真剣に私と貴方で恋をしよう!!   作:春夏秋冬 廻

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第45話投稿。

原作突入しました。


第45話 学園の日常、変わらぬ仲間

――2009年 4月20日 月曜日 AM7:30――

 

眠い。

 

一週間の始まりである月曜日。

湧きあがる眠気に何とか抗いながらも、まどろみの中を漂っていると、誰かの手で布団がゆっくりと剥がされる。

そして微かに布団が沈むのを感じ、誰かが寝ている俺の身体を跨ぐように手を着いている事を察する。

 

「おはよう大和。そして好き」

 

迫り来る何かを防ぐように手でガード。いつもの事だから目を開けずともタイミングはばっちりだ。

目を開けると案の定、京が四つん這いで寝ている俺を見下ろしていた。

 

「おはよう京。お友達で」

 

ある意味でいつも通りのやり取りを終え京を部屋の外に出し、着替えようかと服に手を掛けた時、1体のタマゴ型のロボットが部屋に入ってきた。

 

「クッキー。また勝手に鍵を開けたな」

 

「お前が早起きしないのが悪い。ああ、布団がグチャグチャじゃないか」

 

「朝から小言を言うな」

 

「なんてこと言うんだよ! お前のためを思ってい言ってんだろ! ――余り舐めた事を言ってると斬り刻むぞ」

 

言葉の途中で急に変形をする。無駄にハイテクだが質量保存の法則を無視してないかこのロボット?

九鬼財閥が最先端の技術で作ったロボット。故に『クッキー』。安直だな。しかも作成者のせいか無駄に偉そうなところがあるがまあ、いいロボットではある。

 

洗顔し着替え終えて気分をクリアにすると、部屋で飼っているヤドカリたちにも挨拶をして廊下に出る。

朝食のいい匂いがして空腹のお腹を刺激する。寮母の島津麗子さんがすでに朝飯を用意してくれているのだろう。

廊下を進むとその麗子さんとはち合わせた。

 

「おう、大和ちゃんおはよう!」

 

「おはようございます。今日も麗しいですね」

 

お世辞は忘れてはいけない。

例え四十路を過ぎガタイのいい肝っ玉母ちゃんそのものの容姿をしていようとも、朝のおかずの追加のためならば、舌先三寸口八丁。

結果はタマゴ追加の権利を手に入れた。

 

いつの間にか隣を歩いていた京が麗子さんと何やら言い合っているが無視。朝食が用意されている1階の居間へと足を運ぶ。

そこにはまさに代表的な日本の朝ごはんといった献立が並んでいた。

 

うん、やっぱり日本人の朝食は銀シャリだな。

 

「お、おはよう……ございますっ!!」

 

いきなり気合の入った挨拶をしてきたのは、あの入学式の時に出会った1年生の女子。

まさか同じ寮で生活するとは思ってもいなかった。しかもあの出来事のせいか何かにつけて睨まれてる。

 

根に持たれたのかもしれない。

 

ひと言ふた言、言葉を交わすがすぐに行き詰り黙り込んでしまう。

難しい年頃なんだろう、触れないでおいてあげるのが先輩の優しさだろう。

 

席に着き箸を手に取り味噌汁を口にする。お椀を下ろして席についている人数を見渡すと、男子2人に女子2人の計4人、1人居ない事に気付いた。

 

「キャップはどうした?」

 

「またいないね」

 

「マイスターなら土曜の夜から外出中だよ」

 

俺と京の疑問に答えたのはクッキーだった。

またしてもいつもの放浪癖が出たんだろうが、気にするだけ無駄なので放置する。

 

気を取り直した俺は朝食を続ける。

たまに京が自分用にカスタマイズされた激辛食材を提供してくるが、断固として拒否しながら俺としては楽しく食べ続けていると、もう1人の男子生徒が声を掛けてくる。

 

「ちったぁ黙って食えないのかテメーらは」

 

もう1人の寮生で同じクラスの男子生徒。

健康的な不良という新ジャンルを開拓した彼の名は(みなもと)忠勝(ただかつ)。名前が『源』なだけにあだ名はゲンさんだ。

強面な外見に騙される事なかれ、彼は結構いい人だ。今日も今日とてダメ元で頼んだきゅうりのおしんこを、文句を言いながらも1切れくれた。

 

うん、やっぱりいい人だ。

 

登校の準備を終え8時15分。いつも通り京と寮の前でガクトを待つ。

ちなみにゲンさんは何度一緒にこうと言っても先に行ってしまう。

遅刻しない不良って不良と言うんだろうか。

 

そんな事を考えていると、寮の隣にある島津家から麗子さんの怒鳴り声が聞こえて来た。

これもまたいつもの週初めの日常なので気にはしない。

案の定、愚痴をもらしながらガクトが出て来た。

 

ガクトの家である島津家は昔からここら辺の土地をいくつか持っており、その一部を寮として学校に提供している。

だから寮のすぐ隣にガクトの家があるのだ。

 

一時期、仲間内から裏口入学云々言われていたが仕方のない事だろう。

 

「やーおはよう」

 

くだらない取るに足りないやり取りをしながら、3人で学園に向かう多馬川沿いを歩いて行くと、後ろか漫画雑誌『少年ジャソプ』を読みながらモロが合流してきた。

モロの挨拶に俺たちも口々に挨拶を返す。そのまま並んで歩き出した俺たちを見てモロはキャップがいな事に気付いた。

 

「キャップまたいつもの病気?」

 

「ああ消えた、気にすんな」

 

俺の言葉通りいつもの事で気にしていないモロは、ガクトと持っていた雑誌を覗き込んで、ちょっとエッチで有名な漫画の評価を始めた。そんな男2人を見て呆れた溜息を吐く京。

 

男の性だ、察してやれ。

 

4人になっても変わらず多馬川沿いを歩いていると、前を行く同級生の女子グループの1人から挨拶の言葉が掛けられた。

 

「ナオっち、椎名っちおはよー」

 

同じ2‐Fのクラスメイト、小笠原千花だった。

人付き合いは俺の信条、どんな些細な付き合いでも大切なので俺は小さな笑顔を浮かべて挨拶を返す。

 

「おはよー」

 

「おはよう」

 

俺に倣うように京も挨拶を返す。

実に意外な事だったが、去年から同じ川神学園に通うようになって、京は仲間以外に対する排他的な行動をあまり取らなくなった。

兄弟が行方不明になった時の俺たちの間の事件がきっかけなのだろうが、俺はこの京の変化を素直に受け入れていた。

 

ガクトとモロが俺をだしにして何やら言い合っているが取りえず気にしなくてもいいだろう。相変わらず仲のいい事だ。

 

「あの2人からはやっぱりBL的なものを感じる」

 

京も無視だ。

 

こんな風にだらけながら川沿いを4人で歩いていると、前方に数十人の人だかりが出来ていた。

集団の視線の先である川岸を見ると、そこには明らかに『不良です!』といった外見の12・3人の男たちが、集団で1人の女の子を取り囲んでいた。

 

しかもバットとかの凶器も持っているというのに、周りで見ている川神学園の生徒たちは助けるどころが、これから起こるであろう見世物を今かと待ち構えてる感じだった。

 

これはアレか? 流れ的に俺が行かなきゃならのか?

 

思わず仲間たちに視線を送ると、当たり前だと言わんばかりに頷かれ、ガクトにははっぱを掛けられた。

 

「とっとと行ってこい、弟だろ」

 

誰が弟だ。正確には舎弟だ。

だがまあ、ここで行かなきゃ後で何言われるか分かったもんじゃない。割って入るよりもその方が何倍もの恐怖だ。

覚悟を決めて人だかりを抜けて現場へと駆け込む。

 

「待て待て待てー! ここは俺が食い止める! だから今のうちに逃げろ!」

 

必死になって語りかける。

 

そう不良たちに!

 

「早く逃げろ! 相手を見て喧嘩を売れ! っていうかこの女の人が誰だか分かって喧嘩売っているのか!?」

 

何やら言っているがそれを無視して捲し立てるように言い放つ。

心的外傷(トラウマ)は少しでも軽い方がいい。今らなそれすらも感じる事なく五体満足で帰る事が出来る。

 

だがそんな思いのこもった俺の説得も意味をなさず、県を跨いで千葉から来たと言っていた不良たちは、1人が持っていたテトリスの携帯ストラップを見た女の人の圧倒的な暴力のもと、抵抗する暇すらなく一瞬で吹っ飛ばされ、さらに人間テトリスにされたのだった。

 

それを見ていた周囲の生徒たちから歓声が沸き起こる。男子も女子も関係ない。まさにアイドルの追っかけをする熱心なファンのような勢いだ。

 

「ふふ、美しく積み上がったな」

 

出来あった人間の塔を眺めながら満足そうに頷く姉さん―川神百代。

満足気なのは別にいいけどもはやホラーだ。小さい子が見たら泣きだすぞ。

 

その後、その人間の塔を後ろ回し蹴りで全員を吹き飛ばした姉さんは、俺に向かって声を掛けて来た。

 

「駆けつけるのが遅いぞ大和! 私の弟分なんだからキリキリしろ」

 

ホントその契約いったいいつまで続くのやら……

 

その後に起きた姉さんが新入生の女子を口説き、ガクトが苦言を呈するというひと悶着の後、死屍累々としている不良たちを放置して学園へと歩き始める。

1人増えて5人になっても取りとめないやり取りをしながら、多馬大橋に到着する。この橋を渡って向こう側に行けば川神学園だ。

 

その橋の入口近くの欄干に背を預けながら、俺たちが来るのを待っているヒロ。

絵になるその姿に、通り過ぎて行く女生徒たちが顔を赤らめている事を恐らく本人は気付いていない。

高校生になり、何やら色気が出てきたヒロだが何故かますます女顔に磨きがかかってきたのは気のせいだろうか。

 

「おはよう、タカ」

 

先頭にいたモロが掛けた挨拶に、ヒロは俺たちが来たことに気付くと欄干から背を離しこちらに近付いて来た。

 

「おはようみんな」

 

俺たちへ挨拶に、みんなそれぞれ返してきたのを受け取ったヒロは姉さんの方を見て少しだけ苦笑いを浮かべた。

 

「今日も派手にやったねモモ先輩。橋の上から見てたけど容赦なさ過ぎ」

 

「多人数で1人を囲むような奴らに容赦なんか必要ない」

 

「だからと言って1番不快な笑いをした人の腹部に8発入れるのはどうなの?」

 

「おお、やっぱりお前は見えていたか」

 

ヒロからの苦言を無視して撃ち込んだ拳の回数をきちんと見えていた事に感心した声を出した姉さん。

あれが見えていたなんてさすがヒロ、俺なんて1番近くで見ていたのに全然見えなかった。

 

ヒロも合流して6人になり改めて多馬橋に足を踏み入れる。

学園に続くこの橋だが、実は別名があり通称は『変態の橋』と呼ばれる。

 

別に本当の変態が出没するとかそういう事じゃない。

川神市の住民には有名なのだが、俺たちの通う川神学園はある意味で奇抜な生徒が多い。そんな生徒たちが毎朝この橋を通って登校するのだ。

 

故に付けられた名前が『変態の橋』なのだった。

 

「フハハハハハハハハ」

 

その中でも最大級の変人が人力車の音とともにやってきた。

自動車並みのあり得ないスピードで道路を走っていた人力車がいきなり俺たちの隣で急停止する。

そして現れたのが――

 

「おはよう庶民! 我こそは九鬼英雄! みなの英雄(ヒーロー)である!」

 

おかしなポーズで登場したこいつこそ世界が誇る九鬼財閥の御曹司、九鬼英雄だ。

自分付きのメイド―確か忍足あずみって言ったか、に人力車を引かせて登校してくる、川神学園が誇る(誇りたくはないが)変人中の変人である。

 

「君たち、英雄様が挨拶をしてくださっているんだから、キチンと対応しないとお命頂きますよ☆」

 

無視してやり過ごしたいが、そのメイドに笑顔のまま命を脅されて挨拶を促されるので、一応全員挨拶を返しておく。

 

「ところで庶民。我が愛しの一子殿の姿が見えんが?」

 

「妹は鍛錬中だ。努力家だからな」

 

ワン子を探す九鬼に姉さんが一応言葉を返す。

 

「おお、さすが一子殿。日々の切磋琢磨、その姿が我の心をときめかせるのだ! フハハハハ、テンションが上がってきたぞ! あずみ! 人力車発進!」

 

「了解しました、英雄様ぁー!」

 

来た時以上の速度で人力車は橋を渡って行った。

いったい何なんだろうか、あのメイドは……九鬼もそうだがアレらと同じクラスでなくてホントよかった。同じ学年ってだけでもダメージはあるが……

 

「相変わらずやるなあのメイド」

 

「まあ常人以上だよね、あの人は」

 

何やら武術な2人、姉さんとヒロが去っていたメイドを何やら評価していた。

1人でしかも女の身で人力車を引いて自動車並みの速度を出しているのを見て、タダ者じゃないと思わない人がいるなら連れて来てくれ。

 

「みんなー! おっはよー!」

 

そんな事を思いながら橋を渡っていると、タイミングがいいのか悪いのか、後ろから物凄い勢いでタイヤを引きずりながら走ってきたワン子が俺たちに声を掛けた。

相変わらず朝っぱらから走り込んで来たのだろう。昨日は静岡まで行ったと言っていたが、今日はいったいどこまで行ったのやら。

俺たちと合流した事でワン子も走らず普通に歩き始めた。

 

「ワン子、歩く時ぐらいタイヤを外そうぜ」

 

「さすがにタイヤ引っ張る子と歩くのは僕たちが恥ずかしいよ」

 

「気にしなーい気にしなーい! 毎日が鍛錬鍛錬! いつかお姉様みたいになワガママボディになるのよ!」

 

ガクトやモロの言葉にも馬耳東風なワン子。

夢見る犬っ娘に現実と言うものを教えてやらなければならない。そんな俺と同じ意見だったのか京が呆れたような表情で声を掛けた。

 

「スタイルでも並ぼうなんて無謀だよワン子」

 

「無謀かどうかはやってみなきゃ分からないでしょ!」

 

「頑張れ妹。私のバストは90あるぞ」

 

衝撃の事実だった!

 

たしかに昔からスタイルがよかった姉さん。

4年前、みんなで行った海水浴の時は83と言っていたが、まさかそれから7センチも増量するとは侮れないな。

 

改めて姉さんを上から順に見やる。

無駄な肉を鍛錬で落とした引き締まった身体だから、自己申告90の大きな胸がより自己主張している。

くびれたウエストからしなやかな脚も伸びてる。

なんというか綺麗なんだけど凛々しい、美人なんだけどカッコイイ。

 

さすが学園最高の美人。

 

恋人がいる事と学園最強でなければ言い寄る男は星の数だっただろう。

 

だが改めて見て思った。

 

無理だろ。ワン子が姉さんに並ぶなんて。アリが像に喧嘩売るぐらい無謀だ。

みんな思いは一緒なのだろう、俺と京とガクトとモロは諦めを促すようにワン子の肩に手を置いて優しく、そして出来るだけ傷付けないように言葉を掛けた。

 

「現実見ろワン子」

 

「無理な事に挑戦するのは勇気じゃないよ」

 

「俺様にもはっきりと無理だと分かる」

 

「世の中には持てる人間とそうでない人間がいるんだから」

 

次々に掛けられる言葉に、俯き体を震わせてるワン子。

だが溢れ出てくる怒りを抑える事が出来なかったのだろう、勢いよく顔を上げて吠えるように叫んだ。

 

「なによあんたたち! 喧嘩売ってんのかー!?」

 

「みんな物凄く一子ちゃんに失礼だよね。可能性は無に等しくてもやらせてあげようよ」

 

いやヒロ、お前のその言葉もある意味失礼だぞ。

 

「お前ら妹いじめると私が相手するぞ」

 

ついに姉さんが参戦してきた。

ここぞとばかりにワン子は姉さんに泣きつく。

ワン子の場合、狙ってではなく天然だとは思うが。

 

だが暴君の参戦に俺たちは生け贄を差し出さなければいけない。

誰も被害をこうむりたくないのは一緒だ。

 

「受けて立つ。ガクトが」

 

「何で俺様に回ってくる?」

 

京が真っ先にガクトに矛先を向けた。

それならば俺もそれに乗らなければ。

 

「やるならまず名前の順番的にもガクトからだな」

 

「大和てめ――」

 

「妹キック!」

 

「姉パンチ!」

 

「いてぇぇぇぇぇぇ!」

 

俺に文句を言おうとしたガクトの言葉を遮るように、ワン子と姉さんの攻撃がガクトにクリーンヒットした。それを見てモロが感情のこもらない声で言う。

 

「モテるじゃんガクト」

 

「あれはモテるって言っていいのかな?」

 

騒がしいがいつもの俺たちの風景。いつまでだってきっと続くこの日常。

 

俺たちは3年近くもこの風景、日常を守ってきた。お前がいなくなっても俺たちは変わらなかったよ。

もうお前に頼るだけのみんなじゃなくなった。今度はお前に頼ってもらえるような仲間になっているはずだ。

 

だからそろそろ帰ってきてもいいんじゃないか?

 

なあ、兄弟。




あとがき~!

第45話終了。

待っていた方もそうでない方もお待たせしました!

ついに! ようやく! やっとのことで!

今回の第45話を持ちまして!

原作突入しましたあぁぁぁぁぁぁぁ!!!

本当に長かったです!

こんなに長くなるなんて実は作者たる私が1番思っていませんでした!

第23話あとがきで『あと数話』と言っておきながら22話も積み重ね!

第37話あとがきで『長くても2話』と言っておきながら8話も積み重ね!

優柔不断で全く見通しを立てれない私でしたが!

本当に長らくお待たせしていしまいました!

これからの展開は原作の話にオリジナルエピソードを織り交ぜつつ進んでいきます!

まずはゴールデンウィークの箱根旅行まで突っ走りたいと思います!

これまで読んで下さった方々!

これからもよろしくお願いします!

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