真剣に私と貴方で恋をしよう!!   作:春夏秋冬 廻

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第48話投稿。

やっとクリスが登場しました。


第48話 転入生歓迎、クリスティアーネ登場

――2009年 4月24日 金曜日 AM8:30――

 

今日の2‐Fの生徒はいつもより早い時間に集合した。

 

理由は実に簡単である。

留学生を紹介する朝のHRもいつもより早く始めてもらうためだ。

 

その事実を知ってか知らずか、恐らく知っているであろう担任の小島梅子は、席に座る生徒たちを『俗物が』と思いながらもきちんと揃っていることに満足し、生徒たちが心待ちしているであろう話題を切り出した。

 

「それではお待ちかね、転入生を紹介しよう」

 

その言葉にざわつく生徒たちをひと睨みで黙らせた梅子は教室の前の扉に向かって声を掛けた。

 

「入りたまえ」

 

「Guten Morgen.」

 

ドイツ語の挨拶と共に教室に入ってきた人物を見て、色んな意味で2‐Fの生徒たちは衝撃を受けた。

教室に入ってきたのは黒い軍帽と黒い軍服を着た中年の男性。どこからどう見ても明らかに高校生ではない。

いや、ただ単に老け顔なのかもしれないがそれでも衝撃的だった。

 

だがざわつく生徒の中で、教室に入ってきた軍服を着た中年に見覚えのある生徒もいた。

 

風間ファミリーの面々だ。

 

「え? あの人が転入生なの? ちょっと老けてるね」

 

「そこが問題じゃねーだろ!」

 

ボケをかます一子に岳人がさかさず突っ込む。

 

見覚えがあって当然である。

あの軍服を着た中年は今日の登校の時、大和がぶつかった相手だ。

 

今日の登校の時に変態の橋で百代の挑戦者が待っていた。相手はただ単に名を売りたい我流の自称空手家だったので、一瞬にしてケリは付いたのだが、その後で振り返った時に大和がぶつかったのだった。

すぐに頭を下げて謝った大和や、橋から薄っすらと見える富士山に気分よくし、日本の良さについて不敵に笑いながら去って行く姿を、風間ファミリーは印象強く覚えていた。

 

「みんな勘違いしないよう。この方は転入生の保護者だ」

 

生徒たちが拙い方へ勘違いしそうになっているのを察し、梅子は入ってきた人物の身元を明かす。それに安堵した熊飼満がピザを食べ始めたので鞭を振って叱るのは忘れない。

 

「――あのご息女は?」

 

「ご安心を。時間には正確な娘ですので間もなく駆けて参りましょう。グラウンドを見てみるがいい」

 

いい加減、場を進めようと問い掛けた梅子に軍服を着た中年、もとい転入生の父親は何故か自慢げに頷くと窓を指し外を見るように促した。

窓際に座っていた大和はそれにつられるように窓の外を見る。その時、校門から入ってきた影に思わず声を出した。

 

「げっ!?」

 

「どうした大和、何が見えんだ?」

 

「女の子が学校に乗り込んできた」

 

訝しそうに問いかける岳人に、大和は半ば呆然に答える。そんな大和の姿に梅子は生徒たちに窓の外を見る許可を出すと、殆どの生徒が身を乗り出してグランドを見下ろした。

 

そこにあったのは――

 

「確かに乗り込んできたね――馬で」

 

卓也がポツリと呟いた小さな声が何故かクラス中に大きく響き渡ったのだった。

そんなクラスの中の空気などいざ知らず、意気揚々に馬に跨りグランドの中央に進み出た転入生は、腰の位置よりも長い金髪を風になびかせてまるで一騎討ち前の武士のように名乗りをあげた。

 

「クリスティアーネ・フリードリヒ!! ドイツ、リューベックより推参!! この寺子屋で今よりお世話になる!!」

 

「だっはっはっはっは! 馬かよ!? 面白ぇあいつめっちゃ面白ぇ!」

 

転入生が金髪の美少女であることに歓喜の咆哮を上げる男子生徒の中で、馬で乗り込んできた事がつぼに嵌ったのか大爆笑する翔一。

馬で乗り込んできた事に呆れる千花が、転校生の父親と何やら問答をしている時、またも事態をややこしくする者がグランドに現れた。

 

「フハハハ! 転入生が朝から馬で登校とはな!」

 

自分以外に馬で登校する生徒がいないかを見渡していたクリスティアーネに、いつものようにあずみが引く人力車で登校してきた英雄が声を掛けた。

その人力車を見てクリスティアーネの目が輝く。

 

「おお! ジンキリシャ! 馬上にてご免、自分はクリス!」

 

「うむ。我が名は九鬼英雄である! いずれ世界を統べる者だ! この栄光の印! その目に焼き付けるが良い!!」

 

名乗りと同時にいつもの構えを取る英雄に、まるで時代劇の『遠山の○さん』を見たクリスティアーネは感嘆の声を上げるのだった。

 

「ねえ大和……この人たち」

 

「間違いないな」

 

グラウンドの光景と教室内での転入生の父の発言から、大和と京はある確信を得た。それはつまり――

 

“この2人は間違いなく日本を勘違いしてる外国人”だという事を。

 

「馬からは下りて来い!」

 

馬上のまま校舎に入ろうとするクリスティアーネを見て、さすがに梅子ですら頭を抱えたのだった。

 

ちなみに同じように窓からグランドを見ていた百代は、翔一と同じように大爆笑し、緋鷺刀は訳の分からない状況に現実逃避ぎみ視線を逸らし、由紀江はそんな緋鷺刀を不思議そうに見ていた。

 

 

改めてクリスティアーネ――クリスの自己紹介と質疑応答が教室で行われている。

 

彼女は故郷のリューベックにいる時に日本人の友達と接している間に覚えたらしく、日本語が違和感ないほどに上手だった。そんな中で1番最初に質問をする岳人。

 

「クリスは彼氏はいたりするのか?」

 

「そんなものいないに決まってるだろうが!!」

 

その質問に何故がクリス父の怒号が返された。

その余りにも凄すぎる迫力に静まり返すクラス。だがそんな空気が分かっていないのかクリスは平然と答えてきた。

 

「父様のおっしゃる通り、そんな関係の輩はいない」

 

「そ、そーですか……」

 

乾いた笑いのまま答えた岳人を筆頭に、クラスの全員が『ああ、この親父は間違いなく娘溺愛の親馬鹿だな』思った。そしてそれに間違いはなかった。

 

「クリスにちょっかい出す者は軍が殲滅する」

 

親馬鹿もここまでくれば立派な病気である。

 

「父様は任務に私情を持ち込まない軍人だ」

 

娘にはそんな行為が立派な人に見えているらしい。

 

その後も、クリスとクリス父による『間違いなく日本を勘違いしてる外国人』の典型のような問答が繰り返された。

クリスの知識が間違いなく友達が面白がって叩き込まれたた偽知識であり、クリス父もひと昔前の日本の気質が今でも続いていると勘違いしているのを全員が理解した。

 

「父君。そろそろ……」

 

さすがにこのままズルズルと時間が過ぎるのは拙いと察したのだろう、梅子はクリス父に言葉を掛けた。

大人としてそこは雰囲気を悟ったのだろう、クリス父は頷くと生徒たちを見渡し、

 

「分かった。みんな娘をよろしく頼む」

 

一礼して教室を出て行って…………戻ってきた。

 

「クリス、何かあれば戦闘機で駆けつけるからな」

 

そしてまた出て行った。後に残ったのは疲れた顔をした梅子と、せっかくの美少女なのに手を出したら殺されると悟りしょぼくれる男子連中だった。

 

だが、そんな中で1人ウキウキしている者がいた。

 

川神一子だ。

 

「はーい質問! 何か武道をやってるかしら?」

 

「フェンシングを小さい頃よりやっている」

 

「YES!!」

 

素直に答えたクリスに一子はガッツポーズを取って喜ぶと、勢い良く席から立ち上がり教壇にいる梅子に向かって手を挙げる。

 

「ウメ先生提案! 転入生を“歓迎”してあげたいと思いまーす!」

 

そう宣言した一子の『歓迎』の言葉の意味を悟り、クラスは騒然となった。

一子の言った『歓迎』が意味するものとは、川神学園に存在する“決闘”と呼ばれるシステムの事だ。相手とのいざこざを手っ取り早く片付けるために作られた制度で、最近では力試しに行われる事もある。

武家の末裔が多い川神にとって、ある意味で象徴ともいえる制度かもしれない。

 

「血気盛んだな川神、だが面白い。クリス、そこのポニーテールがお前の腕前を見たいそうだ」

 

「!!」

 

いきなりの事に意味が分からず眉をひそめていたクリスだったが、梅子の言葉に自分に向かって質問してきた一子の言葉の意味を理解し、小さく笑みをこぼす。

 

「なるほど。新入りの歓迎、か」

 

クリスの反応に一子も笑みをこぼす。

 

「川神学園には決闘っていう儀式があるの。その意思を伝え自分のワッペンを机に置く!」

 

そう言って一子はポケットから取り出したワッペンを机の上に叩きつけた。

 

「クリス! 戦闘で勝負よ!」

 

そしてそれを見たクリスも生徒手帳と同時に貰ったワッペンを取り出しその上に重ねた。

 

「受けて立とう!」

 

喧騒が教室に広まり生徒たちが口々に騒ぐ中で、一子とクリスはお互いを見て技量を測り合っていた。

 

武力での決闘に職員会での了承を取ろうとした梅子だったが、クリスの父が来ていた事で様子を見に来ていた学長の鉄心が、ちょうど廊下で一子とクリスの決闘の話を聞いていたため学長特権で了承、すぐに開始となり見届けと審判も学長の鉄心が申し出た。

 

「ワン子、相手強いよ。たぶん私よりも」

 

騒ぐクラスの中で冷静にクリスの強さを見て取った京が一子に注意を促すも、一子はその忠告を重く受け止める事もせず、レプリカ武具の使用許可を貰った事で得意の薙刀を持って意気揚々と教室を出て行った。

そんな一子に溜息をついて見送った京は、慰めるように肩を叩いた大和と卓也を見て肩をすくめるのだった。

 

「決闘トトカルチョ開始! どっちが勝つか張ってくれ!」

 

翔一は早くも一子とクリスの決闘の勝者がどちらかを賭けにしていた。その逞しさにまたしても呆れる大和と京と卓也だった。

 

決闘開始のアナウンスが入り、多くの生徒が見物に集まってくる。

そんな中で翔一のトトカルチョを手伝っていた大和は、百代が近付いていきたのに気付いた。

 

「おーやってるな弟たちよ。ショバ代納めてもらおうか?」

 

「まあまあ姉さん。アレ見てよ、うちの転入生」

 

上納金をむしり取ろうと声を掛けて来た百代に、大和は話を逸らすべくグランド中央で一子と相対しているクリスを指さした。

大和が指差した先に視線を向けた百代は、その金髪を見て叫んだ。

 

「上玉キターー!! あの金髪綺麗だな! 撫で撫でしたいぞ!」

 

どうやら百代は1発でクリスを気に入った様子だった。

その姿を近寄らず遠くで見ていた緋鷺刀は、分かり易い百代の反応に苦笑いを浮かべ、その隣に立っていた由紀江は急に聞こえて来た大声にビックリしていた。

 

「入学の時に聞いた決闘システムってこういうものだったんだね」

 

「なんかもうオイラビックリしてばっかだぜ」

 

「新鮮な驚きですよね」

 

外見殆ど女な男子生徒と、刀を持ってストラップと話す女子生徒の組み合わせに、周りにいた生徒は敬遠がちに距離を取るのだった。

 

グラウンドで広がる生徒たちの喧騒の中で、それぞれ準備運動を終えた一子とクリスを見て、鉄心は生徒たちの輪より進み出た。

 

「これより川神学園伝統、決闘の儀を執り行う! 両者、前へ出て名乗りをあげるがよい!」

 

鉄心の言葉に従いまず一子が1歩前に出た。

 

「2年F組、川神一子!」

 

「今日より2年F組! クリスティアーネ・フリードリヒ!」

 

お互いの名乗り出にそれぞれ声援が送られる。

一子には千花や岳人を代表としたクラスメイトの声援が、クリスには真与や翔一といった転入生を歓迎する生徒からの声援が上がった。

 

「ワシが立ち合いのもと決闘を許可する。勝負がつくまでは止めぬ。が、今回は武器を持っての決闘、どちらかが武器を手放した場合や、決した後にも関わらず相手を害しようとするならワシが介入する。よいな?」

 

「承知!」

 

「承った!」

 

告げた注意にそれぞれの言葉での了解を受け取った鉄心は、向かい合って互いを牽制し合う一子とクリスから1歩下がり手を振り上げ、

 

「いざ尋常に――はじめいっ!!」

 

勢い良く振り下ろした。

 

同時に地面を蹴り間合いを詰めて行く一子とクリス。

一子は手にする得物の長さを利用し、クリスを自分の間合いに踏み込ませないように薙刀での斬撃を繰り出す。

広い間合いを使える自分の方が、クリスが間合いに慣れるまでは戦闘を優位に進める事が出来るから、今のうちに優位を取っておきたいのが一子の考えだ。

 

横薙ぎから切り返しての斬り上げ、そして振り下ろしと薙刀の長さと重さを利用した振り回し気味の斬撃を切れ間なく続ける。

 

クリスは無理して間合いに入る事をせず、一子の攻撃が届くギリギリ1歩外で繰り出される連続攻撃をよけながらも、きちんと目で追い続ける。

クリス自身も武器の長さから自分が不利なのは気付いているが、逆に柄の長い武器は懐が深くなるため踏み入る事が出来れば、近い間合いで小回りの効くレイピアを持つ自分の方が有利になる。

 

互いの思惑の中、先に動いたのは一子。

 

「その腕……もらったぁー!!」

 

1歩大きく踏み込んで、間合いのギリギリ外にいたクリスを強引に薙刀の間合いに入れ、武器を持つクリスの右手を狙って横薙ぎを放つ。

 

「ふっ!」

 

冷静に一子の行動を見ていたクリスは慌てることなく飛び退き、迫り来る斬撃をかわす。一子も空いた間合いの分踏み込むと、よけたクリスを休ませる事なく再び連続攻撃を続ける。

その攻撃全てを金髪を躍らせて華麗にかわすクリス。

 

2人の勝負を見て、的確に推移を読む人間もいた。

 

「ワン子の攻めが単調すぎる。転校生の目がそろそろ慣れる頃だ」

 

大和の肩に手を回しながら見ていた百代が呟くように言う。

少し遠く離れたところで見ていた緋鷺刀と由紀江も同じ事を思った。

 

「今攻め込んでいる先輩の攻撃に転入生さん慣れてきましたね」

 

「あそこまで単調だとさすがにね……でも攻撃に移る瞬間を見極めて――仕掛ける!」

 

動きに気付き小さく鋭く言った緋鷺刀の言葉と同時に、クリスはかわす動きを急に止め強く間合いに踏みこむと突きを繰り出す。

 

「やーっ!」

 

「っ!? 迅いっ!」

 

急に踏み込み予想外の速さで放たれた突きに、一子は身を捻りすれすれで回避する。

仕切り直しに間合いを取り直す一子を見て、クリスは無理に追い掛けずにレイピアを引き構え直す。

 

だがクリスの攻撃速度に何より驚いたのは、周囲で勝負を見ていた生徒たちだった。一瞬の静寂の後、爆発するような歓声が上がった。

 

「すっげぇ! 2人ともやるなぁ!」

 

「今、攻撃したんだよな!? 突いたよな!?」

 

「そうみたいだけど……殆ど見えなかったね」

 

興奮する翔一と驚きの声を上げる岳人と卓也の横で、京は冷静に相対する2人を見て言う。

 

「あの突きの迅さは尋常じゃない。ワン子……次間合いに入られたら終わりだよ」

 

京の予測に添うように、クリスは一子の攻撃に目が慣れたため今度は自分から攻撃を仕掛けるための構えを取った。

 

「続けて行くぞ、次で仕留める!」

 

だがそれを黙って待ち受ける一子ではない。

 

「上等よっ!」

 

吐き捨てるように叫んだ一子は持っていた薙刀を勢いよく高速回転させる。回転させる事で攻撃の出処を分からせないと同時に遠心力を自分の攻撃に上乗せが出来る。

一子の構えや行動から必勝の技を繰り出す準備と感じ取ったクリスは、どんな動きにも反応できるように神経を緊張させつつも身体の余裕を持たせ構える。

 

(うかつに踏み込めばそこを斬られる。次の一撃を全力で避けてその隙を突く!)

 

(――なんて考えてるんでしょうけど、だったら……)

 

的確にクリスの思考を呼んだ一子は薙刀を回転させながらクリスに向かって突っ込む。

 

「おい違うぞワン子。そうじゃないだろ」

 

大和はいきなり呟いた百代の言葉の意味を理解できず首を傾げた。

だがその呟きが聞こえない一子は止まる事はなく踏み込み、回転させていた薙刀を頭上に大きく振り上げる。

誰もがそのまま頭への強烈な振り下ろしが放たれると思っていた。が――

 

「川神流――【山崩し】!」

 

薙刀の刃筋は、予想を覆し斜めに流れて行きクリスの脚へと振り下ろされた。

 

フェンシングの試合において有効打撃部位は胴だけだが、薙刀の試合では脚への攻撃もルール上問題なく有効だ。脚への攻撃に不慣れな人間なら間違いなく今放った『すね技』をくらってしまう筈である。

 

一子のこの考えは間違っているわけではない。ただ1つの誤算があっただけだった。

 

フェンシングには一子の知らない全身が有効打撃部位になる種目があり、クリスが幼い頃から習っていたフェンシングがそれだったという事。

 

「ふっ!」

 

「よけ――!?」

 

「セェイ!!」

 

当たるはずと確信していた渾身の一撃をよけられ、驚愕に思考が止まる中でクリスの攻撃を見つめる一子だったが、次の瞬間、頭の中にある言葉がよぎった。

 

『戦闘中考えるのは別に悪い事じゃないが、動き出したら理性で考えるな、本能で考えて感じろ』

 

「うりゃあ!」

 

何も考える事なく本能のままに無理矢理右腕を引き戻し、振り下ろした薙刀を引き寄せると同時に今度は左腕を突き出し、薙刀の柄尻を迫り来るクリスが放った突きにぶつけた。

 

さすがのクリスもこの一子の攻撃は予測できなかったのだろう、武器がぶつかった瞬間、思わず力を緩めてしまいその衝撃でレイピアが吹っ飛んでいった。

一方の一子も無理矢理腕を引き戻した事で、大した力も入れられず武器がぶつかった衝撃で手が痺れ、薙刀を手放してしまった。

 

「そこまで! この決闘の儀、引き分けとする!」

 

両者が武器を手放した事で鉄心は試合終了の号を上げる。

思いもよらなかった結果となったが、見物していた生徒から物凄い勢いで驚きと歓声が上がった。

だがある意味で1番驚いていたのは百代だった。

 

百代はあの瞬間、一子の攻撃がよけられクリスの攻撃がそのまま一子に当たると思っていたし、事実、クリスがよけた時まではまさにその通りの展開になるはずだった。

 

「ワン子、お前よくあの瞬間にあれだけの動きが出来たな」

 

無理な動きをしたせいで両腕が震えている一子に百代は言葉を掛けた。その言葉に一子は苦笑いの中にも確かな歓喜の笑みを見せた。

 

「ジン兄の言葉を思い出したの。『本能で考えて感じろ』って言葉。そしたら何も考えずに出来ちゃった」

 

百代は驚きに目を見開いたがそれもほんの一瞬、すぐに笑みを浮かべると嬉しそうに笑う一子の頭を少しだけ荒っぽく掻き毟った。

 

こんなところにも神の思い出が残っていた。

それが嬉しくて、でもやっぱり寂しくて、百代は心の中で少しだけ沸き上がった想いを隠すための笑顔を浮かべ続けたのだった。




あとがき~!

「第48話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。今回のお相手は――」

「クリスティアーネ・フリードリヒだ!」

「はい留学生クリスの登場です。さて今回のお話ですが……」

「しかし自分が出てくるのにこんなにかかるとはな。まゆっちですら10話以上前に登場したというのに」

「ごめんね。でも君は原作までいかないとキャラに絡ませる事がなかなか出来ないんだよね」

「う~! それ言うならマルさんはとっくに絡んだではないか! 不公平だぞ!」

「ちょっと!? 名前出さないでよ!」

「うん? なんでだ? 『猟犬』ってマルさんの事だろ?」

「どれだけ読み手の方にバレていようが、本文にはまだ『猟犬』=マルギッテという言葉は1回も出てきてないの! だから今あんたが言った言葉は思いっきりネタバレなの!」

「お前だって言ってしまったじゃないか。何故自分だけ怒られる」

「1回暴露したものを今更隠したってしょうがないだろ! 頼むから空気呼んでくれ!」

「うぅ~」

「貴様か? 私の愛しいクリスを泣かせたのは?」

「げっ!?」

「あ、父様」

「おお、我が愛しのクリス。可哀想にこんなに目を赤くしてしまって……だが安心するがいい、お前を泣かせたゴミは私が今すぐに排除してやる」

「ちょ!? 嘘だろ!?」

「やりなさいマルギッテ」

「Hasen Jadg!!」

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