうに視線を反らした。
川神の戦っ娘もまだまだ背伸びをして大人ぶっているのが可愛い。
―そろそろプレセント渡しに入れ。
隣にいた直江の坊主に声を掛ける。
私の言葉に部屋の掛け時計に視線を向けた直江の坊主は、頷き子供たちに声を掛けた。
「料理もひと通り食べたし、プレゼントの献上に移るか」
「よっしゃあ! 待ってたぜこの時を!」
何故か気合を入れる島津の坊主。
大丈夫だろうか。こいつが気合を入れる時は大概ろくでもない事が起こる。
まあ、私の緋鷺刀を害するような献上品だったら私の制裁が待っているがな。覚悟をしておけ島津の坊主。
密かな私の決意を感じ取ったのか、島津の坊主は背中を震わせ感じた悪寒に首を傾げていた。
そうこうしている内に風間の坊主が持ってきたバッグからラッピングされた袋を取り出した。
どうやら個人ではなく全員でお金を出し合ってプレゼントを買ったようだ。まあまだ小学生でしかないこいつらには個人で買うのはまず無理だろう。
「まずは俺と大和とワン子とジン兄からのプレゼントだ! 受け取ってくれヒロ!」
やたら元気な声で風間の坊主は緋鷺刀にプレゼントを渡した。
もちろんその瞬間をビデオに収めるのは忘れない。
―大きさからして衣服か? 緋鷺刀開けて見ろ。
「開けてもいい?」
私の言葉で緋鷺刀は風間の坊主たちに伺いを立てた。
それに頷いて答えたのを見た緋鷺刀はゆっくりと丁寧にラッピングを剥がし、袋の中のものを取り出した。
予想通りそれは衣服だった。ただ少し予想と違っていた。
「これは……」
―ハーフパンツだな。
衣服を広げた緋鷺刀の言葉を引き継いで言う。
誕生日プレゼントに衣服とはな。結構な大盤振る舞いな事だ。
―かなり見栄を張ったな。お前たちからすれば高かっただろ?
「そうでもなかったです。兄弟が安いところを知っていたおかげで予算内で収まりましたから」
「サイズも1サイズ大きいのを買ってきたから、すぐに履けなくなるって事もないからね」
直江の坊主と岡本の犬っ娘が答えて来た。
ちゃんと考えたプレゼントのようだ。緋鷺刀も満足している。いい仕事だぞお前たち。
嬉しそうにしている緋鷺刀を忘れずにカメラに収める。
「次は私たちだな。モロロ!」
「ねえ、本当にこれ渡すの? 僕後が怖いんだけど」
恐る恐る、何故か私の方に伺いを立てながらプレゼントを取り出す師岡の坊主。
なんだ? 私の機嫌を損ねるようなプレゼントなのか? 見た感じさっきと同じ衣服だと思うんだが……
「えっと……これが僕とガクトとモモ先輩からのプレゼント。それから先に謝っておくねタカ。ごめん」
「凄く不安になるんだけど……」
師岡の坊主の言葉に困ったような表情を浮かべながらも、一応差し出されたプレゼントを受け取る緋鷺刀。困った顔もまた可愛い。もちろんカメラに収める。
「さあ! 早く開けてみろタカ!」
面白くて楽しくてしょうがないといった感じの笑顔で促す川神の戦っ娘。
何故かその顔が私が緋鷺刀をイジル時の顔とダブって見えた。
何となしにプレゼントの中身が分かってきた。なるほど、師岡の坊主が戦々恐々なわけだ。
袋を開けた緋鷺刀を見て私の予感が当たっていた事を確信する。
入っていたのは予想通り衣服。
だがそれは――
「何で女の子用のキャミソールなの!?」
愕然とした表情の緋鷺刀に川神の戦っ娘と島津の坊主の笑い声が重なる。
やはり予想通り緋鷺刀の外見から選んだネタ的なプレゼントだった。
喧々囂々と言い争う3人を眺めながら、私は少しの間考える。
キャミソールにハーフパンツか……ふむ。
―緋鷺刀。
「なに凛奈さん!」
興奮冷めやらぬ声で答えて来た緋鷺刀に私は問答無用で言う。
―それに着替えろ。
「えっ?」
―そのキャミソールとハーフパンに着替えろと言ったんだ。
呆然とする緋鷺刀に再度言う。
突然の私の行動に、さっきまで囃し立てていた川神の戦っ娘も島津の坊主も呆然としている。残りの5人も私を『なに言ってるんだこの人』といった感じで見ている。
唐突なのは分かっている。だが見たいのだ私は。
キャミソールとハーフパンツを着た可愛い緋鷺刀の姿を!
―いいからさっさと着替えて来い。家主命令だ。
最後通牒を渡され愕然としたまま自分の部屋に戻っていく緋鷺刀。ちゃんとプレゼントの衣装を持って行くあたり覚悟は決まったようだ。
さて、緋鷺刀が着替えている間に私も用意をしなければ。
持っていたビデオカメラを仕舞いながら目的のものを取り出す。
「あの~凛奈さん?」
―なんだ暁の坊主。私は今忙しい。
「何の準備をしているんですか?」
―決まっているだろう。可愛い緋鷺刀の姿を写真に収めるための準備だ。
「それ……一眼レフですよね?」
―それがどうした? 緋鷺刀の姿を取るんだ。最高級のものに決まっているだろ。
「………………」
―まだ何か質問があるのか?
「いいえ……もういいです」
―そうか。
どこか疲れたような表情で引き下がる暁の坊主を無視して、私は久し振りに取り出した一式総額25万もした一眼レフのカメラを構えた。
さあ緋鷺刀! 準備は出来た! いつでもいいぞ!
私にお前の最高に可愛い姿を見せてくれ!!
あとがき~!
「閑話終了。あとがき座談会特別編、司会の春夏秋冬 廻です。今回のお相手は――」
「篁凛奈だ」
「特別編という事でゲストも特別です」
「おい貴様」
「はい? 何でしょうか」
「どうして最後に着替え終わった緋鷺刀の姿が出てこなかったんだ。私の楽しみを返せ」
「いや返せと言われましても……そもそも今回の話は12話で緋鷺刀が言っていた『今年1番の悪い思い出』についての話ですから……理由が分かればいちいち姿を出さなくてもいいような……」
「黙れ、私は見たかったんだ」
「そんなに緋鷺刀が好きなんですか?」
「ああ好きだ。血縁関係がなければ私が婿にもらいたいぐらいだ。何故叔母と甥は結婚できないんだ」
「駄目だこの人、もはや変態になり下がってる」
「何を言う。私は“可愛い緋鷺刀だけ”を愛でたいのだ」
「よし。これから貴女を
「ほういい度胸だ。後で絞めてやるから覚悟しておけ。ところで緋鷺刀の母親の名前が出てきたがあの名前……」
「初期設定での緋鷺刀が女だったときの名前だね。再利用したんです」
「そうか、では疑問は解決した」
「あの~なんで刀を持っているんでしょうか?」
「さっき言っただろ。後で絞めてやるから覚悟しておけと」
「ではみなさんさよ~なら~」
「待て! 逃げる事は許さん!」