原作突入直前。
第43話 川神学園入学、3度目の出会い
――2009年 4月7日 火曜日 AM8:00――
side 直江大和
暇だ。
内申のために入学式の案内係に立候補したのはいいが、人通りの少ない場所に配置されてしまい今は物凄く暇だ。
する事もないので街道に咲く満開の桜を眺めながら突っ立っていると横手から声が掛けられた。
「何やってるの大和君、案内係?」
声のした方に顔を向けるとそこにはヒロがいた。
その川神学院の制服姿を見て、そういえばヒロも新入生だったという事を思い出した。
いつも風間ファミリーで一緒にいるため、感覚がおかしくなってしまう時がある。気を付けなければ。
「なに? その『そういえば新入生だったな』って顔」
「……何で分かった?」
「そういう顔してるから」
最近ヒロは雰囲気というか人の表情筋というか、そういうものを読んでこちらの思った事を的確に当てるようになった。
何でも凛奈さんとの修練の賜物と言っているが、侮れないなホント。
「ずいぶん早いな」
腕時計で時間を確認する。
時刻はまだ朝の8時だ。今日の入学式の開始は9時半だから新入生は9時までに集合場所に集まればいい事になっている。
「そうかな?」
「まだ集合時間まで1時間あるぞ。何でこんなに早いんだ?」
腕時計で時間を見せながら問い掛けると、ヒロはどこか困ったような呆れたような表情を浮かべ、何故か遠い目になった。
何やらとんでもない理由があるみたいだ。
「逃げて来たんだよ」
逃げて来た?
これまた物凄い言葉が出てきたな。あのヒロが逃げ出すほどの事っていったいなんだろう。予想がつきそうでもあるが。
「凛奈さんがね、昨日の夜から担当編集者もマネージャーも巻き込んで宴会やってたんだ」
「何の宴会だ?」
「僕の入学祝」
相も変わらずの『緋鷺刀至上主義』な人だな、あの人は。
ヒロが『凛奈さん』と呼ぶのはヒロの叔母さん(こう呼ぶと殺される)で、フルネームは篁凛奈さん。
甥であるヒロを溺愛する『叔母馬鹿』であり、ある意味でヒロのために全てを捧げている『緋鷺刀至上主義』の27歳である。
27歳である。
重要なので2回言っておく。
「で? 朝から絡まれたから逃げて来たのか?」
「その方がマシだよ……ねえ大和君、朝起きたら用意したはずの制服が女子のものになってたらどう思う?」
「どう思うってお前……」
ヒロの言いたい事が分かってしまった。それと同時になんて凛奈さんらしいんだろうとも思った。
普段は緋鷺刀至上のくせに、イジレる時はとことんまでイジル人だからなあの人。愛情の裏返しなのはたぶんヒロも理解して入ると思うが……難儀だな。
「男子の制服を巧みに隠しているし、着替えようと思ったら部屋にまで乱入してくるし、しかも女子の制服を持って着替えさせようとしてくるし、さらに酒臭いし……」
「強く生きろ、ヒロ」
肩を落としどう見ても新入生の雰囲気じゃないヒロを一応慰めておく。
ある意味でいつも通りの事だからそのうち浮上するのは分かっているので、あからさまな慰めの言葉なんか必要ないだろう。
数秒間、それでも何か愚痴のようなものを呟いていたが、鬱憤をすべて吐き出すように大きくいを吐いたヒロは予想通りいつもの状態まで浮上した。
「そういう事だから、早めに行って本でも読んでるよ」
「おう、じゃあまた秘密基地でな」
手を振って学院に向かうヒロに俺も軽く手を振り返して見送る。
ヒロも今年度から川神学院の生徒だ。また1年、兄弟を除くファミリー全員が同じ格好に通う事になり、騒がしくも楽しい1年が始まるんだろう。
そういえば兄弟が行方不明になってもう2年と8ヶ月か。生きてるのは間違いないんだからいい加減帰って来てもいい頃だろ。
何やってんだろうねあいつも。
そう考えながら再び満開の桜を眺めていたら、走ってきた誰かとぶつかった。
「うわっとと」
「後ろ回り受け身!」
俺はよろける程度だったが、かなりの勢いでぶつかってきた相手はこけるかなと思ったが、見事な回転を見せてダメージを失くしていた。
だが弾みで鞄などが地面に落ちていたので、拾ってあげようかと思いしゃがみ込むと、ぶつかってきた相手の顔が見えた。
「ああああすすすす、すみません」
「おおう」
意外と可愛い子だった。姉さんと同じ黒髪がさらりと伸びて彼女によく似合っている。
「わ、私……い、急いでて……その、あの」
なんだかテンパっているみたいなので、出来るだけ優しく言葉を掛ける。
「まだ開始まで時間あるし、慌てる時間じゃないよ」
「いえでも新入生なんだから早めに来ようと思いましてですね……ああ先輩に対していえなどという否定形から入ってしまった!!」
何やらさらにテンパらせてしまったらしい。
とりあえず無視しておいた方がいいだろうと判断し、俺は未だに地面に転がったままの鞄と何やら黒い馬のマスコットがついたストラップを拾う。っていうか携帯も持ってないのにストラップ持ってるのかこの子。
「はい、鞄と携帯ストラップ」
「あ……わ……わわわわ、わざわざ拾って頂いてありがとうございますっ!?」
ねえ、親切で拾ってやったのに何故ガンつけられるわけ!? いやでも緊張してるのかこの子? なんか声も震えているし。
だがその時、彼女が大切そうに抱えていた竹刀袋が目に入った。っていうかあれってもしかして日本刀じゃないか?
「それってもしかして刀? サムライソード?」
「はい」
俺の質問に彼女は素で答える。
川神学院は武士の末裔が集まる学校でもある。各教室にも武器のレプリカが置いてあるくらいだ、武器のようなものを持ってくる新入生がいてもおかしくないだろう。
だが、ここは川神学院の“敷地外”だ。しかも武器を持つ人がいる、あるいは来るという話は受けていない。
俺は即座に携帯を取り出しある番号を押す。
「もしもし、こちらポイント23。異常ありません。逆に退屈なぐらいですよ。では定時報告でした」
俺の突然の行動に訳が分からず首を傾げている新入生女子。
到着まであと数秒、時間を稼いでおくか。
「ごめんね、定時報告をしてたんだ。ほら腕章ついてるだろう? 俺は案内係なんだ」
左腕に付けている腕章を指さしながら彼女に見えるように前に出す。
そんな彼女の後ろから警官が姿を見せたが、彼女はまだそれに気付いていない。それどころが呆然とした声を出した。
「そ、そうでしたか……」
はい、ゲームオーバー。
「いたいた。君、銃刀法違反を知ってるよね?」
「え゛?」
「さぁ一緒に来てもらおうか」
「うわわわわっーーー!?」
警察官に腕を掴まれた彼女は瞬く間にひっ捕えられていった。
異常ありませんって報告は異常があるという事なのだ。怪しい人を逃がさないためのもので、何も問題ない時は違う言葉でやり取りをする事が決まっていた。
しかし刀か……可愛かったのにな。少し残念だ。
その後、彼女は警官と共に戻ってきた。
どうやら刀の所持は許可が出ていたらしい。俺たち末端まで話が来てないのは警備としては駄目なところだろう。
彼女も怪しい人物でもなく、ちゃんとした新入生である事も判明し一件落着。
ただ、最後に感謝の言葉とは裏腹に睨まれたのだけはどうしようかと思った。
side out
side 篁緋鷺刀
今の時間は9時15分。
もうすぐ入学式が始まる時間だ。
学園に入って受付をし、その場でクラスを教えてもらい入学式が始まるまでそのクラスで待機する事になっていた。
予想通り1番に到着した僕は受付でクラスを教えてもらい1‐Cの教室に入ると、席順は決まっていないので窓際の1番後ろの席に腰を下ろし、文庫本を呼んでいた。
そうやって30分ぐらい過ごしていると、徐々に同じ新入生が集まってきた。
特に目立つつもりもなく、入学式当日から友人を作るのも無理だろうと思うから僕はそのまま本を読む事にする。
中学校からの友達同士なのか、何人かの女子が固まりながらこちらを見て何やら内緒話をしているのを感じたが、とりあえずは無視をしておく。
どうせ僕の外見を見て何か憶測でも立てているのだろう。中学校の入学式の時にもあった事だから気にするだけ無駄だ。
そんな事を考えていると、3人の女子が僕に近付いて来た。
僕が座っている席を囲うように立つ3人。その中心にいた子が声を掛けてきた。
「ねぇ、何で男子の制服を着てるの?」
1番最初の発言がそれですか。貴女たちの中では僕が女の子なのは決定事項なんですか。そうなんですか。そうなんですね。
黙って何も言わない僕を見て、一緒にいた女子の1人がどこか苛立った口調で問い詰めてきた。
「聞いてんの? 何で男子の制服なんか着てるのかって言ってんの! なに? アンタ入学式から目立ちたいだなんていい度胸してるじゃん」
いい度胸しているのは貴女たちの方だと思うんだけどな。
なんなんだろうこの人たち。あれかな、入学初日から気に入らない子をシメようという魂胆なのかな。
でもまあ、そろそろ黙って聞いているのも我慢の限界にきている。
パン
僕は読んでいた本を勢いよく閉じた。
みんなこちらを窺っていたのだろう、その音は思った以上に教室に響き渡った。
突然の僕の行動に驚いていた彼女たちだったが、怒りに顔を引きつらせるのが見て分かった。だが、何かを言われる前に僕は受付の時に受け取った生徒手帳を取り出し、写真付きの身分証明の欄を彼女たちの眼前突き出した。
「なに? 生徒手帳がどうし――」
「篁緋鷺刀。性別は“男”です」
被せるように言った僕の言葉に、彼女たちは目を見開き広げた生徒手帳を食い入るようにみる。
そして僕の言ってる事が本当だと理解したのだろう、バツの悪そうな顔をすると3人ともまるで逃げるかのように僕から離れて行った。
何もなかったかのように生徒手帳を閉じ制服のポケットにしまう。
中学校の入学式の時は誤解を解くのにかなりの時間がかかったから、先に生徒手帳を受け取れてよかった。
やっぱりきちんと身分を証明できるものがあるのはいいね。説明が簡単だ。
だがどうやらある意味で目立ってしまったらしい。何やら僕を取り囲む雰囲気が怪しいものになり始めているのを感じた。
これから先、少し大変かなと考えていた時、教室の後ろのドアが物凄い勢いで開いた。
かなりの音を立てて開いたドアに、教室にいた全員の視線が集中した。
そこにいたのは1人の女生徒。よほど急いでいたのだろう肩を上下させ息を整えていたが、それもほんの数秒で持ち直し彼女は伏せていた顔を上げた。
その顔を見た瞬間、感じたのは懐かしさだった。
彼女は自分が注目されていると事に気付くと驚いた後で顔を引きつらせる。そして忙しなく顔を動かし僕の隣に空席を見つけ、小走りで駆け寄り隣の僕に小さく頭を下げると、恥ずかしさに身を小さくして座り込んだ。
そんな彼女の姿を横目で見る。
大事に抱えているあの竹刀袋……あれって中身は日本刀かもしれない。
学生で、しかも新入生の彼女が日本刀所持の許可を貰っているという事は、それなりの家柄の子なんだろう。
だけど今の僕にはそんな事どうでもよかった。
感じた懐かしさの正体が分かった。身を小さくして恥ずかしそうに座る彼女。その姿を見て3年前のゴールデンウィーク、石川県加賀市、あの一期一会の出会いを思い出していた。
机の上に置かれた黒い馬のマスコットがついたストラップ。
ああ、間違いない。彼女は『まゆ』なんだ。
思いがけない再会に、僕は誰にも気付かれないように小さく笑みをこぼした。
そんな僕の気配を察したのか、彼女は俯いていた顔を少しだけ上げると窺うように顔と視線をこっちに向けた。
「ひぅ!?」
視線がぶつかり、彼女は小さく意味不明な悲鳴を上げ慌ててもとの俯いた姿勢に戻った。
いや、もと姿勢じゃないねあれは。
険しい表情のまま抱えた竹刀袋を持つ腕が無茶苦茶震えているし、目は見開き肌寒いくらいの気温なのに汗を流している。
初めて会った時と同じでテンパってるのがよく分かる。
あれはいきなり目が合ってしかもすぐに逸らしてしまった事に後悔して、自分を卑下して心の中で謝罪しているんだろう。
本当に変わっていない。
そう思った僕は微笑ましくもあり、同時に呆れるような感じで気配に出さずに笑ったのだった。
side out
side 黛由紀江
入学式も滞りなく終了し、今は教室で
全員で簡単な自己紹介を終え、今は先生の話を聞いています。どうやら今日はこの時間が終われば解散、自由下校となるそうです。
ですが何故か空気がおかしいです。
担任の先生の最初座っていた席でいいから座りなさいとの言葉に、窓側から2列目の1番後ろの席に私は座っています。
なのに空気がおかしい――おかしいといのも変な例えですね。正確に言うなら私を気にしているみなさんの気配をヒシヒシと感じるのです。
この雰囲気に嫌な予感を私は感じてしまいます。
今、私を包むこの雰囲気は中学校の時と同じ雰囲気です。遠巻きに私を眺め、何か恐れ多いものに気を配る雰囲気……お友達を作る事すら躊躇うような雰囲気です。
またしてもお友達作りに初っ端から躓いてしまうのでしょうか!? せっかく『友達100人出来るかな?』の目標も立てたというのに!?
でもこの雰囲気ですが、もっと正確に言うなら私と隣に座る男子生徒さんに対する視線です。
男子の制服を着ていますし、自己紹介で名乗った名前も男性のものですから男子生徒で間違いないのですが、物凄く綺麗な顔立ちをしていらっしゃいます。とても男性には見えません。
なのにその姿を見て懐かしさが込み上げてくるのは何故でしょうか?
朝、遅れまいと急いで教室に入り注目される中で席を見つけ、取りに座っていた彼を見た時、最初に感じたのは懐かしさでした。
気になって横目で姿を確認した時、目が合ってしまい咄嗟に逸らしてしまいました。
大変失礼な事をしてしまった私に対し、彼は柔らかで穏やかな雰囲気で私を見ていたのです。
「――――さん?」
その瞬間に思ったのが私はこの人を知っているという事です。
「――ずみさん?」
いいえ、知っているではありません。
この雰囲気、私がずっと会いたかったあの子の――
「黛さん!」
「は、はいぃ!?」
急に掛けられた声に私は思わず上ずった声をあげてしまいました。
声の方に顔を向けると、隣に座っていた男子生徒が私の方を心配そうに、だけど少しだけ呆れを含ませた表情で見ていたました。
「大丈夫? もう
そう言われて私は慌てて周りを見渡しました。彼の言う通り、教室には私と彼以外は誰1人としていませんでした。
ああ何という事でしょう。私が馬鹿みたいに落ち込んで考え事をしている最中に
考え込んでいる姿が近寄りがたかったのでしょう。きっとそうです。そうに違いありません!
自己嫌悪の谷底に落ちる私を心配そうに見ている彼を見て、ふと気が付きました。
何故この方は帰らずに私に声を掛けてくれたのでしょうか?
「あ、あの、どうして、あ、貴方は、か、かか帰らなかってんですか!?」
「ちょっと黛さんに用事があったから」
震えながらの私の問いかけに彼は不思議な答えを返してきたのでした。
これは何でしょうか? もしかしてナンパと言うものでしょうか?
いえいえいえいえ! そんな事あるわけありません何を自惚れているのでしょうか私はこんな卑屈で何の取り柄のない私にこんな綺麗な顔をした方がナンパなんておこがましいったらありゃしませんよねそれよりもこんな誠実そうな雰囲気を纏う方がナンパなんてする訳ないですよね何を考えているんですか私はこの方に失礼ですよ黛由紀江!!
「えっと落ち着いてね? はい息を吸って~吐いて~」
スウゥゥ ハアァァ
彼の言葉に従って深呼吸をしました。
なんでしょう、このやり取りもあの子を思い出せます。やっぱりこの方があの子――『タカ』さんなのでしょうか?
確かめたいのに怖くてそれが出来ない私がいます。
「ここで話すのもなんだし、屋上に行こうか?」
期待と恐怖の板挟みに、自分で決断を付けられない私に彼は上を指さして提案してきました。
その提案に、私は少しの期待を込めながら頷いたのでした。
あとがき~!
「第43話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。今回のお相手は――」
「ようやく学園に入学しました篁緋鷺刀です」
「おめでとう。さて今回のお話ですが予告通り緋鷺刀と由紀江の再会です」
「その割にはまだ『まゆ』は確信してないですね」
「そうだね、次回できちんとした自己紹介があるからね。でもやっぱり読み返してみるとただのナンパだよねこれ」
「書いたの貴方でしょ……確かに入学初日に用事があってなんて普通はありえませんからね」
「後は君の入学式での通過儀礼」
「それはもういいです。っていうかもう僕も15歳ですよ? それなのに女に間違われるなんてどれほど女顔なんですか!?」
「いや、だからほぼ女顔だと前から言っているだろ」
「なんでこんな容姿にしたんですか?」
「なんでって、面白いから?」
「どうして疑問形なんですか……」
「そんなことはどうでもいいけど、今回でやっと原作突入直前まで来ました。次回で2人の再会も終わり間違いなく原作に突入します」
「本当にやっとですね。ところで1つ聞きたい事が」
「なに?」
「僕たちっていつになったら小さい時に1度だけお互いを見ていた事を思い出すんですか?」
「結構後かな」
「何でですか?」
「まだ何も考えていないから。という事で次回投稿もよろしくお願いします」
「そんなんでいいんですか!?」